連載「見た目と運動の科学」全10回の第2回です。
運動をすると顔が赤くなり、汗が出て、終わった直後は肌がしっとりして見える。この体験は誰にでもあります。そして「運動すると血行が良くなって肌にいい」という説明も、あちこちで見かけます。前半は生理学として正確です。後半は、少なくとも言葉が飛んでいます。
結論を先に書きます。運動中に皮膚の血流が大きく増えるのは、皮膚に栄養を届けるためではなく、体の中心に溜まった熱を外へ逃がすためです。そして運動が皮膚の構造そのものを変えるかどうかについては、小規模な介入試験がいくつかあるだけで、追試はほとんど行われていません。
この回では、確かなところ(体温調節としての血流変化)から、確かでないところ(皮膚の構造への影響)へ順に進みます。第1回で渡した物差し——測定部位、比較の相手、標本の大きさ、代理指標の限界——を使いながら読んでください。

皮膚が赤くなるのは、熱を捨てているから
皮膚の血管は、二つの神経系によって制御されています。
Charkoudian N. Mechanisms and modifiers of reflex induced cutaneous vasodilation and vasoconstriction in humans. Journal of Applied Physiology. 2010;109(4):1221-1228.
ひとつは交感神経のノルアドレナリン性の血管収縮系で、常温でも一定の緊張を保ち、寒いときに活動を強めて皮膚の血流を減らします。もうひとつは非ノルアドレナリン性の能動的血管拡張系で、こちらは安静時には緊張を持たず、体温が上がったときにだけ活性化します。暑熱曝露や運動がその引き金です。コリン作動性の神経を介し、一酸化窒素・血管作動性腸管ペプチド・プロスタグランジン・サブスタンスPなどが関わると考えられていますが、単一の物質が仲介役として同定されるには至っていません。
この系が働くと、皮膚の血流はどのくらい増えるのか。運動時の体温調節をまとめた総説によれば、安静時の皮膚血流が毎分300 mL程度であるのに対し、高温環境での激しい運動では毎分7 Lに達しうるとされます。発汗量も1時間あたり4 Lに達することがあります。
Lenasi H, et al. The Physiology of Thermoregulation in Exercise. Southeastern European Medical Journal. 2023.
桁が変わるほどの変化です。ただし、この血流は皮膚の表面近くを通って熱を運び去るためのもので、目的地は皮膚ではなく外気です。表皮には血管がなく、栄養は真皮側から拡散で届きます。血流が増えれば供給も増えるという単純な話にはなりません。
同じ仕組みは逆向きにも働きます。寒い場所で顔色が悪く見えるのは、血管収縮系が活動を強めて皮膚の血流を減らし、熱が逃げるのを防いでいるからです。緊張したときに顔が青ざめるのも、この系が関わります。皮膚の色は、皮膚の状態そのものよりも、そのときの体温調節と循環の事情を映しています。鏡の前で見ている赤みや血色は、多くの場合、皮膚の質ではなく血管の開き具合の話だということです。
運動中の皮膚血流は、むしろ抑えられている
もう一段はっきりさせておきます。運動は、皮膚の血管拡張を促すと同時に、抑える方向にも働きます。
Kellogg DL, Johnson JM, Kosiba WA. Control of internal temperature threshold for active cutaneous vasodilation by dynamic exercise. Journal of Applied Physiology. 1991;71(6):2476-2482.
11名の前腕に、局所的に血管収縮神経の働きを止める処置を施し、深部体温がどこまで上がったら皮膚の血管拡張が始まるかを、安静時と運動時で比べた研究です。処置した部位では安静時 36.95±0.07 度に対し運動時 37.20±0.04 度、処置していない部位では 36.95±0.06 度に対し 37.23±0.05 度と、いずれも運動時のほうが高い体温にならないと血管拡張が始まりませんでした。発汗が始まる閾値は、運動の影響を受けていません。
なぜこうなるのか。運動中は活動筋にも血液を送らなければならず、血圧も維持しなければなりません。皮膚に血液を回しすぎると、そのどちらも危うくなります。ジョンソン(Johnson)は暑熱下の運動について、心拍出量では皮膚と筋の両方の要求を満たせず、皮膚の血流は安静時に同じ熱刺激を与えた場合よりずっと低い水準に抑えられると整理しています。結果として体温調節は犠牲になり、深部体温は運動継続を妨げる水準まで上がります。
つまり、運動中の皮膚は「たっぷり血をもらっている」のではなく、熱を捨てる必要と、筋と血圧を守る必要のあいだで綱引きをされている状態です。「血行が良くなる」という言い方は、この綱引きを描き落としています。

訓練を続けると、制御の設定が変わる
では、運動を習慣にした場合はどうか。ここには一貫した所見があります。
Johnson JM. Physical training and the control of skin blood flow. Medicine and Science in Sports and Exercise. 1998;30(3):382-386.
