
長く習うと、暗算以外の力にも届くのか
「どこが働くか」と「練習で何が伸びるか」は、隣り合っていても別の問いである。脳画像に違いがあるだけでは、日常のあらゆる能力の向上を示す証拠にはならない。ここで役立つのが、そろばん暗算を続けた群と、別の活動に時間を使った群を比較した長期試験だ。[4]
この無作為化比較試験では、小学校入学時の144人をそろばん暗算群と対照群に割り付けた。訓練群は週2時間の練習を5学年にわたり受け、対照群はその時間を通常の計算や読書などに使った。対象は小学校入学時から訓練を受けた子どもであり、18〜39歳の女性が始めた場合に同じ効果を得られるかは、この試験では確かめられていない。何もしない群との比較ではなく、別の活動に時間を充てる群との比較になっている。[4]
訓練後、そろばん暗算群は算術課題と視空間ワーキングメモリ課題で対照群を上回った。ワーキングメモリとは、作業に必要な情報を一時的に保持しながら扱う働きである。ここでいう視空間ワーキングメモリは、形や位置に関わる情報を扱うものだ。一方、訓練前後に行ったレーヴン知能検査では、同じような優位性は認められなかった。[4]
この違いは、習い事の説明を読むときに大切になる。「覚える力が伸びた」と言われたら、何を覚えるどんな課題なのかを確認したい。位置に関する課題の成績と、知能検査の成績は交換できない。実際、この試験は前者への効果を示しつつ、後者では優位性を示さなかったのである。[4]
脳画像を集めた64人では、視空間ワーキングメモリ課題中に両群で似た領域が活動したが、訓練群は前頭部、頭頂部、後頭部でより大きな活動を示した。また、訓練群の右中前頭回の活動は、算術能力と視空間ワーキングメモリ成績の関係を媒介していた。著者らは、計算の訓練から別の課題へ効果が及ぶ仕組みに、この領域が関わる可能性を示している。[4]
媒介とは、関連の間に別の要素が位置するという分析上の捉え方であり、「この部分さえ強く働かせれば能力が上がる」という練習法ではない。右側の領域の結果だけを切り出して、右脳全体を鍛えるという宣伝につなぐと、課題も分析も飛び越えてしまう。[4]
著者ら自身、訓練の長さと強さを考慮すると、別の能力への波及はかなり限定的だと評価している。計算と視空間ワーキングメモリへの可能性は認めながら、広い能力の底上げへ話を広げすぎない。この両方を伝えることが、試験の結果に忠実な説明である。[4]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
数字を覚える実験と、珠を失った人の回復
長期試験とは異なる角度から、数字の記憶を調べた比較研究もある。そろばん訓練を受けた子ども17人と対照の子ども17人に、数字と珠のワーキングメモリ課題を行ってもらったところ、訓練群では、どちらの課題でも右の上頭頂小葉後部・上後頭回と、右の補足運動野の活動が高かった。子どもの群間比較であり、18〜39歳の女性にも同じ活動の違いが現れるかは別途検証が必要だ。[3]
補足運動野は動きに関わる領域だが、この研究の対象は数字や珠を覚える課題である。さらに安静時のつながりを分析すると、訓練群では右補足運動野と右下前頭回の統合が強まっていた。著者らは、視空間処理と注意に関わる回路の統合が訓練によって高まる可能性を示した。ただし、この群間比較だけで、子ども全般の注意力の改善まで確定することはできない。[3]
これらは、単純な加算の実験とも区別して読む必要がある。数字を正しく覚えることと、連続して足すことでは求められる仕事が違う。そろばん経験者の脳を測ったという共通点があっても、記憶課題の結果を、そのまま全種類の計算の説明には使えない。[2][3]
もう少し意外な証拠は、頭の中のそろばんを一時的に失った人の報告である。熟練した女性が、背側運動前野と下頭頂小葉を含む右半球の脳卒中の後、心的そろばんと優れた暗算能力を一時的に失った。研究者は発症後6か月と13か月に脳画像を調べ、回復に伴う変化を追った。対象は脳卒中を経験した女性患者1人であり、18〜39歳の健康な女性に、この回復過程をそのまま当てはめることはできない。[5]
計算能力が回復するにつれて、活動の中心は、ブローカ野や左の背外側前頭前野などの言語に関わる領域から、左の上頭頂小葉を含む視空間処理に関わる領域へ移った。数字の記憶課題でも、回復後には左右の上頭頂小葉と右の視覚連合野の活動が見られた。本人も、心的そろばんが安定するにつれ、言葉で計算する方法から視空間的な方法へ戻れたと報告している。[5]
行動実験では、そろばんの画像を見せると数字の記憶が妨げられたが、人の顔の画像では同じ妨害は起こらなかった。著者らは、回復後に心的そろばんを使っていたことを支える結果とし、運動前野と頭頂皮質が熟練者の計算能力に重要な役割を持つと示唆している。本人の「頭の中に珠がある」という体験に、行動と画像から近づいた事例だ。[5]
右側の損傷が発端であることは、右側の重要性を考える材料になる。一方で、回復時には左側を含む領域の変化も見られた。この事例は、右半球の関与を消す話でも、計算の全工程を右半球だけに置く話でもない。個人の経過を詳しく追った報告として、左右の領域と計算方法の関係を考える証拠になる。[5]

よくある誤解
「そろばんは右脳だけを使う」は、研究結果に合わない。熟練者と非熟練者の脳磁図による集団比較では、熟練者に左右の頭頂後頭溝、右の前頭部、左の感覚運動領域の活動が検出された。視空間処理を使うことと、右半球に処理が限定されることは同じではない。[9]
「脳の活動が大きければ、それだけ頭がよくなった」も飛躍である。長期試験では、訓練群に大きな活動と算術・視空間ワーキングメモリ課題の優位性が見られた一方、レーヴン知能検査では優位性がなかった。活動の変化は、そのときの課題や行動の結果と一緒に読む必要がある。画像の色だけで、能力全般に順位をつけることはできない。[4]
「子どもの長期試験があるから、大人も少し練習すれば同じ結果になる」とも言えない。レビューは子どもと大人の訓練研究を扱い、数学やワーキングメモリなどへの可能性を認めているが、一般化には注意を求めている。ここで紹介した比較的長い訓練試験も、小学校入学時から始まった研究である。大人の再開に、その成果の大きさや期間をそのまま移すことはできない。[4][7]
習い事の魅力を伝えるために、脳全体の性能向上まで約束する必要はない。研究が示した計算や特定の記憶課題への可能性と、自分が楽しめるかどうかは、分けたまま考えられる。少なくとも、試験で測った能力の名前を消して「脳に効く」とだけ言い換えると、読者が判断する材料が減ってしまう。[4][7]
