連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第1回です。

この連載は、ピラティスが効くか効かないかを論じるものではありません。扱うのは、その手前にある「なぜそう教えるのか」です。中心を意識せよ、ゆっくり動け、正確に、流れるように、集中して、呼吸を合わせて——指導の言葉として繰り返されるこれらの原則は、どこから来て、どこまで実験で確かめられているのか。全10回かけて、原則をひとつずつ研究の記録に照らしていきます。

まず出発点として、言葉そのものを疑うところから始めます。研究論文が「ピラティス」と書くとき、そこで行われた運動は本当に同じものなのか。指導者どうしでさえ、その定義は一致しているのか。

結論を先に述べます。ピラティスという語は、研究の世界でも現場でも一つの内容を指しておらず、6原則は創始者本人が書き残した定義ではなく、後世の整理である。この「定義のずれ」は、原則を検証しようとするすべての研究に影を落としています。

ピラティスの6原則を科学で検証する 第1回 ピラティスとは何だったのか起源6原則現代の定義のずれ|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

「6原則」は誰が整理したのか

ジョセフ・ピラティス(1883-1967)は、自らの体系をコントロロジー(contrology)と呼びました。彼が遺した著作は薄く、そこに「6つの原則」という番号つきの一覧は現れません。センタリング(中心)・コンセントレーション(集中)・コントロール(制御)・プリシジョン(精度)・ブレス(呼吸)・フロー(流れ)という6項目は、後継者と教育団体が彼の文章と指導実践から抽出し、教えやすい形に整えたものです。

この出自は重要です。原則は仮説として提示されたのではなく、指導の言葉として流通しました。つまり最初から検証を前提にした命題ではなかった。にもかかわらず今日では、あたかも生理学的な根拠のある指示であるかのように語られます。この連載が確かめたいのは、まさにその隔たりです。

もうひとつ押さえておきたいのは、彼が想定していた実践の形です。ジョセフ・ピラティスの体系は、ばねを組み込んだ専用の器具を前提にした部分が大きく、マット上の種目はその一部でした。今日広く行われているマット中心のクラスや、器具を一台だけ使うクラスは、原型の一部を取り出した形態にあたります。名前は同じでも、扱う道具・負荷・順序が違えば、身体に起きることも違う。器具とマットを比べた研究はすでに別の記事にまとめていますが、ここで確認したいのはもっと手前のこと——比較の土俵そのものが揃っていないという事実です。

研究論文の中で「ピラティス」は何を指しているか

この問いに正面から答えたのが、査読論文119本を内容分析した系統的レビューです。ピラティスがどう定義されているかを、健常者を対象とした論文と腰痛患者を対象とした論文とで比較しました。

Wells C, Kolt GS, Bialocerkowski A. Defining Pilates exercise: a systematic review. Complementary Therapies in Medicine. 2012;20(4):253-262.

共通して挙がったのは、心身をつなぐ運動であること、筋力・体幹の安定・柔軟性・筋の制御・姿勢・呼吸に焦点を置くこと、マットでも器具でも行えることでした。ここまでは概ね一致しています。

問題は原則の扱いです。センタリング・集中・コントロール・精度・流れ・呼吸という伝統的な6原則に言及していた論文は、平均して全体の23%にとどまりました。しかも腰痛患者を扱った論文では、呼吸を除いてこれらの原則がほとんど触れられていませんでした。姿勢についての記述は、腰痛群を扱う論文のほうが統計的に有意に多いという差も出ています。

言い換えれば、臨床研究が検証してきた「ピラティス」の多くは、原則を明示しないまま行われた運動でした。効果が出たとしても、それが原則によるものかどうかは、その設計からは答えられません。

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教える側でも定義は割れている

では現場ではどうか。器具を用いる指導者を対象とした国際的なオンライン調査があります。

Lewitt MS, McPherson L, Stevenson M. Development of a Pilates Teaching Framework from an international survey of teacher practice. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2019;23(4):943-949.

