連載「老化と運動」全10回の第10回です。
9回にわたって、加齢で何が変わり、運動でどこまで動かせるのかを見てきました。最終回では、ここまで使ってきた読み方をまとめます。目的は、特定の商品やサービスの是非を判定することではありません。目の前の主張が、証拠のどの段階にあるのかを自分で見分けられるようにすることです。
結論から書きます。「アンチエイジング」と呼ばれる主張の大半は、中間指標が動いたという報告にもとづいています。中間指標が動くことと、寿命や健康寿命が延びることのあいだには、まだ架かっていない橋があります。この連載で、橋の向こう側まで証拠が届いていたのは、運動と死亡率の関係だけでした。
これは悲観的な結論ではありません。むしろ逆で、確かなことが何かをはっきりさせれば、確かでないものに時間とお金を使わずに済みます。そして確かなことは、思ったより地味で、思ったより実行しやすいものです。

9回分の仕分け
まず、これまで扱った題材を、証拠がどこまで届いているかで並べてみます。
| 回 | 扱った指標 | 証拠の段階 |
|---|---|---|
| 第1回 | エピジェネティック年齢(メチル化年齢) | 中間指標どまり。個人の判定には精度が足りない |
| 第2回 | 最大酸素摂取量(VO2max) | 中間指標だが、日常動作の余裕に直結する。改善は確実 |
| 第3回 | 運動単位・筋線維・同化抵抗性 | 機序の説明。筋力と筋量の改善は転帰に近い |
| 第4回 | ミトコンドリアの呼吸・生合成 | 中間指標どまり。ヒトでの測定自体が難しい |
| 第5回 | テロメア長 | 中間指標どまり。しかも長ければよいとは限らない |
| 第6回 | 炎症マーカー(IL-6・CRP・TNF-α) | 中間指標どまり。測定のばらつきも大きい |
| 第7回 | 骨密度/関節の痛みと機能 | 骨密度は中間指標。痛みと機能は転帰、ただし効果は小さい |
| 第8回 | 認知機能の検査得点 | 大規模試験では群間差なし。予防効果は不明 |
| 第9回 | 全死因死亡 | 転帰まで届いている。ただし観察研究にもとづく |
この表を見ると、運動そのものの価値は、老化の指標を経由せずに立っていることが分かります。第9回で見たとおり、運動と死亡率の関連のうち白血球テロメア長で説明できた割合はおよそ1%でした。指標は機序を探る手がかりにはなりますが、利益の大きさを測る物差しではありません。
誤解のないように付け加えておくと、この表は重要度の順位ではありません。中間指標どまりだからといって、その研究に価値がないわけではありません。機序が分かれば、次にどこを狙えばよいかが見えてきます。表が示しているのは、いま何をもって「効いた」と言えるかの線引きだけです。線の手前にあるものを、線の向こうにあるかのように語ることが問題なのであって、線の手前で研究が続いていること自体は、何も悪いことではありません。
中間指標を動かすことと、寿命が延びること
この連載の背骨を、もう一度はっきりさせておきます。代理指標(サロゲート)とは、本当に知りたいことの代わりに測る、扱いやすい中間の指標です。代理指標が使えるのは、それが本当に知りたいことを十分に媒介しているときだけです。そして、媒介しているかどうかは、別に検証しなければ分かりません。
エピジェネティック時計については、ポーター(Porter)らが、現行の設計のままでは抗老化介入の代替評価項目として適さないかもしれないと述べていました。テロメアについては、バレンテ(Valente)らの統合が、活動的な人のテロメアは長いが(標準化平均差 0.70、95%信頼区間 0.12〜1.28)証拠の確実性は「非常に低い」とし、運動介入では有意な効果がないと結論していました。
さらに厄介なのが、指標が動く方向すら自明でない場合です。
Telomeres Mendelian Randomization Collaboration, Haycock PC, Burgess S, et al. Association Between Telomere Length and Risk of Cancer and Non-Neoplastic Diseases: A Mendelian Randomization Study. JAMA Oncology. 2017;3(5):636-651.
