連載「老化と運動」全10回の第4回です。
ミトコンドリアは、細胞のなかで酸素を使ってエネルギーを取り出す小器官です。加齢の話題では「細胞の発電所が衰える」という比喩でよく登場し、機能を高めるとうたう栄養補助食品の広告にも繰り返し現れます。第2回で見たとおり、最大運動時の制限は心臓よりも末梢での酸素利用の側にありました。その末梢の内側にあるのが、この小器官です。
結論から書きます。加齢とともに骨格筋のミトコンドリアの働きが落ちることは、ヒトでも繰り返し確認されています。しかし、その低下のどこまでが加齢そのもので、どこまでが活動量の低下によるものかは、まだ切り分けられていません。運動によって指標が改善することも確かですが、その改善が寿命や健康寿命の延長につながるという証拠は別に必要です。
この回では、機序の話と同じくらい、測定の話に紙幅を割きます。ヒトのミトコンドリアを測ることは、思われているよりずっと難しく、その難しさが研究結果のばらつきの一因になっているからです。

なぜミトコンドリアが老化の話に出てくるのか
第1回で挙げた12項目の「老化の特徴」のひとつが、ミトコンドリア機能不全です。理由は2つあります。ひとつは、加齢に伴って呼吸能力やミトコンドリアDNAの量、関連する遺伝子の発現が下がるという観察が、多くの組織で積み重なっていること。もうひとつは、ミトコンドリアが活性酸素種の主要な発生源でもあり、エネルギー供給と酸化的な損傷の両方に関わるという位置づけです。
骨格筋は、この話題の中心にあります。安静時でも相当量の酸素を消費し、運動時にはその量が跳ね上がる組織だからです。そして、筋は生検で組織そのものを取り出せる数少ない組織でもあります。だからこそ、ヒトのミトコンドリア研究の多くは筋を対象にしてきました。
ヒトでどう測るのか、そしてなぜ難しいのか
測り方は大きく2つに分かれます。ひとつは、筋生検で採った組織の線維を処理し、酸素の消費速度を装置で直接測る方法。もうひとつは、リン31の磁気共鳴スペクトロスコピー(31P-MRS)で、運動後にクレアチンリン酸がどれだけ速く回復するかを体の外から観察する方法です。前者は詳細な情報が得られますが、針を刺して組織を採る必要があり、参加者数はどうしても少なくなります。後者は侵襲がありませんが、装置が限られ、得られるのは回復速度という間接的な指標です。
Gonzalez-Freire M, Scalzo P, D’Agostino J, et al. Skeletal muscle ex vivo mitochondrial respiration parallels decline in vivo oxidative capacity, cardiorespiratory fitness, and muscle strength: The Baltimore Longitudinal Study of Aging. Aging Cell. 2018;17(2):e12725.
この研究は、両方の方法を同じ人で行いました。ボルチモア加齢縦断研究の参加者38名(うち男性21名、24歳から91歳)から外側広筋の生検を採り、透過処理した線維でミトコンドリア呼吸を測定したうえで、31P-MRSによるクレアチンリン酸の回復速度、トレッドミルによるVO2max、等速性の膝伸展筋力、握力、400m歩行の所要時間と突き合わせています。結果は、呼吸能力が加齢とともに有意に低下すること(p < 0.05)、そしてその能力がVO2max・筋力・回復速度・400m歩行の所要時間と関連することでした。BMIとの関連は有意には届きませんでした(p = 0.074)。
参加者は38名です。ヒトのミトコンドリア研究では、これでも大きい部類に入ります。この規模の制約は、結果を読むときに常に意識する必要があります。少数の参加者から得られた差は、偶然のばらつきや、参加者の選ばれ方に左右されやすいからです。

加齢で何が、どれだけ落ちるのか
身体機能の高い高齢者と低い高齢者を分けて比較した研究を見てみます。
Joseph AM, Adhihetty PJ, Buford TW, et al. The impact of aging on mitochondrial function and biogenesis pathways in skeletal muscle of sedentary high- and low-functioning elderly individuals. Aging Cell. 2012;11(5):801-809.
