連載「老化と運動」全10回の第3回です。
年をとると筋肉が減る。この事実そのものを疑う人はいません。しかし「なぜ減るのか」と問うと、答えは一つに定まりません。動かなくなるからだ、という説明が最もよく聞かれますが、それだけでは説明できない現象がいくつもあります。生涯にわたって運動を続けてきた人でも筋量は減りますし、減り方には筋線維の種類による偏りがあります。
結論から書きます。加齢による筋の減少は、運動不足の結果としてだけでは説明できません。筋を動かす神経の側が先に失われ、その一部しか埋め合わせられないこと、タンパク質を作れという合図への反応が鈍ること、そして活動量が落ちることが、互いを強め合いながら進みます。そして、この3つを実際の人間で切り分けることは、いまでも難しいままです。
この回は機序に絞ります。筋力トレーニングとタンパク質摂取で何がどれだけ変わるかという実務の話は、別の記事にまとめてあります。ここでは、その介入が何に働きかけているのかを見ていきます。

何が、どれだけ減るのか
ウィルキンソン(Wilkinson)らの総説は、筋量の減少が中年期からすでに始まり、年あたりおよそ1%の速さで進むこと、重度の場合には80代から90代までに約50%が失われうることを整理しています。この減少は2つの現象からできています。1本1本の筋線維が細くなること(萎縮)と、筋線維の本数そのものが減ること(減数)です。前者はタンパク質の合成と分解の収支の問題であり、後者はその線維を支配していた神経が失われた結果です。
興味深いのは、健康な加齢では安静時のタンパク質合成と分解の速さ自体はあまり変わらないという点です。つまり、常に削られ続けているわけではありません。変わっているのは、食事と運動という日々の合図に対する反応のほうです。この「反応の鈍り」を同化抵抗性(anabolic resistance)と呼びます。
もうひとつ、量と力は同じ速さでは落ちないことも押さえておきます。筋の断面積あたりの力——筋の質にあたる部分——も加齢とともに落ちるため、筋力の低下は筋量の低下より速く進みます。したがって、体組成計が示す筋量の数値だけを追っていると、実際に起きている機能の低下を過小に見積もることになります。日常生活で困るのは量ではなく力と速さであり、とくに素早く力を立ち上げる能力の低下が、転倒との関係で問題になります。
運動単位の脱落と、埋め合わせとしての再支配
1個の運動神経細胞と、それが支配する筋線維の集まりを運動単位と呼びます。加齢の筋を語るうえで、この単位が主役です。
Larsson L, Degens H, Li M, et al. Sarcopenia: Aging-Related Loss of Muscle Mass and Function. Physiological Reviews. 2019;99(1):427-511.
この総説は、加齢による筋量の減少が主に運動神経細胞の進行性の脱落によるものであり、それが筋線維の数と大きさの減少として現れると述べています。そして、筋の機能が進行性に低下するのは、神経細胞の脱落が、残った神経による再支配では十分に埋め合わされないからだと整理しています。神経が失われた筋線維は、近くに生き残っている神経が枝を伸ばして拾い上げることがあります。拾われた線維は生き延びますが、拾われなかった線維は失われます。
この埋め合わせがどこまで働いているかを、人で測った研究があります。
Piasecki M, Ireland A, Piasecki J, et al. Failure to expand the motor unit size to compensate for declining motor unit numbers distinguishes sarcopenic from non-sarcopenic older men. The Journal of Physiology. 2018;596(9):1627-1637.
若年48名、サルコペニアでない高齢13名、前サルコペニア53名、サルコペニア29名の男性を比較しています。運動単位の数は、高齢の3群すべてで若年より少なくなっていました(いずれも P < 0.001)。一方、運動単位の電位の大きさ——1つの神経がどれだけ多くの線維を抱えているかの目安——は、サルコペニアでない高齢者と前サルコペニアの高齢者では若年より大きく(それぞれ P = 0.039、P = 0.001)、サルコペニアと判定された高齢者では大きくなっていませんでした(P = 0.485)。著者らは、再支配による運動単位の拡大が比較的早い時期に起き、筋量の減少に先行すること、そしてその拡大に失敗することがサルコペニアを分けているのではないかと述べています。

診断がつく前から始まっている
より大規模に、神経筋接合部まで含めて調べた研究があります。
Sarto F, Franchi MV, McPhee JS, et al. Neuromuscular impairment at different stages of human sarcopenia. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2024;15(5):1797-1810.
