ヨガが慢性腰痛に効くかどうかは、代替医療の研究のなかで最も多くの資金と労力が投じられてきたテーマのひとつです。米国国立衛生研究所(NIH)の助成を受けた大規模な無作為化比較試験が複数実施され、その結果はコクラン・レビューに統合され、さらに米国内科学会(ACP)の診療ガイドラインにまで反映されました。

つまりこの領域には、「効くらしい」という印象論ではなく、数字で議論できる材料が揃っています。ここではその材料を、都合の良い部分だけを抜き出さずに読みます。結論を先に述べると、ヨガは慢性腰痛に対して統計的には有意な改善をもたらすが、その大きさは臨床的に重要とされる水準には届かない。そして他の運動療法と比べて優れているという証拠はない——これが現時点での最も正確な要約です。

出発点となった米国の3つの試験

2005年:ヨガ対運動対書籍

最初の大きな一歩は、米国シアトルのグループ・ヘルス研究所で行われた無作為化比較試験でした。慢性腰痛を持つ成人を、ヴィニヨガ(治療的に調整されたハタヨガ)、運動療法クラス、自己管理のための書籍の3群に割り付け、12週後の腰の機能と症状を比較したものです。

Sherman KJ, Cherkin DC, Erro J, Miglioretti DL, Deyo RA. Comparing Yoga, Exercise, and a Self-Care Book for Chronic Low Back Pain: A Randomized, Controlled Trial. Annals of Internal Medicine. 2005;143(12):849–856.

この試験ではヨガ群が他の2群より良好な機能改善を示しました。内科系の主要誌に掲載されたこともあり、ヨガを腰痛の選択肢として位置づける流れを作った研究です。

2011年:ヨガ対ストレッチング

ところが同じグループが次に行った、当時としては米国最大規模のヨガ試験は、より慎重な解釈を要求するものでした。今度は比較の相手に「ストレッチングのクラス」を加えたのです。

Sherman KJ, Cherkin DC, Wellman RD, Cook AJ, Hawkes RJ, Delaney K, Deyo RA. A Randomized Trial Comparing Yoga, Stretching, and a Self-care Book for Chronic Low Back Pain. Archives of Internal Medicine. 2011;171(22):2019–2026.

ワシントン州の6都市で228名の成人を、75分のクラスを週1回12週間行うヨガ群(92名)、ストレッチング群(91名)、自己管理の書籍群(45名)に無作為に割り付けました。12週時点の結果は次の通りです。

比較Roland-Morris 障害尺度症状のつらさ
ヨガ 対 書籍−2.48(95%CI −3.70〜−1.26)−1.07(95%CI −1.75〜−0.41)
ヨガ 対 ストレッチング−0.30(有意差なし)−0.49(有意差なし)

26週時点でも、ヨガとストレッチングのあいだに有意差はありませんでした。有害事象は、ヨガ群87名・ストレッチング群75名のうちそれぞれ13名が軽度から中等度の事象(主に腰痛の増悪)を報告し、ヨガ参加者1名に椎間板ヘルニアが生じています。

これは重要な結果です。2005年の試験が示したのは「ヨガが何かをしている」ことでしたが、2011年の試験が示したのは「その何かは、ヨガに固有のものとは限らない」ということでした。呼吸法や瞑想的な要素を含まない単純なストレッチングでも同等の改善が得られるなら、効いているのは姿勢を取ること・身体を動かすこと・週に一度クラスに通うことそのものかもしれません。

2017年:ヨガ対理学療法の非劣性試験

3つ目は、ボストン大学のグループによる非劣性試験です。これは設計が特に丁寧で、対象者の選び方にも配慮がありました。

Saper RB, Lemaster C, Delitto A, et al. Yoga, Physical Therapy, or Education for Chronic Low Back Pain: A Randomized Noninferiority Trial. Annals of Internal Medicine. 2017;167(2):85–94.

320名の、主に低所得で人種的に多様な成人が対象でした。この点は軽視できません。運動療法の研究は参加者が比較的裕福で健康意識の高い層に偏りがちで、結果の一般化可能性が問われてきたからです。参加者は12週間のヨガクラス(週1回)、理学療法(15回)、教育資材(書籍とニュースレター)の3群に無作為に割り付けられ、その後40週間の維持期が続きました。

主要な結果は2つあります。

  • ヨガは理学療法に対して非劣性だった。 機能障害(RMDQ)と痛みの両方で、あらかじめ定めた非劣性マージンを満たしました(片側95%信頼下限はそれぞれ0.83と0.97)。
  • ヨガは教育群に対して優越ではなかった。 つまり「書籍とニュースレターを受け取っただけの群」と比べて、統計的に有意な差をつけられなかったということです。

この2つを並べると、解釈はこうなります。ヨガは理学療法という確立された治療と同等の結果を出せる。しかし「何もしないに近い対照」を上回れなかった以上、効果の大きさ自体がもともと控えめである可能性が高い。

なお、鎮痛薬の使用については差が出ています。12週時点でヨガ群・理学療法群は教育群よりそれぞれ21ポイント・22ポイント、鎮痛薬を使う割合が低くなりました。改善は1年時点でも維持されていました。

コクラン・レビューが統合した数字

個々の試験は偶然や偏りの影響を受けます。そこで同じ問いを扱った試験を系統的に集め、数値を統合するのがメタアナリシスです。腰痛とヨガについては、コクラン共同計画が2017年に初版を、2022年に更新版を公表しています。

Wieland LS, Skoetz N, Pilkington K, Harbin S, Vempati R, Berman BM. Yoga for chronic non-specific low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2022, Issue 11. Art. No.: CD010671.

