ピラティスには、マットの上で自分の体重だけを使う形式と、リフォーマーなどバネのついた専用器具を使う形式があります。器具のほうが「効果が高い」と語られることが多く、費用も高いのが一般的です。その差は、研究で確かめられているのでしょうか。

この記事では個別の症状ではなく、「器具かマットか」という形式の違いそのものを直接比べた研究だけを取り上げます。結論を先に言えば、「器具のほうが良い結果を示した試験はあるが差は小さく、多くの試験では差がない。結果を左右するのは器具の有無より、負荷の調整と続けられるかどうかである」というのが、現時点で言える正直な要約です。

2つの形式は、何が違うのか

マット形式は体重と重力を負荷にし、特別な設備を必要としません。器具形式では、リフォーマー(バネで抵抗を調整できる可動式の台)、キャデラック、ラダーバレル、チェアなどを使い、バネの抵抗は動きを助ける方向にも負荷を増やす方向にも働きます。この違いは費用に直結します。両形式を初めて直接比較した試験の計画書には、次のように書かれています。

da Luz MA Jr, Costa LOP, Fuhro FF, Manzoni ACT, de Oliveira NTB, Cabral CMN. Effectiveness of mat Pilates or equipment-based Pilates in patients with chronic non-specific low back pain: a protocol of a randomised controlled trial. BMC Musculoskeletal Disorders. 2013;14:16.

著者らは「器具を使うピラティスは、理学療法士にとっても患者にとってもマット・ピラティスより高価である」と明記し、比較の結果が「理学療法クリニックの設備投資の判断材料になりうる」と述べています。限られた費用をどこに使うかという実務的な問いが出発点です。

最も規模の大きい直接比較 — 86名の試験

この計画書に基づく試験が2014年に公表されました。両形式を1対1で比べた無作為化比較試験としては、現在でも最大のものです。

da Luz MA Jr, Costa LOP, Fuhro FF, Manzoni ACT, Oliveira NTB, Cabral CMN. Effectiveness of mat Pilates or equipment-based Pilates exercises in patients with chronic nonspecific low back pain: a randomized controlled trial. Physical Therapy. 2014;94(5):623-631.

慢性の非特異的腰痛を持つ86名をマット群43名と器具群43名に分け、6週間で12回のセッションを行いました。評価者は割り付けを知らされない「盲検」で、主要評価項目は痛みの強さと能力障害(日常生活の支障の程度)、評価は開始時、6週後、6か月後です。

評価項目(6か月後)群間差(器具群が有利)95%信頼区間
能力障害(Roland-Morris)3.0点0.6〜5.4
患者固有の機能−1.1点−2.0〜−0.1
運動恐怖(Tampa尺度)4.9点1.6〜8.2
痛みの強さ差なし
全体的な改善の実感差なし

能力障害と運動恐怖(痛みを恐れて動きを避ける傾向)は器具群のほうが有意に改善していました。一方、痛みの強さと全体的な改善の実感には差がありませんでした

3.0点の差をどう読むか

重要なのは、研究者自身が事前に決めていた基準です。計画書では、能力障害の尺度で「臨床的に重要な差」を4点と設定し、それを検出できるように86名という人数を決めていました。観察された差は3.0点、信頼区間は0.6〜5.4点。「統計的には有意だが、事前に定めた臨床的に重要な水準には平均で届いていない」というのが正確な読み方です。費用の差を正当化するほど大きいとは、この試験からは言えません。

12週間の試験 — 「速さ」の差

Cruz-Díaz D, Bergamin M, Gobbo S, Martínez-Amat A, Hita-Contreras F. Comparative effects of 12 weeks of equipment based and mat Pilates in patients with Chronic Low Back Pain on pain, function and transversus abdominis activation. A randomized controlled trial. Complementary Therapies in Medicine. 2017;33:72-77.

