連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第7回です。

フロー(flow、流れ)は、動きを途切れさせず、ひとつの動作から次へ滑らかにつなぐという原則です。反動を使わず、しかし止まらない。種目のあいだの休みを短くし、全体をひと続きの流れとして扱う——多くのクラスがそう構成されています。

この原則には、技術的な意味と生理学的な意味の両方があります。技術としては、動作の切れ目で姿勢が崩れることを防ぎます。生理学的には、休息が短くなるぶん、代謝の要求が上がるはずです。では実際、どれくらい上がるのか。

結論を先に述べます。ピラティスの代謝強度は、軽度から中強度の下限にとどまる。中強度身体活動の目安とされる3メッツを、測定方法の質が高い研究に限ると、ようやく超えるかどうかという水準である。フローは代謝強度を上げますが、有酸素運動の代替として扱うには足りません。

ピラティスの6原則を科学で検証する 第7回 フローと運動強度ピラティスは有酸素運動になりうるか|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

何メッツなのか

代謝当量(MET、メッツ)は、安静時の代謝を1として運動の強度を表す単位です。おおむね3から6メッツが中強度、6メッツ以上が高強度とされます。ピラティスのメッツとエネルギーコストを統合したレビューが2026年に出ています。

Vitor GBB, de Oliveira LC, Pessoa RAG, Aguiar AF, de Oliveira RG. Metabolic intensity and energy cost of Pilates exercises: an exploratory systematic review and meta-analysis of limited and heterogeneous evidence. Systematic Reviews. 2026;15(1):42.

6本の研究を統合した結果は次のとおりです。

指標統合値(95%CI)感度分析後
代謝当量(METs)3.7(3.1〜4.3)3.0(2.3〜3.6)
エネルギー消費(kcal/分)3.8(3.1〜4.5)2.9(2.3〜3.6)
酸素摂取量(ml/kg/分)10.3(8.1〜12.6)—
心拍数(拍/分)108.6(104.1〜113.0)—
主観的運動強度(Borg 6-20)10.6(9.3〜12.0)—

この表の読みどころは右の列です。バイアスリスクが高い2本と、間接熱量測定を使っていない研究を除くと、メッツは3.7から3.0へ、エネルギー消費は3.8から2.9 kcal/分へ下がりました。著者らは、この保守的な推定値のほうが現時点でもっとも信頼できると明記しています。確実性の評価は非常に低いから低い。中強度の下限である3メッツをかろうじて超える、という位置づけになります。

同時に興味深い知見も報告されています。セットや種目のあいだの休息が60秒以下の場合に、代謝強度が高くなる傾向が見られました。これはフローという原則を代謝の面から支持する所見です。流れを切らないことが、確かに強度を押し上げている。ただし押し上げた先が中強度の下限であることも、同時に押さえておく必要があります。

もうひとつ、主観的運動強度が10.6という値にも触れておきます。Borgの6から20の尺度では、11が「やや楽である」、13が「ややきつい」に対応します。実測の代謝強度と、参加者の感覚がほぼ一致しているということです。ピラティスが「きつい」と感じられることはありますが、それは代謝の要求ではなく、姿勢を保つことや慣れない動作を制御することの難しさに由来する部分が大きいと考えられます。

流れを切らないと、何が変わるのか

フローの効果を、セッションの構成を変えて直接比べた研究があります。座りがちな女性33名(22.03±3.32歳)が、3種類のピラティスのセッションを行いました。伝統的な構成(単一セット・少ない反復・長い休息)、非伝統的な構成その1(単一セット・多い反復・短い休息)、非伝統的な構成その2(複数セット・短い休息)です。

Almeida I, Andrade LS, Sousa CV, et al. Effect of three different Pilates sessions on energy expenditure and aerobic metabolism in healthy females. Sport Sciences for Health. 2021;17(1):223-231.