遺伝的にテロメアが長いことは、多くの部位別のがんのリスク上昇と関連していました。最も強かったのは神経膠腫でオッズ比5.27(95%信頼区間 3.15〜8.81)です。一方、冠動脈疾患では0.78(0.67〜0.90)とリスクの低下と関連していました。「指標を良い方向に動かす」と言うとき、その方向が本当に良い方向なのかは、それ自体が検証を要する問いです。

動物実験からヒトまでの距離
加齢の介入研究には、動物実験の比重が大きいという特徴があります。線虫、ショウジョウバエ、マウスで寿命が延びたという報告は数多くあります。この距離をどう見積もればよいのでしょうか。
Keshavarz M, Xie K, Schaaf K, Bano D, Ehninger D. Targeting the “hallmarks of aging” to slow aging and treat age-related disease: fact or fiction? Molecular Psychiatry. 2023;28(1):242-255.
著者らは、老化の特徴に関する主要な主張を検討し、重大な弱点があるために、これらの過程が個体の老化速度を決めているという強い結論は出せないと述べています。挙げられている問題は3つです。第一に、寿命を老化の代理指標として使いすぎていること。第二に、個体の老化との関連がはっきりしないモデルを使っていること。第三に、介入が老化速度に与える影響を適切に推定できない研究設計になっていること。
寿命が延びたという結果は、老化が遅くなったことを意味するとは限りません。特定の死因が減っただけでも寿命は延びます。第4回で見たとおり、加齢したラットで失われていた運動への反応が、健康なヒトでは保たれていたという食い違いもありました。動物実験は機構を教えてくれますが、程度と時間経過は種を越えて保存されるとは限りません。広告に動物実験のグラフが載っているとき、ヒトで同じことが起きる保証はどこにもないということです。
相対リスクと絶対リスク
数字の見せ方の問題も押さえておきます。「リスクが30%下がる」という表現は、ほとんどの場合、相対的な減少を指します。もとのリスクが1,000人に2人であれば、30%の減少は1,000人に1.4人になるという意味です。減った絶対量は1,000人あたり0.6人です。同じ事実を、相対で語るか絶対で語るかで、印象はまったく変わります。
もうひとつ、効果量が統計的に有意であることと、本人が違いを感じられることは別です。第7回で見た変形性関節症の運動療法では、100点尺度での痛みの差が短期で-6.36点、長期で-3.43点でした。
Holden MA, Hattle M, Runhaar J, et al. Moderators of the effect of therapeutic exercise for knee and hip osteoarthritis: a systematic review and individual participant data meta-analysis. The Lancet Rheumatology. 2023;5(7):e386-e400.
4,241名の個人データを解析した著者ら自身が、この効果を臨床的な重要性が疑わしいと評価しています。研究者が自分の結果をこう書くとき、その慎重さは信頼できる材料です。逆に、小さな差を大きく語る主張に出会ったら、元の数字を確かめる価値があります。

主張に出会ったときの確認
検査サービス、栄養補助食品、美容医療——「アンチエイジング」を掲げる主張に出会ったとき、確認することは多くありません。
Apsley AT, Etzel L, Ye Q, Shalev I. From population science to the clinic? Limits of epigenetic clocks as personal biomarkers. Epigenomics. 2025;17(18):1447-1461.
この論考は、集団を対象にした研究で成功した指標を、そのまま個人の判定に持ち込めない理由を技術面と生物面の両方から整理し、現状のエピジェネティック時計は個人の意思決定に用いるべきではないと述べています。研究で使える指標と、個人が自分の状態を知るために使える指標は、別の水準の要求を満たす必要があるということです。
栄養補助食品についても、同じ構図が指摘されています。
Broome SC, Whitfield J, Karagounis LG, Hawley JA. Mitochondria as Nutritional Targets to Maintain Muscle Health and Physical Function During Ageing. Sports Medicine. 2024;54(9):2291-2309.
