立川市は2025年にゼロカーボンシティを宣言し、2030年度に2013年度比で二酸化炭素を60%減らす目標を掲げた。国より高い目標の中身、ごみ焼却の余熱の足湯、競輪場の太陽光、みどり率36.5%の読み方、生産緑地を170ヘクタール以上残すという正直な目標、多摩川と崖線と湧水を守る8市の連携、暑さ対策を市の計画でたどる。
立川のごみ焼却場には、足湯がある。
泉町の立川市クリーンセンター、愛称「たちむにぃ」の北側に広場があって、焼却炉の余熱で温めた湯に足を浸けられる。市の案内には、タオルを持ってきてほしいと書いてある。ごみを燃やした熱で、人の足が温まる。循環という言葉を、これほど身も蓋もなく形にした施設を、私はほかに知らない。
その同じ市が、2025年6月26日、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ」を宣言した。新しい環境基本計画には、もっと手前の、もっと険しい目標が書いてある。2030年度までに、市内の二酸化炭素の排出量を2013年度より60%減らす。国の目標は同じ年に46%減だ。国より高い山を、立川は選んだことになる。
足湯の街は、本当にその山に登れるのか。そして、残された緑と水は、10年後の立川にどれだけ残るのか。市の計画書を地図の代わりに持って、歩いてみる。
立川の環境のこれから──2050年ゼロカーボンと、国より高い「60%」
立川市の環境のこれからを決めるのは、2025年度から2034年度までの10年間を計画期間とする「立川市第3次環境基本計画」だ。計画は、市内の二酸化炭素排出量を、目指すべき環境像の成果指標に据えた。2013年度の79万トンを、2030年度に32万トンへ。2050年度には0トン、つまり排出量の実質ゼロへ。
国はパリ協定にもとづき、2013年度比で2030年度に46%、2035年度に60%、2040年度に73%減らす目標を掲げている。東京都は2000年度比で2030年度に50%、2035年度に60%減らすとしている。立川の60%は、国が2035年度に目指す数字を、5年早く達成しようというものだ。
では、いまどこまで来ているのか。計画によれば、市の排出量は2013年度以降減る方向で推移し、2021年度は64万2千トンだった。8年で19%ほど減った計算になる。残る9年で、ここから半分にしなければならない。計算をした私は、しばらく天井を見た。二酸化炭素の数字は集計の関係で2年前のものが最新になる、と計画は断っている。山の中腹にいるのか麓にいるのか、登山者にはいつも少し遅れて知らされる。
この険しさは、市自身もわかっている。宣言の全文は、脱炭素につながる暮らし方への転換や、地域の人材の育成と確保、設備の整備など、多くの課題が存在することも事実だ、と書いている。宣言文に「課題がある」と書く自治体は、あまり多くないように思う。威勢のいい言葉だけでなく、足元の石も見ている文章だ。
市はひとりで登るつもりもない。2025年1月28日には東京ガスと、カーボンニュートラルのまちづくりに向けた連携協定を結んだ。エネルギーの地産地消、個人と事業者への太陽光発電の普及、学校での環境エネルギー教育などが連携事項に並ぶ。同じ年の10月1日には立川商工会議所とも協定を結び、市内の事業者の産業部門と業務部門の排出削減に取り組むとしている。
なぜ事業者なのか。市によれば、立川は多摩のほかの都市と比べても事業所がとても多く集まっていて、事業所などから出る二酸化炭素は2023年に市全体の44.0%を占め、いちばん多い。駅前の大きな商業施設の印象が強い街だが、事業所の大多数は中小企業だと市は書く。中小企業には資金や人手、技術の情報が足りず、効果の高い省エネ設備はなかなか入らない。そこで市は、東京都の地球温暖化対策報告書の制度に参加し、省エネルギー診断を受けた市内の中小企業が空調や照明、冷凍冷蔵、給湯の設備を改修するとき、費用の一部を補助している。2025年度にこの補助が使われたのは6件で、減った二酸化炭素は5.3トンだった。32万トンを目指す山道で、5.3トン。一歩は小さい。だが、登山は一歩ずつしか進まない。
計画は、これまでの歩みにも触れている。家庭や事業所での省エネ行動を促してきた結果、省エネは日常の取り組みとして根づいてきた。一方で、「まだ知らない省エネ行動が多い」という声もある。だから、さらに広めていく必要がある、と。知らないことが多いというのは、伸びしろが多いということでもある。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
家庭でできること──お風呂は、間を空けずに
計画には、家庭向けのコラムがある。家庭部門は、2027年度の目標を達成するために8万トンの二酸化炭素を減らす必要がある。そのうえで、今日からすぐにできる環境行動と、1年あたりの削減量を並べている。

写真: 珈琲牛乳 / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons
エアコンの温度を夏は28度、冬は20度を目安にすると40.8キログラム。普段より1時間早く消灯すると6.9キログラム。お風呂に間を空けずに続けて入り、湯船の蓋を閉めると86.9キログラム。ご飯を残さず食べると1.1キログラム。ごみを分別して出すと2.9キログラム。