若年42名(25.98±4.6歳)と高齢88名(75.9±4.7歳)を対象に、高齢者をサルコペニアでない39名、前サルコペニア31名、サルコペニア18名に分けました。筋力、筋の断面積、四肢の除脂肪量は段階に沿って低下していました(いずれも P < 0.0001)。神経筋接合部での伝達の不安定さを示す指標は、高齢の3群すべてで若年より高く(若年対サルコペニアでない群およびサルコペニア群 P < 0.0001、若年対前サルコペニア群 P = 0.0169)、運動単位数の推定値も高齢の3群すべてで低い値でした(P < 0.0001)。脱神経を示す線維の割合と、軸索の損傷を示す血中の指標も高齢群で上昇していました。
著者らが強調するのは次の点です——これらの神経筋系の変化の多くは、サルコペニアと診断された高齢者とそうでない高齢者のあいだで差がなかった。つまり、変化は診断に先行して起きています。筋量が減って初めて何かが始まるのではなく、神経の側の変化はずっと前から進んでいるということです。
なぜタイプII線維から縮むのか
筋線維には、速く強く縮むが疲れやすいタイプIIと、遅いが疲れにくいタイプIがあります。加齢で選択的に縮むのはタイプIIのほうです。デシェネス(Deschenes)の総説は、筋量の減少が50歳ごろから始まり、60歳を超えるとより急になること、その主因は筋線維の数の減少であり、とくにタイプII線維の萎縮がそこに加わることを整理しています。
これは神経の側の話と一貫しています。タイプII線維を支配しているのは大型の運動神経細胞であり、加齢で失われやすいのもこの大型の細胞です。神経を失ったタイプII線維が、遅い性質の神経に拾われて再支配されると、その線維はタイプI寄りの性質に変わります。高齢者の筋で、同じ種類の線維がまとまって並ぶ「線維型のグループ化」が観察されるのは、この過程の痕跡です。タイプII線維の減少は、単なる使わなさの結果ではなく、神経の再配線の結果でもあります。
この見方は、日常生活との対応も説明します。タイプII線維が担っているのは、とっさに踏み出す、椅子から勢いよく立ち上がる、つまずいたときに姿勢を立て直すといった、短時間に大きな力を出す動作です。ゆっくり歩けるのに転びやすい、という状態は、タイプI線維が比較的保たれたままタイプII線維が細くなっていることの現れと考えると理解しやすくなります。だから、有酸素運動だけでは埋まらない部分が残ります。ただし、この対応関係は筋生検の所見と動作の観察を結びつけた解釈であり、一人ひとりの転倒の原因を線維の型から説明できるという意味ではありません。

同化抵抗性——合図が届きにくくなる
Damanti S, Senini E, De Lorenzo R, et al. Molecular constraints of sarcopenia in the ageing muscle. Frontiers in Aging. 2025;6:1588014.
この総説は、同化抵抗性を加齢した筋の特徴のひとつとして挙げ、筋タンパク質の合成を十分に刺激するために必要な食事タンパク質とアミノ酸の量が上がっている状態だと定義しています。ウィルキンソン(Wilkinson)らが整理したとおり、安静・空腹時の代謝回転そのものが大きく変わっている証拠は限られています。変わっているのは反応の閾値のほうです。だからこそ、1日の摂取量を1食に偏らせないこと、そして運動と組み合わせることが提案されています。
同じ総説は、同化抵抗性を単独の現象として扱っていません。加齢した筋では、成長ホルモン・テストステロン・IGF-1といった同化を促すホルモンの水準が下がり、遺伝子発現は異化・炎症・線維化の方向へ傾き、ミトコンドリアの機能障害とタンパク質恒常性の破綻がエネルギーの供給と再生能力を制限します。さらに、加齢や慢性疾患に伴う食欲低下がタンパク質の摂取量を減らし、活動量の低下が廃用性の萎縮を加えます。分子レベルの制約と、栄養・活動という生活側の要因が、互いを強め合う輪になっているというのがこの総説の見立てです。
ただし、この現象がどこまで普遍的かには議論があります。
Shad BJ, Thompson JL, Breen L. Does the muscle protein synthetic response to exercise and amino acid-based nutrition diminish with advancing age? A systematic review. American Journal of Physiology. Endocrinology and Metabolism. 2016;311(5):E803-E817.
