連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第2回です。
ピラティスのクラスでもっとも頻繁に出る指示は、おそらく「中心から動いて」でしょう。センタリング(centering)は6原則の筆頭に置かれることが多く、後継者たちはその中心をパワーハウス(powerhouse)と呼びました。下は骨盤底、上は横隔膜、前は腹壁、後ろは腰背部——胴体の中央にある筒のような領域を指す言葉です。
問題は、この呼び名が解剖学の用語ではないことです。パワーハウスはどの教科書にも載っていない造語で、どの筋を含めるかは流派によって揺れます。では、そこを「使う」という指示は、身体の何を動かしているのか。
結論を先に述べます。中心の筋が働いていることは筋電図で確かに測れる。しかし「中心が安定していれば腰は痛まない」という前提のほうは、支持されていない。測れることと、それが結果を説明することは別の問題です。

パワーハウスはどこを指すのか
実験で扱われるパワーハウスの構成筋は、研究ごとに少しずつ違います。腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋・腹直筋といった腹壁の層、多裂筋・腸肋筋といった脊柱まわり、そして骨盤底筋と横隔膜。さらに股関節まわりの大殿筋・中殿筋・内転筋群を含める研究もあります。
含める筋が違えば、測る対象も違います。腹壁の深層だけを見る研究と、股関節まわりまで含める研究では、同じ「パワーハウスの活動」という言葉が別の量を指すことになります。研究どうしを足し合わせにくいのは、このためです。
ただし、用語として曖昧であることは、指示として無意味であることを意味しません。「中心から動く」という言葉は、注意をどこへ向けるかを指定する道具でもあります。注意の向け方が筋活動を変えるかどうかは、第8回で扱います。ここではまず、この領域の筋が実際にどう働いているかを見ます。
この揺れ自体が、第1回で見た定義のずれの一例です。Wellsらのレビューでは、伝統的な6原則に触れていた論文は平均23%にとどまり、腰痛患者を対象とした論文では呼吸以外の原則がほとんど言及されていませんでした。センタリングは、指導の現場では中心にありながら、研究の記述からは抜け落ちやすい概念だということになります。
「中心を使う」は測れるのか
センタリング原則そのものを実験の対象にした、数少ない研究があります。ピラティス未経験の若年成人18名を、腰痛のある群8名と対照群10名に分け、座位で内腹斜筋の等尺性収縮——すなわちセンタリングの操作——を行わせ、筋電図を記録したものです。
Marques NR, Morcelli MH, Hallal CZ, Gonçalves M. EMG activity of trunk stabilizer muscles during Centering Principle of Pilates Method. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2013;17(2):185-191.
結果は明快でした。多裂筋と内腹斜筋の活動、および内腹斜筋と多裂筋の同時収縮の指標は、いずれも対照群のほうが高かったのです。つまり腰痛のある人のほうが、同じ指示を受けても中心の筋を動員できていませんでした。
この所見は二通りに読めます。「だから腰痛の人には中心を鍛える訓練が要る」と読むこともできますし、「痛みがあると動員が変わる」という結果として読むこともできます。横断的な比較なので、どちらが原因でどちらが結果かはこの研究からは決まりません。第3回で扱う腹横筋をめぐる論争も、まさにこの因果の向きが争点になります。

姿勢を変えると、活動する筋が入れ替わる
センタリングの指示は、たいてい「骨盤をニュートラルに」という姿勢の指示と一緒に出されます。この姿勢の違いが筋活動に与える影響を、四つん這い位の4種のピラティス種目で比べた研究があります。
Queiroz BC, Cagliari MF, Amorim CF, Sacco IC. Muscle activation during four Pilates core stability exercises in quadruped position. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2010;91(1):86-92.
ピラティスの経験がある健常者19名(平均年齢31歳)を対象に、骨盤を後傾させて体幹を屈曲した姿勢、前傾させて伸展した姿勢、ニュートラルで体幹を傾けた姿勢、ニュートラルで体幹を床と平行にした姿勢の4通りで、腸肋筋・多裂筋・大殿筋・腹直筋・内外腹斜筋の活動を記録しました。
| 骨盤と体幹の位置 | とくに活動が高まった筋 |
|---|---|
| 後傾・体幹屈曲 | 外腹斜筋、大殿筋 |
| 前傾・体幹伸展 | 多裂筋 |
| ニュートラル | いずれの筋も活動が低い |
注目すべきは最終行です。指導でもっとも推奨されるニュートラルな骨盤位が、測定上はすべての筋の活動がもっとも低い条件でした。腹直筋の活動だけは4条件で同程度で、骨盤と体幹の位置に影響されませんでした。著者らはこれを、ニュートラル位では骨盤の安定が保たれているため大きな筋活動を要さないのだと解釈しています。
ここから言えるのは、「中心を使っている感じ」と「筋活動が大きいこと」は同じではないということです。強く使う姿勢を選べば筋電図の値は上がりますが、それが目的に適うかどうかは別に決めなければなりません。
経験者と未経験者では、使い方が違う
センタリングが技能であるなら、練習で変わるはずです。リフォーマー上のニースストレッチを3つの骨盤位で行わせ、経験者16名と未経験者16名、計32名を比較した研究があります。
Lee K. The Relationship of Trunk Muscle Activation and Core Stability: A Biomechanical Analysis of Pilates-Based Stabilization Exercise. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;18(23):12804.
