連載「見た目と運動の科学」全10回の第6回です。
姿勢は、見た目の話でも健康の話でも、繰り返し持ち出される題材です。背すじを伸ばせば印象が変わる、自信がつく、若く見える——どれも聞いたことがある言い方でしょう。この回では、それぞれがどこまで確かめられているのかを分けて見ていきます。
結論を先に書きます。姿勢が他者の印象を動かすことは、写真評価の実験で繰り返し示されています。一方、姿勢をとることが本人のホルモンや行動を変えるという主張——いわゆるパワーポーズ——は、大規模な追試で再現されませんでした。第5回で見たのと同じ構図が、別の領域で、より大きな規模で起きています。
もうひとつ先に断っておきます。姿勢と痛み・腰背部の症状との関連は、この連載の守備範囲ではありません。ここで扱うのは、あくまで「見え方」と「本人の状態」に限ります。

姿勢は、他者の印象を確かに動かす
まず、印象の側から見ます。「良い姿勢」と「悪い姿勢」の写真を見せて評価させた実験があります。
Kitamura M, et al. Managed postures modulate social impressions after limited and unlimited time exposure. Current Psychology. 2021.
2つの実験で合計207名(実験1が72名、実験2が135名)が参加し、後ろ・正面・横の3方向から撮影された、意図的に「良い」姿勢と「悪い」姿勢をとった人物の写真96枚を見て、魅力・信頼できそうか・優位さを評価しました。実験1では時間制限なし、実験2では 100、500、1000 ミリ秒の制限をつけています。
結果は明快でした。「良い」姿勢の人物は、総じて魅力的で信頼できそうだと評価されました。そして重要なのは時間の効果です。100ミリ秒の提示で形成された印象は、時間制限を設けなかった場合の印象と高い相関を示しました。著者らは、意図的に整えた姿勢を100ミリ秒見るだけで、人は魅力と信頼性の印象を作ると結論しています。
この効果は文脈にも左右されます。医師の姿勢が患者の第一印象に与える影響を調べた研究があります。
Grün FC, Heibges M, Westfal V, Feufel MA. “You Never Get a Second Chance”: First Impressions of Physicians Depend on Their Body Posture and Gender. Frontiers in Psychology. 2022;13:836157.
167名がオンライン調査に参加し、4名の医師(女性2名・男性2名)の写真を、開いた姿勢2種類・閉じた姿勢2種類で評価しました。男性医師は、開いた姿勢のほうがすべての専門的役割についてより肯定的に評価されました。一方、女性医師は医学的能力に関わる項目では同様に肯定的でしたが、社会的スキル——患者と意思疎通し関係を築く能力——については、開いた姿勢のほうが低く評価される傾向がありました。著者らは、性別に関する固定観念が関わっている可能性を指摘し、さらなる研究が必要だと述べています。
ここから言えるのは、姿勢は印象を動かすが、その向きは見る側の前提に依存するということです。「良い姿勢をとれば誰に対しても良い印象になる」という単純な話ではありません。
印象が変わることと、本人が変わることは別
ここで論点を分けます。「姿勢が他者の印象を変える」という主張と、「姿勢が本人の状態を変える」という主張は、まったく別の検証を必要とします。前者は観察者を集めて写真を評価させれば検証できます。後者は、姿勢をとった本人の生理や行動を測らなければなりません。
検証の難しさも違います。他者の印象は、写真を見せて点をつけてもらえば測れます。評価者を増やせば、個人差もならせます。一方、本人の状態を測るとなると、唾液や血液を採り、行動課題をやってもらい、しかも本人が「いま自分は力の姿勢をとらされている」と気づいていることの影響を切り分けなければなりません。後者のほうが、はるかに壊れやすい実験です。
ところが、この2つはしばしば地続きに語られます。姿勢を整えると印象が良くなり、印象が良くなると自信がつき、自信がつくとホルモンが変わり、ホルモンが変われば行動が変わる——という筋書きです。実際にこの筋書きを実験で示したとされたのが、次の研究でした。

「パワーポーズ」——最初の報告
Carney DR, Cuddy AJ, Yap AJ. Power posing: brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance. Psychological Science. 2010;21(10):1363-1368.
