慢性炎症は、今世紀に入ってから医学のほぼ全分野を横断する概念になりました。動脈硬化、2型糖尿病、うつ病、がん関連倦怠感、加齢そのもの——これらに共通する基盤として、低グレードの持続的な炎症が関与しているという見方が定着しています。

そこに運動や心身介入が関わるとすれば、作用は分子のレベルで測れるはずです。ヨガの研究においても、炎症性サイトカインや遺伝子発現を測定した研究が蓄積してきました。ここではその内容を、どこまでが測定された事実で、どこからが解釈なのかを分けながら整理します。

測られているものは何か

この分野で頻繁に登場する指標は、主に3つです。

  • IL-6(インターロイキン6)——炎症性サイトカインのひとつ。急性期には感染防御に働くが、慢性的な高値は加齢性疾患のリスクと関連する。
  • CRP(C反応性タンパク)——肝臓が IL-6 の刺激で産生するタンパク。高感度CRPは心血管イベントのリスク指標として広く用いられる。
  • TNF-α(腫瘍壊死因子α)——同じく炎症性サイトカイン。関節リウマチなどの治療標的でもある。

加えて、より新しいアプローチとして遺伝子発現そのものを測る研究があります。とくに NF-κB という転写因子は、多数の炎症関連遺伝子の発現を制御する「上流のスイッチ」にあたるため、この経路の活性を見ることで炎症の傾向を捉えようとする試みが行われています。

なぜ「低グレード炎症」が注目されるのか

ここで問題になっている炎症は、赤く腫れて熱を持つ古典的な炎症ではありません。自覚症状を伴わず、血液検査でようやく捉えられる程度の、わずかだが持続する炎症状態——低グレード慢性炎症です。

この状態が注目されるようになったのは、疫学研究の蓄積によります。高感度CRPや IL-6 が高い人は、そうでない人に比べて将来の心血管イベント・2型糖尿病・認知機能低下・身体機能低下の発生が多いことが、複数の大規模コホートで繰り返し観察されてきました。加齢に伴って炎症指標が上昇する現象には「インフラメイジング(inflammaging)」という呼称も与えられています。

ただし、ここにも因果の問題があります。炎症指標が高いことが病気を引き起こしているのか、それとも進行しつつある病態(内臓脂肪の蓄積、動脈硬化、潜在的な感染)が炎症指標を上げているのか。この区別は、指標を下げる介入が実際にイベントを減らすかどうかを見なければ決着しません。

したがって、ある介入で炎症指標が下がったとしても、それが健康アウトカムの改善につながるかは別の問いです。 「代替エンドポイント(surrogate endpoint)」が改善しても、真のエンドポイント(発症・死亡)が改善するとは限らない——これは医学研究が何度も学んできた教訓です。ヨガと炎症の研究は、ほぼすべてが代替エンドポイントの段階にあります。

横断研究——熟練者と初心者の違い

この領域で最もよく引用される研究のひとつが、オハイオ州立大学のグループによるものです。

Kiecolt-Glaser JK, Christian L, Preston H, et al. Stress, inflammation, and yoga practice. Psychosomatic Medicine. 2010;72(2):113–121.

設計

健常な女性50名——ヨガ熟練者25名と初心者25名(平均年齢41.3歳、30〜65歳)——を対象に、同一の被験者が3つの条件を別々の日に体験する形式(被験者内デザイン)が採られました。

  • リストラティブなハタヨガのセッション
  • 運動対照(同じ動きを行うが呼吸法や瞑想を伴わない条件)
  • 受動的な映像視聴(動かない対照)

各条件の前・最中・後に採血と気分評価が行われました。

結果

報告された主な所見は次の通りです。

  • IL-6 の血中濃度は、初心者が熟練者より 41% 高かった。
  • 初心者は熟練者に比べて、CRP が検出される確率が 4.75 倍だった。
  • ヨガのセッションは、他の2条件と比べて陽性感情を高めた。