経験者は未経験者に比べ、腹直筋より内腹斜筋を優位に働かせ、腸肋筋より多裂筋を優位に働かせていました。差がもっとも大きかったのは骨盤を後傾させた条件です。運動学的なデータと筋活動の間には中程度の相関が認められ、体幹の安定が保たれているほど、可動させる分節の動きは大きく正確になっていました。
これは「センタリングは学習できる」という主張を支持する所見です。ただし横断研究であり、経験者がもともとそういう身体だった可能性を排除できません。また、この筋の使い分けが痛みや日常の機能にどう結びつくかは、この研究では測られていません。
器具を変えたときの違いを見た研究もあります。ティーザーという種目を、マット・リフォーマー・ウォールユニットの3条件で行わせ、外腹斜筋・多裂筋・長内転筋・中殿筋を記録したものです。クラシカル・ピラティスの実践者である女性15名(32.6±7.7歳、BMI 21.9±1.9)が対象でした。
Werba DD, Cantergi D, Tolfo Franzoni L, et al. Electrical Activity of Powerhouse Muscles During the Teaser Exercise of Pilates Using Different Types of Apparatus. Perceptual and Motor Skills. 2017;124(2):452-461.
全ての筋でリフォーマーはウォールユニットより活動が高く、多裂筋・長内転筋・中殿筋ではマットもウォールユニットを上回りました。リフォーマーとマットの間には差がありませんでした。器具が高価であることと、中心の筋がより働くこととは、必ずしも一致しないということです。

「体幹が安定していれば腰は痛まない」は成立するか
ここまでは第一段階——現象は測れる——の話でした。問題は次です。中心の安定性は、腰痛を予測するのでしょうか。
この前提に正面から疑義を呈したのが、しばしば引用される論考です。
Lederman E. The myth of core stability. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2010;14(1):84-98.
Ledermanは、体幹安定化アプローチの原典となった知見を運動制御・傷害予防・リハビリテーションの広い文脈に置き直し、この考え方が受けてきた批判があまりに少なかったことを指摘しました。スポーツ領域でも同様の再検討があり、Wirthらは、体幹安定化の指針の多くが有効性を検証されないまま、また通常の筋力トレーニングの負荷設定と比較されないまま流通してきたこと、そして「選択的活性化」や不安定面でのトレーニングという概念が批判的検討に耐えないことを論じています。Reevesらも、脊柱が本当に「不安定」になりうるのかは直接には確かめられておらず、安定・不安定という言葉をより広い枠組みで捉え直す必要があると述べました。
実測による検証もあります。高校野球選手812名を対象に、Sahrmann体幹安定性テストと腰痛の関係を調べた横断研究です。
Watanabe Y, Kato K, Otoshi K, et al. Associations between core stability and low back pain in high school baseball players: A cross-sectional study. Journal of Orthopaedic Science. 2022;27(5):965-970.
体幹安定性の低下は全体の44.1%(投手49.5%、野手42.3%)に認められ、シーズン中に腰痛を経験したのは43.3%でした。しかしシーズンを通じた腰痛と体幹安定性の低下の間に有意な関連は見られませんでした。練習量やハムストリングス・大腿四頭筋の硬さを調整したうえで有意だったのは、投手における「腰を反らす動作での痛み」との関連(オッズ比2.57、95%信頼区間1.08-6.62、P=0.033)という限定的な組み合わせだけです。
同じ調査からもうひとつ数字を引きます。医療評価の当日に腰痛を訴えたのは、投手35名(17.7%)、野手153名(24.9%)でした。シーズンを通じた腰痛の経験率43.3%と比べると、ある一日を切り取ったときに痛みを抱えている人はその半分以下ということです。この差は、腰痛が「ある/ない」で二分できる状態ではなく、出たり収まったりを繰り返す経過であることを示しています。断面で測った体幹安定性と、波のある症状とを突き合わせても、関連が見えにくいのは当然でもあります。横断研究の限界がここに表れています。
つまり、体幹安定性は測れるし訓練で変わるが、それが痛みの有無を広く説明するわけではない。中心を鍛えることに意味がないという話ではなく、「中心が弱いから痛む」という単純な図式が支持されていないということです。姿勢と筋電図の記事や体幹の解剖と腹腔内圧の記事も併せてお読みください。
これらの研究が答えていないこと
ここまで引いた筋電図の研究には、共通する限界があります。第一に、参加者が少ないこと。15名から32名程度の実験が大半で、個人差の大きい筋活動を扱うには心もとない規模です。第二に、測定が一回きりの横断比較であること。経験者と未経験者の差が練習の成果なのか、もともとの違いなのかは決まりません。
第三に、これがもっとも重要ですが、筋電図の値は結果ではなく途中経過だということです。内腹斜筋の活動が上がったことと、腰の痛みが減ることや、階段を楽に上れるようになることの間には、まだいくつもの段階があります。第1回で示した三段階でいえば、これらの研究は第一段階にあたります。
統計的に有意であることと、本人に違いが分かることも別です。筋活動の比がわずかに高いことが、動作の質や日常の困りごとをどれだけ変えるのかを示した研究は、ほとんどありません。中心を扱う研究は数が多いにもかかわらず、その多くが同じ場所に留まっているというのが現状の要約です。
第四に、参加者の偏りがあります。ここで引いた研究の参加者は、Queirozらが平均31歳、Werbaらが平均32.6歳、Leeの研究も20代から30代が中心で、そのほとんどが女性でした。高齢者、あるいは強い痛みを抱えた人で同じ所見が得られるかは、別に確かめる必要があります。高齢者のバランスに関する記事のように対象者を限った検討は行われていますが、筋電図の実験に関しては、若い健常者のデータが大半を占めます。
この知見は現場の何を変えるか
読者が判断に使えるよう、ここまでの所見を実務の言葉に置き換えておきます。
変わらないこと。「中心から動く」という指示をやめる理由はありません。この指示は注意の向け先を与えるものであり、実際に内腹斜筋と多裂筋の動員が変わることも測定されています。運動を組み立てる手がかりとして、引き続き使えます。
