連載「老化と運動」全10回の第6回です。
年齢を重ねると、はっきりした感染がないのに、血液中の炎症の指標がじわじわと高くなっていきます。この現象は2000年に「インフラメイジング(inflammaging)」と名づけられ、いまでは加齢生物学の中心的な話題のひとつになりました。炎症は本来、傷や感染に対する体の修復反応です。それが低い水準で長く続くとき、何が起きているのか——この回のテーマです。
結論から書きます。加齢に伴う軽度の炎症が、病気や障害のリスクと関連することは繰り返し確認されています。しかし、それが加齢の原因なのか結果なのかは決着していません。運動によって炎症の指標は下がりますが、効果量は小さく、指標の測定そのものが日によって大きくぶれます。
第5回で見たテロメアとは対照的に、炎症マーカーは運動でわりに素直に動きます。だからこそ、この回では別の問いが立ちます——指標が下がったことを、どこまで健康の改善と読んでよいのか。ヨガと免疫・炎症の関係については別の記事にまとめてあるので、ここでは加齢生物学の側から見ていきます。

インフラメイジングとは何か
Ferrucci L, Fabbri E. Inflammageing: chronic inflammation in ageing, cardiovascular disease, and frailty. Nature Reviews Cardiology. 2018;15(9):505-522.
この総説は、多くの高齢者が血中の炎症指標の上昇を示し、その状態が慢性疾患・障害・虚弱・早期死亡への高い感受性を伴うと述べています。想定されている機序は多岐にわたります——遺伝的な素因、腹部の脂肪蓄積、腸管の透過性の亢進、腸内細菌叢の変化、細胞老化、NLRP3インフラマソームの活性化、機能不全のミトコンドリアによる酸化ストレス、免疫細胞の調節不全、慢性の感染。
ここで著者らが慎重に書き分けている点が重要です。インフラメイジングは心血管疾患の危険因子であり、臨床試験からはこの関連が因果的であることが示唆される。しかし、心血管疾患以外の健康問題について、炎症を抑えることが臨床経過を改善するかどうかは議論がある——そう明記されています。虚弱や多疾患併存との関連は機序研究に支持されているが、ヒトでの確認が必要だ、とも述べています。
原因なのか、結果なのか
この問いに正面から答えた文書があります。米国国立衛生研究所で開かれた会議の報告です。
Franceschi C, Campisi J. Chronic inflammation (inflammaging) and its potential contribution to age-associated diseases. The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences. 2014;69 Suppl 1:S4-9.
著者らは、インフラメイジングが高齢者の罹患率と死亡率にとって極めて重要な危険因子であり、加齢に関連する疾患のほとんどが炎症性の病態を共有していることを確認したうえで、こう書いています——インフラメイジングの正確な成因と、健康への悪影響に寄与する潜在的な因果的役割は、大部分が未知のままである。会議の目的自体が、この答えの出ていない問いを定義することにあったと述べられています。
10年以上前の文書ですが、この構図は基本的に変わっていません。炎症が上がるから体が弱るのか、体のどこかが弱るから炎症が上がるのか。おそらく両方が同時に起きて互いを強め合っているのですが、「両方だ」という答えは、介入の設計には役立ちません。炎症を下げる介入が転帰を変えるかどうかは、下げてみて転帰を測るしかありません。
もうひとつ、見落とされがちな前提があります。炎症そのものは悪者ではありません。傷を治し、感染を抑え、古くなった細胞を片づけるために必要な反応です。だから「炎症の指標を下げれば下げるほどよい」という発想には、はじめから無理があります。フェルッチ(Ferrucci)らの総説が挙げていた機序の一覧にも、細胞老化や腸内環境の変化といった、単に反応を抑えれば解決するわけではない要素が並んでいます。問われているのは水準の高低ではなく、必要のないときに反応が続いていることのほうです。この区別は、指標の数値だけを見ていると失われます。

どのマーカーが、どれだけ上がっているのか
「炎症マーカー」と一括りにされがちですが、実際には指標ごとに挙動が違います。
Tylutka A, Walas Ł, Zembron-Lacny A. Level of IL-6, TNF, and IL-1β and age-related diseases: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Immunology. 2024;15:1330386.
