連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第8回です。
コンセントレーション(concentration、集中)は、6原則のなかでもっとも心理的な項目です。動作を漫然と繰り返すのではなく、いま何をしているかに意識を向ける。実際の指導では、これはたいてい「どこに意識を向けるか」の指示として現れます。「お尻の筋を意識して」「肩甲骨の下を感じて」「腹横筋を使って」。
ところが運動科学の側には、この形の指示について、かなり一貫した所見があります。そして、その所見はピラティスの指導言語と正面から衝突します。
結論を先に述べます。筋を意識する指示(内的注意)は筋電図の値を上げるが、力の発揮や動作の成績は、動きの結果に意識を向ける指示(外的注意)のほうが優れる。筋活動が増えることと、うまく動けることは、同じではありません。

二つの注意——内的と外的
運動学習の研究では、注意の向け先を二つに分けます。内的注意は身体の部位や筋の動きそのものに向けるもの、外的注意は動作が生む結果や環境の対象に向けるものです。「肘を伸ばして」は内的、「ダーツの的を見て」は外的にあたります。
この区別は、指示の言葉づかいだけの違いに見えて、実際にはかなり厳密に定義されています。同じ動作でも、「足で床を押して」なら内的寄り、「床を遠くへ押しやって」なら外的寄り。さらに外的注意のなかでも、身体に近い対象(近位)か、遠い対象(遠位)かで区別されます。分類が細かいぶん、研究のあいだで定義がずれる問題も起きており、後述するようにそれが結論を左右しています。
この対比を、20年以上にわたる研究の蓄積から統合したメタ分析があります。
Chua LK, Jimenez-Diaz J, Lewthwaite R, Kim T, Wulf G. Superiority of external attentional focus for motor performance and learning: Systematic reviews and meta-analyses. Psychological Bulletin. 2021;147(6):618-645.
| 比較(外的注意 対 内的注意) | 研究数・参加者数 | 効果量(95%CI) |
|---|---|---|
| 運動の遂行 | 73本・1824名 | 0.264(0.217〜0.310) |
| 保持(学習) | 40本・1274名 | 0.583(0.425〜0.741) |
| 転移(学習) | 0.584(0.325〜0.842) | |
| 筋電図の指標 | 12本・216名 | 0.833(0.453〜1.213) |
すべて外的注意が優位です。しかも年齢層・健康状態・技能水準のいずれも、この差を調整する要因にはなりませんでした(いずれもp>0.100)。より遠い(遠位の)外的注意のほうが、近い(近位の)外的注意より効果的という結果も、9本・272名の解析から示されています(0.224、0.019〜0.429)。
ここで注意したいのは、筋電図の指標における効果量0.833の意味です。これは「外的注意で筋活動が増えた」ではなく、外的注意のほうがより効率的な神経筋の処理と結びついていたという意味です。同じ仕事を、より少ない筋活動でこなしていたということになります。
力は上がり、筋電図は下がる
個々の実験を見ると、この逆転がはっきり出ます。等速性の肘屈曲課題で、注意の向け先だけを変えた研究があります。
Marchant DC, Greig M, Scott C. Attentional focusing instructions influence force production and muscular activity during isokinetic elbow flexions. Journal of Strength and Conditioning Research. 2009;23(8):2358-2366.
参加者25名が、内的注意と外的注意の条件で10回ずつ肘を曲げました。外的注意では最大随意収縮に対する関節トルクのピークが102.10±2.42%だったのに対し、内的注意では95.33±2.08%。トルク時間曲線の積分値も外的が99.90±2.91%、内的が93.80±2.71%でした。
一方、上腕二頭筋の筋電図は逆向きです。ピーク値は外的が134.43±16.83%、内的が155.23±22.54%。積分値の平均は外的が127.55±12.24%、内的が154.99±19.44%でした。内的注意では、より多くの筋活動を使って、より小さい力しか出せていなかった。
同じ研究者らによる膝伸展の実験は、さらに踏み込んだ所見を出しています。
Marchant DC, Greig M. Attentional focusing instructions influence quadriceps activity characteristics but not force production during isokinetic knee extensions. Human Movement Science. 2017;52:67-73.
内側広筋という特定の筋を意識させる条件と、外的注意の条件を比べたところ、トルクに差はありませんでした。しかし筋電図では外的注意のほうが全体に低く、内的注意では活動が高い。重要なのはその中身です。意識させた内側広筋だけが選択的に働くのではなく、注意の対象でない筋まで活動が広がりました。Marchantらはこれを「拡散的な活性化」と呼び、選択的な活性化は起きなかったと明記しています。
この所見は、第3回で扱った腹横筋の話と正確に重なります。特定の筋を名指しして意識させても、その筋だけを選んで働かせることはできない。運動制御のこの性質は、少なくとも二つの独立した研究領域から、同じ結論として現れています。腰痛の運動療法を研究してきた人たちと、運動学習を研究してきた人たちが、別々の道筋で同じ壁に突き当たった——そう整理すると、この一致の重みが見えてきます。

なぜそうなるのか
説明として広く支持されているのが、拘束作用仮説です。身体の動きそのものに注意を向けると、本来は自動的に調整されている運動が意識的な制御に引き戻され、自由度が減って効率が落ちる、という考え方です。
これを支持する実験があります。等尺性の力発揮課題で、力を出す足そのものに注意を向ける条件と、押している床反力計に注意を向ける条件を比べたものです。
Lohse KR, Sherwood DE, Healy AF. Neuromuscular effects of shifting the focus of attention in a simple force production task. Journal of Motor Behavior. 2011;43(2):173-184.
