連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第4回です。
ピラティスのクラスでは、動作がとにかく遅く見えます。反動を使わず、一回ずつ止めて、呼吸に合わせて戻す。コントロール(control)という原則は、この「速く動かない」という選択を支える言葉です。創始者は自らの体系をコントロロジーと名づけたほどで、6原則のなかでも中核に置かれます。
では、ゆっくり動くと何が起きるのか。この問いは二つの領域にまたがります。ひとつは筋への刺激としての話、もうひとつは動きを学ぶ過程としての話です。両者は結論が食い違うことがあり、混ぜると議論が濁ります。
結論を先に述べます。筋肥大や筋力の獲得という点では、ゆっくり動くことに優位性はない。学習という点では、ゆっくり動くこと自体より「どう練習を組むか」のほうが保持と転移を左右する。コントロールという原則が守っているのは、筋の量ではなく動きの質だと考えると整合します。

「ゆっくり」は筋を大きくするか
反復動作の速さ、すなわちテンポを操作した研究は、筋力トレーニングの領域に蓄積があります。まず肥大について。他の条件を揃えて反復時間だけを比べた8本の試験をまとめたメタ分析があります。
Schoenfeld BJ, Ogborn DI, Krieger JW. Effect of repetition duration during resistance training on muscle hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2015;45(4):577-585.
結果は、1回あたり0.5秒から8秒までの範囲では肥大の結果が同程度、というものでした。ただし著者らは、意図的に非常に遅い反復(1回10秒を超える)は肥大の観点では劣ると付言し、同時にこの点を扱った対照研究が少ないため確定的な結論は難しいとも述べています。
より新しいメタ分析も、ほぼ同じ地点に着きます。他の変数をすべて統制した14本の研究をベイズ的枠組みで統合したものです。
Enes A, Pinero A, Hermann T, et al. How Slow Should You Go? A Systematic Review With Meta-Analysis of the Effect of Resistance Training Repetition Tempo on Muscle Hypertrophy. Journal of Strength and Conditioning Research. 2025;39(12):1331-1339.
| テンポ | 1回あたりの時間 | 群内変化(95%信用区間) |
|---|---|---|
| 速い | 0.3〜2秒(平均約1秒) | 0.43(0.29〜0.58) |
| 遅い | 1.7〜4.5秒(平均約3.5秒) | 0.34(0.22〜0.47) |
| 両者の差(対比較の統合値) | 0.09(-0.04〜0.22) | |
差はわずかに速いテンポ寄りですが、効果量が小さい水準に達する確率さえ0.450にとどまりました。中程度に達する確率は0.001、大きい水準に達する確率は0.001未満です。つまり「遅いほうが良い」も「速いほうが良い」も、肥大に関しては実質的な差として現れないということになります。結論は「テンポが肥大に与える影響は全体として最小限」です。
ここで押さえておきたいのは、両メタ分析が比べている「遅い」の範囲です。Enesらの区分では遅いテンポでも平均約3.5秒、もっとも遅くて4.5秒でした。Schoenfeldらが「劣る」と述べた領域は1回10秒超です。ピラティスの動作は呼吸に合わせるため1回あたり数秒から十数秒に及ぶことがあり、研究が扱った範囲の外に出ている場合があります。この点で、テンポ研究の結論をそのまま持ち込むことには留保が必要です。
筋力では、むしろ速いほうが有利という結果
肥大ではなく最大筋力を見ると、話がやや変わります。意図的に遅い速度での筋力トレーニングを扱った24本の研究、計625名を統合したメタ分析があります。
Hermes MJ, Fry AC. Intentionally Slow Concentric Velocity Resistance Exercise and Strength Adaptations: A Meta-Analysis. Journal of Strength and Conditioning Research. 2023;37(8):e470-e484.
ランダム効果モデルでは、速いまたは通常の速度のほうが有利という有意な結果が出ました(効果量0.21、95%信頼区間0.02〜0.41、p=0.03)。ここで注目したいのは、著者らが出版バイアスを検討していることです。トリム・アンド・フィル法で補正すると効果量は0.32に上がりました。つまりバイアスを補正しても結論の向きは変わらない、ということになります。訓練歴や年齢による違いは認められませんでした。
ただし、この統合には無視できないばらつきがあります。訓練歴による違いは認められず(QM=0.01、p=0.93)、年齢層による違いもありませんでした(QM=0.09、p=0.77)。ところが性別で分けると様相が変わり、女性では速いテンポが明確に有利(効果量0.95)だったのに対し、男性では差がありませんでした(効果量0.08、p=0.58)。この差が何によるものかは示されておらず、下位集団の解析であるため解釈には慎重さが要ります。速いか遅いかという問いに対して、答えが人によって違う可能性を残す結果です。
もっとも、これと並ぶ別のメタ分析は、より慎重です。15本の研究を統合したDaviesらの報告では、速いテンポと中〜遅いテンポは全体として同程度の筋力向上をもたらし、中程度の強度(1回挙上最大重量の60〜79%)に限ったときに速いテンポ有利の傾向が見られたものの、有意には届きませんでした(効果量0.31、p=0.06)。
整理すると、こうです。肥大については差がない。筋力については速いほうが有利という報告があるが、一致はしていない。いずれにせよ「遅いほうが優れている」という主張を支える証拠はありません。ピラティスをやっている人の筋力の変化については高齢者の筋力に関する記事にまとめてあります。

学習として見るとどうか
ここで視点を変えます。コントロールという原則が狙っているのは、おそらく筋の量ではありません。動きを正確に、意図どおりに再現できるようにすること——運動学習の領域です。
神経リハビリテーションの文脈で、運動学習の原則を整理した総説があります。Maierらは既存の文献から15の原則を同定しました。集中的な練習、間隔をあけた練習、量、課題特異的な練習、目標指向の練習、変動のある練習、難易度の漸増、多感覚刺激、リズムの手がかり、結果の知識としての明示的フィードバック、遂行の知識としての暗黙的フィードバック、使う部位の調整、動作の観察、運動イメージ、社会的相互作用です。
Maier M, Ballester BR, Verschure PFMJ. Principles of Neurorehabilitation After Stroke Based on Motor Learning and Brain Plasticity Mechanisms. Frontiers in Systems Neuroscience. 2019;13:74.
