岩盤浴やホットヨガで汗をかくと脇のにおいが弱まるかを試した研究は、この記事の資料にはない。においは脇の菌が汗の成分を分解して生まれ、その成分が出るかどうかは、耳あかの型を決めるのと同じABCC11という遺伝子に左右される。日本の79人の研究も読む。
岩盤浴の部屋で20分。背中を伝う汗が、敷いたタオルにしみていく。これだけ出したのだから、脇のにおいも少しは抜けたのではないか。検索窓には「汗をたくさんかくと臭くなくなる」という言葉も並んでいる。
この記事で読んだ研究の中に、岩盤浴やサウナ、ホットヨガで汗をかいたあと、脇のにおいが弱まるか強まるかを試したものはない。だから「岩盤浴でワキガが弱まる」とも「強まる」とも書けない。研究が示しているのは、においの出どころのほうである。脇のにおいは、においのない分泌物を、脇に住む菌が分解し、においのある分子に変えることで生まれる[4]。もとになる主な成分は、アポクリン腺という汗の腺から出ると考えられている[4]。
もう一つの芯は遺伝子だ。耳あかが湿っているか乾いているかは、ABCC11という遺伝子のたった1か所の違いで決まる[1]。そして同じ1か所の違いが、脇の汗の中の典型的なにおいの成分を、ほとんどなくしてしまうことが示されている[2]。この記事で読んだ研究が見ているのは、汗の量ではなく、汗の中に何が出ているかと、それを受け取る菌である。
汗のにおい全体と、ホットヨガの帰りの肌と服の違いは、同じサイトの「汗の臭いはどこから来るのか ホットヨガの帰りに気になる肌と服の違いを読む」に、岩盤浴の汗のにおいが時間でどう変わるかは「岩盤浴の臭い汗は時間がたつと変わる?汗そのものと皮膚の細菌の働きを読む」に譲る。ここでは、脇のにおいと耳あかをつなぐ遺伝子に絞る。

岩盤浴の汗とにおいの関係は、読んだ研究の中では試されていない
脇の下では、汗を出すエクリン腺とアポクリン腺、そして皮脂腺から出る分泌物を餌に、大きな菌の集団がいつも暮らしている[4]。においのもとになる大事な成分は、このうちアポクリン腺から来ると考えられている[4]。
では、暑い部屋で汗をたくさん流したとき、脇の菌の働きはどう変わるのか。2013年の総説は、DNAを読む技術によって、脇の菌の種類の構成や、人による違い、同じ人の中の違いについては、これまでにない深さのデータが得られたと書く[14]。一方で、一人ひとりの菌が実際にどう働いているか、そしてそれが環境の条件によってどう変わるかは、まだほとんど分かっていないとしている[14]。
汗が増えればにおいの元が薄まる、という考えもありうる。菌の餌が増える、という考えもありうる。どちらも、この記事で読んだ研究では確かめられていない。岩盤浴の熱と湿気が脇の菌の働きを変えるかどうかは、読んだ研究の範囲ではまだ空白だと私は読む。
ここで一つ、言えることがある。においを決める筋道の中に、本人の体のほうで決まっている部分がある、ということだ。2020年の総説によると、体のにおいに遺伝の基盤があることは双子の研究で示され、極東の人の大きな割合で体のにおいがつくられない理由は、ABCC11の変異でにおいの前駆体が出なくなることで説明しうるという[12]。前駆体とは、菌に分解される前の、まだにおわない形の成分のことだ。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
においは汗そのものではなく、菌が作る
脇から出る分泌物は、もともとにおわない[4]。2012年の総説は、皮膚の菌が脇から出る汗の成分を変えることで体のにおいが生まれる、という考えは、いまでは広く受け入れられていると書く[15]。
におい分子の種類も分かってきた。2013年の総説は、脇のにおいに関わる分子として、短い鎖と中くらいの鎖の揮発する脂肪酸、16-アンドロステンという型のステロイド、そしていちばん新しく挙がったチオアルコールという硫黄を含む分子を挙げる[4]。脇に住みつく菌は、伝統的な培養の研究では、主にブドウ球菌、ミクロコッカス、コリネバクテリウム、プロピオニバクテリウムの仲間だった[4]。手に入る証拠の多くは、コリネバクテリウムの仲間がにおいの主な原因だと示しているという[4]。
2025年の総説は、においができるまでを三つの段階で整理している[7]。体の中で、においのない前駆体が小さな袋に詰められる。その前駆体が、コリネバクテリウム・ストリアタムやスタフィロコッカス・ホミニスといった菌の中に取り込まれる。菌の酵素で変えられたにおいの分子が、脇へ吐き出される[7]。