外的注意では誤差が有意に小さく、拮抗筋の筋電図活動が減り、その中央パワー周波数も低下しました。主動筋には差がありません。つまり外的注意では、ブレーキ役の筋が余計に働かなくなる。同時収縮が減り、動作が正確になったということです。参加者自身も、外的注意のときのほうがうまくできたと自覚していました。
この「同時収縮が減る」という所見は、実務的に重要な示唆を含みます。動きがぎこちない人、力みが抜けない人に対して、「もっと意識して」と声をかけることは、意図とは逆に力みを増やす可能性があるということです。拘束作用仮説が正しければ、意識的な制御そのものが自動性を妨げます。
Grgic J, Mikulic P. Effects of Attentional Focus on Muscular Endurance: A Meta-Analysis. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;19(1):89.
筋持久力を扱ったこのメタ分析でも、同じ方向の結果が出ています。外的注意は内的注意より優れ(Cohenのd 0.58、95%CI 0.34〜0.82)、統制条件よりも優れました(0.42、0.08〜0.76)。一方、内的注意と統制条件のあいだには有意差がありません(-0.19、-0.45〜0.07)。Grgicらは、筋持久力を急性に高めたいなら外的注意を使うべきだと結論しています。
「効率が上がる」とはどういうことか
ここで一度立ち止まって、筋電図の値が下がることの意味を確認します。指導の場では、筋電図の値が高いことが良いことのように語られがちです。「この種目は腹筋の活動が高い」という説明は、たいてい肯定的な文脈で出てきます。
しかし注意の研究が示しているのは、同じ力を出すのに必要な筋活動が少ないほうが、動作としては優れているという関係です。Marchantらの肘屈曲の実験では、外的注意のほうが力は大きく筋活動は小さかった。Lohseらの実験では、拮抗筋の余計な活動が減って正確さが上がった。どちらも「少ない活動で良い結果」という方向です。
この視点は、第2回で見た筋電図の研究群を読み直す材料にもなります。ある姿勢で筋活動が高かったという所見は、その姿勢が優れていることを意味しません。高い活動は、課題が難しいことの指標でもあれば、非効率な制御の指標でもありえます。どちらであるかは、筋電図だけを見ても決まりません。

ただし、一枚岩ではない
ここまでの整理は明快ですが、近年の研究はもう少し慎重です。
61本の研究を統合した別のメタ分析では、外的注意は内的注意より優れ(分類を整えたうえでSMD 0.24)、統制条件よりも優れました(0.31)。遠位の外的注意が近位より優れるという結果も再現されています(0.23)。しかしNicklasらは、ほとんどの比較で中等度から相当の異質性と広い予測区間が見られたため、すべての課題と技能水準に一般化することはできないと明記しました。
さらに踏み込んだ批判もあります。Wernerらはレビュー研究を精査し、内的注意の指示のほうが動作の形そのものを直接変えるには適しており、外的注意は全身の協調を最適化することで、動作パターンの変化とは直接結びつかない成績向上をもたらす場合が多いと整理しました。結論はこうです。しばしば主張される外的注意の優位性は、すべての応用場面に一般化できるものではない。
技能水準による違いを扱ったネットワークメタ分析も出ています。87本の研究を、あらかじめ定めた操作的定義で分類し直したところ、78本で分類の修正が必要でした。修正前は遠位の外的注意が一貫して最上位でしたが、修正後は順位が変わり、遠位の外的注意と全体的な注意(動きの全体的な感覚に向けるもの)が同程度になりました。競技レベルの高い層では全体的な注意が最上位となり、内的注意は明確に有害、近位の外的注意には有意な効果が認められませんでした。Pengらは、小規模研究効果と報告バイアスの可能性を理由に、結論は慎重であるべきだと述べています。
ピラティスの指導言語はどちらに寄っているか
ここまでを踏まえて、冒頭の問いに戻ります。「腹横筋を使って」「肩甲骨を下げて」「内転筋を寄せて」——これらはすべて内的注意の指示です。ピラティスの指導言語は、圧倒的に内的注意に寄っています。コンセントレーションという原則が、身体の内側へ意識を向けることとして解釈されてきたからです。
この事実をどう扱うべきか。単純に「内的注意はやめるべきだ」とは言えません。理由は三つあります。
- 目的が違う可能性。 Wernerらが指摘したとおり、動作の形を直接変えたい場面では内的注意のほうが適している場合があります。ピラティスの多くの種目は、成績を競うものではなく、特定の姿勢や動き方を身につけるためのものです。
- 効果量が小さい。 遂行における外的注意の優位は効果量0.264で、小さい部類に入ります。学習における0.583は無視できませんが、これも劇的な差ではありません。
- 個人差と好み。 異質性が大きく予測区間が広いという指摘は、人によって反応が違うことを意味します。
もうひとつ、Pengらの結果は技能水準による違いを示しています。競技レベルの高い層では内的注意が明確に有害だった一方、経験の浅い層では遠位の外的注意がもっとも有利でした。熟練するほど、身体への意識は邪魔になる。初めてリフォーマーに乗る人と、何年も続けている人とで、同じ言葉が同じように働くとは限らないということです。
実務的な折り合いとして、証拠と矛盾しない方針はこうなります。動きを覚える段階では身体への意識も使い、力を出す場面や動作を仕上げる場面では、動きの結果へ注意を移す。「肩甲骨を下げて」ではなく「胸を遠くへ運んで」、「腹横筋を締めて」ではなく「バーを静かに押して」。同じ動作を、別の言葉で指示するということです。言い換えの候補をあらかじめ用意しておけば、相手の反応を見ながら切り替えられます。
注意の向け方と筋活動の関係については、内的注意と外的注意を扱った既存の記事にも数値をまとめてあります。第2回で見た中心の意識づけ、第3回で見た腹横筋の指示は、いずれもこの論点の上に立っています。
これらの研究の限界
注意の研究は数が多く一貫していますが、ピラティスに当てはめるときの距離は正直に書いておく必要があります。
課題が違います。ここで引いた実験の課題は、等速性の肘屈曲、等尺性の力発揮、ダーツ、跳躍といった、単純で成績が数値化できるものが中心です。ピラティスの種目は、複数の関節を同時に制御しながら特定の姿勢を保つ課題であり、「成績」にあたる数値がそもそも定義しにくい。注意の向け方をピラティスの種目で操作し、その効果を測った研究は、今回の検索では見つかりませんでした。
