連載「老化と運動」全10回の第2回です。

階段を上がったときの息の切れ方は、年齢とともに変わります。この変化を数値にしたのが最大酸素摂取量(VO2max)です。1分間に体が取り込んで使える酸素の最大量を、体重1kgあたりのmLで表します。呼気を集めて直接測るため、推定式に頼る他の加齢指標とは違い、測定法が確立していて、研究室が違っても同じものを測っているという強みがあります。第1回で扱ったエピジェネティック時計とは、この点が対照的です。

結論から書きます。VO2maxの加齢による低下は、運動をしている人でも止まりません。ただし、同じ年齢で比べたときの絶対値は運動によって確かに高くなり、高齢になってから始めても上がります。低下の速さを変えることと、いまの水準を上げることは別の話です。

もうひとつ、この回で押さえておきたいことがあります。加齢による低下率の推定値は、研究の設計によって倍近く食い違います。どちらかが間違っているのではなく、違うものを測っているから違う数字になるのです。その仕組みを理解すると、他の加齢指標を読むときにも同じ目が使えます。

老化と運動 第2回 有酸素能力の低下運動で取り戻せる幅|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

VO2maxは何を測っているのか

測定は、トレッドミルか自転車エルゴメータで負荷を段階的に上げながら、呼気に含まれる酸素と二酸化炭素の量を連続的に分析して行います。酸素摂取量が負荷の増加に対して頭打ちになった点が最大値です。ただし、高齢の参加者では頭打ちが確認できる前に疲労や症状で試験を終えることが多く、その場合は到達した最高値(VO2peak)を用います。研究によってVO2maxとVO2peakが混在するのはこのためで、厳密には同じものではありません。さらに、心拍数から推定する簡易法や歩行距離からの換算は、直接測定とは誤差の性質が違います。数値を比べるときは、まずどの方法で測られたかを見る必要があります。

VO2maxは、心臓が血液を送り出す能力(心拍出量)と、筋が届いた酸素を取り出して使う能力(動静脈酸素較差)の積で決まります。どちらが加齢の主因かは長く議論されてきました。ボルチモア加齢縦断研究の参加者99名を平均12.6年追跡した報告があります。

AlGhatrif M, Morrell CH, Fleg JL, et al. Longitudinal decline in peak VO2 with aging in a healthy population is associated with a reduction in peripheral oxygen utilization but not in cardiac output. American Journal of Physiology. Heart and Circulatory Physiology. 2024;327(2):H509-H517.

登録時の年齢は21歳から96歳まで。補正のないモデルでは、ピーク時の酸素摂取量・動静脈酸素較差・心拍出量のいずれも時間とともに低下していました。しかし、開始時の値とピーク時の仕事量で補正すると、登録時の年齢が高いほど急な低下を示したのは酸素摂取量と動静脈酸素較差であり、心拍出量ではありませんでした。著者らは、最大運動時の末梢での酸素利用の障害のほうが、心拍出量よりも強い制限になっていると述べています。心臓だけの話ではなく、筋とその血管の話でもある——第3回と第4回につながる観察です。

横断研究が描いた、なだらかな直線

加齢による低下率の古典的な推定は、さまざまな年齢の人を一度に測り、年齢に対する回帰直線を引く方法(横断研究)で得られました。この方法で大量のデータを統合した報告が2つあります。まず女性について。

Fitzgerald MD, Tanaka H, Tran ZV, Seals DR. Age-related declines in maximal aerobic capacity in regularly exercising vs. sedentary women: a meta-analysis. Journal of Applied Physiology. 1997;83(1):160-165.