直接この問いを検討した研究は数が限られますが、結果は揃っています。訓練された状態では、同じ深部体温に対する皮膚血流が、座位中心の状態や訓練の浅い状態より高くなります。この所見は横断比較でも縦断比較でも、若年でも高齢でも、安静時の暑熱反応でも運動中でも、そして訓練をやめたときの変化としても観察されています。血管拡張が始まる体温の閾値が下がる形で実現される場合と、体温あたりの血流の増え方が急になる形で実現される場合があり、どちらになるかの理由は分かっていません。
注意したいのは、これが「熱を逃がす能力が上がる」という話であって、皮膚の見た目が変わるという話ではないことです。体温調節の性能と、皮膚の構造や外観は別の事柄です。
運動は皮膚の構造を変えるのか
ここが、この回で最も慎重に読むべき箇所です。運動介入が皮膚の構造に及ぼす影響を、有酸素運動と筋力トレーニングで比べた試験があります。
Nishikori S, Yasuda J, Murata K, Takegaki J, Harada Y, Shirai Y, Fujita S. Resistance training rejuvenates aging skin by reducing circulating inflammatory factors and enhancing dermal extracellular matrices. Scientific Reports. 2023;13(1):10214.
座位中心の生活をしていた健康な中年日本人女性61名を対象に、16週間の介入を行い、56名のデータが解析されました。有酸素運動群と筋力トレーニング群のいずれも皮膚の弾力と上部真皮の構造が有意に改善し、筋力トレーニング群では真皮の厚みも増えました。血中の炎症因子やホルモン、代謝物の動き方は両群で異なり、筋力トレーニング群では真皮のビグリカンという細胞外基質の成分が増えています。著者らは、有酸素運動と筋力トレーニングが皮膚の加齢に異なる影響を及ぼすことを示した最初の報告だと述べています。
興味深い結果です。同時に、第1回の物差しを当てると、次のことが見えます。標本は56名と小さく、対象は中年の日本人女性に限られます。介入期間は16週間で、年単位で進む皮膚の変化を追うには短い。そして著者ら自身が「最初の報告」と書いているとおり、この結果を独立の集団で再現した追試は、まだほとんど行われていません。弾力や真皮の厚みは機器で測った代理指標であり、本人や他人が見て分かる変化と対応するかどうかは、この試験からは分かりません。
「最初の報告」は、科学の世界では出発点であって到達点ではありません。追試で同じ結果が出るまでは、暫定的な所見として扱うのが順当です。これは研究を疑うという意味ではなく、一件の試験が背負える重さには限りがあるという、ごく普通の扱いです。
なぜ追試が要るのかを、もう少し具体的に書きます。介入試験では、参加者が「自分は運動群だ」と知っています。皮膚の測定そのものは機械が行いますが、測定の前に顔を洗ったか、室温に何分慣らしたか、前夜よく眠れたかといった条件は、参加者の行動に左右されます。期待は行動を変え、行動は測定値を変えます。独立した研究者が別の集団で同じ結果を出して初めて、こうした経路の影響が小さいと言えるようになります。
もうひとつ、この試験の結果が正しかったとしても、そこから言えることの範囲は限られます。対象は座位中心の生活をしていた中年女性であり、もともと運動している人や、別の年代・別の集団に同じ変化が起きるとは限りません。運動を始めていない人ほど伸びしろが大きいというのは、体力の分野では繰り返し観察されてきた形です。

横断研究が示すもの、示さないもの
運動習慣と皮膚の水分量の関係を、地域に暮らす高齢者で調べた研究もあります。
Oizumi R, Shibata R. Relationship Between Activity Level and Skin Moisturizing Function in Older Adults: A Cross-Sectional Study. Indian Dermatology Online Journal. 2026;17(1):63-66.
