空腹でイライラする理由、ハングリーは気のせいか日常の記録と夫婦の研究で読む

空腹でイライラするのは気のせいではない。64人の21日間の記録で空腹は怒りと結びつき、血糖値が低いほど夫婦は相手の人形に多くのピンを刺した。ただ空腹だけでは足りず、見え方がずれるのは嫌な場面で、負の感情が出たのは、自分の状態を感情として読んでいると気づいていないときだけだったという実験もある。記録の落とし穴まで読む。

107組の夫婦が21日間、血糖値を測られながら、毎晩、配偶者に見立てた人形に0〜51本のピンを刺した。腹が立っている分だけ刺す、という決まりである。血糖値が低いほど、ピンは多かった[23]。

空腹でイライラするのは気のせいか。気のせいではない、というのがいまの答えだ。中央ヨーロッパの64人が21日間、1日5回の時点で答えた記録では、お腹がすいているときほど怒りといらだちが強く、楽しさは低かった[21]。くじで分けた実験でも、14時間食べなかった女性は朝食を食べてきた女性より怒りの点数が高かった[2]。

ただし、空腹だけでは足りないらしい。空腹が物事の見え方を悪いほうへずらしたのは嫌な場面のときだけで、負の感情と他人への厳しい評価が出たのは自分の状態を感情として読んでいると気づいていないときだけだった、という実験がある[22]。イライラを空腹だけのせいにすると、どこで外れるのか。日常の記録から手術前の病棟、母豚の群れまで歩いて確かめる。運動の日のイライラは「運動するとイライラする日もある?気分がよくなる平均と自分の変化を分けて読む」と「30代女性のイライラは運動中の考え方で変わる?気をそらす方法と体への注意」に譲る。

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21日間の日常の記録に出たハングリー

英語には hangry という口語がある。hungry と angry を重ねた語で、空腹で腹を立てることを指す。これだけ通りのよい言葉なのに、空腹と負の感情の関係がどこまで確かなのかを直接調べた研究はとても少ないと、2022年の論文は書き出している[21]。

そこで研究者たちは、日常の中で答えてもらう方法をとった。64人が21日間、1日に5回、空腹、怒り、いらだち、楽しさ、気持ちの高ぶりを記録した[21]。空腹が強いときほど怒りといらだちが強く、楽しさが低かった[21]。性別、年齢、BMI、食行動、もともとの怒りやすさを考慮しても、この関係は残った[21]。

一方で、気持ちの高ぶりとの関連は有意でなかった[21]。空腹のいらだちは、カッと燃え上がるというより、何もかもが少し不愉快になる感じに近いのかもしれない。これは私の読みである。そして、記録の中の結びつきなので、原因までは決まらない。

別の日常の調査は、少し違う景色を見せる。イスラエルの一般の123人に、食べたい衝動、食事を抑える構え、空腹、負の感情を1日3回、10日間記録してもらったところ、ある時点の空腹が次の時点で予測したものとして挙がったのは、食べたい衝動と孤独感だった[3]。負の感情の中心にいたのはストレスと悲しさである[3]。hangry にならうなら、hungry と lonely を重ねた語も要るのかもしれない。語呂は悪い。ただ、夜11時に部屋で1人、お腹がすいて、なんとなく心細い。あの感じに名前がつく。

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くじで分けると、差が出たのは怒りだけではなかった

記録の研究は因果を決められない。そこで実験である。健康的な BMI の女性を無作為に分け、53人は14時間食べずに、55人は朝食を食べて研究室へ来てもらい、同じ質問紙に答えてもらった[2]。絶食の組で高かったのは緊張、怒り、疲れ、混乱の4つで、低かったのは活力だった[2]。

14時間と聞くと修行のようだが、夜8時に夕食を終えて朝を抜けば、午前10時で届く。中央線を降りて、1つ目の打ち合わせが始まるころだ。

怒りは4つのうちの1つにすぎない。空腹で怒りっぽくなるというより、余裕全体が目減りして、その一部が怒りとして見える。私はこの結果をそう読む。ただ、数えたのは質問紙の気分で、誰かに当たった回数ではない。比べた相手も朝食を食べてきた女性で、8時間ならどうかという問いには答えられない。

見落とせない結果がもう1つある。摂食の悩みの症状が強い女性ほど自尊に関わる気分が低いという関係は、食べてきた組にだけ見られ、空腹の組には見られなかった[2]。著者たちは、そうした悩みを抱える人では、満腹のときの気分の低さにも目を向けるべきだとしている[2]。