フィッツジェラルド(Fitzgerald)らは、109件の研究・239の被験者群・合計4,884名のデータを、座位中心・活動的・持久系トレーニング群の3つに分けました。VO2maxの平均はそれぞれ29.7±7.8、38.7±9.2、52.0±10.5 mL/kg/分。年齢に対する低下率は座位中心で10年あたり-3.5、活動的で-4.4、持久系で-6.2 mL/kg/分と、よく運動している群のほうが大きくなりました。ところが25歳時点の平均値に対する割合で表すと、3群とも10年あたり-10.0%から-10.9%の範囲に収まります。

男性でも同じ設計の検討が行われています。ウィルソン(Wilson)とタナカ(Tanaka)は242件の研究・538群・13,828名を統合し、絶対値の低下率が座位中心で10年あたり-4.0、活動的で-4.0、持久系で-4.6 mL/kg/分、割合では-8.7%、-7.3%、-6.8%と、いずれも群間に有意差がなかったと報告しました。つまり横断的に見る限り、習慣的な運動は低下の速さそのものをほとんど変えていません。変えているのは、どの年齢でも一段高い水準にいるという事実のほうです。

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縦断研究が見せた加速

同じ人を追いかけて繰り返し測る設計(縦断研究)は、まったく違う絵を描きました。

Fleg JL, Morrell CH, Bos AG, et al. Accelerated longitudinal decline of aerobic capacity in healthy older adults. Circulation. 2005;112(5):674-682.

ボルチモア加齢縦断研究の21歳から87歳までの女性375名・男性435名を、中央値7.9年追跡した報告です。自己申告の余暇身体活動量で補正したうえで、10年あたりの変化率を年代ごとに推定しました。結果は、20代・30代で10年あたり3%から6%だった低下率が、70代以降では10年あたり20%を超えるというものでした。40代以降はどの年代でも男性のほうが低下が大きく、この加速は身体活動量の四分位のどの群でも同じように見られました。最大心拍数の低下は10年あたり4%から6%にとどまり、加齢による加速はごくわずかでした。

横断研究が示した「一定の直線」と、縦断研究が示した「加速する曲線」。この食い違いをどう理解すればよいのでしょうか。

なぜ推定が食い違うのか

Letnes JM, Nes BM, Wisløff U. Age-related decline in peak oxygen uptake: Cross-sectional vs. longitudinal findings. A review. International Journal of Cardiology. Cardiovascular Risk and Prevention. 2023;16:200171.

この総説は、縦断研究のほうが大きな低下を報告する傾向を確認したうえで、臨床で繰り返し測定した値を解釈するときにはこの差を踏まえる必要がある、と注意を促しています。理由は主に3つあります。

第一に、横断研究には生存者バイアスと選択バイアスが入ります。80代で運動負荷試験を完遂できる人は、同世代のなかでもとりわけ健康な人たちです。その人たちの値が80代の代表として直線に乗るため、高齢側の平均が実態より高く出ます。第二に、横断研究は世代差を年齢差と読み違えます。50年前に20代だった人と、いま20代の人では、生活様式も体組成も違います。第三に、縦断研究には別の方向の偏りがあります。追跡のあいだに練習量が減った人の低下は、加齢と練習量減少の合計になります。

ノルウェーの地域住民を対象に、10年の間隔をあけて直接測定した研究も同じ形を示しました。健康な一般集団1,431名を2回測り、10年あたりの低下が、生涯の第3の10年(20代)における3%から第8の10年(70代)の約20%まで非線形に進むこと、男性でより顕著であることを報告しています。この研究では、余暇身体活動の推奨量を守っている人のほうがVO2maxをよく保っており、高齢になるほど時間よりも強度が効いているように見えた、とも述べられています。

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鍛えている人ほど大きく下がって見える理由

横断研究で持久系トレーニング群の低下率が最も大きく出たことは、直感に反します。縦断の設計でこれを検討した研究があります。

Eskurza I, Donato AJ, Moreau KL, Seals DR, Tanaka H. Changes in maximal aerobic capacity with age in endurance-trained women: 7-yr follow-up. Journal of Applied Physiology. 2002;92(6):2303-2308.