回答した109名のうち、英国が35%、米国が32%でした。自らを「クラシカル」と位置づけた指導者が48%、「コンテンポラリー」が32%、両方が5%、マットのみの指導者が15%。両者は扱う器具・種目・順序の理解では一致していたものの、互いの実践を語る言葉には対立がありました。クラシカル側は自分たちを本物と表現し、コンテンポラリー側はクラシカルを厳格で融通が利かないと述べています。

興味深いのは、どちらの立場の指導者も実際には両方の要素を取り入れている場合があったという指摘です。看板の違いと中身の違いが一致していない。研究者が論文に「ピラティス」と書き、読者がそれを自分の知る実践に読み替えるとき、ずれが生じる理由がここにあります。

何をしたのかが、論文に書かれていない

定義のずれは、報告の不備として測ることもできます。腰痛に対するピラティスの無作為化比較試験のうち、方法論的な質が中程度から高いと判断された10本を選び、運動介入の記述がどれだけ再現可能かを3つの評価票で採点した研究があります。

Barros BS, Imoto AM, O’Neil J, et al. The management of lower back pain using pilates method: assessment of content exercise reporting in RCTs. Disability and Rehabilitation. 2022;44(11):2428-2436.

結果は、CONTENT尺度が9点満点中5.3点(標準偏差1.33)、TIDieRチェックリストが12点満点中8.5点(同1.71)、CERTチェックリストが19点満点中9.5点(同3.62)。質が高いとされた試験ですら、どの種目をどの強度で何回、どう進めたのかが十分に書かれていないということです。

健常者を対象とした16本の試験をまとめたレビューでも、方法論的な厳密さを示すPEDroスコアは3から7の範囲、平均4.1にとどまり、著者らはこれを科学的厳密さが低い水準と評しています。Cruz-Ferreiraらは、盲検化・割り付けの隠蔽・脱落の扱い・追跡設計を今後の課題として挙げました。

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それでも効果はあるのか——測れている範囲

定義が曖昧でも、臨床試験の結果そのものは存在します。非特異的腰痛に対するピラティスのコクラン・レビューは、10本の試験・計510名を統合しました。

Yamato TP, Maher CG, Saragiotto BT, et al. Pilates for low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(7):CD010265.

比較アウトカム結果(0-100換算)確実性
ピラティス 対 最小限の介入痛み(短期)MD -14.05(95%CI -18.91〜-9.19)低
ピラティス 対 最小限の介入機能障害(短期)MD -7.95(95%CI -13.23〜-2.67)低
ピラティス 対 他の運動機能障害(短期)MD -3.29(95%CI -6.82〜0.24)中
ピラティス 対 他の運動機能障害(中期)MD -0.91(95%CI -5.02〜3.20)中

読み方はこうです。ほとんど何もしない対照と比べれば差が出る。しかし他の運動と比べると、信頼区間が0をまたぎ、差は確認できない。レビューの著者らは「どの比較・どのアウトカム・どの追跡時期についても質の高いエビデンスは見つからなかった」と明記し、ピラティスを選ぶかどうかは患者や提供者の好みと費用によってよい、と結論づけています。

その後の系統的レビューでも構図は変わりません。Wongらは11本の試験をまとめ、一般的な運動と比べた痛みの減少(効果量0.44、確実性は低い)と、方向特異的運動と比べた痛みの減少(効果量0.65、確実性は非常に低い)を報告しましたが、脊椎安定化運動とは同等でした。

有害事象はどうか。腰痛に対する運動療法と身体活動を、系統的レビュー70本から見渡した包括的レビューがあります。

Comachio J, Beckenkamp PR, Ho EK, et al. Benefits and harms of exercise therapy and physical activity for low back pain: an umbrella review. Journal of Sport and Health Science. 2025;14:101038.

