連載「見た目と運動の科学」全10回の第5回です。
「寝不足の顔」は他人に分かる。多くの人がそう感じていますし、それを確かめた実験もあります。この回では、その一連の研究を順に追いかけます。結果として、この連載でいちばん教訓的な話になりました。
結論を先に書きます。睡眠を削った人の顔写真は、他者から健康度も魅力度も低く評価されるという報告が2010年代に相次ぎました。ところが2019年に、同じ研究グループが標本を10倍近くに増やして行った実験では、その差が再現されませんでした。一方、皮膚を機器で測ると、睡眠を制限した直後に水分量やバリア機能の指標が動くことは、複数の研究で一致しています。
見た目の評価と、機器の測定。第1回で扱った「一致しない2つの物差し」が、ここでもそのまま現れます。

最初の実験——「美容睡眠」を測る
この分野の出発点になったのは、2010年に医学誌に載った実験です。
Axelsson J, Sundelin T, Ingre M, Van Someren EJ, Olsson A, Lekander M. Beauty sleep: experimental study on the perceived health and attractiveness of sleep deprived people. BMJ. 2010;341:c6614.
健康な成人23名を、通常の8時間睡眠のあとと、睡眠を減らした夜に続く31時間の覚醒のあとに撮影しました。写真は順序をランダムにして、訓練を受けていない観察者65名が100 mmの視覚的アナログ尺度で評価しています。
結果は次のとおりです。睡眠を奪われた状態では、健康度の評点が 63(標準誤差 2)で、通常睡眠時の 68(標準誤差 2)より低い(P < 0.001)。疲労は 53(標準誤差 3)で、通常時の 44(標準誤差 3)より高い。魅力度は 38(標準誤差 2)で、通常時の 40(標準誤差 2)より低い(P < 0.001)。著者らは、人が睡眠に関連した顔の手がかりに敏感であることを示すものだと結論しました。
ここで、第1回で扱った区別を持ち出します。魅力度の差は 100 mm の尺度上で2ポイントです。統計的には有意ですが、これが日常の場面で意味を持つ大きさかどうかは、別の問いです。健康度の5ポイント、疲労の9ポイントに比べても小さい。「寝不足だと美しさが損なわれる」という要約は、この数字からは出てきません。出てくるのは「疲れて見える」です。
何を見て判断しているのか
では、観察者は顔のどこを見ているのか。それを特定した研究が続きます。
Sundelin T, Lekander M, Kecklund G, Van Someren EJ, Olsson A, Axelsson J. Cues of fatigue: effects of sleep deprivation on facial appearance. Sleep. 2013;36(9):1355-1360.
10名(うち女性5名)を、通常睡眠のあとと、5時間睡眠に続く31時間の断眠のあとに撮影し、40名の観察者が10項目の手がかりについて採点しました。断眠後の顔は、まぶたが垂れ、目が赤く、目が腫れ、目の下の暗さが増し、肌が青白く、しわや小じわが増え、口角が下がって見えると評価されました。効果の大きさは 100 mm 尺度で +3±1 mm から +15±1 mm の範囲です(いずれも P < 0.01)。一方、発疹や湿疹、唇の緊張は断眠の影響を受けず、疲労の判断とも関連しませんでした。断眠後は「悲しそう」にも見え、悲しさの評価は疲労の評価と結びついていました。
影響を受けなかった項目のほうが、実は示唆的です。いわゆる「肌荒れ」にあたる項目が動かなかったということは、観察者は皮膚そのものの状態を見て疲労を判断しているのではないということになります。夜更かしをした翌朝に鏡を見て「肌が荒れた」と感じるとき、そこで実際に変化しているのは、肌の状態ではなく顔全体の印象かもしれません。
手がかりの中身に注目してください。目のまわりと口元、つまり筋の緊張と血流で動く部分が中心です。肌の質そのものというより、表情と循環の状態が読み取られている、と解釈するほうが自然です。

評価は、行動にも及ぶ
この効果が社会的な行動にまで及ぶかを調べた研究もあります。
Sundelin T, Lekander M, Sorjonen K, Axelsson J. Negative effects of restricted sleep on facial appearance and social appeal. Royal Society Open Science. 2017;4(5):160918.
