変形性膝関節症は、中高年でもっとも多い関節の病気です。日本でも患者数は多く、階段の昇り降りや立ち上がりのつらさとして現れます。

この領域では、運動療法が治療の中核であることが国際的な診療ガイドラインで一致しています。争点は「運動をするかどうか」ではなく「どの運動を選ぶか」です。

ピラティスについては、2025年に2件のメタアナリシスが相次いで公表されました。興味深いことに、この2件は関節可動域についての結論が食い違っています。 どちらか一方だけを紹介すれば、正反対の記事が書けてしまう。この記事では両方を並べます。

変形性膝関節症で何が起きているか

まず病態を押さえます。「軟骨がすり減る病気」と説明されることが多いのですが、現在の理解はもう少し複雑です。

関節軟骨の変性に加えて、軟骨下骨の変化、半月板の変性、滑膜の炎症、関節包や靱帯の変化、そして周囲の筋の機能低下——関節全体が関わる疾患として捉えられています。だから軟骨だけを見ても症状は説明できません。

実際、画像所見の重症度と痛みの強さは、しばしば一致しません。 レントゲンで進行した所見がある人が痛みをほとんど訴えないこともあれば、所見が軽いのに強い痛みを訴える人もいます。この乖離は繰り返し確認されており、「軟骨がすり減っているから痛い」という単純な図式では臨床像を説明できないことが分かっています。

運動療法が効く理由も、この文脈で理解されます。運動は失われた軟骨を再生させるわけではありません。大腿四頭筋をはじめとする筋の機能を高め、関節にかかる負荷の分散を改善し、動くことへの恐怖を減らし、全身の状態を整える——そうした複数の経路で症状と機能に働きかけると考えられています。

1つ目のメタアナリシス——11研究476名

de Oliveira TMD, et al. Effect of Pilates Exercise on Health-Related Outcomes in Patients With Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Rheumatic Diseases. 2025;28(10):e70434.

11研究・476名を対象とし、うち7研究がメタ分析に寄与しました。研究はブラジル、エジプト、インド、イラン、ナイジェリア、パキスタン、トルコで行われたもので、2013年から2023年の publication です。

比較評価項目効果量(95%信頼区間)確実性
対 無介入痛みSMD −1.09(−2.04〜−0.14)66%
対 通常の運動痛みSMD −0.28(−1.06〜0.50)86%非常に低い
対 通常の運動WOMAC 合計SMD −0.14(−1.12〜0.85)91%非常に低い
膝関節可動域SMD 1.07(0.56〜1.57)0%

WOMAC は変形性関節症の標準的な評価尺度で、痛み・こわばり・身体機能の3領域から構成されます。

読み取れることは明確です。無介入と比べれば痛みは改善するが、通常の運動と比べると痛みも WOMAC も差がない。 信頼区間はいずれも0をまたいでいます。しかも I² が 86%・91% と極端に高く、確実性は「非常に低い」。

一方、膝関節可動域は SMD 1.07(0.56〜1.57)と大きな効果量で、I² も 0% と揃っています。ただし2研究・70名という小さな規模です。

SMD という指標について

この記事に並ぶ数値は SMD(標準化平均差)です。研究ごとに違う尺度——ある研究は0〜10の痛みスケール、別の研究は0〜100の WOMAC——を共通の物差しに乗せるための変換で、ばらつきを単位として効果の大きさを表します。

慣例的に、0.2 で小、0.5 で中、0.8 で大と解釈します。したがって「痛み 対 無介入 SMD −1.09」は大きな効果、「対 通常の運動 SMD −0.28」は小さな効果にあたります。

ただし SMD には読みにくさがあります。「mg/dL」や「点」のような実感できる単位ではないため、患者にとっての意味に翻訳しづらい。さらに、ばらつきが小さい研究ほど SMD は大きく出るという性質があり、集団の均質さに左右されます。数字の大小だけで判断せず、信頼区間と I² を併せて見る必要があります。