座位中心の女性8名(追跡時63±2歳)と持久系トレーニングを続ける女性16名(57±2歳)を、平均7年後に再評価しました。開始時のVO2maxは持久系群のほうがおよそ70%高い値でした。絶対値の低下率は持久系群で-0.84±0.15、座位中心群で-0.40±0.12 mL/kg/分/年と、持久系群が2倍大きくなりました。ところが割合で見ると-1.8±0.3%/年と-1.5±0.4%/年で差はありません。さらに、持久系群のなかでは低下率と練習量の減少に正の相関があり(r = 0.63)、練習量を維持または増やした一部の人たちの低下率は、座位中心群と変わりませんでした。

「鍛えると衰えが速い」のではなく、「高いところから落ちるぶん、下がり幅が大きく見える」こと、そして「多くの人が加齢とともに練習量を減らす」ことの合成だったわけです。この読み違いは、他の指標でも同じ形で起こります。

研究の設計拾えるもの入り込む偏り
横断(一度だけ測る)年齢層ごとの平均的な水準生存者バイアス、世代差、選択バイアス
縦断(同じ人を追う)個人内の変化の速さ練習量の変化、脱落、加齢以外の疾患
介入(割り付けて比べる)運動で動く幅期間が短い、対照群が無介入だと効果が大きく見える

運動で取り戻せる幅

では、運動を始めるとどれだけ上がるのでしょうか。座位中心の高齢者を対象に、管理された持久系トレーニングの効果を統合した報告があります。

Huang G, Wang R, Chen P, Huang SC, Donnelly JE, Mehlferber JP. Dose-response relationship of cardiorespiratory fitness adaptation to controlled endurance training in sedentary older adults. European Journal of Preventive Cardiology. 2016;23(5):518-529.

運動群1,257名・対照群845名(平均年齢67.45±5.25歳)を統合すると、VO2maxの純増は3.78 mL/kg/分(95%信頼区間 3.29〜4.27、p < 0.0001)でした。研究間のばらつきのうち強度で説明できたのは約11%で、最も大きな改善が得られた平均強度は心拍予備能の66%〜73%でした。心拍予備能の75%〜80%を超える強度では改善はそれ以上大きくならず、むしろ大きく低下したと報告されています。著者らは、1回40〜50分・週3〜4回・30〜40週間、心拍予備能の66%〜73%という組み合わせが、この集団では効果的で最適に見えるとまとめています。

もっと高齢の層に限った統合もあります。

Bouaziz W, Kanagaratnam L, Vogel T, et al. Effect of Aerobic Training on Peak Oxygen Uptake Among Seniors Aged 70 or Older: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Rejuvenation Research. 2018;21(4):341-349.

70歳以上の348名を含む10件の無作為化比較試験を統合したところ、運動群のVO2peakは対照群より平均差1.56(95%信頼区間 0.90〜2.23)高い値でした。健康な高齢者では1.72(0.34〜3.10)、健康上の問題を抱える高齢者では1.47(0.60〜2.34)と、どちらでも改善が見られています。ただし試験間の異質性は大きく、対照群はいずれも盲検化されていない待機群でした。効果の向きは一貫していますが、大きさの推定には幅があります。

この数字をどう受け取るか

3.78 mL/kg/分という改善は、何年分の加齢に相当するのでしょうか。縦断研究が示した低下の速さを当てはめれば、中年期であれば10年分近く、高齢期ではもっと短い期間に相当します。つまり「時計の針を戻す」というより、「いまいる場所を数段上に移す」という理解が実態に近いはずです。移した場所からの低下は、それまでと同じ速さで続きます。

それでも、この「数段」には意味があります。VO2maxは、日常の動作をどれだけ余裕をもってこなせるかを決めます。買い物袋を持って坂を上がる、駅の階段を止まらずに上がる、といった動作に必要な酸素摂取量は年齢では変わりません。分母にあたる最大値が上がれば、同じ動作の相対的なきつさは下がります。低下そのものを止められなくても、自立して動ける期間の長さは変わりうる——これがこの回の実務的な結論です。