この総説は、加齢した骨格筋への介入として運動が第一であることを確認したうえで、ある種の成分について、高齢者の身体機能を改善しうるという証拠はあるものの、その改善は骨格筋のミトコンドリア機能の変化とは無関係であり、それに依存しないように見えると書いています。「ミトコンドリアに働きかける」という説明と、実際に何が改善したのかは、別々に確かめる必要があります。
以上を踏まえた確認事項は、次の6つです。
- 測っているのは中間指標か、それとも症状・機能・入院・死亡といった転帰か
- ヒトの研究か、動物実験か。ヒトなら、横断か縦断か介入か
- 対照群は何をしていたか。無介入なら、効果は大きく見える
- 効果の大きさはどれくらいか。相対ではなく絶対で見るとどうか
- 同じ主張が、別の研究者によって再現されているか
- 誰が費用を出し、誰が利益を得るのか
最後の項目を付け加えたのは、この分野が商業と近いからです。研究の資金源と著者の利害関係は、多くの学術誌で開示が義務づけられています。開示されているからといって結果が歪んでいるとは限りませんが、製品を販売する側が実施した研究と、独立した研究者が再現した研究では、重みが違います。再現されているかどうかは、素人にも確認できる数少ない手がかりのひとつです。
体験談についても一言。「これを始めてから調子がよい」という話は、当人にとっては本当のことでしょう。しかし、始めた時期と体調が変わった時期が重なったことは、因果の証拠になりません。体調は放っておいても上下しますし、何かを始めた人はたいてい同時に他のことも変えています。一人の経験は、仮説を作る材料にはなっても、効果の証明にはなりません。だからこそ対照群があり、割り付けがあり、再現があります。手間のかかる手続きは、結論を疑わしくするためではなく、確かにするために存在しています。
それでも、確かなこと
ここまで留保ばかり書いてきたので、確かなことを最後にまとめます。
Arem H, Moore SC, Patel A, et al. Leisure time physical activity and mortality: a detailed pooled analysis of the dose-response relationship. JAMA Internal Medicine. 2015;175(6):959-967.
661,137名を解析したこの研究で、余暇の身体活動がまったくない人と比べると、推奨量に届かない程度の活動でも死亡リスクは20%低く(ハザード比 0.80、95%信頼区間 0.78〜0.82)、推奨量の1〜2倍で31%低い結果でした。そして推奨量の3〜5倍まで増やしても、追加の利益はわずかです(31%に対して39%)。最も大きな利得は、まったく動いていない状態から動き始めるところにあります。
この連載を通して見てきたことを、ひとつの形に整理するとこうなります。老化の指標を良くすることを目標にすると、何を買えばよいかという問いになります。動ける体を保つことを目標にすると、何をすればよいかという問いになります。後者の問いにだけ、確かな答えがあります。
それは、歩くこと、荷物を持てる筋力を保つこと、続けられる量にすること、そして年齢を理由に始めるのをやめないことです。第2回で見たとおり、70代で始めても有酸素能力は上がります。第7回で見たとおり、骨量が低くても骨密度は反応します。第9回で見たとおり、少ない量からの増加で最も大きな利得が得られます。
連載を終えて
この連載を書くにあたって決めていたことが一つあります。年齢を重ねることを、それ自体として否定的に描かないことです。加齢は病気ではありません。時間とともに体が変わることは、生きていることの一部です。そこに「戦うべき敵」という枠組みを持ち込むと、変えられないことに労力が向かい、変えられることが後回しになります。
老化の生物学は、この20年でめざましく進みました。12の特徴という枠組みが共通の言語を作り、細胞や分子の水準で何が起きているかが精緻に描かれるようになりました。第1回で引いたロペス-オティン(López-Otín)らの整理は、その到達点のひとつです。同時に、ジェムズ(Gems)らが指摘したように、特徴を並べることと原因を説明することは別でした。この分野は、まだ説明の途中にあります。
途中にあるということは、断定的な主張に出会ったときに警戒すべきだということでもあります。研究の最前線が「まだ分からない」と書いている事柄について、商品の説明が「分かっている」と書いているなら、そこには飛躍があります。10回を通じて繰り返してきた「何が測られているか」という問いは、その飛躍を見つけるための道具でした。
最後に。この連載は、公表された研究を要約したものです。個々の読者の状況に当てはまるかどうかは、別の判断が必要です。気になる症状があるとき、持病があるとき、薬を飲んでいるときは、検査の数値や記事の一般論ではなく、自分を診てくれる人に相談してください。そのうえで、動ける範囲で動き続けること——この連載が伝えたかったのは、結局のところそれだけです。
この連載の全10回
- 第1回|老化とは何か——生物学的年齢という考え方
- 第2回|有酸素能力の低下——運動で取り戻せる幅
- 第3回|筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序
- 第4回|ミトコンドリアと運動
