指導の言葉づかいは、結果を変えるのか。運動学習の分野で、この問いにもっとも明快な答えを出したとされてきたのが注意の焦点(attentional focus)の研究です。
「肘を上げて」のように自分の身体部位に注意を向けさせる指示を内的焦点(internal focus)、「クラブヘッドをボールに通して」のように動作がもたらす効果に注意を向けさせる指示を外的焦点(external focus)と呼びます。25年にわたる研究の蓄積は、外的焦点のほうが優れているという結論でほぼ一致していました。
ところが2024年、その結論を支えていたデータそのものを、同じ雑誌に掲載された別のメタ分析が再解析し、「効果はほぼゼロである」と報告しました。この記事では、何がどのように覆されたのかを追います。

25年間の蓄積
Wulf G, Höß M, Prinz W. Instructions for motor learning: differential effects of internal versus external focus of attention. Journal of Motor Behavior. 1998;30(2):169–179.
出発点となった研究です。実験1では33名がスキーシミュレータでスラローム様の動作を行いました。指示は、力をかける対象を自分の足とするか(内的焦点)、足の真下にあるプラットフォームの車輪とするか(外的焦点)の違いだけです。注意の対象は物理的にほぼ同じ位置にあり、変わるのは言葉だけでした。
結果は、外的焦点群が内的焦点群と無指示の対照群より学習が良好というものでした。注目すべきは、内的焦点は無指示より効果的ではなかった点です。実験2ではスタビロメータでの平衡課題を用い、同じ結果が再現されました。
この効果の説明として提案されたのが制約された行為仮説(constrained-action hypothesis)です。自分の身体に注意を向けると、本来は自動的に進行する運動制御に意識的な介入が生じ、それが動作を妨げる。外的焦点はこの干渉を避ける——という機序です。
その後15年間の研究を総括した総説は、この利点が課題の種類、技能水準、年齢層を超えて現れること、効果(正確性、一貫性、平衡)だけでなく効率(筋活動、力発揮、循環応答)にも及ぶことを報告しました(Wulf, 2013, International Review of Sport and Exercise Psychology)。この論文は1,100回以上引用されています。
集大成となったメタ分析
Chua LK, Jimenez-Diaz J, Lewthwaite R, Kim T, Wulf G. Superiority of external attentional focus for motor performance and learning: Systematic reviews and meta-analyses. Psychological Bulletin. 2021;147(6):618–645.
心理学で最も権威のある総説誌のひとつに掲載された、包括的なメタ分析です。成績については73研究・1,824名、学習については40研究・1,274名の効果量が用いられました。
| アウトカム | 効果量(Hedges’ g) | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 成績(performance) | 0.264 | 0.217〜0.310 |
| 保持学習(retention) | 0.583 | 0.425〜0.741 |
| 転移学習(transfer) | 0.584 | 0.325〜0.842 |
| 筋電図(神経筋の効率) | 0.833 | 0.453〜1.213 |
| 遠位の外的焦点 対 近位の外的焦点 | 0.224 | 0.019〜0.429 |
さらに多変量メタ回帰分析により、年齢層・健康状態・技能水準のいずれも、またそれらの二次交互作用も、効果量の差を調整しなかったと報告されました(すべて p > .100)。つまり「誰に対しても、どんな場面でも外的焦点が優れている」という、きわめて強い一般化です。

2024年の再解析:「外的焦点ではなく、報告バイアス」
そして2024年、同じ Psychological Bulletin に次の論文が掲載されました。
McKay B, Corson A, Seedu J, et al. Reporting bias, not external focus: A robust Bayesian meta-analysis and systematic review of the external focus of attention literature. Psychological Bulletin. 2024;150(5):551–571.
