連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第9回です。
ここまでの8回は、原則そのものを扱ってきました。最終回の前に、それらの原則がどう「実装」されているかを見ます。リフォーマー、キャデラック、チェア——ジョセフ・ピラティスが設計した器具の多くは、ばねを動力源にしています。重りではなく、ばねです。
この選択には力学的な帰結があります。ばねの張力は伸びに比例して増えるため、可動域のどこにいるかによって負荷が変わる。重りを持ち上げるときのように一定ではありません。
結論を先に述べます。ばね負荷は可動域の途中で大きさが変わり、位置によっては抵抗にも補助にもなる。この特性は筋活動のパターンを変えるが、筋力の向上という結果では、重り負荷との差は確認されていない。器具は原則を実装する道具ですが、道具が優れているという証拠とは別の話です。

ばねと重りは、何が違うのか
重りを持ち上げるとき、重力が生む負荷は一定です。変わるのはてこの長さ、つまり関節から見た負荷の腕の長さだけで、ばねのように張力そのものが変わることはありません。
ばねは違います。自然長からの伸びが大きいほど張力が増します。その結果、動作の終わりに近づくほど負荷が重くなる。逆に、ばねが縮む方向へ身体が動くときには、ばねが動作を助けます。同じばねが、方向によって抵抗にも補助にもなるのがリフォーマーの特徴です。
この性質を、弾性バンドを使った実験から定量した研究があります。スクワットの一部の負荷を弾性バンドに置き換えたときの抵抗値を測ったものです。
Saeterbakken AH, Andersen V, Kolnes MK, Fimland MS. Effects of replacing free weights with elastic band resistance in squats on trunk muscle activation. Journal of Strength and Conditioning Research. 2014;28(11):3056-3062.
バンドがもっとも伸びる上の位置では、抵抗はフリーウェイトのみの条件の約117%、中間で105%、下の位置では93%でした。同じ一回の動作のなかで、負荷が最大と最小で四分の一近く違うということです。結果として、脊柱起立筋・外腹斜筋・腹直筋の筋電図活動には、どの局面でも有意差がありませんでした。
別の実験では、粘着点(もっとも力が出しにくい局面)に注目しています。
Saeterbakken AH, Andersen V, van den Tillaar R. Comparison of Kinematics and Muscle Activation in Free-Weight Back Squat With and Without Elastic Bands. Journal of Strength and Conditioning Research. 2016;30(4):945-952.
可変抵抗条件の総抵抗は、粘着点の手前で98%、粘着点で105%、粘着点の後で113%でした。バーの速度は、粘着点の手前で21.0%速く、粘着点の後では22.8%遅くなっています。筋電図活動・活動のタイミング・垂直移動距離には、粘着点後の移動距離を除いて有意差がありませんでした。
つまり、負荷の分布は確かに変わるが、筋電図に現れるほどの差にはならない場面が多い。この非対称は、ばね負荷を評価するうえで繰り返し現れます。力学的に説明がつくことと、身体の応答として測れることのあいだには、しばしば距離があります。
なお、これらはスクワットに弾性バンドを足した実験であり、リフォーマーそのものではありません。それでも「可動域のどこにいるかで負荷が変わる」という性質の大きさを、実測した数値で把握できる点に価値があります。リフォーマーのばねでも、原理は同じです。
補助としてのばね——重りにはできないこと
ばねのもうひとつの性質は、動作を助けられることです。重りは常に下へ引くだけで、持ち上がる方向に力を与えることはできません。ばねは張った状態から縮む向きに力を出すため、身体を引き上げたり、姿勢の保持を支えたりできます。
リフォーマーでこれが明確に現れるのが、台に乗って行う種目です。ばねが台を引き戻す向きに働くとき、それは抵抗になります。しかし台の上で身体を伸ばす方向に動くとき、同じばねが動作を補助する。フットワークのように脚で押す種目では抵抗として、ロングストレッチのように身体を支える種目では補助として働きます。
この「補助にもなる」性質は、可動域の制限がある人や、自重では姿勢を保てない人にとって実務的な意味を持ちます。第6回で見たとおり、フォームの評価は観察者によって揺れますが、そもそも姿勢を保てなければ評価の対象にもなりません。ばねは、課題を成立させるための下駄でもあります。
ただし、この点を定量した研究は見当たりませんでした。補助の量がどれだけで、それが学習にどう影響するかは、測られていません。理屈としては妥当でも、証拠としては空白です。

弾性抵抗と重り、筋活動の統合
個々の研究ではなく、全体を統合した結果を見ます。
Aboodarda SJ, Page PA, Behm DG. Muscle activation comparisons between elastic and isoinertial resistance: A meta-analysis. Clinical Biomechanics. 2016;39:52-61.
