HIIT後にお腹は空かないのに甘いものが気になる。その感覚を、空腹感、甘味の強さ、食品への好み、実際の食事量に分けて読む。単回の自転車運動から継続試験、唾液と味覚の探索的研究まで、誰に何が起きたかを確認し、食欲を抑えるためだけに運動強度を上げない選び方を考える。
運動着を着替えたあと、夕食の献立より先にプリンが浮かぶ。お腹はまだ空いていない。それでも甘いものは気になる。「食欲を抑える運動」を探していたなら、少し話が違うと思うかもしれない。
HIIT後の空腹感と甘いものへの好みは、分けて読む必要がある。過体重・肥満の人を対象とした単回の自転車運動試験では、強度の違いによる空腹感や食事量、食品への報酬の有意差はなかった。一方、健康な若い男性のランニング試験では、甘い食品への相対的な選好が高まった。対象の異なる両試験から、18〜39歳の女性のHIIT後の反応を直接予測することはできない。[3][10]
ここでいう報酬とは、食品を好ましく感じたり、欲しいと思ったりする側面である。舌で感じる甘さ、お腹の空き方、何を選びたいか、実際にどれだけ食べるかは、研究でも別々に測られている。[3][4][10] 汗をかいた自分に、食欲まで同じ方向へ動くよう注文する必要はない。

空腹感と「甘いものが欲しい」は別の問いだ
食欲という言葉でひとまとめにすると、測定の違いが見えなくなる。空腹感はお腹の空き具合を本人が評価したもの、食品への好みはどの食品に魅力を感じるか、摂取量は食事で取り込んだエネルギーなどを測ったものだ。さらに、味の試験では甘さの強さ自体を評価する。これらを同じ物差しとして読むと、運動で何が変わったかを取り違える。[3][4][10]
たとえば、甘い食品を塩味の食品より選びたくなる変化と、食事全体の量が増える変化は同義ではない。ランニングの試験が示したのは食品の種類に対する報酬の偏りであり、自転車運動の試験では食品への報酬と昼食の摂取量をそれぞれ確認している。甘いものの棚に目が向いたという経験だけから、食べ過ぎたと判定する読み方はできない。[3][10]
HIITは高強度の運動と休息などを組み合わせる運動であり、研究では中強度で続ける運動と比較されている。ただし、比較の組み方が大切だ。時間だけをそろえたのか、消費エネルギーをそろえたのかによって、強度の違いについて答えられる問いが変わる。今回取り上げる単回試験と継続試験には、消費エネルギーをそろえた比較が含まれる。[2][3]
また、運動直後の反応と、続けたあとの反応をつなげすぎないようにしたい。帰り道の気分を知る研究と、生活の中で食事量が変わるかを知る研究は時間の幅が違う。直後に甘いものが魅力的だったとしても、その感覚が長く続く食事の変化を示したことにはならない。[1][2][10]
汗と塩分の問題は既存記事「HIITの汗は休憩を挟むと塩分も変わる?汗の量と濃度を分けて研究で読む」に譲る。ここでは汗の多さを手掛かりにせず、食べたい感覚と味の選び方を追う。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
単回のHIITで、昼食は減ったのか
Martinsらの無作為化クロスオーバー試験では、過体重・肥満の成人12人が、休息、中強度の連続自転車運動、高強度の間欠的自転車運動、短時間の高強度間欠運動を別の日に経験した。同じ参加者の中で条件を比較する設計であり、別々の人の食欲をそのまま比べる設計ではない。過体重・肥満の成人で得た結果であり、18〜39歳の女性全般への適用には体格や健康状態の違いを考える必要がある。[3]
中強度の連続運動と高強度の間欠運動は消費エネルギーを250 kcalにそろえ、短時間の条件は125 kcalとした。標準化した朝食の1時間後に運動し、朝食の3時間後に自由に食べる昼食を用意している。食事のタイミングまで整えた環境での比較である。[3]
結果は、空腹感、満腹感、昼食のエネルギー摂取量、食品への報酬のいずれにも条件間の有意差がなかった。この小規模試験で確認されたのは、強度を変えても昼食の摂取量に明確な差を見いだせないという結果だ。高強度なら中強度より昼食が減るという期待も、運動した分だけ直後の食事が増えるという予想も支持されていない。[3]
一方、体内のホルモンには変化があった。運動中には休息と比べてインスリンが低く、食欲調節に関わるホルモンであるGLP-1が高かった。活性型グレリンも、中強度と高強度の通常の条件では休息より低かったが、短時間の高強度条件では同じ差がなかった。[3]
ここが読みどころである。ホルモンの値が変わることと、本人が空腹を弱く感じること、食事量が減ることは、この試験ではそろわなかった。「食欲に関係するホルモンが動いた」という説明だけを聞いて、夕食の量まで決まったように受け取るのは早い。[3] 血液の検査値は、帰りの買い物かごの中身そのものではない。
