糖質制限中なら糖の少ないお酒を選べばよいのか。ウイスキー、日本酒、ワインを糖の量だけで比べる前に、飲酒後の脂肪酸化とエネルギー消費を測った試験を読む。食事に酒を足す場合と置き換える場合、短時間の反応と体脂肪の変化を分け、晩酌を見直す視点を示す。
夕食の皿を並べ、晩酌のグラスを置く。主食の量には気を配り、飲み物も糖の表示で選んだ。では、お酒も糖が少なければ、からだの中では何も変わらないのだろうか。
答えは、糖の量だけでは判断できない、である。健康な成人が食事とともにアルコールを摂った比較試験では、エネルギー消費が増えていても、脂肪を燃料として使う脂肪酸化は抑えられていた。消費が増えることと、脂肪が多く使われることは同じではない。[2][15]
ただし、飲んだ直後の脂肪酸化低下を「その分が必ず体脂肪になる」と読み替えるのも早い。食事に酒を追加した場合と、ほかの栄養のエネルギーを酒に置き換えた場合では、その後の脂肪収支が違った試験がある。今夜の燃料の使い方と、長く続けたときの蓄積は、時間を分けて考える必要がある。[13]

糖の表示ではアルコールの働きまで見えない
ウイスキー、日本酒、ワインのどれを選ぶか。その問いに向き合うとき、糖の表示を読むこと自体が間違いなのではない。そこにアルコールそのものが使われる影響を重ねて考えたい。食事の糖質だけを減らせば、飲酒に伴う燃料利用の変化まで消える、という関係ではない。[3][12]
閉経後の女性20人を対象にした食後の比較研究は、この点を考える手がかりになる。参加者は糖質の少ない高脂肪食と、糖質の多い高脂肪食を、アルコールあり・なしで摂り、6時間にわたって代謝を調べられた。アルコール量は15gだった。どちらの食事でも、飲酒によって脂肪酸化と糖質の酸化が抑えられた。閉経後の女性での結果を、18〜39歳の女性に同じ反応の大きさとして当てはめることはできない。[12]
つまり、この試験では糖質の少ない食事にしても、アルコールを加えた際の反応は残った。同時に、食後の血液中の中性脂肪は、糖質の少ない食事でも多い食事でもアルコールによって上昇した。糖質の量だけで食後の代謝全体を代表させると、こうした別の指標を取り落とす。[12]
食事が高脂肪食だった点も、この比較の条件である。研究から持ち帰るのは酒の銘柄の順位ではなく、食事の糖質量とアルコールの影響を別々に見る視点である。[12]
既存記事「お酒とダイエット、アルコールが体重に関わる3つの経路と晩酌の見直し方」には体重との広い関係を譲り、ここでは食後に何が燃料として使われるかに絞る。飲酒後の筋肉の回復や、翌日の運動強度も、それぞれ別の問いである。食後の脂肪酸化を測った結果だけで、翌日にどれほど運動できるか、筋肉の回復が進むかまで判断することはできない。[2][15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
「先に使われる」は脂肪が永久に使えない意味ではない
酸化とは、ここでは栄養を燃料として利用する過程を指す。燃料の順番という言い方は便利だが、からだを完全な順番待ちの列に見立てると話が粗くなる。アルコールの摂取で脂肪酸化がどれだけ変わるかは、摂り方、食事、観察する時間によって結果が異なる。[13][16][17]
健康な男性6人を調べた実験では、アルコールを静脈から投与し、その後にブドウ糖も投与した。4時間の観察で脂肪酸化は79%低下し、たんぱく質の酸化も39%低下した。研究者は、アルコールが優先して使われる燃料となり、ほかの燃料の酸化を妨げたと解釈している。男性への静脈投与の結果なので、18〜39歳の女性の晩酌へ低下率をそのまま移すことはできない。[17]
大きな数字だが、これは普通の夕食でグラスを傾けた試験ではない。静脈からアルコールとブドウ糖を投与した条件であり、「晩酌なら誰でも脂肪燃焼が79%落ちる」という見出しにするのは不適切だ。投与方法を外した数字は、別の実験のように見えてしまう。[17]
食事とともに飲んだ研究でも、健康な男性8人の24時間の脂肪酸化は、酒を追加した条件で36%、ほかの食物のエネルギーと置き換えた条件で31%低下した。影響は酒を摂り、代謝していた日中の時間帯に観察された。ここからも、変化を一日中同じ強さで続く現象として描くべきではない。男性の少人数試験であり、18〜39歳の女性に同じ低下率が当てはまるかは、この比較だけでは判断できない。[15]
この試験で追加されたアルコールは平均96g/日で、追加・置き換えとも必要エネルギーの25%に相当する設定だった。これは結果を読むための実験条件であり、飲酒量の目標ではない。数字の大きさを借りるなら、対象の人数と摂取条件も一緒に運ぶ必要がある。[15]