| 筋の役割 | 効果量(95%CI) | p値 |
|---|---|---|
| 主動筋 | -0.037(-0.202〜0.128) | 0.660 |
| 拮抗筋 | 0.089(-0.112〜0.290) | 0.385 |
| 協働筋 | -0.133(-0.342〜0.076) | 0.213 |
| 安定筋 | 0.142(-0.006〜0.289) | 0.060 |
いずれも有意差がありません。著者らの結論は明快です。弾性抵抗は、慣性抵抗(重り)と同程度の筋活動をもたらし、「弾性バンドでは十分な筋活動が得られない」という従来の批判は支持されない。同じ外的抵抗が用いられるかぎり、同程度の適応が期待できるだろう、とも述べています。
筋力の変化についても統合があります。弾性デバイスと従来のデバイス(ウェイトマシンやダンベル)を比べた8本の研究では、下肢の筋力(SMD -0.11、95%CI -0.40〜0.19、p=0.48)にも上肢の筋力(SMD 0.09、95%CI -0.18〜0.35、p=0.52)にも優劣がありませんでした。Lopesらは、弾性抵抗トレーニングが従来のトレーニングと同程度の筋力向上をもたらすと結論しています。
この結果は、リフォーマーの位置づけを考えるうえで重要です。ばねだから優れている、という主張には根拠がない。同時に、ばねだから足りない、という主張にも根拠がありません。どちらでもない、というのが統合された答えです。
ここで注意しておきたいのは、これらの研究が扱っているのが弾性バンドやチューブであって、リフォーマーのばねそのものではないという点です。バンドは伸びるほど張力が増しますが、コイルばねの特性は素材と構造によって異なります。方向性としては参考になりますが、数値をそのままリフォーマーに移すことはできません。ピラティスの器具を対象に、重り負荷と比較した長期の試験は見当たりませんでした。
もうひとつ、Aboodardaらが付した条件も重要です。「同じ外的抵抗が用いられるかぎり」同程度の適応が期待できる、という但し書きです。裏を返せば、抵抗の大きさが揃っていなければ結論は成り立ちません。ばね張力の記述が曖昧なまま「リフォーマーのほうが効く」と言うことは、この条件を満たしていないことになります。
リフォーマーのばねを変えると何が起きるか
ピラティスの器具そのものを使った研究も、少数ながら存在します。
Kim HJ, Sung JH, Ryu JK, Jung HC, Wang J. Effect of Reformer Spring Resistance Modifications on Core Muscle Activity During Basic Core Muscle Exercises. Healthcare. 2024;12(23):2447.