座位中心の高齢者を、簡易身体能力バッテリーの得点で高機能群と低機能群に分けたうえで、若年群と比べました。低機能群の筋量は、若年群より38%、高機能群より30%少なく、身体能力の得点と正の相関がありました。透過処理した線維でのミトコンドリア呼吸は低機能群で若年群より41%低く、チトクロムc酸化酵素の活性も30%低下していました。代謝の調節に関わるSIRT3とPGC-1αのタンパク質量は、高齢の両群とも若年群より50%低い値でした。
ここで注意すべきは、SIRT3とPGC-1αの低下は高機能群でも起きていたという点です。分子の指標は同じように下がっているのに、呼吸能力と身体機能には群間で差がありました。分子の指標と実際の働きは、きれいに一対一では対応していません。
加齢なのか、活動量なのか
これまで見てきた比較には、共通の弱点があります。高齢の参加者は若年の参加者より活動量が少ないのが普通で、両者の差に加齢と不活動が混ざっているのです。この点を設計で潰そうとした研究があります。
Grevendonk L, Connell NJ, McCrum C, et al. Impact of aging and exercise on skeletal muscle mitochondrial capacity, energy metabolism, and physical function. Nature Communications. 2021;12(1):4773.
著者らは、習慣的な身体活動の水準をそろえた若年群と高齢群を比較し、さらに運動を継続している高齢群と、身体機能が低下した高齢群も加えました。結果は、十分な活動量を保っていても、加齢とともにミトコンドリアの能力、運動能力、運動の効率、歩行の安定性、筋機能、インスリン感受性が低下するというものでした。同時に、規則的な運動によってさらに活動量を上げれば、加齢の影響の多くを打ち消しうることも示されています。ミトコンドリアの能力は、運動の効率とインスリン感受性に相関していました。
この設計は、活動量の交絡をかなりの程度取り除いています。それでも完全ではありません。第3回でも述べたとおり、人間を対象に活動量を厳密に一定に保ったまま数十年を追う実験は不可能だからです。「加齢だけの効果」は、近似できても分離はできません。

運動で指標はどこまで戻るのか
Konopka AR, Suer MK, Wolff CA, Harber MP. Markers of human skeletal muscle mitochondrial biogenesis and quality control: effects of age and aerobic exercise training. The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences. 2014;69(4):371-378.
若年男性(20±1歳)と高齢男性(74±3歳)に有酸素運動のトレーニングを行い、生合成と、融合・分裂という形の作り替えに関わるタンパク質を比べました。運動による筋の肥大は年齢に関係なく起き、生合成・融合・分裂に関わるタンパク質もどちらの年齢でも増加しました。一方で、VO2peakの改善は若年でより大きくなりました。著者らは、通常の加齢はミトコンドリアの健康に関わるタンパク質にも、有酸素運動へ反応する能力にも影響していないと結論しています。
急性の反応についても、同じ方向の報告があります。コブリー(Cobley)らは、若年と高齢の、トレーニング歴のある人とない人の4群(各6名)で高強度インターバル運動の前後を比べました。安静時の筋では、生涯にわたる運動習慣がミトコンドリアDNA・PGC-1α・COXIVの量を保っていた一方、座位中心の生活はこれらを減らしていました。ところが運動後の反応——p38MAPKのリン酸化、PGC-1αとCOXIVのmRNA発現、数日後のCOXIVタンパク質——は、年齢にもトレーニング歴にも関係なく同程度に起きました。長年動いてこなかった高齢の筋でも、生合成を立ち上げる仕組みそのものは働くということです。
生涯続けてきた人の筋で何が違うのか
Ringholm S, Gudiksen A, Frey Halling J, et al. Impact of Aging and Lifelong Exercise Training on Mitochondrial Function and Network Connectivity in Human Skeletal Muscle. The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences. 2023;78(3):373-383.
