寝言は病気ではなくありふれた夜の行動だが、眠りのどの段階で出るかは総説ごとに分類が割れる。夢の中身を映す説、寝る前に覚えた文を話すかを調べた実験、多い人の報告の読み方、大声を伴う別の問題、うめき声との違いまでを読む。自覚の無い現象の数え方も扱う。
「ゆうべ、怒ってたよ」
朝、同居人に言われる。誰に。何を。本人はまったく覚えていない。覚えていない以上、否定もできない。寝言の話は、たいていこの不利な立場から始まる。
答えの芯を書く。寝言は、眠っている間に自覚なく声を出す現象で、人の夜の行動の中でも最もありふれたものの一つであり、病気ではない [3]。出る仕組みは、まだはっきりしていない [19]。声が夢の中身を映している場合があるという見方があり、寝言は夢のような心の体験に直接触れられる唯一の手がかりかもしれないと書く総説もある [3]。怒っている寝言も、この線で読むと、夢の中の場面の可能性がある。
意外なのはここからである。これだけありふれた現象なのに、総説の著者は文献を「古くて断片的」と書く [3]。眠りのどの段階で話しているのかも、総説によって入れる引き出しが違う [9] [19] [20]。毎晩どこかの寝室で起きていることの地図が、まだ描けていない。

眠りのどの段階で話しているのか、引き出しが三つある
眠りには、レム睡眠(眼球が速く動く眠り)と、それ以外のノンレム睡眠がある。寝言はどちらで出るのか。素朴な問いだが、総説を並べると答えがそろわない。
2017 年の小児科の総説は、寝言を、錯乱性の覚醒や夢遊病、夜驚症と同じ、ノンレム睡眠の覚醒の障害の側に入れる [9]。同じ引き出しには、眠りながら食べる障害も入っている [9]。金縛りや悪夢はレム睡眠の側に入り [9]、金縛りの話は同じ特集の別の記事に譲る。1998 年の日本の総説は、国際分類に沿って、覚醒から睡眠へ、あるいは眠りの段階から段階へ移る境目で起きる障害の一つとして扱う [19]。こちらの仲間は、寝入りばなのびくつきや、夜の脚のつりである [19]。2010 年の総説は、ノンレムにもレムにも関わるものと分類し、夜のうめき声であるカタスレニアや夜尿症を同じ枠に置く [20]。
同じものが 3 つの引き出しに入っている。分類の年代と対象の違いもあるので、どれかが誤りだと決めることはできない。ただ、これは「どの段階でも出うる」と読むのが素直だろう。
時間帯の手がかりもある。子どもでは、寝言は夢遊病や夜驚症と同じく夜の前半に出やすく、悪夢は後半に多いと整理されている [14]。子どもの話なので、そのまま大人に当てはめることはできない。それでも、悪夢と寝言が同じ時間帯のものとは限らないことは分かる。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
「最もありふれた」と「0.7%」のあいだ
数字のほうも揺れている。2019 年の総説は、寝言を人々の夜の行動の中で最もありふれたものの一つと呼ぶ [3]。
ところが、中国本土の子どもの睡眠の問題を 66 研究でまとめたメタ分析では、寝言の頻度は 0.7% だった [8]。歯ぎしりは 9.6%、悪夢は 5.1%、夢遊病は 0.8% である [8]。夢遊病より少ない。ありふれているはずの現象が、夢遊病に負けている。もっとも、全人口の話と中国本土の子どもの話を、そのまま比べることはできない。
このメタ分析では、睡眠の問題の全体の頻度が 37.6% で、研究ごとのばらつきを示す指標が 99.6% と極端に大きかった [8]。つまり、どんな質問票で誰に聞いたかで結果が大きく動く。寝言の数字が低い理由そのものは、この分析からは分からない。同じ分析では、睡眠の問題全体は年齢の高い群ほど多く、乳幼児期 33.3%、就学前 38.9%、学齢期 43.7% だった [8]。
寝言には、数える側にとって特有の難しさがある。定義の時点で、本人に自覚が無いのである [3]。本人は知らない。隣で寝ている人が気づいて、覚えていて、質問票に書かない限り、数字にならない。ひとり暮らしの人の寝言は、質問票の統計に入りようがない。映像つきの睡眠検査で確かめようにも、子どもでは難しい技術で、専用の機器と訓練された人が要る [20]。ありふれていることと、数えられていることは別である。1998 年の総説も、よくある障害なのに注目されていないと書いている [19]。

寝言で、夢の中身は読めるのか
2019 年の総説が面白いのは、寝言を厄介者ではなく、研究の材料として扱うところである。夢の話はふつう、起きてから聞くしかない。寝言なら、夢の途中の声を拾えるかもしれない。声が進行中の夢の中身を映しているなら、眠りの中の心の働きに直接触れる手がかりになる [3]。言語の回路が眠りの中でふだんと違う動き方をしている可能性や、最近覚えたことを声で再生しているという記憶の定着の話にも広がる [3]。
この再生の話を、正面から試した実験がある。2013 年、レム睡眠行動障害という診断のある 18 人と対照の 10 人が、夜に単語と物語を覚え、ビデオつきの睡眠検査を受け、朝に思い出した [6]。覚えた文を寝言で話すかどうかを、第三者の判定者が照らし合わせた [6]。
