連載「見た目と運動の科学」全10回の第1回です。
この連載は、運動・睡眠・日焼けと「見た目」の関係を、公表された研究にあたって確かめていく全10回です。扱うのは「どうすればきれいになれるか」ではありません。測れるものと測れないものの境目がどこにあるのかを、毎回ひとつずつ確かめていきます。美容にまつわる話題は、断定的な言い方が流通しやすい領域です。だからこそ、数字が何を指しているのかを読者自身で判断できる材料を置いていきたいと考えています。
「肌がきれいになった」という言い方は、日常の会話ではほとんど説明を要しません。ところが研究の場でこれを扱おうとすると、途端に難しくなります。何を測れば「きれい」を測ったことになるのか、その定義が研究者の間でも揃っていないからです。
皮膚科学には、皮膚の状態を数値にする道具が一通りそろっています。角層のバリア機能を推し量る経表皮水分蒸散量(TEWL: transepidermal water loss)、角層の水分量を電気的に測る装置、皮膚の伸び縮みを吸引で測る装置、しわや色むらを画像から数えるシステム、医師が目で見て段階をつける臨床スケール。どれも実在し、論文にも製品の説明にも登場します。
結論を先に書きます。これらの道具は、条件を揃えて繰り返せば、おおむね安定した数値を返します。しかし、その数値の動きが「本人や他人が見て分かる変化」と対応しているかどうかは、多くの指標で確かめられていません。再現性が高いことと、意味があることは別の話です。

経表皮水分蒸散量——最もよく使われる指標
TEWL は、一定の面積の皮膚から一定時間に蒸発していく水分の量です。単位は g/m2/h。角層が傷むと水を保てなくなるので値が上がる——だからバリア機能の指標として使われます。測定器は皮膚に当てるだけで、痛みも傷もありません。この手軽さが普及の理由です。
では、その測定器はどの程度あてになるのか。それだけを調べた系統的レビューがあります。
Klotz T, Ibrahim A, Maddern G, Caplash Y, Wagstaff M. Devices measuring transepidermal water loss: A systematic review of measurement properties. Skin Research and Technology. 2022;28(4):497-539.
該当した38本の研究で、22種類の機器が検討されていました。研究デザインの質は平均すると「妥当(Adequate)」でしたが、信頼性と測定誤差を扱う統計手法の質は平均して「疑わしい(Doubtful)」と判定されています。著者らの結論は、機器は良好な信頼性を示し互いによく相関するものの、測定誤差のばらつきは大きく、生体外の条件下でのみ改善するというものでした。つまり、人の皮膚で測るかぎり誤差は残ります。
何が誤差を生むのか。アレクサンダー(Alexander)らの解説によれば、TEWL は周囲の湿度・温度・気流といった微気候に敏感で、測定は管理された条件下で行う必要があります。値は解剖学的部位によって大きく異なり、汗腺の活動・皮膚温・角層細胞の性質にも左右されます。
部位差がどれほどかは、基準値を集めたメタアナリシスが示しています。
Akdeniz M, Gabriel S, Lichterfeld-Kottner A, Blume-Peytavi U, Kottner J. Transepidermal water loss in healthy adults: a systematic review and meta-analysis update. British Journal of Dermatology. 2018;179(5):1049-1055.
212本の研究から86の皮膚部位について推定値が得られました。最も低いのは胸部の 2.3 g/m2/h(95%信頼区間 1.9〜2.7)、最も高いのは腋窩の 44.0(39.8〜48.2)です。同じ身体の中で20倍近い開きがある。したがって「TEWL が下がった」という記述は、どこを測ったのかが書かれていなければ、他の研究と比べようがありません。
同じ人を同じ日に測っても、値は揺れる
測定器の誤差は、実際にどのくらいの幅になるのか。熟練した測定者が繰り返し測った研究があります。
Kottner J, Blume-Peytavi U. Reliability and agreement of instrumental skin barrier measurements in clinical pressure ulcer prevention research. International Wound Journal. 2021;18(5):716-727.