有害事象に触れていたレビューは31%未満で、報告された内容は運動後の筋肉痛や一時的な痛みの増悪が中心、重篤なものの報告はありませんでした。ただしこれを「安全が確かめられた」と読むのは誤りです。正しくは、そもそも測って報告している研究が少ないため、害について言えることが少ないということです。効果の推定にはグレードがつくのに、害の推定にはつけられるだけの材料がない——この非対称は、運動療法の研究全体が抱える弱点です。個別の疾患ごとの数字は腰痛に対するピラティスの記事と安全性の記事にまとめてあります。

この分野の試験に共通する弱点

数字の読み方をさらに一段細かくしておきます。運動療法の試験には、薬物試験にはない構造的な弱点がいくつもあり、それを知らずに効果量だけを見ると過大評価になります。

第一に、盲検化ができません。参加者は自分がピラティスをしているのか、書籍を渡されただけなのかを知っています。指導者も知っています。痛みや障害度といった主観的なアウトカムでは、この「知っていること」が結果に入り込みます。Cruz-Ferreiraらが今後の試験の課題として真っ先に盲検化を挙げたのは、この問題が解けていないからです。

第二に、対照群の設計しだいで結論が変わります。コクラン・レビューに含まれた10本のうち、6本は最小限の介入との比較、4本は他の運動との比較でした。前者では差が出て、後者では消える。同じ介入なのに、比べる相手を替えるだけで結論の向きが変わるということです。どちらが「正しい」比較かは、何を知りたいかによります。運動をするかしないかを迷っている人には前者が、どの運動にするかを迷っている人には後者が答えになります。

第三に、追跡が短いのです。同レビューが設定した時期区分は、短期が3か月未満、中期が3か月以上12か月未満でした。1年を超える追跡はほとんど行われていません。腰痛が再発を繰り返す経過をたどることを考えると、この短さは無視できない制約です。

第四に、研究の質そのものにばらつきがあります。10本のうち低リスクと判定されたのは7本、高リスクが3本でした。そもそも126本の試験が検索でヒットして、選択基準を満たしたのが10本という数の少なさも、この分野の成熟度を示しています。

Comachioらの包括的レビューも、70本のレビューのうち43本がメタ分析を伴い、7本がネットワークメタ分析、20本はメタ分析なしという構成でした。統合の方法が揃っていない文献群を、さらに束ねて読んでいることになります。これらはピラティスを否定する材料ではなく、どの程度の確からしさで語ってよいかの目盛りです。

定義のずれが残す3つの問題

  • 比較ができない。 種目も器具も進め方も違うものを同じ名前で束ねているため、試験間の差が方法の差なのか偶然なのか判別しにくくなります。統合したときの異質性が大きくなる原因のひとつです。
  • 機序が特定できない。 原則を明示しない介入で効果が出ても、効いたのが中心の意識づけなのか、ゆっくり動いたことなのか、週に一度通ったことなのかを切り分けられません。
  • 再現ができない。 報告の採点が示すとおり、論文を読んでも同じ介入を組み直せない。良い結果が出た試験を現場に持ち込むときの障害になります。

三つ目は軽く見られがちですが、実務上いちばん重い問題です。ある試験で良好な結果が出たとして、それを再現するには、どの種目をどの順で、どれだけの負荷と回数で、どう修正しながら進めたのかが必要になります。CONTENT尺度やCERTチェックリストが測っているのはまさにその情報量であり、それが半分に満たないということは、論文の結論だけが独り歩きしうるということです。

付け加えると、この問題はピラティスに固有ではありません。運動療法の研究全般で、介入の記述は薬物試験の用量記述に比べて粗いままです。ただピラティスの場合、名前が指す範囲がもともと広いぶん、影響がより大きく出ます。

原則を検証するとは、どういう作業か

原則は「よい結果が出た」では確かめられません。確かめるには、原則を一段ずつ分解する必要があります。第一に、その原則が主張する身体の現象が、実際に測定できるかどうか。中心の筋が働いているなら筋電図や超音波に現れるはずで、腹腔内圧が上がるなら圧センサーに出るはずです。