もうひとつ、平均値の裏に隠れることがあります。統合された数値は集団の平均であり、同じ内容を同じ期間続けても、改善の大きさには個人差があります。まったく変わらない人も、平均の何倍も改善する人もいます。この差は年齢や性別だけでは説明できません。平均の改善幅は、自分に起きることの予測ではなく、集団に起きたことの要約です。自分の変化を知りたければ、開始前と数か月後に同じ方法で測るしかありません。

始める年齢についても、悲観する必要はありません。上に挙げた統合はいずれも、60代・70代から始めた人を含んでいます。効果の大きさに幅はありますが、改善が得られること自体は繰り返し確認されています。第9回では、この「動けること」が死亡率とどう結びつくのかを疫学の側から見ます。

次回予告

第3回は「筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序」を扱います。今回、末梢での酸素利用の低下が主な制限だという観察が出てきました。その末梢、つまり筋で何が起きているのかを、運動単位の脱神経と再支配、タイプII線維の選択的な萎縮、同化抵抗性という3つの機序から見ていきます。

この連載の全10回

  1. 第1回|老化とは何か——生物学的年齢という考え方
  2. 第2回|有酸素能力の低下——運動で取り戻せる幅(この記事)
  3. 第3回|筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序
  4. 第4回|ミトコンドリアと運動
  5. 第5回|テロメアと運動——期待と実測のずれ
  6. 第6回|慢性微小炎症——インフラメイジング
  7. 第7回|骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か
  8. 第8回|脳の加齢と運動——認知機能はどこまで守れるか
  9. 第9回|運動量と死亡率——用量反応の疫学
  10. 第10回|総括——「アンチエイジング」の主張をどう読むか

出典

  1. AlGhatrif M, Morrell CH, Fleg JL, et al. Longitudinal decline in peak VO2 with aging in a healthy population is associated with a reduction in peripheral oxygen utilization but not in cardiac output. American Journal of Physiology. Heart and Circulatory Physiology. 2024;327(2):H509-H517.
  2. Fitzgerald MD, Tanaka H, Tran ZV, Seals DR. Age-related declines in maximal aerobic capacity in regularly exercising vs. sedentary women: a meta-analysis. Journal of Applied Physiology. 1997;83(1):160-165.
  3. Wilson TM, Tanaka H. Meta-analysis of the age-associated decline in maximal aerobic capacity in men: relation to training status. American Journal of Physiology. Heart and Circulatory Physiology. 2000;278(3):H829-34.
  4. Fleg JL, Morrell CH, Bos AG, et al. Accelerated longitudinal decline of aerobic capacity in healthy older adults. Circulation. 2005;112(5):674-682.
  5. Letnes JM, Nes BM, Wisløff U. Age-related decline in peak oxygen uptake: Cross-sectional vs. longitudinal findings. A review. International Journal of Cardiology. Cardiovascular Risk and Prevention. 2023;16:200171.
  6. Letnes JM, Dalen H, Aspenes ST, Salvesen Ø, Wisløff U, Nes BM. Age-related change in peak oxygen uptake and change of cardiovascular risk factors. The HUNT study. Progress in Cardiovascular Diseases. 2020;63(6):730-737.
  7. Eskurza I, Donato AJ, Moreau KL, Seals DR, Tanaka H. Changes in maximal aerobic capacity with age in endurance-trained women: 7-yr follow-up. Journal of Applied Physiology. 2002;92(6):2303-2308.
  8. Huang G, Wang R, Chen P, Huang SC, Donnelly JE, Mehlferber JP. Dose-response relationship of cardiorespiratory fitness adaptation to controlled endurance training in sedentary older adults. European Journal of Preventive Cardiology. 2016;23(5):518-529.
  9. Bouaziz W, Kanagaratnam L, Vogel T, et al. Effect of Aerobic Training on Peak Oxygen Uptake Among Seniors Aged 70 or Older: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Rejuvenation Research. 2018;21(4):341-349.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。運動中に胸の痛み、強い息切れ、めまい、動悸が出る場合は中止して医療機関にご相談ください。心臓や呼吸器の病気で治療を受けている方、持病のある方、高齢の方が新しい運動を始めるときや強度を上げるときは、開始前に主治医に相談してください。

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