この表のいちばんの教えは、明らかだ。家族は、風呂に続けて入れ。ご飯を残さないことの80倍近い効き目が、風呂の順番にある。夕食のあとに「先に入って」と言い合う家庭の小さな譲り合いが、立川の脱炭素の最前線なのだ。
効果の大きい行動も載っている。太陽光パネルを付けて自家消費すれば2,582キログラム。電力の契約を再生可能エネルギーのプランに変えれば1,798キログラム。計画は、2021年度の立川市の総世帯9万980世帯のうち、すぐにできる行動を新たに30%の世帯が、効果の大きい行動を新たに15%の世帯が実践すれば、2027年度の目標を達成できると見込んでいる。
断熱の補助は、春に売り切れる
住まいの断熱にも、市は補助を出している。既存の住宅の窓やドアを断熱建材に替えたり、外壁や天井や床に断熱材を入れたりする工事を、市内の事業者に頼むと、工事費の2分の1、最大5万円が補助される。市内の事業者に限るのは、地域の中でお金を回すためだと市は書いている。
ただし、2026年度の申請は4月1日に始まり、予算の上限に達したため、すでに受付を終えた。予算は250万円。上限いっぱいの5万円なら、50軒分だ。人気があるのはよいことだが、窓を替えたいと思った秋の私には、少し遅かった。
食べものの無駄にも、新しい仕組みが入った。市は2024年10月から「おたすけタベスケ立川」を導入した。市内で食品を扱う店が、賞味期限や消費期限の近い商品をウェブに載せ、それを見た人が予約して買う。店とお客をつなぐフードシェアリングと呼ばれる仕組みで、スマートフォンのアプリでも使える。ご飯を残さない1.1キログラムは小さく見えたが、店の棚の売れ残りまで数えれば、話は変わってくる。
子どもを巻き込む仕掛けもある。2025年の8月には、市内の小学生と保護者が1チームになって家庭の省エネに取り組む「エコチャレンジ」が開かれた。小学校や保育園、児童館にはゴーヤの種と土が配られ、窓辺に緑のカーテンを育てる。市は、地域の人から緑のカーテン用の種を集め、翌年に挑戦する人へ配るという循環も続けている。ゴーヤの種もまた、足湯の湯と同じように、街の中を回っている。
屋根の上のパネル──競輪場も発電する
市役所自身も、屋根を使っている。市によれば、公共施設で使う電力は再生可能エネルギー由来のものを積極的に使い、一定の規模以上の改修や建て替えのときには太陽光発電を入れてきた。最近は、夜や雨の日にも電気を使える蓄電池も合わせて入れている。
並んだ表を眺めると、立川らしい顔ぶれがある。市役所の太陽光は平成21年度(2009)の60.8キロワット。柏小学校は平成23年度の10キロワット。令和に入ると、立川第七中学校の体育館に21.14キロワットと蓄電池、松中小学校、立川第九中学校、子育て支援・保健センター、砂川学習館と続く。そして令和7年度(2025)には、立川競輪場に55.5キロワットの太陽光と35.3キロワット時の蓄電池が入った。自転車が全力で走るバンクの横で、屋根は静かに発電している。
あのころ/いま──煙突から、足湯へ
冒頭の足湯に戻ろう。新しい清掃工場、クリーンセンターたちむにぃは、令和4年度(2022年度)からごみの受け入れを始めた。運営開始は3月で、施設の情報紙の第1号は、運営を始めて半年が過ぎたことと、見学者が延べ1,500人を超えたことを伝えている。北側には「たちむにぃひろば」が整えられ、災害時の後方支援や、ごみ処理の啓発の場も兼ねている。
ごみを燃やす施設は、一般に、近くに住む人から歓迎されにくい。市は、旧清掃工場についての経過と取り組みを、いまも頁にまとめて残している。いまの施設は、余熱で足湯を沸かし、環境フェアを開き、事業報告の説明会を毎年開く。嫌われる施設から、足を運ぶ施設へ。焼却炉の熱の使い道が変わったのは、街と施設の関係が変わったからだろう。
その足湯には、もう一つ立川の「これから」が書かれている。熱中症警戒アラートが出ると、足湯は臨時に止まる。特別警戒アラートなら、ひろばごと臨時休園になる。夏の暑さが、ごみの余熱の足湯さえ止めてしまう。気候が変わるということを、これほど具体的に教えてくれる掲示は少ない。
数字で読む立川の緑と環境
- 60% ── 2030年度までに減らす二酸化炭素の割合(2013年度比)。国が2035年度に目指す数字を、5年早く。
- 86.9キログラム ── お風呂に続けて入り、蓋を閉めることで1年に減らせる二酸化炭素。ご飯を残さない効果の約80倍。風呂の順番は、環境問題である。
- 55.5キロワット ── 立川競輪場に載った太陽光発電。選手の脚力を電気に換算する仕組みではない。
- 36.5% ── 2023年度のみどり率。この数字には、消えたり現れたりする緑の物語がある。
- 170ヘクタール以上 ── 2029年度に残したい生産緑地の面積。いまより少ない。そこが、この計画の正直なところだ。
数字の最後の二つは、街の緑の話になる。立川の緑は、増えているのか、減っているのか。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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