健常女性18名(29.83±4.22歳、164.98±4.14 cm、53.67±5.32 kg)が、ヒップロール・ニーオフ・エレファントの3種目を、3つのばね条件——台を固定した条件、中程度の抵抗のばね、低い抵抗のばね——で行いました。
結果は直感に反します。ヒップロールでは、低い抵抗のばねのほうが腹直筋・脊柱起立筋・多裂筋・大腿二頭筋の活動が有意に高くなりました(p<0.001)。ニーオフでも、固定条件より低抵抗のばねのほうが腹直筋・内腹斜筋・脊柱起立筋・多裂筋の活動が高く、エレファントでも同様でした。
説明はこうです。ばねの抵抗が低いほど、台は不安定になります。負荷の大きさではなく、支持面の不安定さが筋活動を決めていた。著者らは、リフォーマーを用いた運動を設計するとき、台の不安定性を重要な要素として考慮すべきだと述べています。
ただし、別の研究は逆方向の所見も報告しています。リフォーマー上のサイドスプリット(股関節外転)を、重いばねと軽いばねで比較した実験です。
Lee K. Motion Analysis of Core Stabilization Exercise in Women: Kinematics and Electromyographic Analysis. Sports. 2023;11(3):66.
健常女性28名を対象としたこの研究では、中殿筋・内腹斜筋・多裂筋は重いばねでより活動し、長内転筋は軽いばねでより活動しました。股関節の動きは軽いばねのほうが左右対称で可動域も大きく、重いばねのほうが体幹と骨盤の重心移動が少なく安定していました。
整理すると、こうです。サイドスプリットでは、ばねが股関節の外転そのものに抵抗します。重いばねなら外転筋(中殿筋)が強く働き、体幹の安定筋も動員されます。軽いばねでは抵抗が減るぶん可動域が広がり、内転筋が戻す局面で働く。ばねの重さが、どの筋の出番を作るかを決めているということです。
二つの研究が逆に見えるのは、種目が違うからです。ヒップロールやニーオフでは台の上に身体があり、ばねが軽いほど台が動きやすくなって不安定さが増します。サイドスプリットでは、ばねが直接に外転の負荷を作ります。ばねは負荷装置であると同時に、支持面の安定性を決める装置でもある——この二重の役割が、器具を使った研究の解釈を難しくしています。

ばねは6原則をどう支えているか
力学の話を、原則の話に戻します。器具が原則の実装だとすれば、ばねの性質はどの原則に対応しているのでしょうか。
コントロール(第4回)。ばねは、動作を止めると戻ろうとします。したがって、ゆっくり動くには常に力を出し続けなければなりません。重りなら支点で休めますが、ばねでは休めない。「ゆっくり動く」ことを物理的に強制する装置と言えます。
フロー(第7回)。ばねが戻る力は、次の動作への助走になります。動きを途切れさせない構成は、この復元力を使うことで自然に成立します。第7回で見たとおり、休息が60秒以下だと代謝強度が上がるという所見がありました。
センタリング(第2回)。Kimらの研究が示したとおり、台が不安定になるほど体幹の筋活動は上がります。ばねの設定は、中心への要求を調節するつまみでもあります。
ただし、これらはいずれも「そう説明できる」という水準であって、「そう検証された」わけではありません。ばね負荷が原則の獲得を助けるかどうかを、ばねのない条件と比べて確かめた試験は見当たりませんでした。連載を通して繰り返し現れてきた空白が、ここにもあります。
これらの研究の限界
ばね負荷の研究には、明確な弱点が三つあります。
- 参加者が少なく、偏っている。 リフォーマーを扱った研究は18名・28名といった規模で、いずれも健常な若年女性でした。統計的な検出力も一般化可能性も限られます。
- 急性の測定にとどまる。 筋電図の値は一回の測定です。ばね設定の違いを何週間も続けたとき、筋力や動作の質がどう変わるかを追った試験は見当たりませんでした。弾性抵抗と重りの長期比較は一般的な筋力トレーニングの文脈では行われていますが、リフォーマーでは行われていません。
- ばね張力そのものの標準化がない。 メーカーや機種によって、ばねの色や本数が示す張力は異なります。「赤2本」という指定が別のスタジオで同じ負荷を意味する保証はありません。第1回で見た定義のずれが、ここでは物理的な形で現れています。負荷が記述できないなら、研究の再現もできません。
この知見は現場の何を変えるか
変わらないこと。器具を使う意味は残ります。ばねは可動域の一部で動作を助けるため、自重では成立しない姿勢を安全に保てます。負荷を細かく調整できることも、段階を踏むうえで有利です。可動域の広い動きを安全に扱えることは、マットでは得にくい利点です。
変わること。「ばねが軽い=楽」という理解は正しくありません。台が動く種目では、ばねを軽くするほど不安定になり、体幹の筋活動はむしろ高まります。ばねの設定は「強度の目盛り」ではなく、課題の性質を変える切り替えスイッチと考えるほうが実態に近いといえます。
負荷の記録について。ばね張力に標準がない以上、記録は自分の環境のなかでしか意味を持ちません。それでも「どの種目を、どの設定で、どれだけ行ったか」を残しておけば、進み具合は追えます。第1回で見たとおり、質の高い臨床試験ですら介入の記述は不十分でした。現場の記録が論文より粗いことに、後ろめたさを感じる必要はありません。
器具かマットか。第2回で見たとおり、Werbaらの研究ではティーザーという種目でリフォーマーとマットのあいだに筋活動の差がありませんでした。第7回で見たde Souza Andradeらのエネルギー消費の測定では、リフォーマーのほうが高い値でしたが、どちらも心血管系への負荷は低い水準にとどまっています。器具とマットを比べた既存の記事も同じ方向を示しています。器具は選択肢を増やしますが、結果を保証する装置ではありません。