疾患を持つ高齢者8,154名と、疾患のない対照33,967名を比較した統合です。IL-6は疾患群で有意に高く(標準化平均差 0.16、95%信頼区間 0.12〜0.19、p < 0.001)、研究間のばらつきは大きなものでした(I2 = 79.2%)。ところがTNFは疾患群のほうがむしろ低く、差は統計的に有意ではありませんでした(標準化平均差 -0.03、-0.09〜0.02、p = 0.533)。IL-1βも対照群のほうが高い結果でした(-0.29、-0.47〜-0.12、p = 0.001)。著者らの結論は、IL-6は末梢の炎症の指標として有用で扱いやすいが、TNFとIL-1βはそうではないというものです。
集団を扱う疫学研究でも同じ傾向が指摘されてきました。シン(Singh)とニューマン(Newman)は、高齢者を対象とした主要な疫学研究を概観し、加齢に伴う中等度の上昇に対して明確に定まった危険因子は少なく、内臓脂肪、性ステロイドホルモンの低下、喫煙、うつ、歯周病が挙げられると整理しています。そして、測定された指標のなかではIL-6が疾患の発症・障害・死亡と最も頑健に関連すると述べています。
同じ人を2回測ると、値が変わる
ここからが、この指標を読むときの最大の注意点です。
Gough A, Sitch A, Ferris E, Marshall T. Within-subject variation of C-reactive protein and high-sensitivity C-reactive protein: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE. 2024;19(11):e0304961.
同一個人で繰り返し測定したデータを集めた統合です。条件を満たした60件のうち、CRPを報告したのが34件、高感度CRPを報告したのが26件でした。CRPの個人内変動係数の中央値は0.41(範囲 0.11〜0.89)、級内相関係数の統合値は0.55(95%信頼区間 0.35〜0.74)。高感度CRPでは変動係数の中央値が0.44(0.27〜0.76)、級内相関係数が0.62(0.58〜0.67)でした。著者らは、個人内の変動は両方の指標で大きいと結論しています。
変動係数0.41とは、おおまかに言えば、同じ人の値が平均の前後4割ほどの幅で動くということです。介入によって指標が2割下がったという報告があったとして、その変化が本人の状態の変化なのか、測定の時期の違いなのかを、1回ずつの採血で区別することはできません。
この大きさは、臨床の場面でも意味を持ちます。同じ人が同じ月に2回採血して、片方だけが基準値を超えるということが普通に起こるからです。だからこそ、研究では複数回の測定の平均をとったり、開始前と終了後で測定条件をそろえたりする工夫が必要になります。個人が自分の数値を追いかける場面では、この工夫がほとんど利きません。
時刻の影響も無視できません。ニルソン(Nilsonne)らは、24時間以内に2回以上血中IL-6を測定した研究を集め、43件・56のデータセット・合計1,100名を統合しました。その結果、IL-6は日内で変動しており、最も目立つのは朝方の落ち込みだったと報告しています。以前の報告では夕方か夜間にピークがあるとされていましたが、統合の結果はこれと食い違いました。著者らは、時刻による交絡を避けるために日内変動を考慮すべきだと述べています。研究を比べるときは、採血の時刻が揃っているかを見る必要があります。
| 読むときの確認点 | なぜ必要か |
|---|---|
| どのマーカーか | IL-6・CRP・TNF-αで挙動が違う。TNFは加齢で上がらない報告もある |
| 採血の時刻と回数 | IL-6には日内変動がある。1回の採血では個人内の変動を分離できない |
| 体組成の変化を伴うか | 内臓脂肪の減少が指標の低下を説明している可能性がある |
| 対象者の健康状態 | 健康な高齢者と、疾患を持つ高齢者では効果の出方が違う |
| 転帰が測られているか | 指標の低下と、機能・入院・死亡の変化は別の測定 |

運動で炎症の指標は下がるのか
そのうえで、介入の結果を見ていきます。
Khalafi M, Akbari A, Symonds ME, et al. Influence of different modes of exercise training on inflammatory markers in older adults with and without chronic diseases: A systematic review and meta-analysis. Cytokine. 2023;169:156303.