非伝統的な構成は、伝統的な構成に比べて、分あたりのエネルギー消費・総エネルギー消費・酸素摂取量・呼吸交換比・平均心拍数のいずれも高くなりました。休息を詰め、反復を増やせば、代謝の要求は確かに上がる。フローという原則は、この意味では機能しています。

ただし著者らは、同じ論文の結論でこう釘を刺しています。複数セットを用いた高容量のプロトコルであっても、その総カロリー消費は有酸素運動に比べれば小さく、1日のエネルギー消費に大きく寄与するものではない、と。上げた先がどこかを見失わないことが、この分野の数字を読むときの要点です。

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マットとマシンで違うのか

器具を使えば負荷が増え、強度も上がるのでしょうか。マットセッションとリフォーマーを使ったセッションを直接比べた研究があります。

de Souza Andrade L, da Silva Almeida I, Mochizuki L, et al. What is the exercise intensity of Pilates? An analysis of the energy expenditure, blood lactate, and intensity of apparatus and mat Pilates sessions. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;26:36-42.

健常女性18名(22±3歳)が、それぞれ15種目からなる2つのセッションを行いました。結果は、リフォーマーのセッションが2.59±0.53 kcal/分、マットが1.93±0.26 kcal/分。酸素摂取量はリフォーマーが8.67±1.15 ml/kg/分、マットが6.44±0.73 ml/kg/分でした。

差はありますが、どちらの酸素摂取量も、先のレビューが統合した10.3 ml/kg/分という値より低い水準にあります。器具を使ったほうが高いとはいえ、中強度の入口付近から大きく離れるわけではない、という位置づけです。

器具のほうが高いのは確かです。しかし注目すべきはもう一点。血中乳酸・心拍数・血圧のいずれも、安静時の値を有意に上回りませんでした。著者らの結論は「どちらのセッションも心血管系への負荷は低く、エネルギー消費も低い水準にとどまる」というものです。器具の有無は、この位置づけを変えませんでした。

歩行と比べるとどうか

もっとも直感的な比較は、歩くことです。31名の健常な若年成人が、安静時・ピラティスの1セッション・時速3.2 kmの歩行・時速4.8 kmの歩行の4条件で、心肺運動負荷試験装置を用いて測定を受けました。

Gultekin SC, Ozcan Kahraman B, Kahraman T. Cardiorespiratory responses: Pilates compared to different walking speeds in healthy adults. Irish Journal of Medical Science. 2024;193(1):139-147.

ピラティス中の平均メッツ・酸素摂取量・エネルギー消費は、時速3.2 kmの歩行と同程度で、時速4.8 kmの歩行より有意に低い値でした。一方、平均心拍数は時速3.2 kmの歩行より高く、時速4.8 kmの歩行と同程度でした。糖質の利用は歩行より有意に高い結果です。

心拍数だけが高く、酸素摂取量は低い——この組み合わせは、等尺性の保持や姿勢維持が多い運動の特徴です。心拍数だけを見て強度を判断すると、実際より高く見積もることになります。著者らは「健常な若年成人において、ピラティスは中強度運動として心肺機能を高めるだけの変化を生まないかもしれない」と結論し、柔軟性・体幹の筋力・姿勢といった別の利点に言及しています。

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続けたときに、心肺機能は上がるのか

1回のセッションの強度が低くても、積み重ねれば変化は起きるのでしょうか。健常成人の心肺機能を扱ったメタ分析があります。

Pessoa RAG, Vitor GBB, de Oliveira LC, et al. Effects of Pilates exercises on cardiorespiratory fitness: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2023;52:101772.