- 第5回|テロメアと運動——期待と実測のずれ
- 第6回|慢性微小炎症——インフラメイジング
- 第7回|骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か
- 第8回|脳の加齢と運動——認知機能はどこまで守れるか
- 第9回|運動量と死亡率——用量反応の疫学
- 第10回|総括——「アンチエイジング」の主張をどう読むか(この記事)
出典
- López-Otín C, Blasco MA, Partridge L, Serrano M, Kroemer G. Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell. 2023;186(2):243-278.
- Gems D, de Magalhães JP. The hoverfly and the wasp: A critique of the hallmarks of aging as a paradigm. Ageing Research Reviews. 2021;70:101407.
- Keshavarz M, Xie K, Schaaf K, Bano D, Ehninger D. Targeting the “hallmarks of aging” to slow aging and treat age-related disease: fact or fiction? Molecular Psychiatry. 2023;28(1):242-255.
- Porter HL, Brown CA, Roopnarinesingh X, et al. Many chronological aging clocks can be found throughout the epigenome: Implications for quantifying biological aging. Aging Cell. 2021;20(11):e13492.
- Apsley AT, Etzel L, Ye Q, Shalev I. From population science to the clinic? Limits of epigenetic clocks as personal biomarkers. Epigenomics. 2025;17(18):1447-1461.
- Valente C, Andrade R, Alvarez L, et al. Effect of physical activity and exercise on telomere length: Systematic review with meta-analysis. Journal of the American Geriatrics Society. 2021;69(11):3285-3300.
- Telomeres Mendelian Randomization Collaboration, Haycock PC, Burgess S, et al. Association Between Telomere Length and Risk of Cancer and Non-Neoplastic Diseases: A Mendelian Randomization Study. JAMA Oncology. 2017;3(5):636-651.
- Broome SC, Whitfield J, Karagounis LG, Hawley JA. Mitochondria as Nutritional Targets to Maintain Muscle Health and Physical Function During Ageing. Sports Medicine. 2024;54(9):2291-2309.
- Holden MA, Hattle M, Runhaar J, et al. Moderators of the effect of therapeutic exercise for knee and hip osteoarthritis: a systematic review and individual participant data meta-analysis. The Lancet Rheumatology. 2023;5(7):e386-e400.
- Arem H, Moore SC, Patel A, et al. Leisure time physical activity and mortality: a detailed pooled analysis of the dose-response relationship. JAMA Internal Medicine. 2015;175(6):959-967.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。ここで取り上げた検査・栄養補助食品・医療行為について、効果を保証するものでも、特定の選択を勧めるものでもありません。気になる症状がある場合や、健康診断で指摘を受けた場合は医療機関にご相談ください。持病のある方、薬を服用中の方、高齢の方が新しい運動やサプリメントを始めるときは、開始前に主治医に相談してください。