変わること。「体幹が弱いから腰が痛む」「中心を鍛えれば腰痛が防げる」という因果の説明は、証拠より一歩踏み込みすぎています。812名の調査で関連が確認できなかった以上、この説明を前提に不安を持つ必要はありません。同時に、強く締めれば良いという発想も支持されません。ニュートラルな骨盤位で筋活動がもっとも低かったという所見は、「安定している」ことと「強く働かせている」ことが別物であることを示しています。
選ぶときの基準。器具の有無で中心の筋活動が決まるわけでもありません。ティーザーではリフォーマーとマットに差がなく、どちらもウォールユニットを上回りました。設備の豪華さより、姿勢と負荷の設定のほうが筋活動を左右する、と読むのが妥当です。
第2回のまとめ
- パワーハウスは解剖学用語ではなく、含まれる筋は研究ごとに揺れている。
- センタリングの操作で中心の筋が働くことは測定でき、腰痛のある人では動員が低い。ただし因果の向きは決まらない。
- ニュートラルな骨盤位は筋活動がもっとも低い条件であり、「使っている感じ」と筋活動の大きさは一致しない。
- 経験者は内腹斜筋・多裂筋を優位に使うが、それが臨床的な結果に結びつくかは測られていない。
- 体幹安定性の低さは、腰痛の有無をおおむね説明しない。
次回予告
第3回は「腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか」を扱います。中心の話題の核心にある一本の筋について、先行収縮の遅れという有名な発見と、その後に積み上がった反論の両方を読みます。
この連載の全10回
- 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ
- 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像(この記事)
- 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか
- 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか
- 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
- 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
- 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか
- 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動
- 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学
- 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの
出典
- Wells C, Kolt GS, Bialocerkowski A. Defining Pilates exercise: a systematic review. Complementary Therapies in Medicine. 2012;20(4):253-262.
- Marques NR, Morcelli MH, Hallal CZ, Gonçalves M. EMG activity of trunk stabilizer muscles during Centering Principle of Pilates Method. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2013;17(2):185-191.
- Queiroz BC, Cagliari MF, Amorim CF, Sacco IC. Muscle activation during four Pilates core stability exercises in quadruped position. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2010;91(1):86-92.
- Lee K. The Relationship of Trunk Muscle Activation and Core Stability: A Biomechanical Analysis of Pilates-Based Stabilization Exercise. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;18(23):12804.
- Werba DD, Cantergi D, Tolfo Franzoni L, et al. Electrical Activity of Powerhouse Muscles During the Teaser Exercise of Pilates Using Different Types of Apparatus. Perceptual and Motor Skills. 2017;124(2):452-461.
- Lederman E. The myth of core stability. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2010;14(1):84-98.
- Wirth K, Hartmann H, Mickel C, Szilvas E, Keiner M, Sander A. Core Stability in Athletes: A Critical Analysis of Current Guidelines. Sports Medicine. 2017;47(3):401-414.
- Reeves NP, Cholewicki J, van Dieen JH, Kawchuk G, Hodges PW. Are Stability and Instability Relevant Concepts for Back Pain? Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2019;49(6):415-424.
- Watanabe Y, Kato K, Otoshi K, et al. Associations between core stability and low back pain in high school baseball players: A cross-sectional study. Journal of Orthopaedic Science. 2022;27(5):965-970.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。腰の痛みが強い場合、足のしびれや力の入りにくさ、排尿の異常、発熱や体重減少を伴う場合は、運動を始める前に整形外科などの医療機関にご相談ください。