消費の増加と脂肪燃焼の低下は同時に起こる
飲酒後にエネルギー消費が増えるなら、脂肪酸化の低下は気にしなくてよいのか。この疑問には、消費の総量と内訳を分けると答えやすい。先ほどの男性8人の試験では、24時間のエネルギー消費は酒の追加で7%、置き換えで4%増加した。それと同時に脂肪酸化は低下していた。[15]
同じ財布から出ていくお金でも、何に使ったかは別の話である。エネルギーも総量だけでは燃料の内訳が見えない。この試験の結果を「代謝が上がる酒」とだけ紹介すると、脂肪が使われにくくなった側面が抜ける。逆に「脂肪酸化が下がるから消費も落ちる」と説明しても、測定結果と合わない。[15]
正常体重の健康な女性9人、男性10人が参加したランダム化クロスオーバー試験では、同じ人が異なる食事を試した。男女を含む結果であり、18〜39歳の女性だけの反応としては扱えない。食事のエネルギー密度と食物繊維量を似せ、たんぱく質、糖質、脂肪、アルコールのいずれかに富む朝食の後を5時間調べている。食事のエネルギー密度は、食べ物の量に対してどれほどエネルギーがあるかを見る指標である。[2]
アルコールに富む食事では、糖質や脂肪に富む食事と比べて食事誘発性熱産生が27%大きかった。食事誘発性熱産生とは、食後に増えるエネルギー消費のことである。それでも脂肪酸化は強く抑制され、空腹感や満腹感、その後に自由に食べた量には食事間で有意差がなかった。[2]
ここは晩酌の思い込みとずれやすいところだ。燃料として早く使われるものほど満腹になる、という単純な順位は、この試験では支持されなかった。熱が多く生じた結果を、そのまま食べ過ぎを防ぐ効果に置き換えることもできない。[2]
さらに、男性5人、女性6人が試験食の後を15.5時間過ごしたランダム化試験では、アルコールによる熱産生として失われたのは、そのアルコールのエネルギーの平均15%だった。標準偏差は14%で、個人差も大きかった。飲んだ分の大半が特別な熱となって消える、という説明を支える結果ではない。男女混合の小規模な試験なので、18〜39歳の女性の反応の幅まで確定する結果ではない。[3]
同じ試験で「満腹感に有意差がない」とされた点も、読み過ぎないようにしたい。これは、実験した朝食の後に比較した結果である。日常の宴席なら絶対に食事量が増えない、という保証ではない。一方で、アルコールの代謝がほかの燃料より優先されるという説明だけから、満腹になる強さの順位を決めることはできなかった。燃料の利用と食欲は、この試験では別の評価項目として扱われている。[2]
アルコール食は食事のエネルギーの23%をアルコールから摂る設定だった。たんぱく質食は32%、糖質食と脂肪食はそれぞれ65%を該当する栄養から摂っている。これは、栄養の特徴が現れるように構成した比較である。店頭で買った飲み物を単独で比べた実験ではないため、結果をそのまま酒の種類のランキングに並べ替えないようにしたい。[2]
夜間の試験でいう熱産生の15%も、飲んだ人の体脂肪が15%減ったという話ではない。分母は摂取したアルコールのエネルギーであり、測ったのは熱として消費された割合だ。同じ割合の表記でも、脂肪酸化の変化率とは分母も意味も異なる。数字の前にある「何の」を省くと、消費の話がいつの間にか減量の話に化けてしまう。[3]
また、食後の女性の研究で示されたエネルギー消費の増加は、食後30〜60分の反応である。短い時間帯の変化を見つけたことと、長期間にわたって消費が増えることは別だ。ここでも、アルコールによる食後の消費増加と、脂肪・糖質の酸化低下が同時に報告されている。からだの反応を「代謝がよい」という言葉だけで済ませると、この同時進行が見えなくなる。[12]
数字で読む飲酒後の燃料利用
19人:食事の構成を替えて食後5時間を比較したクロスオーバー試験の参加者数である。[2]
27%:アルコール食で大きかった食事誘発性熱産生。脂肪酸化の増加率ではない。[2]
15%:夜間の試験で熱産生として失われたアルコール由来エネルギーの平均割合である。[3]
36%と31%:男性8人の試験で、追加と置き換えにより低下した24時間の脂肪酸化の割合である。[15]
15g:閉経後の女性の食後反応を調べた試験で用いたアルコール量。推奨量を示す数字ではない。[12]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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