この論文が行ったのは、新しいデータを集めることではありません。既存の7つのメタ研究——すべて外的焦点の優位を報告していた——のデータを、出版バイアスの複数のモデルを組み込んだロバストなベイズ的メタ分析で再解析することでした。
すべての解析において、中程度から強い出版バイアスの証拠が見つかった。
出版バイアスを補正した後の推定平均効果は、次のとおりでした。
| アウトカム | 補正前(Chua ら 2021) | 補正後(McKay ら 2024) |
|---|---|---|
| 成績 | 0.264 | g = 0.01 |
| 保持 | 0.583 | g = 0.15 |
| 転移 | 0.584 | g = 0.09 |
| 筋電図 | 0.833 | g = 0.06 |
| 焦点の距離の効果 | 0.224 | g = −0.01 |
ベイズファクターは、すべての解析でデータが帰無仮説を支持することを示しました(BF01 は保持の1.3から成績の5.75まで)。
著者らの結論はこうです。
「我々の結果は、外的焦点が常に内的焦点より効果的であるという既存の合意と矛盾する。むしろ注意の焦点は、我々が説明できない多様な効果を持つように見え、平均すると、それらの効果は小さいかゼロである。」
同時に、すべての解析で明確な異質性が検出されました。著者らはこれを「注意の焦点の影響は、まだ知られていない文脈要因に依存することを示唆する」と解釈しています。効果がまったく無いのではなく、条件によって向きも大きさも変わり、平均するとゼロに近づく——という読み方です。
異質性の大きさは、再解析より前のメタ分析でもすでに報告されていました。3,833件から61研究を採用した別のメタ分析は、外的焦点が内的焦点より即時の成績を高めること(適合分類での SMD = 0.24)と、遠位の外的焦点が近位より優れること(SMD = 0.23)を確認しています。しかし著者らは同時にこう記しています——「ほとんどの比較で中程度から相当な異質性と、広い予測区間が示された。したがって、この結果をすべての課題と技能水準に一般化することはできない」(Nicklas ら, 2022, International Review of Sport and Exercise Psychology)。平均値の背後にある散らばりは、当初から見えていたことになります。
機序そのものへの疑問
統計的な再解析とは別に、理論面からの批判も出ています。
Herrebrøden H. Motor Performers Need Task-relevant Information: Proposing an Alternative Mechanism for the Attentional Focus Effect. Journal of Motor Behavior. 2023;55(1):12–24.
この論文は、自動性(automaticity)による説明を批判的に検討し、代替の機序を提案します。重要なのは情報が課題に対してどれだけ関連しているかであって、身体の内側か外側かではない、という主張です。著者は「外的焦点を支持し、すべての内的焦点を退ける最近の強い結論は、根拠を欠いているように見える」と述べています。
実際、内的焦点が常に有害とは限らないことを示す研究もあります。ゴルフのチップショットを用いた実験では、準備局面で内的焦点、実行局面で外的焦点に切り替える群が検討されました(Aiken ら, 2022, European Journal of Sport Science、79名)。一次解析では群間差が出ませんでしたが、指示への遵守率が60%未満の参加者を除外した二次解析では、切替群が内的焦点群を保持で有意に上回りました。著者らは「内的焦点の有害な効果は技能の実行中に限られ、動作の準備中には当てはまらない」と結論しています。

分類の仕方で結論が変わる
もうひとつ、方法論上の問題が指摘されています。
Peng F, et al. Reevaluating Attentional Focus on Motor Performance According to Expertise: A Stratified Network Meta-Analysis. Psychology of Sport and Exercise. 2026;79:103215.
この研究は、各論文で用いられた注意の焦点の指示文を監査し、あらかじめ定めた操作的定義で再分類しました。対象87研究のうち、78研究で再分類が必要でした。
そして再分類の前後で、ネットワークメタ分析の順位が変わりました。再分類前は遠位の外的焦点が一貫して最上位でしたが、再分類後は遠位外的焦点と全体的焦点(holistic focus)が同等の利益を示し、熟練度の層によって順位が入れ替わりました。熟練度の高い層では全体的焦点が最上位で、内的焦点が明確に有害、近位の外的焦点には有意な効果がありませんでした。
著者らは「注意の焦点の分類がメタ分析の結論を左右しうる」と述べたうえで、小標本効果への感度と報告バイアスの可能性を理由に、結論は慎重であるべきだとしています。
現場では、そもそも内的焦点が使われている
研究の側の論争とは別に、実際の指導現場での使用実態を調べた総説があります。
Yamada M, Diekfuss JA, Raisbeck LD. How external and internal focus are used in the field: A review. International Journal of Sports Science & Coaching. 2022;17(3):647–654.