若年と高齢を直接比較した研究を集めたところ、運動のみでは17の比較のうち8つ、アミノ酸ベースの栄養のみでは21のうち8つで、加齢による同化抵抗性の証拠が十分と判定されました。ところが運動と栄養を組み合わせた条件では、10の比較のうち2つにとどまりました。著者らは、運動量とアミノ酸・タンパク質の量、そしてロイシン含量が一定の閾値を超えれば、若年と高齢で同等の合成反応が得られる、と結論しています。同化抵抗性は「もう反応しない」ではなく、「反応するのに必要な量が上がっている」という意味です。
修復を担う細胞も減る
筋線維の外側には、衛星細胞と呼ばれる筋の幹細胞が張りついています。損傷した線維の修復や、負荷に応じた線維の肥大に必要な核を供給する細胞です。ダマンティ(Damanti)らの総説は、加齢とともに衛星細胞の数と活性が低下し、それが再生能力の制限につながることを挙げています。同時に、筋核の配置が乱れ、毛細血管が減ることで、エネルギーの供給そのものも細くなります。
ここで注意したいのは、衛星細胞が減ること自体が筋の減少を引き起こしたのか、それとも修復が必要になる機会が減った結果として減っているのかが、ヒトでは確定していないことです。細胞の数は筋生検で数えられますが、その数が将来の筋量を決めているかどうかは、数えるだけではわかりません。第1回で述べた代理指標の問題が、ここでも同じ形で出てきます。指標が動くことと、その指標が原因であることは別です。
加齢と不活動を切り分けられるか
ここまでの現象は、どこまでが加齢そのもので、どこまでが動かないことの結果なのでしょうか。この問いに実験的に近づいた研究があります。
Biolo G, Pišot R, Mazzucco S, et al. Anabolic resistance assessed by oral stable isotope ingestion following bed rest in young and older adult volunteers: Relationships with changes in muscle mass. Clinical Nutrition. 2017;36(5):1420-1426.
高齢(59±1歳)と若年(23±1歳)の健康な男性に2週間の臥床を課し、食後の同化抵抗性と大腿四頭筋の体積を測りました。臥床は両群で同化抵抗性を高め、筋体積を減らしましたが、その大きさに差がありました。同化抵抗性の増加は若年で9.2%、高齢で21.9%、筋体積の減少は若年で5.7%、高齢で7.3%です。参加者全体では、臥床前の時点でも同化抵抗性と大腿四頭筋体積が逆相関し(R = -0.75、p < 0.03)、臥床による両者の変化率も逆相関していました(R = -0.57、p < 0.05)。
読み取れるのは、不活動は高齢の筋でより大きな打撃になるということです。加齢と不活動は独立した2つの原因ではなく、掛け算で効きます。同時に、この設計をもってしても「加齢だけの効果」を取り出せていないことにも注意が必要です。人間を対象に、活動量を完全に揃えたまま数十年を追う実験はできません。加齢の純粋な効果を知りたいという問いには、原理的に完全な答えが出ません。
| 機序 | 何が起きているか | 運動でどこまで動くか |
|---|---|---|
| 運動神経細胞の脱落 | 大型の細胞から失われる | 細胞そのものを戻す証拠はない |
| 再支配 | 残った神経が線維を拾う | 長年の運動習慣がある人で拡大が大きいという報告がある |
| タイプII線維の萎縮 | 速い線維が細くなる | 筋力トレーニングで断面積は増える |
| 同化抵抗性 | 合図に必要な量が上がる | 運動と十分な量の組み合わせで若年と同等の反応 |
| 活動量の低下 | 不活動が上の各項を悪化させる | 直接の対象。ただし臥床の影響は高齢でより大きい |
運動は神経の側にも届くのか
コレッティ(Coletti)らの総説は、長年にわたって高い水準の運動を続けてきた70歳前後の人の筋で、再支配が対照群より有意に多く起きていたという報告を取り上げ、その後の知見もこの方向を支持していると述べています。運動が再支配を助け、結果として筋の構造と機能を保っている、という見方です。
ただし、ここには注意が必要です。長年運動を続けてきた人とそうでない人を比べる設計は、第2回で見たのと同じ問題を抱えています。運動が再支配を増やしたのか、もともと神経筋系が保たれている人が運動を続けられたのか、この比較では区別できません。高齢者に運動を割り付けて神経筋系の指標がどう変わるかを見た研究は存在しますが、結果は一貫しておらず、どの指標がどれだけ動くのかはまだ定まっていません。
それでも、実務上の結論は揺らぎません。筋線維の断面積と筋力が筋力トレーニングで増えることは、高齢者でも繰り返し確認されています。神経の側で起きていることの全容がわからなくても、できる部分から動かすという方針は変わらないということです。機序の解明を待つ必要はありません。
次回予告
第4回は「ミトコンドリアと運動」を扱います。今回、第2回から引き継いだ「末梢での酸素利用」の話が、筋線維の内側へと入っていきます。加齢でミトコンドリアの機能はどう変わるのか、運動による生合成はどこまで起きるのか、そしてヒトでの測定がなぜこれほど難しいのかを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|老化とは何か——生物学的年齢という考え方
