ウォーキングで腕を組むと、お腹への効果は増すのか。腕振りを止めて消費エネルギーが増えた実験を手がかりに、体の回転、自然な腕振り、大きく振る場合の違いを読む。消費の増加を腹筋の強化やお腹痩せと同一視せず、揺れへの抵抗と崩れた姿勢の立て直しも区別して、日常の歩き方を考える。
散歩の途中で腕を胸の前に組む。腕の動きがなくなっただけで、いつもの道が腹筋の運動の場に変わるのだろうか。腕を振らずに歩いたとき、普通に振るときより消費エネルギーが増えた実験はある。ただし、それはお腹に効く歩き方が見つかったという意味ではない。[12]
若年者と高齢者を対象にした実験では、外から体を支えない条件で腕振りをなくすと、歩行中の正味の代謝パワーが5〜6%増えた。ここで測られたのは歩くために使うエネルギーであり、腹筋の強化や腹部の脂肪の変化とは分けて読む必要がある。若年者と高齢者を含む比較なので、18〜39歳の女性だけに同じ増加率が当てはまるかは、この結果から決められない。[12]
自然な腕振りには、歩行の消費を抑える役割がある。一方、非常に大きく振れば消費は再び増える。腕を止めても、大きく動かしても負担が増えうるのが、この問いの面白いところである。目指す姿勢を決める前に、その増加が何を表すかを見ておきたい。[6]

腕を止めたときの消費増は、腹筋の効果ではない
腕を組んで歩く姿は、胴体を固定しているように見える。「固定するなら腹筋を使うはずだ」と考えたくなる。しかし、全身の消費エネルギーから特定の筋肉の働きへ話を移すには、別の測定が必要である。腕振りをなくした比較実験が答えているのは、同じ歩行速度でも腕の条件でエネルギーの必要量が変わる、という問いである。[12]
この実験では、若年者と高齢者が時速表示ではなく秒速1.3mに設定されたトレッドミル上を歩いた。腕を振る場合と振らない場合に加え、腰のベルトを弾性のあるコードで左右から支える条件も設けた。腕だけを観察したというより、腕振りと左右の安定を組み合わせて、歩く負担の成り立ちを調べた実験である。若年者と高齢者を比べた条件であり、18〜39歳の女性への適用では年齢層の違いを考慮する必要がある。[12]
外から支えないときには、腕振りをなくすと正味の代謝パワーが5〜6%増加した。「正味」とは、ここでは歩行のエネルギー負担を表す測定値の読み方として押さえたい。少なくとも、この割合をそのまま食事のカロリーや日々の体重変化に置き換えることはできない。比較の舞台は、速度と腕の条件をそろえた歩行実験である。[12]
腕を胸の前で組む、腕を体の横で動かさずに保つ、装具で動きを制限する。日常の言葉ではどれも「腕を振らない」だが、同じ姿勢ではない。研究でも、本人が腕振りを抑える条件と受動的に制限される条件を分けた実験がある。「腕を組めば必ずこの割合だけ増える」という使い方は、条件の違いを飛ばしてしまう。[6]
また、消費が増えたことを「効率がよくなった」と呼ぶと話が逆になる。同じ速さで進むのに多くのエネルギーを要したなら、移動に関しては負担が増えたという読み方になる。運動の価値を考えるときも、燃料を余計に使うことと、狙った能力を育てることは区別したい。腕振り研究の数字に腹筋運動の看板を掛けるのは早い。[6][12]
腕振りと消費の関係を自分の散歩に当てはめるときは、まず比較の相手をそろえたい。研究では歩く速度を設定し、腕の条件を変えている。いつもより急いだ帰り道と、ゆっくり歩いた休日を比べて腕の姿勢の効果と呼ぶのは、実験と違う問いになる。息が上がった理由を腕だけに求めず、何を変えて歩いたのかを区別することが、数字を使う前の準備である。[12]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
腕は脚の動きと一緒に、体の回転を調整する
歩行は前進だけでできているわけではない。体を上から見た向きの回転も含まれる。研究で扱う「鉛直軸まわりの角運動量」は、その縦の軸を中心とした回転の勢いに関わる量である。胴体がどれほど大きくねじれたかを示す角度とは別の指標であり、腹筋の筋力を直接表すものでもない。[6][10]
健康な参加者12人を対象にした実験では、秒速1.25mで歩きながら、腕の動きを変えた。通常の腕振り、制限した腕振り、強めた腕振りなどを比べ、エネルギーの負担に加えて鉛直方向の角運動量と床から受ける回転に関わるモーメントを測定した。腕の見た目だけでなく、全身と床との力のやり取りを一緒に見ている。健康な若年者の結果であり、18〜39歳の女性にも同じ大きさの変化が生じるかは別に確かめる必要がある。[6]