今日からできること
- 計算の仕方を話題にするときは、「右脳派か」より「言葉を唱えるのか、珠を思い描くのか」と尋ねる。1人の回復事例では、本人の方法の変化と脳活動の移行が対応していた。[5]
- 習い事の説明で効果を聞いたら、計算の速さ、視空間的な記憶、知能検査を区別する。144人の長期試験でも、すべての指標が同じ結果ではなかった。[4]
- 練習量の情報は、研究の条件として読む。週2時間を5学年続けた結果を、休日に少し試す場合の成果の約束に置き換えない。[4]
- 見取り算と読み上げの暗算を比べる際は、入力と頭の中の表現を分ける。熟練者1人の実験では、目と耳からの入力で似たネットワークが観察されたが、その人についての観察である。一般的な特徴を確定した集団試験の結果としては扱わない。[6]
- 学習の記録を残すなら、取り組んだ課題とできたことを一緒に書く。数字と珠の記憶を比較した17人ずつの研究のように、何を測ったかが結果の意味を決める。[3]

オンザショア立川店で、予定に入れられる時間を選ぶ
そろばんの研究で確かめた「何を練習し、何を測ったか」という視点は、運動を選ぶときにも持っておきたい。自分が取り組みたい内容と、続けられる時間から選ぶのである。オンザショア立川店の営業時間は8:00〜23:30、年中無休である。ただし、これは店の開閉の時間であり、レッスン開始時刻とは異なる。8時開始は土曜と日曜だけで、平日の最初の回は月曜から木曜が10時、金曜が13時だ。夜は水曜と金曜に21時開始の回がある。
場所は東京都立川市曙町2-14-10 エトロワビル3F、JR立川駅北口から徒歩1分。溶岩プレートを敷いたスタジオのホットヨガに加え、常温のヨガやピラティス、パーソナルトレーニングなどもあり、ヨガだけで25種類以上のレッスンを設けている。
妊娠中は溶岩ホットヨガには参加できず、常温のマタニティヨガがある。医師から運動を止められている方は利用できない。ヨガの体験は税込1,980円で、60分のレッスンにバスタオル2枚、フェイスタオル1枚、ヨガマットのレンタルが含まれる。年末年始の12/29〜1/3は通常レッスンを休み、会員向けの特別の有料講座となる。内容は公式サイト、費用は料金ページ、申し込みは体験予約で確認できる。
参考文献
[2] Neural correlates of serial abacus mental calculation in children: a functional MRI study — Chen F, Hu Z, Zhao X, Wang R, Yang Z, Wang X, Tang X., 2006, Neuroscience letters. DOI: 10.1016/j.neulet.2006.04.041
[3] The neural pathway underlying a numerical working memory task in abacus-trained children and associated functional connectivity in the resting brain — Li Y, Hu Y, Zhao M, Wang Y, Huang J, Chen F., 2013, Brain research. DOI: 10.1016/j.brainres.2013.09.030
[4] Training on Abacus-Based Mental Calculation Enhances Visuospatial Working Memory in Children — Wang C, Xu T, Geng F, Hu Y, Wang Y, Liu H, Chen F., 2019, The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience. DOI: 10.1523/jneurosci.3195-18.2019
[5] Abacus in the brain: a longitudinal functional MRI study of a skilled abacus user with a right hemispheric lesion — Tanaka S, Seki K, Hanakawa T, Harada M, Sugawara SK, Sadato N, Watanabe K, Honda, 2012, Frontiers in psychology. DOI: 10.3389/fpsyg.2012.00315
[6] Sequential neural processes in abacus mental addition: an EEG and FMRI case study — Ku Y, Hong B, Zhou W, Bodner M, Zhou YD., 2012, PloS one. DOI: 10.1371/journal.pone.0036410
[7] A Review of the Effects of Abacus Training on Cognitive Functions and Neural Systems in Humans — Wang C., 2020, Frontiers in neuroscience. DOI: 10.3389/fnins.2020.00913
[8] Rostral premotor cortex as a gateway between motor and cognitive networks — Hanakawa T., 2011, Neuroscience research. DOI: 10.1016/j.neures.2011.02.010
[9] Neural Processing Mechanism of Mental Calculation Based on Cerebral Oscillatory Changes: A Comparison Between Abacus Experts and Novices — Belkacem AN, Kiso K, Uokawa E, Goto T, Yorifuji S, Hirata M., 2020, Frontiers in human neuroscience. DOI: 10.3389/fnhum.2020.00137
この記事の情報は2026年11月時点のものです。個別の健康状態については医師にご相談ください。
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