4人の経験ある研究者が15名の皮膚を測りました。最も信頼性が低かったのは仙骨部の TEWL で、級内相関係数は 0.46(95%信頼区間 0.00〜0.78)。最も高かったのは踵の皮膚温で 0.99(0.99〜1.00)でした。測定の標準誤差は、踵の皮膚温で 0.11 度と小さく、仙骨部の紅斑では 26.7 任意単位と大きく出ています。著者らは、皮膚温と角層水分量は1回の測定でも使えるが、TEWL と紅斑は少なくとも2回測った平均を使うべきだと述べています。
信頼性の数値が低いということは、同じ状態の皮膚を測っても値が動くということです。介入の前後で小さな差が出たとき、それが介入の効果なのか測定の揺れなのかを、単回の測定では区別できません。

機器どうしは一致する。機器と人の目は一致しない
角層水分量の測定では、電気的な性質から水分を推定する装置が広く使われています。この装置の再現性と、臨床評価との対応を同時に調べた試験があります。
Park JH, Choi Y, Jung YJ, Lee T, Kim H, Cho Y, Lee JH. Skin Hydration Measurement: Comparison Between Devices and Clinical Evaluations. Annals of Dermatology. 2024;36(5):275-281.
健康な志願者184名を対象に、2種類の装置で前腕と下腿を測っています。再現性はいずれも高く、級内相関係数は一方が 0.954〜0.971、もう一方が 0.980〜0.986。2つの装置の値どうしも 0.708〜0.737 の正の相関を示しました。ここまでは「よく測れている」という話です。
ところが、医師が目で見て乾燥の程度を採点した尺度との関係を回帰分析すると、両装置とも全部位で回帰係数は負の向き(乾燥が強いほど水分量が低い)を示したものの、統計的に有意ではありませんでした。機器どうしはよく一致するのに、機器の数値と医師の見立てはうまく噛み合わない。この連載で何度も出てくる論点が、最初の回でもう現れています。
目で見る評価も、思ったほど揃わない
では人の目のほうは安定しているのか。皮膚の紅斑(赤み)の採点を、複数の医師で比べた古典的な研究があります。
Lock-Andersen J, Wulf HC. Threshold level for measurement of UV sensitivity: reproducibility of phototest. Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine. 1996;12(4):154-161.
健康な21名の臀部の皮膚に紫外線を照射し、24時間後の紅斑を8人の医師がそれぞれ2回ずつ採点しました。一致度は紅斑が強くなるほど低下し、皮膚の色調が濃い群では薄い群より低くなりました。観察者どうしの評価は、最大で3段階も食い違うことがありました。光線検査の経験の有無は、一致度にわずかな影響しか与えていません。著者らは、境界のはっきりした紅斑ではなく「かろうじて見える程度の紅斑」を基準にすることを勧めています。
写真評価も条件に依存します。照明の色温度と向き、カメラとの距離、顔の角度、撮影した時刻、直前に洗顔したかどうか。これらが変われば、同じ皮膚が違って写ります。とくに斜めからの光は凹凸を強調し、正面からの拡散光は凹凸を消します。同じ日に撮った2枚でも、光を変えるだけで「改善」にも「悪化」にも見せられるということです。
前後比較の写真を見るときの順序は決まっています。まず撮影条件が揃っているかを確かめ、次に何が変わったのかを見る。順序を逆にすると、条件の違いを変化として読んでしまいます。研究論文では撮影装置と条件が方法の節に書かれているのが普通で、書かれていない写真は、比較の材料としては扱えません。

臨床スケールは100種類以上ある
医師が段階をつける尺度そのものを棚卸しした系統的レビューもあります。
Dobos G, Lichterfeld A, Blume-Peytavi U, Kottner J. Evaluation of skin ageing: a systematic review of clinical scales. British Journal of Dermatology. 2015;172(5):1249-1261.