次回予告
第10回は連載の総括です。センタリング・コンセントレーション・コントロール・プリシジョン・呼吸・フローの6原則を、「支持する証拠がある」「間接的」「検証されていない」の三つに仕分けます。
この連載の全10回
- 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ
- 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像
- 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか
- 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか
- 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
- 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
- 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか
- 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動
- 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学(この記事)
- 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの
出典
- Saeterbakken AH, Andersen V, Kolnes MK, Fimland MS. Effects of replacing free weights with elastic band resistance in squats on trunk muscle activation. Journal of Strength and Conditioning Research. 2014;28(11):3056-3062.
- Saeterbakken AH, Andersen V, van den Tillaar R. Comparison of Kinematics and Muscle Activation in Free-Weight Back Squat With and Without Elastic Bands. Journal of Strength and Conditioning Research. 2016;30(4):945-952.
- Aboodarda SJ, Page PA, Behm DG. Muscle activation comparisons between elastic and isoinertial resistance: A meta-analysis. Clinical Biomechanics. 2016;39:52-61.
- Lopes JSS, Machado AF, Micheletti JK, de Almeida AC, Cavina AP, Pastre CM. Effects of training with elastic resistance versus conventional resistance on muscular strength: A systematic review and meta-analysis. SAGE Open Medicine. 2019;7:2050312119831116.
- Kim HJ, Sung JH, Ryu JK, Jung HC, Wang J. Effect of Reformer Spring Resistance Modifications on Core Muscle Activity During Basic Core Muscle Exercises. Healthcare. 2024;12(23):2447.
- Lee K. Motion Analysis of Core Stabilization Exercise in Women: Kinematics and Electromyographic Analysis. Sports. 2023;11(3):66.
- Werba DD, Cantergi D, Tolfo Franzoni L, et al. Electrical Activity of Powerhouse Muscles During the Teaser Exercise of Pilates Using Different Types of Apparatus. Perceptual and Motor Skills. 2017;124(2):452-461.
- de Souza Andrade L, da Silva Almeida I, Mochizuki L, et al. What is the exercise intensity of Pilates? An analysis of the energy expenditure, blood lactate, and intensity of apparatus and mat Pilates sessions. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;26:36-42.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。器具を用いた運動は、設定や姿勢によって関節への負担が大きく変わります。痛みや関節の不安定感がある場合、手術後や骨粗鬆症の指摘がある場合は、開始前に主治医または整形外科などの医療機関にご相談ください。