生涯にわたる持久系トレーニングの量で分けた高齢者と、若年の非鍛錬者を比べた研究です。組織重量あたりのミトコンドリア呼吸は、高負荷で鍛えてきた高齢者で最も高い値でした。ところがミトコンドリア1単位あたりの内在的な呼吸能力は、この群でむしろ低くなっています。ミトコンドリアの量とネットワークの連結性が増えた結果として、組織あたりの能力が上がっていた、という構図です。著者らは、健康な加齢はヒトの骨格筋で酸化ストレスやネットワークの断片化を引き起こさないが、高容量のトレーニングはミトコンドリアの量と連結性を高めて酸化能力を上げる、とまとめています。
この「量が増えたのか、質が上がったのか」という区別は重要です。同じ「ミトコンドリア機能が改善した」という表現の下に、まったく違う変化が隠れることがあるからです。
動物実験の結果を、そのまま人に当てはめられるか
ミトコンドリアと運動の分子機構、とくにPGC-1αを中心とする経路の多くは、げっ歯類で明らかにされてきました。ここに外挿の問題があります。デルブレ(Derbré)らは、加齢したラットでPGC-1α、NRF-1、チトクロムcの運動による発現上昇が失われていること、寒冷刺激や甲状腺ホルモンによる刺激も若いラットでは効くのに加齢個体では効かないことを報告し、加齢個体がPGC-1α欠損マウスと似た振る舞いをすると述べました。ハリング(Halling)らも、加齢マウスで見られるミトコンドリアネットワークの断片化を運動が正常化する効果が、PGC-1α依存的であることを示しています。
ところが、ヒトを対象とした上記の研究群は、これとかみ合わない部分を持っています。コブリーらの報告では高齢者でも急性の反応が保たれており、コノプカ(Konopka)らの報告でも反応能力は年齢に影響されていませんでした。リングホルム(Ringholm)らは、健康な加齢ではネットワークの断片化そのものが起きていないとしています。マウスとラットで見えた「加齢による反応性の喪失」は、健康なヒトではそのままの形では確認されていません。動物実験は機構を教えてくれますが、程度と時間経過は種を越えて保存されるとは限りません。栄養補助食品の広告が動物実験の図を引用しているときは、この点を思い出す必要があります。
| 測定の方法 | 得られるもの | 制約 |
|---|---|---|
| 筋生検+透過処理線維の呼吸測定 | 呼吸能力を直接測れる | 侵襲があり参加者数が限られる。採取部位で値が変わる |
| 31P-MRS(クレアチンリン酸の回復速度) | 体を傷つけずに生体内で測れる | 装置が限られる。間接的な指標 |
| タンパク質やmRNAの量 | 生合成の経路を追える | 量が働きを保証しない |
| 動物モデル | 遺伝子の操作で因果を示せる | 加齢の時間経過と程度がヒトと異なる |
指標を上げることと、動けるようになること
ミトコンドリアを標的とする栄養補助食品については、研究が進んでいます。
Broome SC, Whitfield J, Karagounis LG, Hawley JA. Mitochondria as Nutritional Targets to Maintain Muscle Health and Physical Function During Ageing. Sports Medicine. 2024;54(9):2291-2309.