平均年齢65歳以上を対象とした40件の研究・49の比較・合計1,898名を統合したところ、運動はIL-6を標準化平均差 -0.17(95%信頼区間 -0.32〜-0.02、p = 0.02)、TNF-αを -0.30(-0.46〜-0.13、p = 0.001)、CRPを -0.45(-0.61〜-0.29、p = 0.001)低下させました。著者らは、運動の種類にかかわらず小さいから中程度の効果であり、とくに慢性疾患を持つ高齢者で顕著だったとまとめています。
筋力トレーニングに絞った統合も見ておきます。
Sardeli AV, Tomeleri CM, Cyrino ES, et al. Effect of resistance training on inflammatory markers of older adults: A meta-analysis. Experimental Gerontology. 2018;111:188-196.
50歳を超える成人を対象とした無作為化比較試験を統合すると、筋力トレーニングはCRPを下げ(標準化平均差 -0.61、95%信頼区間 -0.83〜-0.31、p < 0.001)、IL-6は下がる傾向にとどまり(-0.19、-0.42〜0.02、p = 0.07)、TNF-αは変化しませんでした。探索的な部分集団の解析では、CRPとTNF-αの低下がいずれも筋量の増加と関連している可能性が示され、低下が見られたのは種目数が8を超え、週3回の頻度で、12週間より長い試験に限られていました。
ここに、この回の核心のひとつがあります。炎症の指標が下がったのは、炎症そのものに直接効いたからなのか、それとも筋量が増え、内臓脂肪が減った結果なのか。先に見たとおり内臓脂肪は炎症の主要な発生源のひとつですから、後者である可能性は十分にあります。もしそうなら、「運動の抗炎症作用」という言い方は、機序の説明としては先走りです。
この解釈上の分かれ道は、実務にも関わります。もし炎症の低下が体組成の変化を通じて起きているのなら、狙うべきは「抗炎症作用のある運動」ではなく、筋量と内臓脂肪が動くだけの量と期間の運動だということになります。サルデリ(Sardeli)らの結果が、種目数・頻度・期間の閾値を超えた試験でしか低下を示さなかったことも、この読み方と整合します。短期間・低容量の介入で指標が動かなかったという報告は、運動が効かない証拠ではなく、指標を動かすだけの刺激が足りなかった可能性を含みます。
最も必要な人たちでは、どうなのか
炎症を下げることに意味があるとすれば、それが最も期待されるのは虚弱な高齢者です。ところが、この層のデータは手薄です。バーン(Byrne)らは、虚弱やサルコペニアの改善を目的とした介入試験のうち、炎症・免疫の指標を測っていたものを集めました。3,051件を走査して系統的レビューに16件、統合に11件が残っています。統合では、CRP(標準化平均差 -0.28、p = 0.05)とIL-6(-0.28、p = 0.05)で介入群に有利な効果が見られましたが、TNF-αでは見られませんでした(-0.12、p = 0.48)。
個々の試験に目を移すと、様相はもっと不揃いです。16件のうち10件で3つの指標のいずれかが低下していましたが、複数の指標が同時に下がったと報告したのは13件中3件だけでした。著者らは、これらの研究がそもそも炎症の指標を主要評価項目として設計されていないという質の問題を指摘し、どれか1つの指標が他より優れているとは結論できないと述べています。
指標が下がることと、健康になること
ここまでを整理します。加齢とともに炎症の指標が上がること、その上昇が悪い転帰と関連すること、運動によって指標が小さいながら下がること——ここまでは一貫しています。欠けているのは最後の輪です。運動によって炎症の指標が下がった人は、下がらなかった人より長生きするのか。障害を避けられるのか。この問いに答えるには、指標の変化と転帰の変化を同じ集団で追う必要がありますが、そうした設計の研究はほとんどありません。
この穴を埋めないまま、炎症マーカーを「健康の通知表」として使う商品やサービスが出てきています。第1回で述べた代理指標の問題が、ここでも同じ形で現れます。加えて、炎症の指標には測定のばらつきという別の弱点があります。1回の採血で出た数値が高いか低いかで何かを判断することは、この指標の性質からして無理があります。
それでも、運動を勧める理由は減りません。炎症の指標を経由しなくても、運動が筋力・歩行・心肺機能・自立して過ごせる期間に働きかけることは、これまでの回で見てきたとおりです。機序の説明が完成していないことと、やる意味がないことは別です。説明のほうを急いで埋めようとすると、かえって根拠のない主張を招き入れることになります。
次回予告
第7回は「骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か」を扱います。骨密度は運動で変わりますが、その変わり方には部位の偏りがあり、幅も小さいものです。関節では、構造の変化が戻らない一方で、症状と機能は運動で改善しうる——この「構造と症状の乖離」が主役になります。