42名の参加者を、力を表す開いた姿勢(高パワー)と、力の無さを表す閉じた姿勢(低パワー)にランダムに割り付けました。それぞれ1分の姿勢を2つとらせています。報告された結果は、高パワー姿勢の群でテストステロンが上昇し、コルチゾールが低下し、力の感覚とリスク許容度が高まったというものでした。低パワー姿勢の群は逆のパターンを示したとされます。
論文は、2つの単純な1分間の姿勢をとるだけで力を体現し、ただちにより力ある存在になれる——それには現実世界で実行可能な含意がある、と結んでいます。この結論は広く受け入れられ、講演や書籍を通じて世界中に広まりました。
大規模な追試で、生理の効果は消えた
5年後、同じ設計をより大きな標本で行った研究が発表されます。
Ranehill E, Dreber A, Johannesson M, Leiberg S, Sul S, Weber RA. Assessing the robustness of power posing: no effect on hormones and risk tolerance in a large sample of men and women. Psychological Science. 2015;26(5):653-656.
参加者は200名。実験者は割り付けを知らされない設計です。元の報告と同じ大きさの効果を検出する統計的な検出力は95%を超えていました。元の3つの結果に加え、損失側のリスクテイクと競争への意欲という2つの行動課題も測っています。
結果は、元の報告と一致した部分と、しなかった部分にはっきり分かれました。自己申告による「力の感覚」には有意な効果が認められました。しかし、ホルモンの値にも、3つの行動課題のいずれにも、有意な効果は認められませんでした。
この結果は、姿勢の研究に限らない大きな議論の入口になりました。同じ設計で、標本を大きくし、実験者を盲検にすると、生理指標の効果が消える。第5回で見た睡眠と顔の研究と、構図がそのまま重なります。

文献全体を検算する
個々の追試ではなく、それまでに発表された研究群そのものを検算する試みも行われました。
Simmons JP, Simonsohn U. Power Posing: P-Curving the Evidence. Psychological Science. 2017;28(5):687-693.
もとの著者らが「成功した研究」として挙げた33本について、p値の分布を調べる手法を適用した論文です。著者らの結論は厳しいものでした——33本のp値の分布は、平均効果量がゼロであり、かつ選択的な報告だけが有意な結果を生んでいる場合に期待される分布と、区別がつかない。したがって、調整要因を探すことに資源を割く前に、そもそも効果が存在するかを確かめるべきだとしています。
これに対する反論も出ています。カディ(Cuddy)らは、系統的に選び直した55本を対象にp値の検算をやり直し、姿勢のフィードバック効果全般について、とくに「力の感覚」という明確に定義された効果について、証拠としての価値があると主張しました。両者の結論が分かれた理由として、対象研究の選び方と、性質の違う効果をひとまとめに扱ったことを挙げています。
では、事前登録された研究だけを集めるとどうなるか。
Gronau QF, et al. A Bayesian model-averaged meta-analysis of the power pose effect with informed and default priors: the case of felt power. Comprehensive Results in Social Psychology. 2017.
事前登録された6件の研究だけを対象にしたベイズ統合です。事前登録に限ることで、発表バイアスの影響を除いています。結果は、力の感覚への効果について非常に強い証拠を示しました。ただし但し書きがつきます。この効果を知らなかった参加者だけに限って解析すると、証拠の強さは「中程度」にとどまりました。つまり、効果の一部は、参加者が何を期待されているかを察していたことで説明されうるということです。
ホルモンについては、条件を変えた追試も行われています。
Metzler H, Grèzes J. Repeatedly adopting power postures does not affect hormonal correlates of dominance and affiliative behavior. PeerJ. 2019;7:e6726.