慢性腰痛の98名をマット群、器具群、対照群に分けた12週間の試験では、両方のピラティス群が能力障害、痛み、運動恐怖、腹横筋(お腹の最も深い層の筋)の働きのすべてで改善し(p<0.001)、器具群のほうが改善が速かったと報告されています(p=0.007)。著者らは、器具が与える「動きの手応え」がピラティスの原則を体で覚えるのを助けたと解釈しています。ただし示されたのは到達点ではなく速さの差で、両群とも改善している以上「マットでは効かない」という読み方は成り立ちません。

統合解析 — 形式による差は検出されていない

Choi GB, Park CB, Kim WG, Lim JH, Cho WS. Effects of Pilates on Pain and Disability in Chronic Non-Specific Low Back Pain Patients: Systematic Review and Meta-analysis. The Journal of Korean Physical Therapy. 2025;37(6):311-320.

2025年のメタアナリシスは、慢性腰痛の無作為化比較試験10件、合計802名を統合し、ピラティスが対照群に比べて痛み(標準化平均差 −1.25)と能力障害(同 −0.78)を改善したと報告しています。形式別のサブグループ解析では、マット形式も器具形式も改善し、両者の間に有意な差はありませんでした。ただし器具形式の試験は数が少なく、根拠は限られると注記されています。比較相手はピラティス以外の対照であり直接対決ではありませんが、「形式による差は統合解析で検出されるほど大きくない」という所見は、86名の試験の結果と矛盾しません。

腰痛以外の直接比較 — 群あたり10〜15名という規模

対象(人数)期間・頻度器具が優れた項目差がなかった項目
多発性硬化症 38名(3群)週2回・8週間体幹屈筋の筋力のみバランス、移動能力、疲労、生活の質
アマチュアサッカー選手 30名(各群10名)週3回・8週間敏捷性、パス、片脚3回跳び
月経痛のある女性 45名(各群15名)週2回・12週間痛み(p=0.009)、睡眠の質、月経症状抑うつ、機能への影響
健康な成人女性 20名(各群10名)週3回・8週間、1回50分体組成、腹筋・背筋の筋活動のすべて

Bulguroglu I, Guclu-Gunduz A, Yazici G, Ozkul C, Irkec C, Nazliel B, Batur-Caglayan HZ. The effects of Mat Pilates and Reformer Pilates in patients with Multiple Sclerosis: A randomized controlled study. NeuroRehabilitation. 2017;41(2):413-422.

多発性硬化症の試験では、バランス、移動能力、疲労、生活の質が両方のピラティス群で改善し、群間で差が出たのは体幹屈筋の筋力だけで、著者らは「同様の利益」と結論しています。サッカー選手の試験(Yılmaz 2025)では敏捷性やパスで、月経痛の試験(Şevgin, Postacı 2026)では痛みと睡眠でリフォーマーが有利でした。一方、健康な女性の試験(Seong 2025)では、筋肉量、体脂肪率、筋活動のいずれも両群で同じように改善し、差はありませんでした。

この規模で何が言えるか

1群あたり10〜15名という人数に注目してください。サッカーの試験は効果量0.8という「大きな効果」を前提に群あたり10名で計算し、著者ら自身が形式の比較は「探索的な性質」だと書いています。月経痛の試験も効果量0.90を前提にした最低14名です。この規模で検出できるのは大きな差だけで、小さな差は「差なし」に見えます。逆に、この規模で出た有意差は偶然や偏りで膨らんでいる可能性もあります。

器具は、筋の働き方を確かに変える

結果の差が小さいとしても、器具が体に与える負荷そのものは異なります。

Yuk HJ, Shin WS. Comparison of Abdominal and Lower Extremity Muscle Activity across Different Pilates Equipment during the Double Leg Lowering Movement. Physical Therapy Rehabilitation Science. 2024;13(4):504-511.