2020年の総説には、少し不思議な話がある[12]。著者らは、人のにおいを放たせる鍵の酵素の一つで、菌が持つ酵素の立体の構造を初めて示し、皮膚の表面の菌が、人が出す特定の成分に合わせて自分の酵素を形づくってきたことを、分子の水準で説明した[12]。人の脇に、菌のほうが合わせてきたらしい。

主役の菌は、一つではなかった
2012年の総説は、空気を好むコリネバクテリウムの仲間が脇のにおいに強く関わり、ほかの皮膚の住人はあまり影響しないようだと書いていた[15]。その後の研究で、もう一つの名前が前に出てくる。スタフィロコッカス・ホミニスというブドウ球菌の仲間で、硫黄を含むにおいの分子を作る酵素の遺伝子を持つ[19]。
菌を減らすと、においはどうなるか。健康な30人を対象にした2020年のランダム化比較試験は、一人ひとりの片方の脇に酸化亜鉛を、もう片方に偽の薬を13日間塗った[8]。酸化亜鉛の側では、菌全体の増え方が減り、とくににおいを作るコリネバクテリウムの仲間とスタフィロコッカス・ホミニスが減った[8]。最終日に参加者が自分の脇のにおいを比べると、酸化亜鉛の側のにおいのほうが弱いと判断された[8]。ただし、皮膚の表面のpHは上がった[8]。試験管の中では、コリネバクテリウムの仲間はpH6.0よりpH5.0で生き残りにくかった[8]。
ここで測られたにおいは、参加者自身の評価である。それでも、同じ人の左右で比べ、菌の数とにおいの評価が同じ向きに動いたことは、においの出どころが菌の働きにあるという筋と合っている。この試験は、ある成分を勧めるために引いたのではない。「菌がにおいを作る」という仕組みを、人の脇で確かめた一例として読んでほしい。
耳あかの「湿り」と「乾き」を決める1文字
話を耳に移す。人の耳あかには、湿った型と乾いた型がある[1]。湿った型は茶色っぽくべたつき、乾いた型は耳あかの分泌がないか少ない[6]。乾いた型は東アジアの人に多く、湿った型はほかの集団でふつうである[1]。
2006年の研究は、この違いがABCC11という遺伝子の538番目の塩基の違い(GからAへの1文字の置き換え)で決まることを示した[1]。AAの組み合わせの人は乾いた耳あか、GAとGGの人は湿った耳あかになる[1]。Aを持つ細胞は、ある物質を細胞の外へ出す働きが、Gを持つ細胞より低かった[1]。Aの頻度は、北から南へ、東から西へ下がっていく地理の傾きを示し、世界では中国と韓国の人で最も高い[1]。著者らは、Aが北東アジアで生まれ、その後世界へ広がったと考えている[1]。そしてこの1文字の違いは、DNAの違いが目に見える特徴を決める、最初の例だという[1]。人類の遺伝学の「最初の例」が、耳あかだったわけである。
なぜ1文字で乾くのか。2009年の研究によると、Aの型のたんぱく質は、本来つくはずの糖の鎖がつかず、細胞の中で形の崩れたたんぱく質として見分けられ、すぐに分解されてしまう[5]。これが、乾いた耳あかを、劣性の形で受け継がれる特徴にしているという[5]。耳あかを作る腺の細胞では、ふつうの型のたんぱく質は分泌する側の膜や細胞の中の粒に見られたが、Aの型ではそうした粒の中には見られなかった[5]。
耳の中の菌も違うらしい。健康な21人を調べた2025年の研究では、GAの9人の耳の穴からはスタフィロコッカス・アウリクラリスとコリネバクテリウムの仲間が見つかり、AAの12人からはメチロセラという別の菌が見つかった[16]。著者らは、この遺伝子の違いが耳の穴の菌の構成と働きを左右していると結論している[16]。21人の研究なので、数は小さい。
数字で読む脇のにおいと耳あか
- 1文字: 耳あかの型を決める、ABCC11の538番目の塩基の違い[1]。
- AA: 乾いた耳あかの組み合わせ。GAとGGは湿った耳あか[1]。
- 98.7%: 脇のにおいに強い不安を抱え、両脇のアポクリン腺を取る手術を受けた日本の79人のうち、湿った耳あかの遺伝子の型を持っていた人の割合[6]。
- 35.4%: 一般の日本人161人で、同じ型を持っていた人の割合[6]。
- 95%超: 538番目がAの、長く続く遺伝子の並びが、一部の集団で達した頻度[2]。
- 30人・13日: 片方の脇に酸化亜鉛を塗り、菌とにおいの評価を比べた試験の規模[8]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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