82名の男性が、顔の第一印象を判断する課題の合間に、開いた姿勢か閉じた姿勢を2分ずつ繰り返しとりました。ホルモンの反応が最も大きく出る時間帯に、2時点で唾液を採取しています。研究の目的自体は参加者に伏せられました。結果は、テストステロンもコルチゾールもプロゲステロンも、姿勢によって違いを示しませんでした。
この領域を整理したケルナー(Körner)らの総説は、身体の位置を短時間とる介入が生理や行動に影響するという明確な証拠は無い、と結論しています。ただし同時に、本人の自己認識への効果は繰り返し観察されているとも述べています。力の感覚や自己評価は動く。ホルモンと行動は動かない。現時点での到達点は、そのあたりです。
姿勢そのものを測るのも、簡単ではない
ここまでは姿勢を「とらせる」実験でした。では、ふだんの姿勢を測るほうはどうか。第1回で扱った測定の問題が、ここでも出てきます。
ペリー(Perry)らは、健康な青少年22名(男性11名・女性11名)を4人の異なる検査者が撮影し、立位・座位・崩した座位での脊柱の角度と距離を計8項目・4項目で求めました。評価者間の信頼性は、立位では骨盤の傾きと体幹の傾斜角を除くすべての測定で、座位では頭部の屈曲と頭頸部の角度を除くすべてで、「まずまず(級内相関係数 0.4 超)」から「良好(同 0.75 超)」の範囲に収まりました。
ただし著者らは重要な注意も添えています。一致度を表す係数は、一貫性を表す係数より低く出ており、大半の測定で検査者による系統的なずれが認められました。同じ人を別の人が測ると、値が体系的に違ってくるということです。写真を使った姿勢評価は大規模な調査には使えるが、個人の小さな変化を追うには誤差が大きい——そう読むのが妥当でしょう。
自己認識とのずれも見落とせません。自分の姿勢を自分で正確に把握するのは難しく、鏡や写真で見た印象と、測定された角度は必ずしも一致しません。「姿勢が悪くなった気がする」という実感が、測定可能な変化に対応しているとは限らないのです。逆もまた同じで、角度が数度変わったことに本人が気づくとも限りません。ここでも、測れるものと見て分かるものは別の層にあります。姿勢の前後比較を写真で見せられたときは、まず撮影条件が揃っているか——立つ位置、カメラの高さ、顎の引き方、着衣——を確かめるのが順序になります。
「姿勢を直せば見た目年齢が下がる」について
最後に、この回で最もよく聞かれるであろう主張を扱います。姿勢を改善すると見た目の年齢が下がる、という言い方です。
正直に書きます。姿勢への介入の前後で、他者が評価した「見た目の年齢」が有意に変わったことを示す質の高い試験は、今回の調査では見つかりませんでした。これは「効果が無い」という意味ではありません。「確かめられていない」という意味です。この2つを混同しないことが、この連載を通じての作法です。
分かっているのは、ここまでに見たとおりです。姿勢は他者の魅力と信頼性の評価を動かす。その判断は100ミリ秒で形成される。評価の向きは、見る側の前提や、見られる側の属性によっても変わる。ここから「年齢の評価」まで橋を架けるには、年齢を直接測った研究が要ります。
| 主張 | 検証の状況 |
|---|---|
| 姿勢は他者の印象を変える | 写真評価の実験で繰り返し示されている。100ミリ秒で形成される |
| 印象の変化はいつも同じ向き | 見る側の前提と、見られる側の属性で向きが変わる報告がある |
| 姿勢でホルモンが変わる | 200名の追試、82名の追試とも再現せず |
| 姿勢で行動が変わる | 200名の追試で3つの行動課題すべてに効果なし |
| 姿勢で「力の感覚」が変わる | 事前登録研究の統合では強い証拠。ただし効果を知らない人に限ると中程度 |
| 姿勢を直すと見た目年齢が下がる | 他者評価の年齢を測った質の高い試験は見つからなかった |
この回の教訓は、第5回と同じです。最初の印象的な報告と、後の大きな追試とで、結果が分かれることがある。そして分かれ方には規則性があります。自己申告の指標は残りやすく、生理指標と行動指標は消えやすい。自己申告は、本人が何を期待されているかを察したことの影響を受けるからです。
なぜ自己申告だけが残るのか。ひとつの説明は、参加者が実験の意図を察してしまうというものです。開いた姿勢を2分とらされたあと「いまどれくらい力を感じますか」と聞かれれば、何が期待されているかは想像がつきます。事前登録された研究だけを集めたベイズ統合で、効果を知らない参加者に限ると証拠が中程度まで下がったのは、この説明と整合的です。本人が答える指標は、本人が状況をどう読んだかの影響を受ける。第1回で挙げた「自己申告」という注意点が、そのまま当てはまります。
だからといって、姿勢を整えることに意味が無いわけではありません。人からどう見えるかは確かに変わります。変わらないと分かったのは、「ホルモンが変わって人生が変わる」という部分です。区別して受け取るのが、正確な読み方だと考えます。
次回予告
第7回は「むくみ——体液の分布と、圧迫・運動の効果」を扱います。長時間の座位や立位、飛行機の中で下肢に何ミリリットルの体液が溜まるのかは実測されています。圧迫衣類と筋のポンプ作用がそれをどう変えるのか、そして塩分や水分の摂り方をめぐる俗説が実測とどう食い違うのかを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「肌がきれいになる」は測れるのか——皮膚科学の評価指標