分類そのものが揺れています。Pengらが87本中78本で分類の修正を要したという事実は、この分野の重大な弱点です。研究者が「外的」と呼んでいたものが、定義に照らすと外的ではなかった。分類が変われば順位が変わることも示されました。メタ分析の結論が、分類の仕方に依存しているということです。
効果量の解釈にも幅があります。0.264という値は、統計的には有意でも、現場で体感できる差とは限りません。Nicklasらが予測区間の広さを強調したのは、次の一人に同じ効果が出るとは限らないという意味です。
それでも、これだけ多くの独立した実験が同じ向きの結果を出していることには重みがあります。とくに「特定の筋を意識させても、その筋だけが働くわけではない」という所見は、複数の研究で一貫して確認されています。ここは指導の言葉を選び直すのに十分な根拠と言えます。
次回予告
第9回は「マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学」を扱います。ばねは可動域の途中で負荷が変わるという、重りとは異なる性質を持ちます。その力学が、原則の実装にどう効いているのかを見ます。
この連載の全10回
- 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ
- 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像
- 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか
- 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか
- 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
- 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
- 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか
- 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動(この記事)
- 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学
- 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの
出典
- Chua LK, Jimenez-Diaz J, Lewthwaite R, Kim T, Wulf G. Superiority of external attentional focus for motor performance and learning: Systematic reviews and meta-analyses. Psychological Bulletin. 2021;147(6):618-645.
- Marchant DC, Greig M, Scott C. Attentional focusing instructions influence force production and muscular activity during isokinetic elbow flexions. Journal of Strength and Conditioning Research. 2009;23(8):2358-2366.
- Marchant DC, Greig M. Attentional focusing instructions influence quadriceps activity characteristics but not force production during isokinetic knee extensions. Human Movement Science. 2017;52:67-73.
- Lohse KR, Sherwood DE, Healy AF. Neuromuscular effects of shifting the focus of attention in a simple force production task. Journal of Motor Behavior. 2011;43(2):173-184.
- Grgic J, Mikulic P. Effects of Attentional Focus on Muscular Endurance: A Meta-Analysis. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;19(1):89.
- Nicklas A, Rein R, Noel B, Klatt S. A meta-analysis on immediate effects of attentional focus on motor tasks performance. International Review of Sport and Exercise Psychology. 2022;17(2):668-703.
- Werner I, Federolf P. Focus of Attention in Coach Instructions for Technique Training in Sports: A Scrutinized Review of Review Studies. Journal of Functional Morphology and Kinesiology. 2023;8(1):7.
- Peng F, et al. Reevaluating Attentional Focus on Motor Performance According to Expertise: A Stratified Network Meta-Analysis. Psychology of Sport and Exercise. 2026;86:103215.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。運動中に強い痛みやしびれ、めまいが出る場合は中止してください。痛みや不調が続く場合は、整形外科などの医療機関にご相談ください。