12本の無作為化比較試験(計569名)のうち、方法論的な質が高いものは3本だけでした。非常に低いから低い確実性のもとで、ピラティスは対照群より優れ(SMD 0.96、95%CI 0.39〜1.54)、質の高い研究に限っても同様でした(SMD 1.14、95%CI 0.25〜2.04)。効果が出るには総計1440分以上の実施が必要で、マットか器具かは結果を変えませんでした。

そして重要な一行がここにあります。他の運動と比べたとき、心肺機能への効果に差はありませんでした。これは第1回から繰り返し現れている構図です。何もしないよりは良く、他の運動より良いとは言えない。

1440分という数字にも触れておきます。これは総実施時間であり、著者らの換算では週2回で3か月、または週3回で2か月に相当します。裏を返せば、この量に満たない実施では心肺機能の変化は期待しにくいということです。週に1回、数か月というよくある頻度では、この閾値に届きません。効果の有無を論じる前に、量が足りているかを確かめる必要があります。

エネルギー消費の側から見た報告もあります。Vitorらの別のレビューでは、1セッションあたりのエネルギー消費は64.5±10.7から213.7±76.4 kcalの幅がありました。もっとも高かったのは、器具を使い、1セット10回で、種目間の休息を1分とした条件で、8.3 kcal/分です。週1,000 kcalという身体活動の目安に届かせるには、60分のセッションを少なくとも週3回、10回から15回の反復と1分以内の休息で行う必要がある、と著者らは試算しています。

「同じ動作」でも人によって強度は違う

ここまでの数値には、ひとつ大きな前提が隠れています。メッツは絶対的な強度の指標であり、その人にとってどれだけきついかを表すものではありません。最大酸素摂取量が高い人にとっての3メッツと、低い人にとっての3メッツは、相対的な負担がまったく違います。

ここで引いた測定研究の参加者は、Andradeらが平均22歳の健常女性18名、Gultekinらが健常な若年成人31名、Almeidaらが平均22.03歳の座りがちな女性33名でした。いずれも若く、多くが女性で、疾患のない人たちです。高齢者や、心肺機能が落ちた人にとっては、同じセッションがより高い相対強度になります。したがって「ピラティスは中強度に届かない」という一文は、この参加者層に限った話として読む必要があります。

実際、心肺機能を扱ったメタ分析で効果が確認されたのは、主として運動習慣のない対照群との比較でした。普段ほとんど動いていない人にとっては、3メッツの運動でも十分な刺激になりうる。一方、すでに歩行や自転車を習慣にしている人が心肺機能をさらに高めたい場合、この強度では足りない可能性が高い。同じ数字が、相手によって違う意味を持つということです。

これらの研究の限界

数字を鵜呑みにする前に、限界を三つ挙げます。

  • 研究数が少なく、異質性が大きい。 メッツの統合はわずか6本、心肺機能のメタ分析で質が高いのは3本です。Vitorらが自らの結論を「探索的」と呼び、確認のための質の高い一次研究が必要だと述べているのは、この規模の問題によります。
  • 参加者が偏っている。 ここで引いた測定研究の参加者は、若年で、多くが女性で、健常者でした。高齢者や有疾患者では、同じ動作でも相対的な強度が上がるため、数値はそのまま当てはまりません。
  • 測定方法が揃っていない。 Vitorらが感度分析で除いたのは、間接熱量測定を使っていない研究でした。心拍数から推定した値と、呼気ガスを実測した値では、ずれが生じます。とくにピラティスのように等尺性の要素が多い運動では、心拍数が実際の酸素摂取量より高めに振れるため、推定値は過大になりやすいと考えられます。
  • セッションの中身がばらばらである。 第1回で見た定義のずれが、ここでも効いています。休息時間・反復回数・種目の難度が違えば強度は変わり、実際Almeidaらは、複数セットと短い休息を用いた非伝統的な構成が、伝統的な構成よりエネルギー消費を高めたと報告しています。ただし同じ論文は、その総量でさえ有酸素運動に比べれば小さく、1日のエネルギー消費への寄与は大きくないとも述べています。

