ダイエット中のせんべいやクッキーは、噛む音が大きいほど満足できるのか。耳栓を使った実験や米菓の食感評価から、おいしさ、もっと食べたい気持ち、満腹感を分けて読む。音を楽しむことと食事量や体重の変化を混同せず、運動日の間食を選ぶときの視点と、音が苦手な人への配慮を考える。
休憩室で袋のせんべいをひとかじりする。ぱりっと割れる音は賑やかなのに、次のひと口も食べたくなる。音まで楽しめたことと、お腹が満ちたことは、どこで分ければよいのだろう。せんべいの袋は、その問いには答えてくれない。
ダイエット中なら、この音が満足感を増やしてくれるのか、と考えるかもしれない。答えの芯は、音が大きいことと、もっと食べたい気持ちが弱まることは同じではない、である。正常な聴覚・嗅覚・味覚を持つ成人の実験では、耳栓で咀嚼音が大きくなっても、食べ物の評価やさらに食べたい気持ちに有意差はなかった。[7]
米菓を使った別の実験でも、噛む音の振幅とおいしさに有意な関係は見られなかった。[4] だからせんべいを音の大きさで選ぶ前に、「食感が好き」「おいしい」「もう満腹」を別々に考えたい。クッキーにも同じ視点は持ち込めるが、米菓で得た結果を、そのままクッキーの効果として扱うことはできない。

耳栓で音は増えたが、食べたい気持ちは変わらなかった
音と食べ物の評価を分けて調べたのが、外耳道に耳栓を入れる実験である。参加したのは成人59人で、うち38人が女性だった。全員が正常な聴覚・嗅覚・味覚を持ち、耳栓を入れる場合と入れない場合の両方で食品を試した。食品はぱりぱりしたもの5種類と、柔らかいもの5種類である。[7] 男女を含む成人の結果なので、18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには慎重な検討が必要だ。
同じ人が異なる耳の条件を経験する比較なので、単に音が好きな人と嫌いな人を比べた話ではない。研究者は外耳道に置いたマイクで噛む音の音圧を記録し、食品の新鮮さや味の評価、同じ食品をもっと食べたいか、普段どれほど好きかを尋ねた。聞こえる音と、本人が答える評価を並べて見た実験である。[7]
結果は直感を少し裏切る。耳を塞いだ条件では咀嚼音が大きくなり、柔らかい食品よりぱりぱりした食品で音が大きかった。一方、新鮮さ、食品への評価、もっと食べたい気持ちには、食品の種類、耳の条件、性別による有意な差がなかった。[7] 耳栓は音を小さくする道具という印象があるが、この実験では噛む音を大きくする側に働いた。
ただし、有意差がなかったことは、どんな人にも音が関係しないという宣言ではない。この実験で、こうした評価の違いを統計的に確かめられなかったという意味だ。柔らかい食品については、男性が耳栓を着けたとき、普段の好みを高く評価する結果もあった。[7] この男性の結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめることはできない。主な評価に差がない結果と、特定の評価で違いが出た結果を両方残して読む必要がある。
日常に置き換えるなら、「音が聞こえたから満足した」と感じたときにも、その満足が何を指すかを考えるのがよい。新鮮に感じたのか、味が好きだったのか、次のひと口が欲しくなくなったのか。研究でもこれらは分けて質問されている。[7] 食べ物の印象をひとつの言葉に束ねると、どこで変化したのか見失いやすい。
そして、もっと食べたいという回答は、実際に食べた量そのものではない。音が変わる実験から日々の食事量を語るには、この違いを飛ばせない。夕方の間食でせんべいを選ぶ場面でも、音だけを理由に量を減らせると期待するより、食感を楽しめるかどうかという選択にとどめるのが、この結果に沿った読み方である。[7]
耳栓の実験で尋ねた新鮮さは、食べた人がどう感じたかという評価である。[7] 保存状態を検査して食品の安全性を判定した数字とは異なる。ぱりっと聞こえたから新鮮だと感じる場面があっても、その印象だけで保管の適否を決めない。食感を選ぶための判断と、食品を安心して食べられるかという判断を同じ質問にしないことも、実験の読み方から持ち帰れる視点だ。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
ぱりぱりのおいしさは、音量だけでは説明できない
米菓の食感を詳しく調べた研究では、柿の種と呼ばれる食品5種類が比べられた。大学生が、食べている途中でどの感覚が目立つかと、どの感覚がおいしさにつながるかを評価した。研究者は食感の違いを表す日本語の擬音語10種類を用い、同時に咀嚼音と、噛む筋肉の電気的な活動も測った。[4] 大学生を対象にした食感評価であり、18〜39歳の女性全体の好みをそのまま代表する結果としては扱えない。