この連載の全10回
- 第1回|老化とは何か——生物学的年齢という考え方
- 第2回|有酸素能力の低下——運動で取り戻せる幅
- 第3回|筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序
- 第4回|ミトコンドリアと運動
- 第5回|テロメアと運動——期待と実測のずれ
- 第6回|慢性微小炎症——インフラメイジング(この記事)
- 第7回|骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か
- 第8回|脳の加齢と運動——認知機能はどこまで守れるか
- 第9回|運動量と死亡率——用量反応の疫学
- 第10回|総括——「アンチエイジング」の主張をどう読むか
出典
- Ferrucci L, Fabbri E. Inflammageing: chronic inflammation in ageing, cardiovascular disease, and frailty. Nature Reviews Cardiology. 2018;15(9):505-522.
- Franceschi C, Campisi J. Chronic inflammation (inflammaging) and its potential contribution to age-associated diseases. The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences. 2014;69 Suppl 1:S4-9.
- Tylutka A, Walas Ł, Zembron-Lacny A. Level of IL-6, TNF, and IL-1β and age-related diseases: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Immunology. 2024;15:1330386.
- Singh T, Newman AB. Inflammatory markers in population studies of aging. Ageing Research Reviews. 2011;10(3):319-329.
- Gough A, Sitch A, Ferris E, Marshall T. Within-subject variation of C-reactive protein and high-sensitivity C-reactive protein: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE. 2024;19(11):e0304961.
- Nilsonne G, Lekander M, Åkerstedt T, Axelsson J, Ingre M. Diurnal Variation of Circulating Interleukin-6 in Humans: A Meta-Analysis. PLoS ONE. 2016;11(11):e0165799.
- Khalafi M, Akbari A, Symonds ME, et al. Influence of different modes of exercise training on inflammatory markers in older adults with and without chronic diseases: A systematic review and meta-analysis. Cytokine. 2023;169:156303.
- Sardeli AV, Tomeleri CM, Cyrino ES, et al. Effect of resistance training on inflammatory markers of older adults: A meta-analysis. Experimental Gerontology. 2018;111:188-196.
- Byrne T, Cooke J, Bambrick P, McNeela E, Harrison M. Circulating inflammatory biomarker responses in intervention trials in frail and sarcopenic older adults: A systematic review and meta-analysis. Experimental Gerontology. 2023;177:112199.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。CRPやIL-6などの炎症の指標は、単独で健康状態や老化の進み方を判定できるものではなく、発熱・関節の腫れ・急な体重減少などの症状がある場合は自己判断せず医療機関にご相談ください。持病のある方、薬を服用中の方、高齢の方が新しい運動を始めるときは、開始前に主治医に相談してください。