- 第2回|運動と皮膚——血流・バリア機能・皮脂
- 第3回|紫外線と酸化ストレス——屋外運動の功罪
- 第4回|汗は「毒を出す」のか——発汗の生理学と言説の検証
- 第5回|睡眠と見た目——睡眠不足が顔にもたらす実測変化
- 第6回|姿勢と印象——姿勢は見た目を変えるか(この記事)
- 第7回|むくみ——体液の分布と、圧迫・運動の効果
- 第8回|セルライト——何が分かっていて何が分かっていないか
- 第9回|体重が減ると皮膚はどうなるか
- 第10回|総括——美容主張の読み方
出典
- Kitamura M, et al. Managed postures modulate social impressions after limited and unlimited time exposure. Current Psychology. 2021.
- Grün FC, Heibges M, Westfal V, Feufel MA. “You Never Get a Second Chance”: First Impressions of Physicians Depend on Their Body Posture and Gender. Frontiers in Psychology. 2022;13:836157.
- Carney DR, Cuddy AJ, Yap AJ. Power posing: brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance. Psychological Science. 2010;21(10):1363-1368.
- Ranehill E, Dreber A, Johannesson M, Leiberg S, Sul S, Weber RA. Assessing the robustness of power posing: no effect on hormones and risk tolerance in a large sample of men and women. Psychological Science. 2015;26(5):653-656.
- Simmons JP, Simonsohn U. Power Posing: P-Curving the Evidence. Psychological Science. 2017;28(5):687-693.
- Cuddy AJC, Schultz SJ, Fosse NE. P-Curving a More Comprehensive Body of Research on Postural Feedback Reveals Clear Evidential Value for Power-Posing Effects: Reply to Simmons and Simonsohn (2017). Psychological Science. 2018;29(4):656-666.
- Gronau QF, et al. A Bayesian model-averaged meta-analysis of the power pose effect with informed and default priors: the case of felt power. Comprehensive Results in Social Psychology. 2017.
- Metzler H, Grèzes J. Repeatedly adopting power postures does not affect hormonal correlates of dominance and affiliative behavior. PeerJ. 2019;7:e6726.
- Körner R, et al. Dominance or prestige: A review of the effects of power poses and other body postures. Social and Personality Psychology Compass. 2020.
- Perry M, et al. Reliability of sagittal photographic spinal posture assessment in adolescents. Advances in Physiotherapy. 2008.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。姿勢に関連して首・肩・背中・腰の痛みやしびれが続く場合、短期間に姿勢が明らかに変わった場合、身長が目立って縮んだ場合は、自己判断せず整形外科などの医療機関にご相談ください。骨粗鬆症や脊椎の病気で治療を受けている方は、姿勢に関する運動を始める前に主治医に確認してください。皮膚の異常や急な変化に気づいたときは皮膚科を受診してください。