この一覧に「ゆっくり動く」は入っていません。速度そのものは学習の原則として挙げられておらず、代わりに練習の組み方と難易度の管理、そしてフィードバックの与え方が並びます。
練習を混ぜると、その場は下手になり、後で上手くなる
運動学習の研究でもっとも頑健な知見のひとつが、文脈干渉効果です。同じ課題を続けて繰り返す(ブロック練習)より、複数の課題を混ぜる(ランダム練習)ほうが、練習中の出来は悪くなるのに、後日の保持は良くなる、という現象を指します。
Czyz SH, Wojcik AM, Solarska P, Kiper P. High contextual interference improves retention in motor learning: systematic review and meta-analysis. Scientific Reports. 2024;14(1):15974.
1255本の論文から294本の全文を精査し、54本をメタ分析に含めた結果、高い文脈干渉は全体として中程度の有益な効果を示しました。ただし細部が重要です。実験室での課題では保持が明確に改善した一方、実際の場面での応用課題では、その効果はほとんど無視できる大きさでした。また効果は年齢層で異なり、高齢者では大きく、成人では中程度、若年者では無視できる水準で統計的にも有意ではありませんでした。
この所見はピラティスの構成にそのまま重なります。ひとつの種目を淡々と反復するのか、複数の種目を織り交ぜて進むのか。研究が示唆するのは後者ですが、効果の大きさは対象者と場面によって大きく変わる、というのが正確な読み方です。

フィードバックは多いほど良いのか
指導の場では、修正の声かけをどれだけ入れるかが常に問題になります。教科書的には「毎回フィードバックを与えると練習中の成績は上がるが、学習は損なわれる」という指導仮説が知られてきました。これを検証したメタ分析があります。
McKay B, Hussien J, Vinh MA, Mir-Orefice A, Brooks H, Ste-Marie DM. Meta-analysis of the reduced relative feedback frequency effect on motor learning and performance. Psychology of Sport and Exercise. 2022;61:102165.
1662本の論文を選別し、最終的に61本(k=75、N=2228)を一次解析に含めました。結果は、フィードバック頻度を減らすことの効果は、どの時点でも有意ではありませんでした。習得期や直後の保持から遅延保持へと効果が反転するという予測も支持されませんでした。異質性は大きく、有意な調整変数は見つからず、z曲線分析は含まれた研究が著しく検出力不足であることを示しました。
これは「フィードバックを減らすべきではない」という意味ではなく、教科書に載るほど定着した原則でさえ、根拠は思ったほど堅くないという意味です。原則を検証するこの連載にとって、示唆的な例といえます。
運動制御の訓練は、臨床の結果を変えたか
学習の話を臨床に戻します。深部体幹筋の活性化から始めて機能的な課題へ進む運動制御エクササイズは、まさに「コントロールを学ぶ」訓練です。
短期的には学習が起きることが示されています。再発性の腰痛をもつ22名を、腹横筋を単独で随意収縮させる訓練と、同じ振幅で非選択的に活動させる腹筋運動の訓練に無作為に割り付けた研究では、単独訓練を1回行っただけで腹横筋の筋電図の立ち上がりが早まり、痛みのない人の応答に近づきました。Tsaoらは、変化の大きさが訓練の質と相関したと報告しています。
しかし、それが症状の改善に直結するかは別です。第3回で見たとおり、29本の試験を統合したSaragiottoらのコクラン・レビューは、運動制御エクササイズが最小限の介入より優れる一方で、他の運動と比べると、すべての追跡時期・すべてのアウトカムで臨床的に重要な差はなかったと結論しています。徒手療法との比較でも同等でした。有害事象は軽微か報告なしですが、これは報告している試験が少ないことの裏返しでもあり、害が確かめられたという意味ではありません。
この対比は、コントロールという原則の位置を示しています。訓練で運動のパターンは確かに変わる。しかしその変化が、患者が困っていることの改善を説明しているとは示されていない。第3回の腹横筋と同じ構図が、ここでも繰り返されます。
では、なぜゆっくり動くのか
ここまでを踏まえると、「ゆっくり動く」ことの正当化は、次のように整理するのが証拠に近いはずです。
- 筋肥大や筋力のためではない。 テンポの違いは肥大にほとんど影響せず、筋力ではむしろ速いほうが有利という報告があります。
- 動きを観察し修正する時間を作るため。 遅い動作は、本人が姿勢を感じ取り、指導者が逸脱を見つけるための時間を確保します。これは学習の原則でいえば、難易度の管理とフィードバックの設計にあたります。
- 反動を排して負荷の位置を安定させるため。 速く動けば慣性が助けになり、狙った部位から負荷が逃げます。遅さは負荷を逃がさないための手段です。
いずれも妥当な理由ですが、そのどれも「ゆっくり動くこと自体が優れている」という主張ではありません。手段として選ばれているにすぎない。目的が変われば、速く動く場面があってよいということになります。
ひとつ注意しておきたいのは、ここで引いた速度の研究の多くが、筋力トレーニングの文脈で、若く健康な参加者を対象に行われたものだということです。可動域を丁寧にたどる運動や、痛みを抱えた人の再学習に、そのまま当てはめられる保証はありません。研究の対象と、目の前の人との距離は、毎回測り直す必要があります。
また、学習の研究が示すのは平均としての傾向であり、個人の反応のばらつきは大きいままです。文脈干渉の効果が年齢層で反転しかけていたことも、フィードバック頻度の研究が検出力不足だったことも、同じ注意を促しています。原則は出発点であって、処方箋ではありません。
この知見は現場の何を変えるか
変わらないこと。ゆっくり丁寧に動くという進め方をやめる理由はありません。負荷を逃がさず、姿勢を感じ取り、修正の余地を作るという目的に対して、遅い動作は合理的な手段です。
変わること。「ゆっくり動くほうが筋に効く」という説明は、根拠が薄いと知っておくべきです。肥大では差がなく、筋力ではむしろ逆の報告があります。筋力や筋量を目標に置くなら、テンポではなく負荷と量を動かすほうが確実です。
