スクワットの効果を感じないと、もっと疲れるまで続けたくなる。だが、セット中に立ち上がる速さが落ちることと、筋力や筋肉が育つことは同じではない。減速の程度を変えた比較試験から、回数・疲労・回復の違いを読み、速さだけに頼らず、自宅でも練習を振り返るための見方を考える。
最後の立ち上がりだけ、床から離れるのが遅い。いつものスクワットを終え、脚は少し重いのに、これで何が変わったのかは分からない。記録には回数だけが残り、最後の立ち上がりがずいぶん遅かったことは書いていない。検索窓に「スクワット 効果 感じ ない」と入れたくなるのは、そんな夜かもしれない。
答えの芯は、疲れの強さを効果の採点に使わないことだ。若い男性を対象とした比較試験では、セット中の減速を小さく抑えた群が、より大きく減速するまで続けた群と同程度のスクワット筋力の伸びを得た。少ない反復でも筋力は伸びた。[16] 18〜39歳の女性に同じ結果が当てはまるかは、この男性の試験だけでは判断できない。
ただし、速さは万能の判定器でもない。減速と筋疲労の関係を調べた研究は、速度低下だけに頼ることへ注意を促している。[20] ここで見るのは、誰より速く立つ方法ではなく、同じセットの中で動きがどう変わるかである。今日の疲れと、続けた先の変化を別々に記録するために、速さを手がかりにする。

速度低下は「最初からゆっくり」と意味が違う
研究で扱われる速度低下とは、反復を続ける途中で挙上速度が落ちることである。スクワットでは、重りを持って立ち上がる局面の速さを測り、一定の低下率に達したところでセットを終える方法が使われている。低下率を変えると、同じ重さでも反復回数やセット中の平均速度が変わる。[12] わざとゆっくり立つ練習とは、問いの立て方が異なる。
たとえば、動きを確かめようと初めから慎重に立ち上がった日と、同じように立とうとしているのに終盤だけ遅くなった日は、記録上どちらも「遅い」になりうる。しかし、速度低下を用いた試験が比べるのは、主に後者のようなセット内の変化である。[12][16] 自宅で眺める場合も、ゆっくりだった理由を言葉で添えたい。数字のない観察でも、意図したテンポと途中から生じた減速を混ぜない工夫はできる。
最大筋力の指標として登場する「1回最大挙上重量」は、1回だけ挙げられる最大の重さを指す。速度低下を比較した試験では、その最大重量に対する割合をそろえ、セットの終え方を変えている。[15] 重りが軽い群と重い群を単純に競わせた話ではない。負荷が同程度でも、どこまで反復を続けるかによって練習の中身が違う、という比較なのである。
ここで自宅のスクワットに、研究の低下率をそのまま貼り付ける必要はない。測定装置で得た挙上速度と、鏡越しに感じる「少し遅くなった」は同じ精度の情報ではないからだ。研究では速度計を用いてセットを管理している。[6][16] 目視の観察は、その測定の代用品とするより、次に指導者へ伝える材料として扱うほうが筋が通る。
また、立ち上がりの速度を比べるなら、どんな動作を比べたかが先に要る。前は深くしゃがみ、今回は浅く終えたのに、速くなったことだけを成長と呼ぶのは避けたい。研究の比較は決められたスクワット課題の中で行われている。[12][15] 自分の記録にも「深さを変えた」「重りを持った」と残せば、速さの意味を読み違えにくい。比較の条件を書いておくことが、観察の出発点となる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
回数が多いセットほど、速さも保てるわけではない
筋力トレーニング経験のある男性16人が参加したランダム化クロスオーバー試験では、同じ参加者が速度低下率10%、20%、30%の条件を経験した。バーベルを背負うスクワットを各条件で5セット行い、設定された低下率に達したら、そのセットを終えた。[12] 別々の人の得意不得意だけでなく、条件を変えたときの違いを調べる設計である。18〜39歳女性でも同じ回数と速度の関係になるかは、別に確かめる必要がある。
セット当たりの平均回数は、10%条件で4.2回、20%条件で6.4回、30%条件で7.8回だった。一方、セット中の平均速度は順に毎秒0.66m、0.62m、0.59mとなった。[12] より大きな減速を許せば回数は増えたが、速さを保った反復の割合は下がった。回数の欄が長くなっても、動きの欄には別の変化が起きている。
パワー、つまり単位時間当たりの仕事の大きさに当たる出力も、10%条件の1341Wから、20%条件の1246W、30%条件の1179Wへと低くなった。[12] これは、その日の運動中の出力の違いである。回数を増やした条件が長期的に無意味だと示す数値ではないし、高い出力がそのまま筋肉の成長率になるわけでもない。何を測った数字かを先に押さえたい。