仰向けで両脚を下ろしていく同じ動作を、マット、リフォーマー、キャデラックで行い、筋電図(筋の電気的な活動)を比べた研究があります。結果は直感に反します。腹直筋と外腹斜筋の活動が最も高かったのはマットでした。太もも裏の筋はキャデラックで、太もも前の筋はリフォーマーで最も高く、器具は負荷を「増やす」のではなく「どこにかかるか」を変えていました。

運動強度では、健康な女性18名に同じ15種目を両形式で行ってもらった研究(de Souza Andrade 2021)で、エネルギー消費は器具で毎分2.59 kcal、マットで毎分1.93 kcal、酸素摂取量は器具で8.67 ml/kg/分、マットで6.44 ml/kg/分と、器具のほうが高くなりました。ただしどちらも血中乳酸、心拍数、血圧は安静時から有意に上がらず、著者らは両者とも「心血管への負荷は低い」と結論しています。

それぞれの形式に、できないこと

マット形式にできないこと。外部からの抵抗を段階的に増やすことです。月経痛の試験ではリフォーマー群がバネの抵抗を上げて負荷を進めたのに対し、著者らはマット群の「運動の種類が限られていたこと」を限界に挙げています。サッカーの試験の著者らも、リフォーマーは「運動の多様性と抵抗」を、マットは「限られた空間で実施できる利用しやすさ」を提供すると整理しています。

器具形式にできないこと。設備のない場所で続けることです。多発性硬化症の試験の著者らは、マット形式なら基本を身につけた後に自宅で続けられる点を利点に挙げています。運動の効果は続けた期間に依存しますから、通えなくなった時点で途切れる形式には、その分の弱点があります。

費用対効果は、一度も検証されていない

器具の追加費用に見合う効果があるかは、本来「費用対効果分析」で答えるべき問いです。しかし2013年の計画書から10年以上経った現在も、両形式の費用対効果を直接比べた経済評価は見当たりません。効果の差が小さい以上、器具が経済的に正当化されるかどうかは未検証です。

有害事象と、研究の限界

直接比較の試験で、有害事象の報告は総じて薄いものです。サッカーの試験は「研究期間中に負傷はなかった」と記していますが、どう監視したかは書かれておらず、他の多くの試験は言及すらしていません。「報告がない」と「起きていない」は同じではありません。

負荷と有害事象の関係は、形式ではなく強度を比べた試験(Coelho 2025)が参考になります。慢性腰痛の168名を高強度と低強度のピラティスに分けて週2回・6週間行ったところ、痛みと能力障害の改善に意味のある差はなく、一方で有害事象は低強度群のほうが少なく、絶対リスク減少は0.20(95%信頼区間 0.10〜0.31)でした。器具はバネで負荷を上げやすい道具です。負荷を上げれば効果が増える証拠はなく、有害事象が増える証拠はある。

共通する限界は、参加者と指導者を盲検にできないこと、評価者の盲検が徹底されていないこと(月経痛の試験では適格性判定と結果測定を同じ評価者が担当し、著者らが検出バイアスの可能性を認めています)、追跡が短いことです。6か月まで追ったのは86名の試験だけで、1年以上の比較はありません。

まとめ — わかっていることと、わかっていないこと

わかっていること

  • 慢性腰痛では、器具形式もマット形式も痛みと能力障害を改善する(10試験802名の統合解析、形式間に有意差なし)
  • 最大の直接比較(86名)では、6か月後の能力障害と運動恐怖で器具が有利だったが、痛みには差がなく、能力障害の差3.0点は事前に定めた臨床的に重要な差の4点に届いていない
  • 器具は負荷の総量ではなく、負荷のかかる部位を変える。腹筋の活動はマットのほうが高い動作もある
  • 強度を上げると効果は増えず、有害事象は増える

わかっていないこと

  • 器具の追加費用に見合う効果があるかどうか(経済評価は存在しない)
  • 1年以上の長期で差が残るかどうか
  • 群あたり10〜15名の試験で出た差が、より大きな集団で再現されるかどうか