2022年版は21試験・2,223名を統合しました。参加者の多くは40〜50代の女性で、米国・インド・英国・クロアチア・ドイツ・スウェーデン・トルコの研究が含まれます。

運動をしない対照との比較(3か月時点)

評価項目効果量尺度とMCID確実性
腰の機能MD −1.690〜24点/MCID 5点(11試験1,155名)
痛みMD −4.530〜100点/MCID 15点(9試験946名)
臨床的改善RR 2.33(4試験353名)

ここで決定的に重要なのが MCID という概念です。MCID(minimal clinically important difference:臨床的に意味のある最小変化量)とは、「患者本人が変化を実感できる最小の差」を指します。統計的に有意であることと、患者が違いを感じられることは別物です。

腰の機能の尺度(Roland-Morris 障害質問票)では、MCIDは概ね5点とされています。それに対してヨガ群と非運動群の差は1.69点でした。痛みの尺度(0〜100点)ではMCIDが15点、差は4.53点です。いずれも、意味のある差とされる水準の3分の1程度にとどまります。 コクランの執筆陣自身が、この差を「小さく、臨床的には重要でない(small and clinically unimportant)」と表現しています。

他の運動との比較

では、運動どうしの比較ではどうか。

  • 腰の機能:MD −0.38(4試験575名、確実性 中)——ほとんど差がない
  • 痛み:MD +2.68(2試験326名、確実性 非常に低い)——ほとんど差がない

2011年のヨガ対ストレッチング試験が示唆したことが、統合レベルでも再現されています。腰痛に対して、ヨガが他の背部運動より優れているという証拠はありません。

有害事象——増えるほうの数字

効果の話だけを書くのは不誠実です。コクラン・レビューは有害事象も統合しています。

  • 運動なし対照との比較:RR 4.76(確実性 低)——ヨガ群のほうが有害事象が多い
  • 他の運動との比較:RR 0.93——同程度

2017年版ではより直感的な数字が出ています。100人あたり約5件の有害事象の増加(6試験696名、確実性 中)。最も多い有害事象は「腰痛の増悪」でした。

これは当然といえば当然です。身体を動かせば、動かさない場合より何かが起きる確率は上がります。ただし重篤な有害事象との関連は示されていません。要するに、ヨガは「痛みが一時的に強まることがある」程度のリスクを伴う運動であり、その点では他の運動と変わらないということです。

ガイドラインはどう扱ったか

これだけ控えめな効果量でも、米国内科学会(ACP)の2017年ガイドラインはヨガを慢性腰痛の第一選択肢のひとつに含めました。

Qaseem A, Wilt TJ, McLean RM, Forciea MA. Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Annals of Internal Medicine. 2017;166(7):514–530.

このガイドラインは、慢性腰痛にはまず非薬物療法を選ぶよう推奨し、その選択肢として運動、多職種リハビリテーション、鍼、マインドフルネスストレス低減法、太極拳、ヨガ、運動制御訓練、漸進的弛緩法、筋電図バイオフィードバック、低出力レーザー、オペラント療法、認知行動療法、脊椎マニピュレーションを列挙しています。

なぜ小さな効果量でも推奨されるのか。理由は比較対象にあります。慢性腰痛に対する薬物療法——非ステロイド性抗炎症薬、筋弛緩薬、オピオイド——もまた効果は限定的で、しかも副作用と依存のリスクを伴います。小さな効果しかない運動であっても、副作用の小さい選択肢として合理性があるという判断です。ヨガが強く推奨されているのではなく、この一覧に並ぶ十数の選択肢が、いずれも「決定打ではないが試す価値はある」という位置づけなのです。

この証拠から何が言えるか

整理します。

  1. 慢性腰痛に対するヨガの効果は、統計的には確認されているが、臨床的に重要とされる大きさには届かない
  2. 他の運動療法・理学療法と比べて優れているという証拠はない。同等である可能性が高い。
  3. ストレッチングとの比較で差が出なかったことから、効果の源はヨガ固有の要素ではなく「動くこと」そのものである可能性が高い
  4. 有害事象は非運動群より多く、その大半は腰痛の一時的な増悪。重篤なものは報告されていない。
  5. ガイドラインが推奨するのは、効果が大きいからではなく、代替となる薬物療法の効果も限定的で副作用が大きいから

逆に言えば、腰痛を抱えている人にとってヨガは「試してみる価値のある運動の一つ」であり、「他の運動より選ぶべき特別な理由がある方法」ではありません。続けられる運動を選ぶことのほうが、種目の選択より重要である可能性が高い——研究が示しているのは、そういう地味な結論です。