ここで使われたのは、食べ終わってから全体を採点するだけの方法ではない。噛んでいる途中で優勢になる感覚を追う方法と、時間とともに好みに関わる感覚を調べる方法である。[4] 最初の破片が割れるときと、口の中でまとまったときとでは、食感の言葉が変わる。その時間の流れも含めて米菓を評価した点に、この実験の面白さがある。
解析では、水分の特徴を表す成分の寄与が、両方の実験で60%を超えた。また、とても柔らかく、湿って粘る「ベタベタ」と表現された食品は、ほかの食品よりおいしさの評価が有意に低かった。[4] この60%は食事量が減った割合ではなく、食感の評価データを整理した際の数値だ。音の研究に数字があるからといって、減量の数字に読み替えてはいけない。
一方で、咀嚼音の振幅や噛む筋肉の活動と、おいしさの評価には有意な関係がなかった。大学生は食感の細かな違いを区別でき、擬音語による表現は、生理的な測定値より食感のニュアンスを描き出すうえで影響が大きかったと研究者は述べている。[4] 音を測ることと、食べた人の経験を知ることは、それぞれ役割が違う。
袋を開けたせんべいに「軽いぱりぱり」を期待していたのに、実際には「ねっとり」が目立つ。そんな違いは、音が大きかったかどうかだけでは表しきれない。研究の結果は、食品の好き嫌いを音量という単独の物差しで片づけにくいことを示している。[4] 好みを伝えるには、音量に加えて口の中での崩れ方や湿り方も言葉にしたい。
ここでは味の種類が増えると食べ飽き方がどう変わるかには踏み込まない。それは隣の記事「ダイエットの献立は同じものを繰り返す?味の種類と食べ飽きの研究を読む」の問いである。こちらで見るのは、同じ間食を噛んでいる最中の音と食感だ。おいしさの評価から、献立全体の組み方まで答えを広げない。
ひと口の音は、噛んでいる途中にも変わる
せんべいの音は、噛んでいる間にも変化する。米菓と日本の漬物を使った装置開発の研究では、噛む回数が増えるにつれて、咀嚼音の強さと長さが減った。音の強さ、持続時間、筋肉の活動が始まってから音が出るまでの遅れも、食品の種類によって違っていた。[2]
この研究の目的は、介護食の食感を補うため、噛む動きに合わせて人工的な咀嚼音を提示する装置を改良することだった。筋電図とは、筋肉の電気的な活動を記録する方法である。研究者はその信号を利用して音を出していたが、実際の噛む音は、筋肉の信号と同じようには強さや長さが変化しなかった。[2]
そこで食品の種類と噛む回数に合わせて、人工的な音の強さや長さを調整できるようにした。[2] ぱりっと鳴る最初の感覚だけを繰り返すより、噛む途中の変化を扱う設計である。ここで音が目指す方向は、食べる意欲を支える介護食の工夫だ。ダイエットのために食べたい気持ちを抑える工夫として読むと、研究の目的から離れてしまう。介護食を食べる人の食感を支える装置の研究なので、18〜39歳の女性の間食選びにそのまま当てはめることはできない。
さらに、音が食べ物を噛み砕く働きと関連する可能性を調べた研究もある。健康な歯のある56人のボランティアがピーナッツを噛み、骨を通る振動を拾うマイクで音を記録した。研究者は、噛んだ食品の粒の大きさや、噛む回数、時間、頻度などを調べ、音の特徴との関係を解析した。[1] 健康な歯のある人の測定結果であり、18〜39歳の女性にそのまま当てはめて噛む働きを評価する用途には使えない。
ひと口を噛む全体の過程では、咀嚼音の強さと食品の粒の大きさに強い負の相関があり、相関係数は−0.94だった。音の強さと噛む頻度には正の相関があり、相関係数は0.82である。[1] 相関とは、測った値が一緒に変わる関係を表す。音を大きくすれば粒が小さくなる、という原因と結果の証明ではない。
研究者は音の強さが咀嚼の評価指標になり得ると結論している。[1] つまり音を、噛む働きを知る手がかりとして利用する方向だ。食感を楽しむ話とも、食べる量を決める話とも役割が異なる。家庭で音の大きさを聞いて噛む能力を採点したり、せんべいで顎を鍛えようとしたりする話にはつながらない。
ピーナッツの研究では、噛む過程の全体を見る測定と、決まった回数だけ噛む測定も区別されていた。[1] 音を測る条件が変われば、比べている動作も変わる。家で耳にした音を、研究のマイクで記録した値と同じように扱わず、日常では自分の食感の好みを知る手がかりとして楽しむくらいがよい。
数字で読む聞こえる食感
59人:耳栓を使う食品評価の実験に参加した成人。うち女性は38人だった。[7]
5種類ずつ:耳栓の実験で比較した、ぱりぱりした食品と柔らかい食品の種類数。[7]
10種類:米菓の食感評価で用いた日本語の擬音語。音量以外の特徴も言葉にした。[4]
60%超:米菓の評価データで水分の特徴を表す成分が示した寄与。減量率ではない。[4]
56人:ピーナッツを噛む音と、噛んだ食品の粒の大きさなどを調べた研究の参加者。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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