第二に、その現象が起きている人と起きていない人で、結果に差があるかどうか。現象が測れても、痛みや機能の改善と結びついていなければ、それは原則を支持する根拠になりません。第三に、その原則を含む指導と、含まない指導を並べて比べたとき、差が出るかどうか。ここまで揃って初めて「原則が効いている」と言えます。

この三段階を意識して読むと、既存の研究がどの段階で止まっているかが見えてきます。多くは第一段階——現象は測れている——までで、第二段階で否定され、第三段階はそもそも実施されていない。第3回で扱う腹横筋は、その典型例です。

この連載が確かめること

以上を踏まえ、この連載では原則をひとつずつ、次の順で扱います。第2回は「センタリング」。中心とは解剖学的に何を指し、その活動は測れているのか。第3回は腹横筋——ピラティスとその周辺でもっとも強く語られてきた筋であり、もっとも強い反論を受けてきた筋でもあります。第4回はコントロール、第5回は呼吸。後半では精度・流れ・集中と、器具がそれらをどう実装するのかを扱い、最終回で「検証されたもの」と「されていないもの」を仕分けます。

読むときの約束をひとつ置きます。統計的に有意であることと、本人が違いを感じられることは別です。この連載では、その二つを毎回分けて書きます。効果が示されなかった領域も、同じ分量で扱います。

最後に、この記事の内容が現場の何を変え、何を変えないかを書いておきます。変えないのは、運動を続けるという判断そのものです。腰痛に対して運動が最小限の介入より良い結果をもたらすことは、複数のレビューで一致しています。定義が曖昧だからやめたほうがよい、という話にはなりません。

変わるのは、説明の仕方です。「ピラティスは研究で効果が証明されている」という言い方は、この分野の証拠の質に照らして強すぎます。より正確には、「ほとんど何もしない場合と比べれば改善が示されているが、他の運動より優れているとは示されていない」。そして、どの種目をどう行うかは、論文からは十分に読み取れない。選ぶ基準は、続けられるかどうかと、自分に合っているかどうかに置くのが、証拠に整合します。

次回予告

第2回は「センタリングと『パワーハウス』——中心という概念の実像」を扱います。骨盤底から横隔膜までを指すとされるこの領域が、筋電図の測定で実際にどう働いているのか。そして「体幹が安定していれば腰は痛まない」という前提が、どこで反証されているのかを見ます。

この連載の全10回

  1. 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ(この記事)
  2. 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像
  3. 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか
  4. 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか
  5. 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
  6. 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
  7. 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか
  8. 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動
  9. 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学
  10. 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの

出典

  1. Wells C, Kolt GS, Bialocerkowski A. Defining Pilates exercise: a systematic review. Complementary Therapies in Medicine. 2012;20(4):253-262.
  2. Lewitt MS, McPherson L, Stevenson M. Development of a Pilates Teaching Framework from an international survey of teacher practice. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2019;23(4):943-949.
  3. Barros BS, Imoto AM, O’Neil J, et al. The management of lower back pain using pilates method: assessment of content exercise reporting in RCTs. Disability and Rehabilitation. 2022;44(11):2428-2436.
  4. Cruz-Ferreira A, Fernandes J, Laranjo L, Bernardo LM, Silva A. A systematic review of the effects of pilates method of exercise in healthy people. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2011;92(12):2071-2081.
  5. Yamato TP, Maher CG, Saragiotto BT, et al. Pilates for low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(7):CD010265.
  6. Wong CM, Rugg B, Geere JA. The effects of Pilates exercise in comparison to other forms of exercise on pain and disability in individuals with chronic non-specific low back pain: a systematic review with meta-analysis. Musculoskeletal Care. 2023;21(1):78-96.
  7. Comachio J, Beckenkamp PR, Ho EK, et al. Benefits and harms of exercise therapy and physical activity for low back pain: an umbrella review. Journal of Sport and Health Science. 2025;14:101038.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。腰や首の痛みが強い場合、足のしびれや力の入りにくさ、発熱、体重減少、夜間に強まる痛みを伴う場合は、運動を始める前に整形外科などの医療機関にご相談ください。

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