さらに、どの条件でもセットを重ねるにつれて回数は減り、回数の変化には個人差があった。[12] 毎セット同じ回数をこなせなかったからといって、練習の失敗と判定するのは早い。決まった回数で管理する方法と、決まった減速の範囲で管理する方法では、そろえるものが違う。手帳の回数がそろっていることと、各セットの状態がそろっていることは別なのである。
日常の記録に置き換えるなら、「予定の回数を達成した」の隣に、終盤も同じように立てたかを添える形になる。これは研究と同じ速度管理を自宅で再現する指示ではない。回数だけでは見えなかった違いを、次の練習で確かめられる言葉にする提案だ。研究が示す回数と速度のずれを知っておくと、記録の空欄がどこにあるか分かる。[12]
疲れを増やすことと、筋力を伸ばすことは一致しない
若い男性22人を無作為に分けた試験では、スクワットの速度低下を20%まで許す群と40%まで許す群を、8週間比較した。20%群は40%群より反復回数が40%少なかったが、スクワット筋力の伸びは同程度だった。[16] 「より多くこなさなければ同じ成果は得られない」という見方には、少なくともこの条件では反例がある。対象は若い男性であり、18〜39歳女性の筋力や筋肥大にも同じ群間関係が生じるかは未確定である。
反動を使った垂直跳びの高さは、20%群で9.5%、40%群で3.5%向上し、群間差が認められた。一方、太ももの筋肉のうち外側広筋と中間広筋の肥大は、40%群のほうが大きかった。[16] 筋力、跳ぶ能力、筋肉の大きさは、それぞれ異なる変化を示した。「効果があったか」の主語を、先に決める必要がある。
大きな減速まで続ける練習は、筋肥大に寄与しうる一方、力を素早く発揮する能力も同時に伸ばすと期待するのは早い。[15][16] 筋肉の大きさを変えることを望まない読者まで、その変化を成果の中心に据える必要はない。日々の練習で何を確かめたいのかが曖昧なままだと、終わった直後のきつさだけが、いちばん分かりやすい採点役になってしまう。
ただし、別の試験では違う輪郭も見えている。トレーニング経験のある若い男性64人を、速度低下率0%、10%、20%、40%の群に分け、8週間のフルスクワットを行った研究では、筋力、跳躍、短距離走の伸びに群間差はなかった。[15] 18〜39歳女性への適用は未検証であり、男性の試験間でも跳躍の結果は一致していない。
同じ男性64人の試験では、40%群だけで外側広筋の反応が始まるまでの遅延時間が有意に延び、力の出し始めにどれだけ素早く力を増せるかを示す指標も有意に低下した。著者らは、過度の減速は神経筋に負の適応を起こしうるとして、筋力の適応を高め、負の適応を防ぐために中程度の減速を選ぶべきだと結論している。[15]
20%群と40%群では筋肥大が認められたが、群と時間の交互作用は有意ではなかった。[15] 交互作用とは、時間に伴う変化の仕方が群によって違うかを見る比較である。ある群だけで前後差が認められたことと、その群がほかより優れていたことは同義ではない。研究の結果を読むときに、ここを飛ばさないことが大切だ。
男性22人の試験が評価したのは、見た目の印象だけではない。画像検査による筋肉の大きさに加え、筋組織の採取による筋線維の断面積や種類も調べている。両群で平均的な筋線維の断面積と大腿四頭筋全体の体積が増えた一方、個別の筋肉の肥大には違いがあった。[16] 同じ太ももでも、全体を測る結果と部位ごとの結果が並んでいるのである。
このように、変化を確かめるには、何をどう測ったかという具体が伴う。「脚に効いた感じ」が乏しかった夜に、研究で調べた筋力や筋肉の大きさまで変わっていないと決めることはできない。[16] 自分の記録でも、感覚の薄さをそのまま成果の欠如へ置き換えず、次に同じ動作をしたときの比較材料として残しておきたい。
数字で読むスクワットの減速
10%・20%・30%:男性16人の試験で比較された、セットを終える速度低下率である。[12]
4.2回・6.4回・7.8回:同じ試験のセット当たり平均回数。低下率が大きいほど多かった。[12]
40%少ない反復:男性22人の試験の20%低下群。40%低下群と同程度の筋力向上を得た。[16]
9.5%対3.5%:同じ試験の垂直跳びの向上率。20%低下群が大きかった。[16]
8週間:男性64人の比較試験の介入期間。筋力の伸びの群間差は認められなかった。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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