25名(女性14名、18歳から47歳)を、2日間の睡眠制限のあとと通常睡眠のあとに撮影し、122名の評価者が「この人と交流したいか」を採点しました。睡眠が足りていない人に対しては、交流したいという回答が低くなりました。魅力度と健康度も低く、眠そうだと評価されています。ただし、信頼できそうかどうかの評価には差がありませんでした。著者らは、自然な範囲の睡眠不足でも顔から読み取られうると結論しています。
追試で、差が消えた
ここからが本題です。同じ研究グループが、標本を大きく増やして行った実験があります。
Holding BC, Sundelin T, Cairns P, Perrett DI, Axelsson J. The effect of sleep deprivation on objective and subjective measures of facial appearance. Journal of Sleep Research. 2019;28(6):e12860.
181名を、一晩の完全断眠か通常睡眠(8〜9時間の就床)にランダムに割り付けました。翌日に顔写真を撮影し、そのうち141名については分光測色計で肌の色を測定。さらに別の63名の評価者が、健康度・蒼白さ・疲労について写真を採点しました。写真は目の開き、口角の曲がり、眼周囲の暗さについてデジタル解析されています。
結果はこうでした。断眠も、本人の眠気の程度も、いずれの顔の変数とも関連しませんでした。同様に、主観的な評価にも群間の差はありませんでした。ただし、肌の黄色みが減ること、目の開きが狭いこと、口角が下を向いていること、眼周囲が暗いことは、いずれも他者による疲労評価の高さを予測しました。そして、これらの特徴を組み合わせても、その人が断眠していたかどうかを正確に分類することはできませんでした。
整理します。「疲れて見える顔の特徴」は確かにあり、それが疲労の評価を動かす。しかし、一晩の断眠がその特徴を作り出すとは限らない。2010年の研究は23名、2019年の研究は181名です。標本が小さい研究は、たまたま大きな差が出たときに発表されやすく、追試で縮むことがよくあります。
ここで起きたことは、心理学や医学の各分野で2010年代に繰り返し観察された形と同じです。小さな標本で目立つ効果が報告され、注目を集め、大きな標本で確かめ直すと縮むか消える。注目すべきなのは、この追試を行ったのが、最初の研究の著者たち自身だという点です。自分の報告を自分で確かめ直し、再現しなかったことを公表する。研究の作法としては、これが正しい形です。
この連載の姿勢としては、後の大きな研究を重く見ます。ただし「睡眠は見た目と無関係だ」と結論するのも行き過ぎです。分かったのは、一晩の断眠で他人に見分けられるほどの変化が出るとは限らないということであり、慢性的な睡眠不足について何かが分かったわけではありません。

機器で測ると、何かは動いている
他者の評価とは別に、皮膚を機器で測った研究群があります。こちらは所見が比較的そろっています。
Léger D, Gauriau C, Etzi C, Ralambondrainy S, Heusèle C, Schnebert S, Dubois A, Gomez-Merino D, Dumas M. “You look sleepy…” The impact of sleep restriction on skin parameters and facial appearance of 24 women. Sleep Medicine. 2022;89:97-103.
普段よく眠れている健康な女性24名(30歳から55歳)に、2晩続けて睡眠を3時間に制限してもらい、前後で皮膚を測りました。角層水分量は低下(p < 0.001)、経表皮水分蒸散量は増加(p < 0.001)、皮膚の伸展性(p = 0.015)と粘性(p < 0.001)は低下しました。pHの平均は 4.8(±0.2)から 4.9±0.4 へ上昇しています(p < 0.001)。顔の写真解析では、明るさと彩度が朝も午後も有意に低下しました。剥離させて数えた単離角質細胞も減り、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒドは増加しています。
より長い制限を調べた研究もあります。
Jang SI, Lee M, Han J, Kim J, Kim AR, An JS, Park JO, Kim BJ, Kim E. A study of skin characteristics with long-term sleep restriction in Korean women in their 40s. Skin Research and Technology. 2020;26(2):193-199.