全体として、腕振りを大きくするにつれて、これらの回転に関する指標は小さくなった。ただし、最大の腕振り条件は例外だった。普通の腕振りが歩行の回転を調整するという説明は、この種の比較に支えられている。腕が前後に動いているのに、全身の回転を抑える側にも働く。通勤中の腕は、ただの同伴者ではない。[6]
腕と脚の関係は、対象を変えた研究にも現れる。片麻痺のある脳性まひ児11人と、年齢を合わせた通常発達児24人の歩行を比べた研究では、脳性まひ児の脚が生む角運動量は大きかったが、非麻痺側の腕の角運動量増加がそれを補っていた。その結果、全身の角運動量には群間の差がなかった。子どもと脳性まひを対象とした比較であり、18〜39歳の女性の歩き方へそのまま当てはめることはできない。[9]
これは子どもの特定の状態を調べた比較であり、健康な大人に同じ動きを勧めるための試験ではない。それでも、片方の腕の動きだけを見て「振りすぎ」「振り足りない」と決められない理由は伝わる。全身で保たれた結果の裏側に、部位ごとの調整がありうるからである。腕の左右差を直すという話と、全身の回転を調べる話は、同じではない。[9]
子どもの研究では、自分で選んだ速度と速い歩行の両方を測定した。どちらの群でも、歩行速度は全身の角運動量に影響しなかった。これは「速く歩いても負担は同じ」という意味ではない。一定に保たれた指標が角運動量だったのであり、消費エネルギーについての結果とは違う。ある測定値が変わらなかったときも、体の仕事全体が変わらなかったと広げず、その値の名前を残して読む必要がある。[9]
大きく振りすぎると、消費は増える
腕を止めると消費が増える。それなら腕を大きく振るほど楽になるのか。この疑問にも、先ほどの12人の実験が答えている。腕の振幅を段階的に変えると、通常より少し大きい腕振りまで歩行のエネルギー負担は低くなる方向を示したが、通常の腕振りとの差は統計的に有意ではなかった。[6]
ここを「大きく振れば消費が減る」と言い切ることはできない。普通に振った場合と少し強めた場合の差は、統計的に有意ではなかったからである。研究者は、健康な若年者では通常か、やや大きい程度の腕振りが移動のエネルギー効率という点で適していると解釈している。[6]
さらに、最も大きい腕振りでは、移動に必要なエネルギーが増えた。回転を調整する利点だけでは説明できず、腕そのものを動かす負担も考える必要がある。腕の動きは大きいほど善い、あるいは小さいほど省エネという単純な直線ではない。極端な振り方まで強めると、通常の腕振りとは違う仕事を足すことになる。[6]
別の実験では、健康な若年成人15人が通常、保持、積極的な腕振りという条件で歩いた。左右のベルトが同じ速度の歩行と、違う速度の歩行も比較した。積極的に腕を振る条件では、胴体の直線方向と回転方向の速度のばらつきが増え、歩幅や歩くタイミングなどにも変化が生じた。[4]
この結果を「腕を大きく振ると転ぶ」と読み替えるのも行き過ぎである。測定されたのは、実験中の胴体の動きや歩行指標である。大きく振るように意識した途端、脚や胴体の動きも変わる、という点が大切だ。自然な歩行に比べて体全体の調整が変わるので、鏡に映る腕の大きさだけを正解にしない。[4]
また、腕振りの実験には、腕と脚を同じ側で同時に前へ出す条件も含まれていた。通常の腕振りだけを強弱で並べた比較より、調べた動作の幅は広い。普段と異なる連動から少し強めた腕振りへ至る変化と、通常から少し強める変化は、区切って考えたい。大きな範囲で消費が下がる傾向があっても、隣り合う条件の差は、個別の比較結果で判断する必要がある。[6]
このため、家庭で「最も燃える腕の角度」を探す競技にするより、研究が扱った目的を確認する方が役立つ。移動の効率を調べるときは少ないエネルギーで歩けることが評価されるが、消費量だけを増やしたい人は反対の結果に目を向ける。同じ実験でも、目的によって好ましく見える条件は変わる。だからこそ、腹筋の強化を望む問いに、歩行の効率の順位だけで答えることはできない。[6]
数字で読む腕振りと歩行の負担
5〜6%:外から左右に支えない歩行で、腕振りをなくした際の正味の代謝パワーの増加。[12]
秒速1.3m:若年者と高齢者を比べた、腕振りと外部支持の実験で設定された速度。[12]
12人:腕振りの大きさを変え、回転に関する指標とエネルギー負担を測った実験の参加者数。[6]
15人:積極的な腕振りと胴体の動きのばらつきを調べた、健康な若年成人の人数。[4]
11人:通常の腕振りと制限した腕振りで、外から引かれた後の回復を比べた男性の人数。[10]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