この知見は現場の何を変えるか

変わらないこと。フローという原則をやめる理由はありません。休息を詰めることは代謝強度を確かに上げますし、動作を途切れさせないことには技術上の意味もあります。

変わること。「ピラティスで有酸素運動の代わりになる」という説明は、支持されていません。心肺機能を目的に置くなら、歩行・自転車・水泳といった持続的な運動を別に確保するほうが確実です。ヨガの運動強度に関する記事やピラティスのエネルギー消費の記事も、同じ方向の数字を示しています。

体重管理について。1セッション64.5から213.7 kcalという幅は、食事の量と比べれば小さな数字です。減量を主目的にするなら、この経路に期待をかけるのは効率が良くありません。体組成に関する記事に、この点の統合結果をまとめてあります。

強度を上げたいとき。研究が一致して示しているのは、休息を短くすることが強度を上げるという点です。種目のあいだを60秒以内に収め、反復を10回から15回にとる——Vitorらが示したこの条件は、フローという原則を代謝の言葉に翻訳したものと読めます。ただし、強度を上げれば姿勢の制御は難しくなり、第6回で見たとおり、フォームの評価は観察者によって揺れます。強度と正確さは、同時に最大化できるものではありません。どちらを優先するかは、その日の目的によります。

安全について。ここで引いた測定研究では、血中乳酸も血圧も安静時から有意に上がりませんでした。これは心血管系への負荷が小さいことを意味し、多くの人にとって開始しやすい運動であることの裏づけになります。ただし測定は短時間・少人数で行われており、有害事象を検出する設計ではありません。安全が確かめられたと読むのではなく、負荷が小さいことが測られたと読むのが正確です。

組み合わせの発想。ピラティスと有酸素運動を対立させる必要はありません。心肺機能には歩行や自転車を、柔軟性・体幹の制御・姿勢にはピラティスを、というように役割を分けるほうが、どちらの目的にも近づきます。Gultekinらが心肺機能の限界を指摘したうえで、柔軟性・体幹の筋力・姿勢という別の利点に言及したのは、この分業の発想です。

次回予告

第8回は「コンセントレーション——注意の向け方と筋活動」を扱います。「この筋を意識して」という指示は筋電図の値を上げますが、力の発揮や運動の成績では別の結果が出ています。指導の言葉がどちらに寄っているかを考えます。

この連載の全10回

  1. 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ
  2. 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像
  3. 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか
  4. 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか
  5. 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
  6. 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
  7. 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか(この記事)
  8. 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動
  9. 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学
  10. 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの

出典

  1. Vitor GBB, de Oliveira LC, Pessoa RAG, Aguiar AF, de Oliveira RG. Metabolic intensity and energy cost of Pilates exercises: an exploratory systematic review and meta-analysis of limited and heterogeneous evidence. Systematic Reviews. 2026;15(1):42.
  2. de Souza Andrade L, da Silva Almeida I, Mochizuki L, et al. What is the exercise intensity of Pilates? An analysis of the energy expenditure, blood lactate, and intensity of apparatus and mat Pilates sessions. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;26:36-42.
  3. Gultekin SC, Ozcan Kahraman B, Kahraman T. Cardiorespiratory responses: Pilates compared to different walking speeds in healthy adults. Irish Journal of Medical Science. 2024;193(1):139-147.
  4. Pessoa RAG, Vitor GBB, de Oliveira LC, et al. Effects of Pilates exercises on cardiorespiratory fitness: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2023;52:101772.
  5. Vitor GBB, Pessoa RAG, de Oliveira RG. Energy expenditure during a Pilates exercise session: a systematic review. Revista Brasileira de Cineantropometria e Desempenho Humano. 2025;27:e95667.
  6. Almeida I, Andrade LS, Sousa CV, et al. Effect of three different Pilates sessions on energy expenditure and aerobic metabolism in healthy females. Sport Sciences for Health. 2021;17(1):223-231.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。運動中に胸の痛み、強い息切れ、めまい、動悸が出る場合は中止してください。心臓や肺の病気で治療を受けている方、高血圧の指摘がある方は、運動を始める前に主治医にご相談ください。

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