練習の組み方について。同じ種目を続けて反復するより、複数の種目を織り交ぜるほうが後日の保持は良い——これは文脈干渉の研究が支持する方向です。ただし効果が明確なのは実験室の課題で、実際の場面では小さくなり、若年者では消えました。「混ぜたほうが良い」は弱い推奨であって、強い法則ではありません。
声かけについて。「フィードバックは減らしたほうが学習に良い」という教科書的な助言は、メタ分析では支持されませんでした。減らすことにも増やすことにも、強い根拠はない。目の前の人が理解できているかどうかを見て決める、という当たり前の運用が、今のところ証拠と矛盾しない方針です。
次回予告
第5回は「呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧」を扱います。肋骨を横に開く呼吸はなぜ指示されるのか、横隔膜は姿勢制御にどう関わるのか、そして呼吸の要求が増えたとき姿勢の働きに何が起きるのかを見ます。
この連載の全10回
- 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ
- 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像
- 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか
- 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか(この記事)
- 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
- 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
- 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか
- 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動
- 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学
- 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの
出典
- Schoenfeld BJ, Ogborn DI, Krieger JW. Effect of repetition duration during resistance training on muscle hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2015;45(4):577-585.
- Enes A, Pinero A, Hermann T, et al. How Slow Should You Go? A Systematic Review With Meta-Analysis of the Effect of Resistance Training Repetition Tempo on Muscle Hypertrophy. Journal of Strength and Conditioning Research. 2025;39(12):1331-1339.
- Hermes MJ, Fry AC. Intentionally Slow Concentric Velocity Resistance Exercise and Strength Adaptations: A Meta-Analysis. Journal of Strength and Conditioning Research. 2023;37(8):e470-e484.
- Davies TB, Kuang K, Orr R, Halaki M, Hackett D. Effect of Movement Velocity During Resistance Training on Dynamic Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine. 2017;47(8):1603-1617.
- Maier M, Ballester BR, Verschure PFMJ. Principles of Neurorehabilitation After Stroke Based on Motor Learning and Brain Plasticity Mechanisms. Frontiers in Systems Neuroscience. 2019;13:74.
- Czyz SH, Wojcik AM, Solarska P, Kiper P. High contextual interference improves retention in motor learning: systematic review and meta-analysis. Scientific Reports. 2024;14(1):15974.
- McKay B, Hussien J, Vinh MA, Mir-Orefice A, Brooks H, Ste-Marie DM. Meta-analysis of the reduced relative feedback frequency effect on motor learning and performance. Psychology of Sport and Exercise. 2022;61:102165.
- Tsao H, Hodges PW. Immediate changes in feedforward postural adjustments following voluntary motor training. Experimental Brain Research. 2007;181(4):537-546.
- Saragiotto BT, Maher CG, Yamato TP, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016;(1):CD012004.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。運動中に強い痛みやしびれ、めまい、胸の苦しさが出る場合は中止し、症状が続くときは整形外科などの医療機関にご相談ください。