この結果をどう読むか——因果の方向が決まらない

「41%」「4.75倍」という数字は印象的です。しかしここには、結果の意味を根本的に左右する制約があります。

熟練者と初心者の比較は、無作為化されていません。 熟練者は「ヨガを長年続けてきた人」であり、初心者は「これから始める人」です。この2群は、ヨガ歴以外のあらゆる点で異なっている可能性があります。

  • 逆因果の可能性:もともと健康で炎症レベルが低い人のほうが、身体を動かす習慣を長く続けやすい。「ヨガが炎症を下げた」のではなく「炎症が低い人がヨガを続けた」のかもしれません。
  • 交絡の可能性:ヨガを長く続けている人は、食習慣・睡眠・喫煙・飲酒・BMI・社会経済的状況においても異なる傾向があります。IL-6 と CRP はこれらすべてに影響されます。とくに脂肪組織は IL-6 の主要な産生源であり、BMI の差だけで41%の差は生じうる大きさです。
  • 選択バイアス:ヨガが合わなかった人、続けられなかった人は「熟練者」に含まれません。残った人だけを見れば、その集団は選抜された集団です。

つまりこの研究は「ヨガを続けている人は炎症指標が低い」という関連を示したのであって、「ヨガが炎症を下げる」という因果を示したものではありません。 論文自体も慎重に書かれていますが、引用の過程でこの区別はしばしば失われます。

介入研究——遺伝子発現のレベルで

因果を検証するには、無作為化した介入試験が必要です。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のグループは、それを分子レベルで行いました。

Bower JE, Greendale G, Crosswell AD, Garet D, Sternlieb B, Ganz PA, Irwin MR, Olmstead R, Arevalo J, Cole SW. Yoga reduces inflammatory signaling in fatigued breast cancer survivors: a randomized controlled trial. Psychoneuroendocrinology. 2014;43:20–29.

持続的な倦怠感を抱える乳がんサバイバーを、12週間のアイアンガーヨガ群(16名)と健康教育群(15名)に無作為に割り付け、介入前・直後・3か月後に採血。末梢血の白血球からゲノムワイドの転写プロファイル(数万の遺伝子の発現量)を取得し、バイオインフォマティクス解析にかけました。

結果として、ヨガ群ではNF-κB 系の炎症性シグナル伝達に関連する遺伝子発現の低下が観察され、倦怠感と活力の改善も認められました。

無作為化されている——だが31名である

この研究は無作為化比較試験であり、横断研究の限界を克服しています。その点で価値があります。しかし、参加者は合計31名です。

網羅的な遺伝子発現解析では、数万の項目を一度に比較します。仮に何の効果もなくても、偶然に「有意差」が出る項目は必ず生じます。これに対処するための統計的補正や、あらかじめ定めた遺伝子セットで解析する手法が用いられますが、標本が小さいほど偶然の影響は大きく、再現性の保証は弱くなります。

加えて、この研究はがんサバイバーの倦怠感と睡眠の稿でも触れた通り、2012年に Cancer 誌で報告された臨床試験と同一の31名です。独立した2つの証拠ではありません。

正確な位置づけは「機序仮説を支持する、小規模で予備的な知見」です。「ヨガが炎症遺伝子の発現を下げることが証明された」と読むのは、研究が主張している範囲を超えています。

系統的レビューが示した全体像

個別の研究を離れて、全体としてどう見えるのか。慢性炎症に関連する疾患を持つ成人を対象とした系統的レビューがあります。

Djalilova DM, Schulz PS, Berger AM, Case AJ, Kupzyk KA, Ross AC. Impact of Yoga on Inflammatory Biomarkers: A Systematic Review. Biological Research for Nursing. 2019.