124名が対象で、平均年齢 84.3±9.2 歳、69.4% が女性でした。質問票で身体活動量を低・中・高に分け、前腕の角層水分量を測ったところ、低活動群57名と中・高活動群67名のあいだに有意差がありました(P = 0.001)。著者らは、運動習慣が皮膚の保湿機能を高める可能性を示唆するとしています。
ただし著者ら自身が限界を明記しています。これは横断研究であり、どちらが原因でどちらが結果かを判定できません。皮膚の状態が良い人がよく動けるのかもしれませんし、外出の多さ・栄養状態・服薬・入浴の習慣といった測っていない要因が、両方を同時に動かしているのかもしれません。活動量は自己申告の質問票によるもので、実測ではありません。相関を因果に読み替えないこと——これも毎回必要になる作法です。
汗をかいた直後の皮膚に何が起きるか
運動の直後、皮膚の表面では測れる変化が起きています。
Luebberding S, Kolbe L, Kerscher M. Influence of sportive activity on skin barrier function: a quantitative evaluation of 60 athletes. International Journal of Dermatology. 2013;52(6):745-749.
健康な60名(女性35名・男性25名、平均年齢 27.35±4.09 歳)に45分の持久系トレーニングを行わせ、前額・胸・前腕・腋窩を運動の前後で測っています。角層水分量は有意に増え、増加率は前腕で 51.9%、胸で 31.9% でした。前額の皮脂量は運動中に 87.36 μg/cm2 から 62.41 μg/cm2 へ有意に減っています。皮膚表面のpHは調べたすべての部位で上昇し、腋窩で最も高く(pH 5.64 から 5.98)、前腕で最も低い値でした(pH 4.75 から 4.93)。著者らは、これらの変化がバリア機能に負荷をかけうると述べています。
数字の向きに注意してください。水分量が増えるのは、汗が角層に留まるためで、角層の保湿能力が上がったからではありません。そしてpHの上昇は、弱酸性に保たれている皮膚表面の環境が一時的に崩れることを意味します。「しっとりした」という体感と、バリア機能が改善したという評価は、同じことではありません。
時間経過も単純ではありません。ワン(Wang)らは5歳から60歳までの102名を対象に、安静時・発汗開始時・大量発汗時・発汗の1時間後の4時点で顔の皮脂・角層水分量・pHを測りました。角層水分量は発汗開始時と大量発汗時に上がり、皮脂は発汗開始時に増えたのに大量発汗時には下がる、という逆転を示しています。1時間後には皮脂は持ち直しますが、安静時の水準までは戻りませんでした。著者らは、中等度の運動による大量の発汗であれば、1時間以内の自己調整で顔の弱酸性は損なわれないと結論しています。
皮脂と座瘡(ニキビ)について
運動と座瘡の関係は、しばしば断定的に語られます。「汗で毛穴が詰まる」あるいは逆に「汗をかくと毛穴がきれいになる」。どちらも、ここまでに見た測定結果からは支持できません。
測定が示しているのは、運動中に皮膚表面の皮脂量が減り、pHが上がり、角層が一時的に水を含む、ということです。表面の皮脂が減ることと、毛包の中で起きていることは別です。そして運動そのものが座瘡を悪化させる、あるいは改善させるという因果を、質の高い試験で確かめた報告は見当たりません。語られている関連の多くは、摩擦・衣類による閉塞・湿った状態が続くことといった機械的・環境的な条件の話であり、発汗という生理現象そのものの話ではありません。
実務的に言えるのはここまでです。汗や摩擦のあとに皮膚が荒れるという経験があるなら、その要因は発汗量ではなく接触と滞留の時間にある可能性が高い。ただしこれも推論であって、試験で確かめられた結論ではありません。皮膚の症状が続く場合は、自己判断せず皮膚科で相談してください。
この回の要点を一行にすると、こうなります。運動と皮膚のあいだで確かに測れているのは循環と体温の反応であり、それが外観の変化につながるかどうかは、まだ十分に検証されていません。血流が増えることと、肌が良くなることは、同じ文の中で並べて語られがちですが、両者をつなぐ証拠はまだ薄いのです。
| よく聞く言い方 | 研究が示していること |
|---|---|
| 運動すると血行が良くなって肌にいい | 血流増加は熱を捨てるための反応。皮膚への栄養供給が増えるという検証は別問題 |
| 運動中は皮膚に血が巡る | 運動は血管拡張の体温閾値を上げる。安静時の同じ熱刺激より血流は低く抑えられる |
| 運動で肌の弾力が上がる | 16週間の小規模試験で機器測定の改善あり。標本56名、追試は乏しい |
| 運動する人は肌がうるおっている | 横断研究の相関。因果の向きは判定できない |
| 汗をかくと肌がしっとりする | 角層水分量は上がるが、汗が留まった結果。pHは上昇する |
次回予告
