内ももを締めると骨盤底筋も鍛えられるのか。産後女性の筋電図、健康な女性の力測定や超音波、高齢女性の運動試験を比べる。同時に活動することと、筋力や尿もれが改善することの違い、周囲の筋肉の信号が混ざる問題から、ボールを挟む練習をどう位置づけるかを考える。
椅子に座って膝の間のクッションを挟む。内ももには確かに力が入る。それで体の奥まで鍛えたことになるのか。夜の動画に出てくる手軽な動きほど、効いてほしい場所と、実際に力を感じる場所を結びつけたくなる。
答えは、内ももの運動中に骨盤底筋の活動が記録されることはあるが、それだけでは骨盤底筋の筋力改善を示せない、である。産後女性では筋電図上の活動が大きくなった一方、健康な女性の超音波では、股関節の運動を足すと骨盤底筋の収縮に伴う持ち上がりが小さくなった。[1][4]
さらに、内ももの筋肉から出る電気信号を測定器が拾う問題もある。内ももを締めた手応え、骨盤底筋の電気的活動、発揮する力、尿もれの変化は、それぞれ確かめる必要がある別の問いだ。ボールを挟めたことと、骨盤底筋の練習ができたことは別に確かめたい。[2][3][5][8]

内ももを締める動きと骨盤底筋の課題を分ける
ここで扱う内ももの運動は、脚を内側へ寄せようとする股関節の内転である。膝の間にボールを挟む動きは、その課題の一例となる。産後女性を対象とした研究でも、ボールを挟む内転と、自分で抵抗をかける内転が使われた。「インナーマッスル 内もも」と検索したときの動きを、研究ではこうした具体的な課題に置き換えて調べている。[1]
一方、骨盤底筋の運動を調べる研究では、骨盤底筋自体を意識して収縮させる課題と、股関節の筋肉も同時に使う課題を区別する。この区別が大事なのは、内ももを締めることと、骨盤底筋を自分の意思で収縮させることを、同じ動作として扱わないためだ。健康な女性の力測定でも、骨盤底筋だけの収縮と、股関節の内転・外転を組み合わせた収縮を別々に実施している。[5]
「奥に効いた感じ」は、本人にとって大切な感覚である。ただし、その感覚を測定結果と同じ意味にしない。筋電図は電気的活動を、力を測る装置は力の発揮を、超音波は動きを評価する。同じ体の働きを見ていても、問いかけている内容が違う。それぞれの研究結果を読み比べる際には、最初に何を測ったのかを確認したい。[1][4][5]
既存の「骨盤底筋トレーニング——効くこと、足しても変わらなかったこと」にはトレーニング全体の問いを譲る。この記事で絞るのは、内ももを締めた瞬間に見える反応を、どこまで骨盤底筋への効果として読めるかである。スクワットの深さや体幹への負荷とも分け、脚を寄せる動作と骨盤底筋の測定との関係に焦点を当てる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
産後の筋電図では、組み合わせた課題の活動が大きかった
出産後まもない経腟分娩経験のある母親21人を対象とした比較研究では、骨盤底筋を収縮させる運動、上体を丸める腹筋運動、お腹を引き込む運動、股関節の内転運動などを実施した。各試行は5秒で、骨盤底筋の活動を表面筋電図で測っている。長い期間続けた後の変化ではなく、それぞれの課題を行っている最中の比較だ。[1]
腹部、股関節の内転筋、骨盤底筋の収縮を組み合わせた課題では、ほかの課題より骨盤底筋の活動が有意に大きかった。内転運動と組み合わせ課題を比べた範囲では、骨盤底筋だけを収縮させる課題の活動が最も小さかった。著者らは、腹部や内転筋の運動を骨盤底筋運動の補助として推奨し、組み合わせ課題が活動を引き出すうえで最も有効だったとしている。[1]
この結果は、内ももを使うことを一律に無意味とする見方とは合わない。少なくとも、この産後女性の集団と測定条件では、内転運動を含む課題で大きな信号が記録された。骨盤底筋だけを意識する課題より、ほかの筋肉も使う課題のほうが活動を引き出しやすい可能性を考える材料となる。[1]
ただし、活動の大きさと、運動を続けて身につく能力は分けて読む必要がある。5秒の課題で電気的活動が大きかったという結果を、そのまま「毎日挟めば尿もれが改善する」「骨盤底筋の持久力が伸びる」と読み替えることはできない。この研究の結論を日常に持ち帰るなら、内ももの運動には補助として検討する余地がある、という位置づけになる。[1]