15件の一次研究が採用され、そのうち7件が「優」、8件が「平均的または可」と評価されました。測定された指標は IL-6(11件)、CRP(10件)、TNF(8件)が中心です。

結果として11件がヨガ介入前後で炎症指標の改善を報告し、著者らは IL-6・TNF-α・CRP の低下が見られると結論しました。さらに、総実施時間が1,000分を超える群でより大きな改善が見られるという用量反応的な傾向も報告されています。

ただし——「前後」であることの意味

この結論を読むときに押さえるべき点が2つあります。

第一に、報告の多くが介入前から介入後への変化(群内比較)です。群内の前後比較は、対照群との差を示すものではありません。時間経過、季節変動、測定の反復、平均への回帰——これらはすべて群内比較に入り込みます。とくに CRP は感染や外傷で大きく変動する指標であり、単発の測定値の変化を介入に帰属させるのは容易ではありません。

第二に、採用された研究の約半数が方法論的な質で「平均的または可」と評価されています。系統的レビューは含まれた研究の質を超えられません。

用量反応関係の所見も、慎重に扱う必要があります。総実施時間が長い研究は、介入期間も長く、参加者の動機づけも高く、指導の質も異なる可能性があります。「量が効く」のか「量を多く設定できるような条件の研究で効果が出やすい」のかは、この形の解析では分離できません。

測定そのものが難しいという事実

炎症指標は、思われているほど安定した数値ではありません。介入研究の結果を読むときには、測定に伴う変動の大きさを知っておく必要があります。

日内変動と生活要因

IL-6 には明確な日内変動があり、採血の時刻によって値が変わります。睡眠不足、直前の運動、飲酒、歯周病を含む軽微な感染、女性では月経周期——これらすべてが値を動かします。とくに激しい運動の直後には IL-6 が一過性に大きく上昇することが知られています。運動介入の研究で、最終セッションからの経過時間が統制されていなければ、それだけで結果が反転しかねません。

CRP の分布の偏り

高感度CRPは個人差が非常に大きく、分布が強く偏っています。ごく一部の被験者が極端に高い値を示すため、平均値は少数の外れ値に引きずられます。小標本の研究では、風邪をひいた被験者が一人いるだけで群平均が大きく動く。Kiecolt-Glaser らの研究が「CRPが検出される確率(オッズ比4.75)」という形で報告しているのは、この分布の偏りに対処するための妥当な処理です。

一点測定の限界

以上を踏まえると、介入前後に一度ずつ採血して比較する設計は、真の変化を捉えるには心もとないことが分かります。複数回の測定の平均を用いる、採血条件を厳密に統制する、といった対策が望ましいのですが、コストの制約からそこまで行う研究は多くありません。

「逆境への保存された転写応答」という枠組み

遺伝子発現を用いたアプローチの背景には、ひとつの理論的枠組みがあります。

慢性的な社会的ストレス・孤立・逆境にさらされた人の白血球では、炎症関連遺伝子の発現が上がり、抗ウイルス応答(I型インターフェロン系)と抗体産生に関わる遺伝子の発現が下がる——という、比較的一貫したパターンが観察されてきました。この遺伝子発現の型は「逆境への保存された転写応答(CTRA: conserved transcriptional response to adversity)」と呼ばれています。

この枠組みが魅力的なのは、単一の指標の上下ではなくパターンを見ることで、偶然の変動に強い評価ができる点です。Bower らの研究が NF-κB 系のシグナル伝達に着目したのも、この文脈にあります。

ただし、この枠組み自体がまだ発展途上です。CTRA を構成する遺伝子セットの定義、パターンの臨床的意味、そして「発現パターンが動いたこと」が身体に何をもたらすのかは、いずれも確立していません。分子レベルで測れるということと、その測定値が健康上の意味を持つということは、別の段階の主張です。

そもそも、運動一般の効果とどう区別するのか

ここで避けて通れない問いがあります。身体活動が炎症指標を下げることは、ヨガとは無関係に確立した知見です。 定期的な有酸素運動は、体脂肪の減少を介して、また骨格筋からのマイオカイン分泌を介して、慢性炎症を低下させることが知られています。