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空腹だけでは足りない、という実験

お腹がすけば誰でも荒れるのか。2019年の論文は、そこに異を唱えた。著者たちの仮説は、空腹だけでは hangry にならない、というものだ[22]。自分の体の状態を、嫌な場面の中で、負の強い感情として読んだときに、初めて空腹が感情になる[22]。

2つの研究で認知の課題を使って調べると、空腹が物事の見え方を悪いほうへずらしたのは嫌な場面のときだけで、中立の場面や良い場面ではずれなかった[22]。さらに研究室の実験では、空腹は負の感情を起こし、実験者への評価を厳しくしたが、それは自分の状態を感情として読んでいると気づいていない参加者に限られた[22]。

平たく言えば、空腹の状態を感情として読んでいることに気づいていないとき、この実験の参加者は荒れた。夕方の会議で同僚の一言が妙に引っかかったら、その一言を責める前に、昼を食べたかどうかを思い出す価値がある。

感情の研究の側からは、逆向きの取り違えも語られている。負の感情は食べる量を減らすことも増やすこともあり、その仕組みの1つとして、感情に伴う体の変化を空腹や満腹のサインと取り違えることが挙げられている[11]。別の総説も、空腹と満腹の信号を含む体の内側の感覚を、これから調べる点に挙げる[7]。みぞおちがざわつく。それが腹の減りなのか、夕方に届いたメールのせいなのか、体は札をつけて届けてくれない。

検索でよく聞かれる「空腹でイライラする人としない人」の差を、言い切れる段階ではない。手がかりになるのは、人の差というより、いる場面と自分の状態への気づきの差かもしれない、という実験である[22]。

血糖値が低いほど、ピンは多かった

冒頭の夫婦の研究に戻る。親密な相手への暴力を調べる流れの中で行われたもので、背景にあるのは、自制にはエネルギーが要り、その一部をブドウ糖がまかなう、という考えである[23]。ピンだけでなく、攻撃そのものも測っている。配偶者と25回の勝負をする課題で、勝った人は負けた人にヘッドホンで大きな音を浴びせる[23]。血糖値が低いほど、ピンは多く、設定する音は強く、長かった[23]。

設定は可笑しいが、扱っている問題は重い。そして、血糖値を操作した実験ではなく、測った値との関係である。空腹そのものを尋ねた研究でもなく、血糖値の低さと空腹は同じものではない。血糖値が下がると必ず怒る、とまでは言えない。「気づき」の説明と「自制の燃料」の説明のどちらが主なのかも、ここからは決められない。

食べないようにする構えは、次の時点の空腹を予測した

123人の調査でいちばん目立ったのは、空腹ではなかった。食事を抑えようとする構え(抑制的摂食)が網の中心にいて、次の時点の食べたい衝動、空腹、悲しさ、孤独感を予測していた[3]。同じ時刻で見ると、怒りが強いときほど、この構えは弱かった[3]。

絶食の試験の著者たちも、同じ輪を心配している。食事を制限しようとする女性は、空腹が負の感情を呼び、負の感情が食べ過ぎを呼び、食べ過ぎがまた制限を呼ぶ悪循環に入るおそれがあると書く[2]。断続的断食の研究を見渡したスコーピングレビューも、続けにくさと有害な反応として空腹、疲労、いらだちを記し、個人に合わせることと医師の管理を求めている[6]。

食事の間隔とイライラの関係は「ダイエット中のイライラは食事間隔で決まるか、制限を休んだ競技者の結果から」が、腹持ちそのものは「プロテインと食事を一緒にとると腹持ちは足せる?繊維の粘りと空腹感のずれを読む」が先に扱っている。

数字で読む空腹と気分

  • 9,142件: 64人の21日間の記録について論文が挙げる回答の総数。空腹が強いほど怒りといらだちが強かった[21]
  • 14時間: 絶食の組53人の食べなかった時間。朝食の組55人と比べた[2]
  • 0〜51本: 夫婦が毎晩、配偶者の人形に刺したピンの範囲。血糖値が低いほど多かった[23]
  • 107組・21日: その研究の規模。音の強さと長さも血糖値の低さと結びついた[23]
  • 123人・10日・1日3回: もう1つの日常の記録。空腹の次に食べたい衝動と孤独感が挙がった[3]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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