40代の韓国人女性32名が、1週目は毎晩8時間、2週目は毎晩4時間の睡眠を6晩ずつとりました。睡眠時間はスマートウォッチで監視されています。角層水分量は制限1日目から有意に低下し、その後も下がり続けました。つや、剥離、透明感、弾力、しわも1日目から有意に悪化。きめが悪化したのは4日目からでした。最も強く影響を受けたのは弾力で、標準化係数は -0.320 と報告されています。
ただし第1回の物差しを忘れないでください。これらはすべて機器で測った代理指標です。水分量が下がったこと、伸展性が落ちたことが、他人の目に分かる変化になるかどうかは、この2つの研究からは分かりません。実際、他者評価を測った先の追試では差が出ていないのです。
慢性的な睡眠の質はどうか
実験室での断眠ではなく、日常的な睡眠の質で分けた研究もあります。
Oyetakin-White P, Suggs A, Koo B, Matsui MS, Yarosh D, Cooper KD, Baron ED. Does poor sleep quality affect skin ageing? Clinical and Experimental Dermatology. 2015;40(1):17-22.
健康な女性60名を、睡眠の質が良い群(質問票のスコアが基準以下で睡眠7〜9時間)と悪い群(スコアが基準超で睡眠5時間以下)に分けています。良眠群では内因性の皮膚老化スコアが有意に低く、ベースラインの経表皮水分蒸散量は不良睡眠群で有意に高い値でした。角層をテープで剥がしたあと72時間の時点で、良眠群のバリア回復は不良睡眠群より30%大きいという結果です。人工の太陽光に当てたあとの紅斑の回復も良眠群で良好でした。自分の外見や魅力についての自己評価も良眠群のほうが高くなっています。
この研究は、睡眠と皮膚のあいだに実測可能な関連があることを示しています。ただし、これは群間比較であって介入試験ではありません。睡眠の質が悪い人には、食事・喫煙・ストレス・持病など他の違いも伴いがちで、睡眠だけを取り出した効果とは言い切れません。
睡眠だけが要因ではない
近年の研究は、睡眠の影響を他の環境要因と並べて評価し始めています。クォン(Kwon)らは、健康な韓国人女性40名(24歳から58歳)の前腕を4区画に分け、大気中の粒子状物質の曝露、短期の睡眠不足、その両方、そして対照を比較しました。粒子状物質は経表皮水分蒸散量を 25.59% 増やし(p < 0.01)、粗さを 21.9% 増やし(p < 0.01)、赤みを 13.7% 増やし(p < 0.0001)、弾力を 3.98% 低下させました(p < 0.01)。一方、短期の睡眠不足は弾力をわずかに下げた(1.39%、p < 0.05)だけで、他の指標には影響しませんでした。両方を重ねても、粒子状物質だけの場合より悪化しませんでした。
ストレス一般との比較も古くから行われています。アルテマス(Altemus)らは、面接によるストレス・一晩の断眠・3日間の運動という3つのストレス条件で、皮膚のバリア回復を調べました。面接ストレスと断眠はバリア機能の回復を遅らせた一方、運動ストレスはバリア機能の回復に影響しませんでした。断眠では血中のインターロイキン1βと腫瘍壊死因子αが上昇しています。
| 測っているもの | 睡眠制限で動くか | 注意点 |
|---|---|---|
| 他者による疲労の評価 | 初期研究では動いた。181名の追試では差なし | 標本が大きい追試を重く見る |
| 他者による魅力度の評価 | 初期研究で 100 mm 中2ポイント | 統計的有意と生活上の意味は別 |
| 角層水分量・経表皮水分蒸散量 | 複数の研究で一致して動く | 代理指標。見た目の変化とは限らない |
| 皮膚の弾力 | 動くが、粒子状物質より小さい | 環境要因と並べて評価する必要がある |
| バリア機能の回復 | 遅れるという報告がある | 群間比較が多く、交絡を除けていない |
最後に、外的妥当性について書いておきます。ここで見た研究の大半は、実験室で一晩から数晩、睡眠を大きく削るという設定です。現実の睡眠不足は、そこまで極端ではないかわりに、年単位で続きます。短期の極端な条件で得られた結果を、長期の穏やかな条件に当てはめてよいかどうかは、それ自体が検証を要する問いです。どちらの向きに外れるかも分かりません。
それでも、この回の研究群から言えることはあります。睡眠を削ったときに他人が読み取るのは、肌の質ではなく疲労の表情です。目の開き、口角、眼周囲の暗さ。いずれも休息で戻る類の変化であり、皮膚の構造が変わったという話ではありません。そして、その読み取りが当たるかどうかも、標本を大きくすると怪しくなります。「顔に出る」という言い方は、本人の実感としては正しくても、他人の判別能力としては確かめられていない——この回の到達点は、そこに置くのが妥当だと考えます。
次回予告
第6回は「姿勢と印象——姿勢は見た目を変えるか」を扱います。姿勢が他者の印象を変えるという主張と、姿勢そのものを測ることの難しさ、そして姿勢が「矯正できる」という前提がどこまで検証されているのかを見ていきます。今回と同じく、他者評価と機器測定のずれが論点になります。
この連載の全10回
- 第1回|「肌がきれいになる」は測れるのか——皮膚科学の評価指標