なぜヨガの試験は「効果が小さく見える」のか

効果量が小さいという結果を額面通りに受け取る前に、この種の試験が抱える構造的な制約を押さえておく必要があります。制約は効果を過小に見せる方向にも、過大に見せる方向にも働きます。

盲検化ができない

薬の試験では、患者も医師もどちらの薬を使っているか分からない状態(二重盲検)を作れます。しかし運動療法では不可能です。参加者は自分がヨガクラスに通っているのか、書籍を渡されただけなのかを知っています。この時点で、期待による効果と、落胆による効果が結果に混ざります。

Saper らの2017年試験が「単盲検(single-blind)」と記載されているのは、評価者だけを盲検化できたという意味です。参加者本人の主観的な痛みの報告は、盲検化されていません。慢性痛の主要評価項目が本質的に主観的である以上、この問題は原理的に解消できません。

対照群の設計で結果が変わる

「運動なし」を対照にすれば差は出やすく、「別の運動」を対照にすれば差は消えます。コクラン・レビューの2つの比較(対非運動で MD −1.69、対他運動で MD −0.38)が、まさにその構図を示しています。

さらに厄介なのは、待機リスト対照(順番待ちのリストに入れられ、試験期間中は何もしない群)です。この設計は差を大きく見せる方向に働きます。何かをしてもらえると期待して参加した人が、何もしてもらえない状態に置かれると、症状の報告が悪化する傾向があるためです。統合された効果量のうち、どこまでが介入の効果で、どこまでが対照群の設計に由来するのかを分離するのは容易ではありません。

「ヨガ」という言葉が指す範囲が広すぎる

コクラン・レビューに含まれた21試験が用いた介入は、同じ「ヨガ」という名前でも中身が大きく異なります。ヴィニヨガのように治療目的に調整されたものもあれば、アイアンガーヨガのようにプロップ(補助具)を多用してアライメントを追求するもの、一定のシークエンスを反復するものもあります。週あたりの頻度も1回から2回、期間も6週から24週と幅があります。

この異質性は統計的な異質性として現れ、統合結果の確実性評価を下げる要因のひとつになります。裏を返せば、「ヨガ一般の効果」という問いの立て方そのものが、答えの解像度を下げているとも言えます。どのスタイルを、どの頻度で、どれだけの期間行ったのかを区別しない限り、平均値は平均値以上の意味を持ちません。

脱落とアドヒアランスの問題

12週間、週1回のクラスに通い続けるのは簡単ではありません。運動療法の試験では一定の脱落が必ず生じ、また出席率にもばらつきがあります。intention-to-treat 解析(割り付けられた通りに解析する方法)は結果を保守的に——つまり効果を小さく見せる方向に——評価します。これは方法論として正しいのですが、「毎週きちんと通った人に何が起きるか」という問いには答えていません。

「誰に効くのか」という問い

平均値の議論には限界があります。ある介入が平均して小さな効果しか示さない場合、可能性は2つあります。全員に小さな効果があるのか、それとも一部の人に大きな効果があり残りには効果がないのか。この2つは平均値では区別できません。

Sherman らの試験データを用いた事後解析(responder analysis:どのような特徴を持つ人が反応しやすいかを調べる解析)も行われています。ただし事後解析は仮説の検証ではなく仮説の生成であり、そこで見つかった特徴は改めて前向きの試験で確認される必要があります。現時点で、「この特徴を持つ人にはヨガが特に効く」と言えるだけの確立した予測因子は存在しません。

臨床の現場で行われているのは、結局のところ試行錯誤です。数週間試してみて、痛みの推移と生活の支障の度合いを観察し、続けるか別の方法に切り替えるかを判断する。エビデンスが示しているのは「その試行錯誤の候補リストにヨガを入れてよい」という程度のことであり、それ以上でも以下でもありません。

出典

  1. Wieland LS, Skoetz N, Pilkington K, Harbin S, Vempati R, Berman BM. Yoga for chronic non-specific low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2022, Issue 11. Art. No.: CD010671.
  2. Saper RB, Lemaster C, Delitto A, et al. Yoga, Physical Therapy, or Education for Chronic Low Back Pain: A Randomized Noninferiority Trial. Annals of Internal Medicine. 2017;167(2):85–94.
  3. Sherman KJ, Cherkin DC, Erro J, Miglioretti DL, Deyo RA. Comparing Yoga, Exercise, and a Self-Care Book for Chronic Low Back Pain: A Randomized, Controlled Trial. Annals of Internal Medicine. 2005;143(12):849–856.
  4. Sherman KJ, Cherkin DC, Wellman RD, Cook AJ, Hawkes RJ, Delaney K, Deyo RA. A Randomized Trial Comparing Yoga, Stretching, and a Self-care Book for Chronic Low Back Pain. Archives of Internal Medicine. 2011;171(22):2019–2026.
  5. Qaseem A, Wilt TJ, McLean RM, Forciea MA. Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Annals of Internal Medicine. 2017;166(7):514–530.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。腰痛の症状がある方、とくに脚のしびれ・脱力・排尿排便障害を伴う方は医療機関にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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