- 第2回|有酸素能力の低下——運動で取り戻せる幅
- 第3回|筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序(この記事)
- 第4回|ミトコンドリアと運動
- 第5回|テロメアと運動——期待と実測のずれ
- 第6回|慢性微小炎症——インフラメイジング
- 第7回|骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か
- 第8回|脳の加齢と運動——認知機能はどこまで守れるか
- 第9回|運動量と死亡率——用量反応の疫学
- 第10回|総括——「アンチエイジング」の主張をどう読むか
出典
- Wilkinson DJ, Piasecki M, Atherton PJ. The age-related loss of skeletal muscle mass and function: Measurement and physiology of muscle fibre atrophy and muscle fibre loss in humans. Ageing Research Reviews. 2018;47:123-132.
- Larsson L, Degens H, Li M, et al. Sarcopenia: Aging-Related Loss of Muscle Mass and Function. Physiological Reviews. 2019;99(1):427-511.
- Piasecki M, Ireland A, Piasecki J, et al. Failure to expand the motor unit size to compensate for declining motor unit numbers distinguishes sarcopenic from non-sarcopenic older men. The Journal of Physiology. 2018;596(9):1627-1637.
- Sarto F, Franchi MV, McPhee JS, et al. Neuromuscular impairment at different stages of human sarcopenia. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2024;15(5):1797-1810.
- Deschenes MR. Effects of aging on muscle fibre type and size. Sports Medicine. 2004;34(12):809-824.
- Damanti S, Senini E, De Lorenzo R, et al. Molecular constraints of sarcopenia in the ageing muscle. Frontiers in Aging. 2025;6:1588014.
- Shad BJ, Thompson JL, Breen L. Does the muscle protein synthetic response to exercise and amino acid-based nutrition diminish with advancing age? A systematic review. American Journal of Physiology. Endocrinology and Metabolism. 2016;311(5):E803-E817.
- Biolo G, Pišot R, Mazzucco S, et al. Anabolic resistance assessed by oral stable isotope ingestion following bed rest in young and older adult volunteers: Relationships with changes in muscle mass. Clinical Nutrition. 2017;36(5):1420-1426.
- Coletti C, Acosta GF, Keslacy S, Coletti D. Exercise-mediated reinnervation of skeletal muscle in elderly people: An update. European Journal of Translational Myology. 2022;32(1).
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。筋力の低下、歩きにくさ、立ち上がりにくさ、体重の減少が続く場合は、加齢によるものと自己判断せず医療機関にご相談ください。腎臓の病気で治療を受けている方はタンパク質の摂取量について主治医の指示に従ってください。持病のある方、高齢の方が新しい運動を始めるときは、開始前に主治医に相談してください。