- 第2回|運動と皮膚——血流・バリア機能・皮脂
- 第3回|紫外線と酸化ストレス——屋外運動の功罪
- 第4回|汗は「毒を出す」のか——発汗の生理学と言説の検証
- 第5回|睡眠と見た目——睡眠不足が顔にもたらす実測変化(この記事)
- 第6回|姿勢と印象——姿勢は見た目を変えるか
- 第7回|むくみ——体液の分布と、圧迫・運動の効果
- 第8回|セルライト——何が分かっていて何が分かっていないか
- 第9回|体重が減ると皮膚はどうなるか
- 第10回|総括——美容主張の読み方
出典
- Axelsson J, Sundelin T, Ingre M, Van Someren EJ, Olsson A, Lekander M. Beauty sleep: experimental study on the perceived health and attractiveness of sleep deprived people. BMJ. 2010;341:c6614.
- Sundelin T, Lekander M, Kecklund G, Van Someren EJ, Olsson A, Axelsson J. Cues of fatigue: effects of sleep deprivation on facial appearance. Sleep. 2013;36(9):1355-1360.
- Sundelin T, Lekander M, Sorjonen K, Axelsson J. Negative effects of restricted sleep on facial appearance and social appeal. Royal Society Open Science. 2017;4(5):160918.
- Holding BC, Sundelin T, Cairns P, Perrett DI, Axelsson J. The effect of sleep deprivation on objective and subjective measures of facial appearance. Journal of Sleep Research. 2019;28(6):e12860.
- Léger D, Gauriau C, Etzi C, Ralambondrainy S, Heusèle C, Schnebert S, Dubois A, Gomez-Merino D, Dumas M. “You look sleepy…” The impact of sleep restriction on skin parameters and facial appearance of 24 women. Sleep Medicine. 2022;89:97-103.
- Jang SI, Lee M, Han J, Kim J, Kim AR, An JS, Park JO, Kim BJ, Kim E. A study of skin characteristics with long-term sleep restriction in Korean women in their 40s. Skin Research and Technology. 2020;26(2):193-199.
- Oyetakin-White P, Suggs A, Koo B, Matsui MS, Yarosh D, Cooper KD, Baron ED. Does poor sleep quality affect skin ageing? Clinical and Experimental Dermatology. 2015;40(1):17-22.
- Kwon IJ, Lee EJ, Park JH, Kim JY, Park S, Bae YJ, Hwang S, Na HW, Cha N, Jang G, Kim HJ, Lee HK, Oh SH. Independent and Combined Effects of Particulate Matter and Sleep Deprivation on Human Skin Barrier. Annals of Dermatology. 2025;37(3):131-139.
- Altemus M, Rao B, Dhabhar FS, Ding W, Granstein RD. Stress-induced changes in skin barrier function in healthy women. The Journal of Investigative Dermatology. 2001;117(2):309-317.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。寝つけない・途中で目が覚める・日中の強い眠気が続くといった状態が長く続く場合、いびきや呼吸の停止を指摘されたことがある場合は、睡眠の専門外来や医療機関にご相談ください。皮膚の異常や急な変化、目のまわりの腫れやむくみが続く場合も、自己判断せず皮膚科を受診してください。睡眠薬やサプリメントの使用については、持病の治療中の方は主治医・薬剤師に確認してください。