1999年から2020年までの12研究を対象とした結果は、次のとおりでした。
- 療法士もコーチも、圧倒的に内的焦点を用いていた
- アスリート自身も内的焦点を多く用いる傾向があったが、競技によって異なった
- 注意の焦点は、練習時と競技時で異なっていた
- 外的焦点と内的焦点は、それ以外の焦点と比べて全体に占める割合が小さかった
最後の点は見過ごせません。研究が二分法で扱ってきた2つの焦点は、現場で実際に用いられている注意のあり方のごく一部にすぎないということです。著者らは、外的・内的以外の焦点との相対的な重要性を今後調べる必要があると述べています。
それでも残っているもの
出版バイアスの補正によって平均効果がほぼ消えたとしても、個別の良質な研究が無効になるわけではありません。事前登録され、比較的大きな効果を報告した研究には次のようなものがあります。
超音波ガイド下の末梢静脈カニュレーションを学ぶ医療系学生70名を無作為化した研究では、外的焦点群(針先に注目)が内的焦点群(自分の手に注目)より平均2.33倍速く成功しました(95%信頼区間 1.47〜3.67、P < .001/中央値 12.0秒 対 29.5秒)。2週間後の保持評価でも2.37倍速いままでした(Tarasova ら, 2024, Academic Medicine)。
平衡課題に絞った16研究のメタ分析では、獲得期 ES = 0.48、保持 ES = 0.44、転移 ES = 1.41 と報告されています(Kim ら, 2017, Journal of Human Sport and Exercise、541名)。ただし獲得期の異質性は I² = 78.2% と高く、この数値は出版バイアスの補正を経ていません。
いま言えること
- 25年にわたり、外的焦点の優位は一貫して報告されてきた。73研究のメタ分析では、保持 g = 0.583、転移 g = 0.584、筋電図 g = 0.833
- 2024年、同じデータの再解析で、すべての解析に中程度から強い出版バイアスが検出された。補正後の効果量は 0.01〜0.15 で、ベイズファクターは帰無仮説を支持した
- 異質性は大きい。効果がゼロなのではなく、まだ特定されていない文脈要因によって向きと大きさが変わると考えられている
- 分類の操作定義そのものが結論を左右する。87研究のうち78研究で再分類が必要だった
- 内的焦点が常に有害とは限らない。準備局面では有害でないことを示す研究がある
- 現場では、療法士もコーチも圧倒的に内的焦点を用いている。そして外的・内的の二分法は、実際に用いられる焦点のごく一部にすぎない
この一件は、注意の焦点という個別のテーマを超えた含意を持ちます。7つのメタ研究がすべて同じ方向の結論を出していたにもかかわらず、出版バイアスを組み込んだ再解析でその結論が反転しました。「複数のメタ分析が一致している」ことは、それ自体では強い証拠になりません。一致は、真実の反映であることもあれば、同じ偏りを共有した文献群を同じ方法で要約した結果であることもあります。
実務的には、次のように整理するのが現時点で妥当でしょう。外的焦点の指示を使うことに害はなく、場面によっては有効です。しかし「常に外的焦点が優れている」という前提で指導言語を統一する根拠は、2024年の再解析以降、以前より弱くなっています。
出典
- Wulf G, Höß M, Prinz W. Instructions for motor learning: differential effects of internal versus external focus of attention. Journal of Motor Behavior. 1998;30(2):169–179.
- Wulf G. Attentional focus and motor learning: a review of 15 years. International Review of Sport and Exercise Psychology. 2013;6(1):77–104.
- Chua LK, Jimenez-Diaz J, Lewthwaite R, Kim T, Wulf G. Superiority of external attentional focus for motor performance and learning: Systematic reviews and meta-analyses. Psychological Bulletin. 2021;147(6):618–645.
- McKay B, Corson A, Seedu J, et al. Reporting bias, not external focus: A robust Bayesian meta-analysis and systematic review of the external focus of attention literature. Psychological Bulletin. 2024;150(5):551–571.
- Herrebrøden H. Motor Performers Need Task-relevant Information: Proposing an Alternative Mechanism for the Attentional Focus Effect. Journal of Motor Behavior. 2023;55(1):12–24.
- Aiken CA, Post PG, Hout MC, Fairbrother JT. Utilising an internal focus of attention during preparation and an external focus during execution may facilitate motor learning. European Journal of Sport Science. 2022;22(11):1772–1780.
- Peng F, et al. Reevaluating Attentional Focus on Motor Performance According to Expertise: A Stratified Network Meta-Analysis. Psychology of Sport and Exercise. 2026;79:103215.
- Yamada M, Diekfuss JA, Raisbeck LD. How external and internal focus are used in the field: A review. International Journal of Sports Science & Coaching. 2022;17(3):647–654.
- Tarasova N, et al. External Versus Internal Focus of Attention in Procedural Skills Learning: A Randomized Study. Academic Medicine. 2024;99(9):1005–1011.
- Kim T, Jimenez-Diaz J, Chen J. The effect of attentional focus in balancing tasks: A systematic review with meta-analysis. Journal of Human Sport and Exercise. 2017;12(2):463–479.
- Nicklas A, Rein R, Simon D, Rentz-Lühning A, Kolter K. A meta-analysis on immediate effects of attentional focus on motor tasks performance. International Review of Sport and Exercise Psychology. 2022. Epub ahead of print.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。