器具の違いは、負荷のかけ方を確かに変えます。しかしそれが結果の違いとして現れたのは一部の試験の一部の項目にとどまり、差は小さいものでした。器具を選ぶ理由は「効果が高いから」ではなく、動きの手応えと負荷の調整のしやすさにあります。マットを選ぶ理由は「妥協」ではなく、場所を選ばず続けられる点にあります。結果を分けるのは、無理のない負荷で続いたかどうかです。

出典

  1. da Luz MA Jr, Costa LOP, Fuhro FF, Manzoni ACT, de Oliveira NTB, Cabral CMN. Effectiveness of mat Pilates or equipment-based Pilates in patients with chronic non-specific low back pain: a protocol of a randomised controlled trial. BMC Musculoskeletal Disorders. 2013;14:16.
  2. da Luz MA Jr, Costa LOP, Fuhro FF, Manzoni ACT, Oliveira NTB, Cabral CMN. Effectiveness of mat Pilates or equipment-based Pilates exercises in patients with chronic nonspecific low back pain: a randomized controlled trial. Physical Therapy. 2014;94(5):623-631.
  3. Cruz-Díaz D, Bergamin M, Gobbo S, Martínez-Amat A, Hita-Contreras F. Comparative effects of 12 weeks of equipment based and mat Pilates in patients with Chronic Low Back Pain on pain, function and transversus abdominis activation. A randomized controlled trial. Complementary Therapies in Medicine. 2017;33:72-77.
  4. Choi GB, Park CB, Kim WG, Lim JH, Cho WS. Effects of Pilates on Pain and Disability in Chronic Non-Specific Low Back Pain Patients: Systematic Review and Meta-analysis. The Journal of Korean Physical Therapy. 2025;37(6):311-320.
  5. Bulguroglu I, Guclu-Gunduz A, Yazici G, Ozkul C, Irkec C, Nazliel B, Batur-Caglayan HZ. The effects of Mat Pilates and Reformer Pilates in patients with Multiple Sclerosis: A randomized controlled study. NeuroRehabilitation. 2017;41(2):413-422.
  6. Yılmaz O, Kaplan T, Batalik L. Randomised controlled study on the effects of pilates exercises in soccer: Comparing mat and reformer methods on physical and technical performance. PLOS One. 2025;20(5):e0324129.
  7. Şevgin Ö, Postacı S, Dikmen Hoşbaş B. Comparison of two different Pilates exercise methods in women with dysmenorrhea: a randomized controlled trial. Scientific Reports. 2026;16:22123.
  8. Seong D, Kim D. The effects of mat Pilates exercise and barrel Pilates exercise on body composition and muscle activity in adult women. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2025;44:686-690.
  9. Yuk HJ, Shin WS. Comparison of Abdominal and Lower Extremity Muscle Activity across Different Pilates Equipment during the Double Leg Lowering Movement. Physical Therapy Rehabilitation Science. 2024;13(4):504-511.
  10. de Souza Andrade L, da Silva Almeida I, Mochizuki L, Sousa CV, Falk Neto JH, Kennedy MD, Quagliotti Durigan JL, Mota YL. What is the exercise intensity of Pilates? An analysis of the energy expenditure, blood lactate, and intensity of apparatus and mat Pilates sessions. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;26:36-42.
  11. Coelho ACS, Dourado JF, Lima POP. High-intensity and low-intensity Pilates have similar effects on pain and disability in people with chronic non-specific low back pain: a randomised trial. Journal of Physiotherapy. 2025;71(2):100-107.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。器具を使う運動で痛みが増す、しびれや脱力が出る、あるいは持病や妊娠中で運動の可否に不安がある場合は、始める前に医療機関にご相談ください。

author avatar
宮川涼 Founder
PAGE TOP
ご体験予約