この総説は、加齢した骨格筋への介入として運動が第一であることを確認したうえで、ミトコンドリアを介して身体機能の改善が期待される成分をいくつか挙げています。そのうえで注目したいのは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の前駆体について述べている部分です。前駆体の一部が高齢者の身体機能を改善しうるという証拠はあるものの、その改善は骨格筋のミトコンドリア機能の変化とは無関係であり、それに依存しないように見えると書かれています。
これは、この連載が繰り返し扱う論点そのものです。ある成分が「ミトコンドリアを活性化する」と説明されていても、実際に身体機能が改善したとして、その改善が本当にミトコンドリアを経由したのかは別の検証を要します。逆に、ミトコンドリアの指標が改善したからといって、歩ける距離や転倒の頻度が変わるとは限りません。指標と転帰のあいだには、いつも検証されていない橋が架かっています。特定の商品を検討するときに見るべきなのは、指標が動いたという図ではなく、人間の身体機能そのものがどうなったかという結果のほうです。
次回予告
第5回は「テロメアと運動——期待と実測のずれ」を扱います。今回扱ったミトコンドリア指標以上に、テロメア長は「細胞の年齢」の代名詞として語られてきました。ところが、横断研究で見える関連が介入研究では確認されず、測定法を変えると結果も変わります。代理指標の問題が最も鮮明に現れる回になります。
この連載の全10回
- 第1回|老化とは何か——生物学的年齢という考え方
- 第2回|有酸素能力の低下——運動で取り戻せる幅
- 第3回|筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序
- 第4回|ミトコンドリアと運動(この記事)
- 第5回|テロメアと運動——期待と実測のずれ
- 第6回|慢性微小炎症——インフラメイジング
- 第7回|骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か
- 第8回|脳の加齢と運動——認知機能はどこまで守れるか
- 第9回|運動量と死亡率——用量反応の疫学
- 第10回|総括——「アンチエイジング」の主張をどう読むか
出典
- Gonzalez-Freire M, Scalzo P, D’Agostino J, et al. Skeletal muscle ex vivo mitochondrial respiration parallels decline in vivo oxidative capacity, cardiorespiratory fitness, and muscle strength: The Baltimore Longitudinal Study of Aging. Aging Cell. 2018;17(2):e12725.
- Joseph AM, Adhihetty PJ, Buford TW, et al. The impact of aging on mitochondrial function and biogenesis pathways in skeletal muscle of sedentary high- and low-functioning elderly individuals. Aging Cell. 2012;11(5):801-809.
- Grevendonk L, Connell NJ, McCrum C, et al. Impact of aging and exercise on skeletal muscle mitochondrial capacity, energy metabolism, and physical function. Nature Communications. 2021;12(1):4773.
- Konopka AR, Suer MK, Wolff CA, Harber MP. Markers of human skeletal muscle mitochondrial biogenesis and quality control: effects of age and aerobic exercise training. The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences. 2014;69(4):371-378.
- Cobley JN, Bartlett JD, Kayani A, et al. PGC-1α transcriptional response and mitochondrial adaptation to acute exercise is maintained in skeletal muscle of sedentary elderly males. Biogerontology. 2012;13(6):621-631.
- Ringholm S, Gudiksen A, Frey Halling J, et al. Impact of Aging and Lifelong Exercise Training on Mitochondrial Function and Network Connectivity in Human Skeletal Muscle. The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences. 2023;78(3):373-383.
- Derbré F, Gomez-Cabrera MC, Nascimento AL, et al. Age associated low mitochondrial biogenesis may be explained by lack of response of PGC-1α to exercise training. AGE. 2012;34(3):669-679.
- Halling JF, Ringholm S, Olesen J, Prats C, Pilegaard H. Exercise training protects against aging-induced mitochondrial fragmentation in mouse skeletal muscle in a PGC-1α dependent manner. Experimental Gerontology. 2017;96:1-6.
- Broome SC, Whitfield J, Karagounis LG, Hawley JA. Mitochondria as Nutritional Targets to Maintain Muscle Health and Physical Function During Ageing. Sports Medicine. 2024;54(9):2291-2309.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。栄養補助食品は、ここで挙げた研究の結果をもって効果が確立したものではなく、この記事は特定の製品の使用を勧めるものではありません。強い倦怠感や筋力低下が続く場合は医療機関にご相談ください。持病のある方、薬を服用中の方、高齢の方が新しい運動やサプリメントを始めるときは、開始前に主治医に相談してください。