52本の文献から111の尺度が見つかりました。少なくとも1つの測定特性について良好な方法論を備えていたのは30研究。再現性または評価者間一致が検討されたのは42の尺度で、そのうち高い信頼性係数を示したのは19。内容妥当性や構造的妥当性などで部分的に裏づけられたものが、さらに15ありました。著者らは、尺度の数に比べて測定特性を支持する証拠は限られており、特定の尺度を推奨するには慎重でなければならないと結論しています。
弾力ときめ——測れるが、妥当性は確かめられていない
しわ以外の「肌質」についてはどうか。皮膚の色・弾力・きめを測る機器の信頼性と妥当性を集めたレビューがあります。
Langeveld M, van de Lande LS, O’Sullivan E, van der Lei B, van Dongen JA. Skin measurement devices to assess skin quality: A systematic review on reliability and validity. Skin Research and Technology. 2022;28(2):212-224.
色については11本の研究が16機器・延べ3,172名を扱っており、比較的よく調べられていました。ところが弾力は7本の研究で9種類の機器・合計290名、きめに至っては2本の研究で72名です。弾力については、観察者間・観察者内の信頼性がそもそも報告されていませんでした。そして著者らははっきりこう書いています——検討した機器のうち、構成概念妥当性にもとづいて「妥当」と判定できたものは一つもなかった。
測定法そのものを標準化する取り組みも続いていますが、ベラルデスカ(Berardesca)らによる改訂 EEMCO ガイダンスは、機器間・機器内のばらつきの検証が依然として課題であり、検証用の標準物質も試験用ファントムも存在しないと明記しています。長さや重さのように、正解と突き合わせて校正する手段が無いということです。
「差が出た」と「意味がある」は別の主張
ここまでは道具の話でした。もうひとつ、数値の読み方そのものに関わる区別があります。統計的に有意であることと、臨床的に重要であることは、別の判断だということです。
統計的有意とは、ざっくり言えば「この差が偶然だけで生じる確率は低い」という判定です。参加者の人数を増やせば、どんなに小さな差でも有意になりえます。一方、臨床的に重要かどうかは「その差が本人に分かるか、生活が変わるか」という問いで、統計とは別の基準が要ります。皮膚の指標では、この後者の基準——どれだけ動けば本人が気づくのか——が、多くの項目で定まっていません。だから有意差が出ても、それを「見て分かる変化」と言い換える根拠が無いのです。
加えて、美容にかかわる試験には共通の弱点があります。参加者が数十人と少ないこと。期間が数週間から数か月と短く、年単位で進む皮膚の変化を追えないこと。結果の一部が参加者の自己申告で、期待の影響を受けやすいこと。そして、効果が出なかった試験は発表されにくいという出版バイアスがあること。ひとつひとつは小さな偏りですが、重なると、公表されている結果全体が実際より良い方向へずれます。
もうひとつ、比較の相手も見てください。何もしない群と比べれば、たいていの介入は良く見えます。人が関わって、時間をかけて、期待を持って行うこと自体に効果があるからです。同じ時間・同じ手間をかけた別の介入と比べたとき、差が残るかどうか。そこが本当の分かれ目です。
この連載で使う物差し
以上をまとめると、皮膚の数値を読むときの確認事項は次のようになります。第2回以降で数値が出てきたら、この表に戻ってきてください。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| どの部位を測ったか | TEWL は部位によって20倍近く違う |
| 測定環境が管理されていたか | 湿度・温度・気流で値が動く |
| 1回の測定か、複数回の平均か | TEWL と紅斑は単回では誤差が大きい |
| 比較の相手は何か | 無処置か、別の介入か、同じ時間の何かか |
| どの機器を使ったか | 機器が違えば値も違い、標準物質は存在しない |
| 見た目の評価も併せて測ったか | 機器の変化が、見て分かる変化とは限らない |
| 資金の出どころと利益相反 | 論文の末尾に開示欄がある。読むかどうかで受け取り方は変わる |
誤解のないように書き添えます。これらの指標が役に立たない、という話ではありません。バリア機能が壊れている状態を検出したり、治療の前後で回復を追ったりする用途では、TEWL も角層水分量も十分に働きます。問題になるのは、健康な皮膚のわずかな変化を「きれいになった」と読み替える場面です。そこでは指標の誤差と、指標と見た目のつながりの弱さが、同時に効いてきます。
代理指標(本当に知りたいことの代わりに測る指標)は、便利だからこそ独り歩きします。数値が動いたという事実と、その動きに意味があるという主張は、切り離して読む。この連載を通じての作法をひとつ挙げるとすれば、それに尽きます。
次回予告
第2回は「運動と皮膚——血流・バリア機能・皮脂」を扱います。運動をすると顔が赤くなるのはなぜか、その血流の変化は体温調節のためであって皮膚のためではないこと、そして「運動で皮膚の構造が変わる」という主張がどこまで検証されているのかを見ていきます。今回の物差しが、さっそく必要になります。