結果の適用範囲はここで整理しておこう。12人という小規模試験の有意差なしは、個人ごとの反応が等しいという証明ではない。標準化した朝食と昼食、運動のタイミングまで含めた条件下での結果である。食事時間のずれた仕事帰りや、日々違う献立で同じ結果が再現されるかは、別に検討する必要がある。[3]
健康な標準体重の若い成人19人を対象にした別の実験でも、低強度、高強度、運動なしを比較し、食品への報酬と、その日の残りの時間に自己申告した総摂取量には有意差がなかった。一方で、決まった食事に対する空腹感などの変化を表す指標には条件差があった。男女を含む若い成人の結果であり、18〜39歳の女性だけに同じ反応が生じるかは、この比較から切り分けられない。[9]
つまり、「食事でどのくらい感覚が変わるか」と「その日に何をどれだけ食べるか」は、ここでも別の結果だった。運動の効果を知りたいときは、食欲が改善したという短い説明で止まらず、何を測った改善なのかを確かめると誤解が減る。[9]
甘さを強く感じることと、甘い食品を選ぶこと
味そのものに近づいたのが、Roqueらの探索的研究である。参加者は36人で、男女が18人ずつ、普段から活動的な人と座りがちな人も18人ずつだった。中強度の連続運動とHIITの前後で、唾液と味の感じ方を評価した。男女混合の結果なので、18〜39歳の女性だけの味覚変化として受け取るには、女性に絞った検証が必要だ。[4]
甘さの評価にはショ糖、苦さの評価にはキニーネの味覚試験紙を使っている。活動的な人では中強度の連続運動後に、座りがちな人ではHIIT後に、甘味の強さの評価が有意に高まった。苦味の強さには変化がなかった。運動ならどんな味も一律に強くなる、という結果ではない。[4]
運動後には唾液の分泌速度が低下し、たんぱく質の濃度は上昇した。唾液のたんぱく質の構成に起きる変化は、運動の種類と普段の活動状況によって異なっていた。舌の上で起きる変化を考える際に、運動強度だけでなく、普段の生活も視野に入れる研究である。[4]
ただし、この甘味評価の上昇を「甘いお菓子をもっと食べたくなった」と言い換えることはできない。測ったのは試験紙で感じた味の強さであり、食品への欲しさや食事量とは異なる。甘さが強く感じられた先で、食品の選び方がどちらへ動くかは、別の測定で確かめる必要がある。[4][10]
そこで対照的に読めるのが、Yamadaらの健康な若い男性14人を対象にした無作為化クロスオーバー試験だ。最大酸素摂取量の70%に相当する強度で30分走る条件と、座って休む条件を比較し、運動の前後にコンピューター上の食品選択課題を行った。男性だけのランニング試験であり、18〜39歳の女性のHIITに同じ変化が起きるかは別の問いになる。[10]
走ったあとは、低脂肪食品に対する高脂肪食品の欲しさや相対的な選好が低下した。一方、塩味の食品に対する甘い食品の、無意識的な欲しさを捉える指標と相対的な選好は高まった。「脂肪の多いものへの欲しさが下がる」と「甘いものへの選好が上がる」が同時に起きたのである。[10]
この課題では、好ましさを意識して答える評価、欲しさを意識して答える評価、無意識的な欲しさの指標、選択の頻度を分けていた。甘い食品への変化は、とくに無意識的な欲しさと相対的な選好に現れた。食品への報酬という言葉の中でも、すべての評価が同じように変わったわけではない。[10]
この試験の要点は、脂肪と甘味という食品の特徴を分けたことで、逆方向の変化が見えたことだ。食品への好みを「食欲が上がったか下がったか」の一本の線で説明すると、この違いを取り落とす。何を欲しいと感じたかまで確かめることに意味がある。[10]
数字で読む運動後の食欲と味
12人:過体重・肥満の人の単回自転車運動試験。空腹感、摂取量、食品への報酬に有意差はなかった。[3]
250 kcalと125 kcal:通常の運動条件と短時間条件で設定した消費エネルギー。自分への運動処方の数字ではない。[3]
36人:唾液と味の探索的研究の参加者数。甘味の変化は活動状況と運動条件で異なった。[4]
14人・30分:若い男性のランニング試験。甘い食品への相対的な選好と脂肪への選好は別方向へ動いた。[10]
12週間:継続運動の無作為化試験の期間。HIITだけに特有の食欲・食品報酬の変化は認められなかった。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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