とすれば、ヨガの試験で炎症指標が下がったとして、それは「ヨガに固有の何か」なのか、それとも「身体を動かしたこと」なのか。この問いに答えるには、同じ時間・同じ頻度で別の運動を行う能動的対照群が必要です。

ところが、この領域の試験の多くは対照が通常ケア・待機リスト・健康教育です。Kiecolt-Glaser らの研究は運動対照を置いていますが、こちらは介入試験ではなく急性反応の比較でした。

結果として、ヨガ固有の抗炎症作用があるかどうかは、現時点で検証されていません。 「ヨガには抗炎症作用がある」という表現は、「身体活動には抗炎症作用があり、ヨガもその一種である」という意味であれば妥当ですが、「他の運動にはない特別な作用がある」という意味であれば根拠を欠きます。

「免疫力が上がる」という表現について

最後に、この領域で最も頻繁に見かける表現に触れておきます。「ヨガで免疫力が上がる」という言い方です。

免疫系は単一の能力ではありません。自然免疫と獲得免疫、細胞性免疫と液性免疫、粘膜免疫——機能の異なる多数のサブシステムから成り、互いに調節し合っています。ある指標が上がることが別の指標では下がることを意味する場合もあります。「免疫力」という単一の量は、生物学的に定義されていません。

本稿で扱ってきた IL-6・CRP・TNF-α は、いずれも炎症の指標であって、感染防御能力の指標ではありません。むしろこれらが下がることは、過剰な炎症が収まる方向の変化です。「炎症指標の低下」を「免疫力の向上」と言い換えるのは、意味の異なる2つの概念を混同しています。

では、感染防御能力そのものを測った研究はあるのか。免疫機能を直接評価する方法としては、ワクチン接種後の抗体価の上昇、遅延型過敏反応、上気道感染症の発症率などがあります。ヨガの介入研究でこれらを主要評価項目に置き、十分な規模で実施されたものは、現時点でほとんど見当たりません。

つまり「ヨガで感染しにくくなる」という主張には、支持する証拠も否定する証拠も乏しい。 検証されていないというのが正確な状態であり、この空白を「効果がある」で埋めることも「効果がない」で埋めることも、同じように不正確です。

整理

  1. 熟練者の炎症指標が低いという横断研究の所見があるが、因果の方向は決まらない。BMI などの交絡も排除されていない。
  2. 無作為化試験でNF-κB 系の遺伝子発現低下が報告されたが、31名の予備的知見。
  3. 系統的レビューは IL-6・TNF-α・CRP の低下を報告するが、多くが群内の前後比較であり、研究の質も一様でない。
  4. 能動的な運動対照を置いた試験がないため、ヨガ固有の作用は検証されていない
  5. 用量反応の示唆はあるが、交絡と区別できていない。

炎症という切り口は、心身の介入を分子レベルで語れるという点で魅力的です。だからこそ、測定値が一人歩きしやすい領域でもあります。測られたのは関連であって、因果ではない。 この区別を保ったまま読むことが、この分野の文献に対する最低限の作法です。

出典

  1. Kiecolt-Glaser JK, Christian L, Preston H, et al. Stress, inflammation, and yoga practice. Psychosomatic Medicine. 2010;72(2):113–121.
  2. Bower JE, Greendale G, Crosswell AD, Garet D, Sternlieb B, Ganz PA, Irwin MR, Olmstead R, Arevalo J, Cole SW. Yoga reduces inflammatory signaling in fatigued breast cancer survivors: a randomized controlled trial. Psychoneuroendocrinology. 2014;43:20–29.
  3. Djalilova DM, Schulz PS, Berger AM, Case AJ, Kupzyk KA, Ross AC. Impact of Yoga on Inflammatory Biomarkers: A Systematic Review. Biological Research for Nursing. 2019.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。炎症性疾患の治療中の方は、必ず担当の医療者にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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