この連載の全10回
- 第1回|「肌がきれいになる」は測れるのか——皮膚科学の評価指標(この記事)
- 第2回|運動と皮膚——血流・バリア機能・皮脂
- 第3回|紫外線と酸化ストレス——屋外運動の功罪
- 第4回|汗は「毒を出す」のか——発汗の生理学と言説の検証
- 第5回|睡眠と見た目——睡眠不足が顔にもたらす実測変化
- 第6回|姿勢と印象——姿勢は見た目を変えるか
- 第7回|むくみ——体液の分布と、圧迫・運動の効果
- 第8回|セルライト——何が分かっていて何が分かっていないか
- 第9回|体重が減ると皮膚はどうなるか
- 第10回|総括——美容主張の読み方
出典
- Klotz T, Ibrahim A, Maddern G, Caplash Y, Wagstaff M. Devices measuring transepidermal water loss: A systematic review of measurement properties. Skin Research and Technology. 2022;28(4):497-539.
- Alexander H, Brown S, Danby S, Flohr C. Research Techniques Made Simple: Transepidermal Water Loss Measurement as a Research Tool. The Journal of Investigative Dermatology. 2018;138(11):2295-2300.e1.
- Akdeniz M, Gabriel S, Lichterfeld-Kottner A, Blume-Peytavi U, Kottner J. Transepidermal water loss in healthy adults: a systematic review and meta-analysis update. British Journal of Dermatology. 2018;179(5):1049-1055.
- Kottner J, Blume-Peytavi U. Reliability and agreement of instrumental skin barrier measurements in clinical pressure ulcer prevention research. International Wound Journal. 2021;18(5):716-727.
- Park JH, Choi Y, Jung YJ, Lee T, Kim H, Cho Y, Lee JH. Skin Hydration Measurement: Comparison Between Devices and Clinical Evaluations. Annals of Dermatology. 2024;36(5):275-281.
- Lock-Andersen J, Wulf HC. Threshold level for measurement of UV sensitivity: reproducibility of phototest. Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine. 1996;12(4):154-161.
- Dobos G, Lichterfeld A, Blume-Peytavi U, Kottner J. Evaluation of skin ageing: a systematic review of clinical scales. British Journal of Dermatology. 2015;172(5):1249-1261.
- Langeveld M, van de Lande LS, O’Sullivan E, van der Lei B, van Dongen JA. Skin measurement devices to assess skin quality: A systematic review on reliability and validity. Skin Research and Technology. 2022;28(2):212-224.
- Berardesca E, Loden M, Serup J, Masson P, Rodrigues LM. The revised EEMCO guidance for the in vivo measurement of water in the skin. Skin Research and Technology. 2018;24(3):351-358.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。皮膚に痛み・強いかゆみ・浸出液・広がる発疹がある場合、ほくろやしみの形や色が短期間で変わった場合、市販の手入れで改善しない乾燥や赤みが続く場合は、機器の数値や自己判断に頼らず皮膚科を受診してください。持病の治療を受けている方、妊娠中の方は、新しい手入れや運動を始める前に主治医にご相談ください。