また、組み合わせ課題は、内ももだけを締める課題ではない。腹部も骨盤底筋も収縮させている。動画で膝にボールを挟む部分だけをまねても、研究で最も活動が大きかった課題を再現したことにはならない。「組み合わせたときの結果」を「その中の動作だけの結果」に縮めないことが、運動の説明を読む際の注意点である。[1]
電気信号が大きい理由には、周囲からの混入もある
筋電図の数字を読むときに避けて通れないのが、クロストークである。測りたい筋肉以外からの電気信号が混ざる問題を指す。骨盤底筋の近くで測定した数字が上がっても、骨盤底筋だけがその分強く活動したと決められない。内ももの運動は、まさにこの問題を調べるためにも使われてきた。[2]
出産経験がなく、尿禁制が保たれた女性20人を調べた研究では、骨盤底筋の筋電図を測る異なるプローブを比較した。参加者は股関節の内転や外旋を、最大努力の25%、50%、100%で行い、骨盤底筋を休ませる条件と、できるだけ強く収縮させる条件を実施した。内ももの力の程度と、測る装置の両方を変えている点が特徴だ。[2]
多くの場合、25%と50%の課題では、通常の比較用プローブで活動の上昇が記録された一方、吸引式の差動電極では同様の上昇が見られなかった。著者らは、この強度では吸引式電極のほうが周囲の筋肉からの信号の混入を受けにくいと判断した。装置によって見える活動が違うという結果は、信号の大きさだけで説明を終えられないことを示す。[2]
最大努力の課題では、両方のプローブで活動が上昇した。しかし、この上昇が信号の混入によるのか、骨盤底筋も一緒に活動したためなのかは区別できなかった。強く締めたら数字が増えた、だから確実に奥の筋肉を動員できた、という説明はここで立ち止まる。力いっぱい挟むほど測定の解釈が明快になるわけではない。[2]
別の16人のボランティアを対象とした測定比較でも、内転筋だけを収縮させたときに、骨盤底筋由来ではない測定値の上昇が起きた。内転課題では筋電図で11人中6人、圧の測定で11人中2人にそうした反応があった。著者らは、筋電図と圧の測定が骨盤底筋の活動だけを選んで表すものではないと結論している。[8]
これは、産後女性の研究結果を丸ごと消す話ではない。活動が大きくなった研究と、測定への混入を調べた研究は、対象も装置も目的も異なる。並べて読むことで、「補助運動として可能性がある」という評価と、「信号を骨盤底筋だけの働きと断定しない」という注意を両立できる。肯定と否定の札をどちらかに貼るより、測り方を確かめるほうが役に立つ。[1][2][8]
測定法を比較した研究では、指による触診、腟内の筋電図、圧の測定、会陰部の超音波という異なる方法を用いている。参加者が行ったのも内転だけではなく、腹部やお尻の筋肉の収縮、骨盤底筋を伴う場合と伴わない場合の課題だった。狙った筋肉以外を動かしたとき、測定器がどう反応するかを確かめる設計である。単に運動前後の数字を比べるだけでは見えにくい問題を、課題を分けて調べている。[8]
生活の場面に置き換えるなら、クッションを挟んだときに内もも、お腹、お尻のどこにも力が入った感覚があっても、それだけで骨盤底筋の働きの割合までは決められない。研究でも、周囲の筋肉を収縮させる条件を分け、骨盤底筋由来ではない反応を確かめている。自宅での手応えを研究の測定値へ置き換える前に、この区別を残しておきたい。[8]
プローブの比較研究が最大努力だけでなく、力を抑えた課題も用いたのも読みどころだ。力の程度によって、装置間の違いの見え方が変わった。運動名が同じ「股関節の内転」でも、どの程度の力で、骨盤底筋を休ませるのか収縮させるのかによって、測定の条件は変わる。種目名が一致するだけで、別の研究の数字をそのまま重ねないことが必要となる。[2]
数字で読む内ももと骨盤底筋
21人:産後女性の比較研究。組み合わせ課題で筋電図上の活動が最大だった。[1]
5秒:その研究の各試行の長さ。継続後の筋力改善率を表す数字ではない。[1]
20人:プローブによる信号の混入を比較した、出産経験のない女性の人数。[2]
11人中6人:内転筋だけの課題で、骨盤底筋由来ではない筋電図の上昇が生じた人数。[8]
19人:下肢の位置と股関節周囲筋の同時収縮を、超音波で比較した健康な女性の人数。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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