第3回は「紫外線と酸化ストレス——屋外運動の功罪」を扱います。屋外で運動する人が実際にどれだけの紫外線を浴びているのかを実測値で見たうえで、運動が生む酸化ストレスと、それに対する体の適応を扱います。抗酸化サプリメントがその適応を妨げうるという所見にも触れます。
この連載の全10回
- 第1回|「肌がきれいになる」は測れるのか——皮膚科学の評価指標
- 第2回|運動と皮膚——血流・バリア機能・皮脂(この記事)
- 第3回|紫外線と酸化ストレス——屋外運動の功罪
- 第4回|汗は「毒を出す」のか——発汗の生理学と言説の検証
- 第5回|睡眠と見た目——睡眠不足が顔にもたらす実測変化
- 第6回|姿勢と印象——姿勢は見た目を変えるか
- 第7回|むくみ——体液の分布と、圧迫・運動の効果
- 第8回|セルライト——何が分かっていて何が分かっていないか
- 第9回|体重が減ると皮膚はどうなるか
- 第10回|総括——美容主張の読み方
出典
- Charkoudian N. Mechanisms and modifiers of reflex induced cutaneous vasodilation and vasoconstriction in humans. Journal of Applied Physiology. 2010;109(4):1221-1228.
- Lenasi H, et al. The Physiology of Thermoregulation in Exercise. Southeastern European Medical Journal. 2023.
- Kellogg DL, Johnson JM, Kosiba WA. Control of internal temperature threshold for active cutaneous vasodilation by dynamic exercise. Journal of Applied Physiology. 1991;71(6):2476-2482.
- Johnson JM. Exercise in a hot environment: the skin circulation. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2010;20(Suppl 3):29-39.
- Johnson JM. Physical training and the control of skin blood flow. Medicine and Science in Sports and Exercise. 1998;30(3):382-386.
- Nishikori S, Yasuda J, Murata K, Takegaki J, Harada Y, Shirai Y, Fujita S. Resistance training rejuvenates aging skin by reducing circulating inflammatory factors and enhancing dermal extracellular matrices. Scientific Reports. 2023;13(1):10214.
- Oizumi R, Shibata R. Relationship Between Activity Level and Skin Moisturizing Function in Older Adults: A Cross-Sectional Study. Indian Dermatology Online Journal. 2026;17(1):63-66.
- Luebberding S, Kolbe L, Kerscher M. Influence of sportive activity on skin barrier function: a quantitative evaluation of 60 athletes. International Journal of Dermatology. 2013;52(6):745-749.
- Wang S, Zhang G, Meng H, Li L. Effect of Exercise-induced Sweating on facial sebum, stratum corneum hydration, and skin surface pH in normal population. Skin Research and Technology. 2013;19(1):e312-e317.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。運動後に皮膚の赤みや発疹・かゆみが長く続く場合、汗をかくと強い痛みや息苦しさが出る場合、皮膚の異常や急な変化に気づいた場合は、自己判断せず皮膚科などの医療機関にご相談ください。心臓や血圧の治療を受けている方、暑熱環境で体調を崩した経験がある方は、運動の強度や環境について事前に主治医に確認してください。