結果は、期待を裏切る形で味わい深い。レム睡眠中に話したのは患者 11 人で、話した量は中央値で 20 語だった [6]。話していた時間は、睡眠全体の 0.0003% にすぎない [6]。そして覚えた内容と関係のある文を話したのは 1 人だけで、それも文字どおりではなく意味のうえで関連した文だった [6]。本人には心当たりが無い [6]。
著者らはこの 1 人の例を、覚えた内容が寝言の中で、高い認知の水準で再生されたことを示唆するものと結論している [6]。文字どおりの復唱ではなく、意味を組み替えた形で出てきたという読みである。ただし、根拠は 1 人の 1 文にすぎない。夜のうちに寝言で試験勉強を復習している、とまで言える数字ではないし、特定の診断のある人たちの実験なので、健康な人に一般化もできない。
記憶そのものは、夜のあいだにきちんと定着していた。患者でも覚えていた語が 24% ほど増え、対照の 9% と有意な差は無かった [6]。認知症のある 2 人の患者でも、夜の定着は良好だった [6]。翌朝の成績は、眠りの連続性や段階、断片化などの測定値とは関係がなかった [6]。患者 9 人で昼と夜を入れ替えて物語の記憶を比べると、昼のあとは 9% 減り、夜のあとは 29% 増えた [6]。この実験の範囲では、覚えたものが残ることと、寝言で話すことは別の出来事に見える。
怒る寝言は、何に怒っているのか
検索窓に「寝言 怒る」と打つ人の本当の問いは、たぶんこれである。あの怒りは本音なのか。
怒りの内容を調べた数字を、私はここで挙げることができない。言えるのは 2 つである。寝言は進行中の夢の中身を映している場合がある [3]。本人に自覚は無い [3]。それなら、怒鳴られた同居人の側で受け止めるべき内容とは限らない。夢の中で誰かとけんかしている場面の、音声だけが漏れてきたのかもしれない。起きているときの本音と同じだと示した研究を、ここで示すことはできない。朝の食卓で証拠として持ち出すには弱い。
別に気をつけたいのは、声の大きさと動きである。2013 年の小児科の総説は、大きな声を伴う眠りの問題として、夜驚症、悪夢、レム睡眠行動障害の 3 つを挙げる [15]。多くは良性でも、生活を乱し、本人に危険が及ぶこともある [15]。突然叫ぶ、暴れる、ぶつかってけがをする、といった夜が続くときは、寝言の話ではなく医師に相談する話になる。子どもを扱った 2017 年の総説は、こうした眠りの中の行動と、夜間の前頭葉のてんかん発作を見分けることが、診断の遅れや不適切な薬を避けるために大事だとも書く [9]。繰り返す激しい動きを、寝言の延長で片づけないほうがよい。
寝言が多いのは誰か
「寝言 多い」という問いにも、はっきりした順位表は無い。報告があるのは、ある集団で多いという関連の話である。
子どもの歯ぎしりの研究を 725 本集めた文献分析では、睡眠を調べた 123 本の多くで、夜の汗、落ち着かない眠り、いびき、悪夢などと並んで寝言が歯ぎしりと関連していた [2]。もっとも、この分野の研究の 3 分の 2 は観察研究で、原因までは言えない [2]。歯ぎしりの研究はこの 20 年で大きく増えたという [2]。寝言の文献が「古くて断片的」と書かれるのとは対照的である [3]。トゥレット症の人では夢遊病や夜驚症と並んで寝言が多いという研究もあるが、もともとの眠りの乱れが絡んでいる可能性があると総説は注意を添える [5]。この人たちの睡眠検査で最も一貫して出るのは、総睡眠時間の短さ、睡眠効率の低さ、覚醒の多さである [5]。
ここで読み違えたくないのは、関連の方向である。こうした報告は関連を示すもので、寝言が多いから何かの病気だ、とは言えない。寝言そのものは病的な状態ではないと、総説は言い切っている [3]。
子どもの親には安心できる数字がある。子どもの睡眠の問題は半数までが経験するとされる [14]。別の総説は睡眠の障害がある子どもを約 25% と見積もり、その大半は一時的で自然に治まると書く [20]。小児科でも寝言はよく相談される話題である [15]。眠りの中の異常な行動や体験(睡眠時随伴症)のうち、思春期を過ぎても続くのは 4% だけで、最善の対応は親に説明して安心してもらうことと安全の確保だと、2014 年の総説は書く [14]。1998 年の総説も、大半は治療を要さず、経過は良好としている [19]。
数字で読む寝言
- 0.7%: 中国本土の子どもの 66 研究のメタ分析での寝言の頻度。夢遊病は 0.8% [8]
- 中央値 20 語: 睡眠検査の夜に、レム睡眠行動障害の患者がレム睡眠中に話した量 [6]
- 0.0003%: 同じ実験で、話していた時間が睡眠に占めた割合 [6]
- 4%: 子どもの睡眠時随伴症のうち、思春期を過ぎても続くものの割合 [14]
- 191 人: 寝言と別物とされるカタスレニアの報告に登場する患者の数 [12]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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