I² が 86〜91% とはどういう状態か

この記事でとくに目を引くのは、通常の運動との比較における I² の高さです。痛みで 86%、WOMAC で 91%。

I² は研究間のばらつきのうち、偶然では説明できない部分の割合を示します。90%前後というのは、研究ごとに結果がまったく違う状態です。ある研究ではピラティスが優り、別の研究では対照が優り、その差も大小さまざま——そうしたデータを平均した値が「−0.14」なのです。

この場合、平均値そのものにはあまり意味がありません。重要なのは「差があるとも無いとも言えない」という状態を正しく受け取ることです。GRADE がこれらを「非常に低い」と評価したのは、この異質性が大きな理由です。

異質性の原因として考えられるのは、対象者の重症度の違い、介入期間の違い(数週間から数か月)、「通常の運動」として何を行ったかの違い、そして各研究の実施品質の差です。ブラジル・エジプト・インド・イラン・ナイジェリア・パキスタン・トルコと実施国が広く分散していることも、医療体制や日常の身体活動量の違いを通じて結果に影響しうる要素です。

2つ目のメタアナリシス——8試験322名

The efficacy and safety of pilates exercise in patients with knee osteoarthritis: a systematic review with meta-analysis of randomized controlled trials. Annals of Medicine. 2025.(著者名は確認できていないため記載しない)

同じ年に公表されたもう1件は、8件の無作為化比較試験・322名を統合しています。

  • 無処置の対照との比較:WOMAC が SMD −1.70(95%信頼区間 −3.14〜−0.25)で有意に改善
  • 他の運動との比較:VAS(痛み)・WOMAC・関節可動域のいずれも有意差なし
  • GRADE 評価は VAS と WOMAC が「非常に低い」、関節可動域が「低い」
  • 有害事象の報告が不十分で、安全性については結論できない

可動域が広がることの意味

可動域についてもう少し踏み込みます。変形性膝関節症では、痛みを避けるために膝を深く曲げ伸ばししなくなり、結果として可動域が狭まっていくことがあります。この二次的な制限は、階段昇降、しゃがむ、正座といった日常動作に直接響きます。

したがって可動域の改善は、それ自体として生活上の意味を持ちます。仮に痛みの点数が変わらなくても、膝が曲がるようになれば行動範囲は広がる。

ただし注意点があります。可動域は測定者によって値が変わりやすい指標で、測定者が群を知っていれば無意識の偏りが入ります。また、SMD 1.07 という大きな効果量は2研究・70名から算出されたものです。小さな標本で「有意」に達するには、偶然大きな差が出ている必要があり、その分だけ推定値は膨らみやすい。今後研究が増えれば縮小する可能性が高いと見ておくのが妥当です。

食い違いをどう扱うか

2件を並べると、一致点と相違点がはっきりします。

一致していること:無介入・無処置と比べれば改善する。他の運動と比べた場合、痛みにも WOMAC にも差がない。 エビデンスの確実性は低いか非常に低い。

食い違っていること:関節可動域。1件目は SMD 1.07(0.56〜1.57)と明確な改善を報告し、2件目は他の運動と比べて有意差なし・効果は限定的と評価しています。

この食い違いは、実は矛盾ではない可能性があります。比較の相手が違うからです。1件目の可動域の解析がどの比較条件によるものかと、2件目が「他の運動との比較」で差がないと述べていることは、両立しえます。「何もしないよりは可動域が広がるが、他の運動と比べて特に優れてはいない」と読めば、両者は整合します。

ただし、これは筆者の解釈です。それぞれの解析に含まれる研究が2件と重複しているのかどうか、対照条件がどう定義されているのかまでは、公開されている情報からは確認できませんでした。確認できていないことを「こうに違いない」と書かないために、この留保を明記しておきます。

同じテーマ・同じ年に公表されたメタアナリシスが異なる結論を出すこと自体は、珍しくありません。組み入れ基準、検索期間、統合の方法、効果量の指標の選び方——いずれかが違えば結果は変わります。「メタアナリシスがあるから確実だ」という読み方は成り立たないことを、この2件は示しています。

他の運動と差がない、をどう受け止めるか

「他の運動と差がない」という結果は、否定的に響くかもしれません。しかし変形性膝関節症の文脈では、必ずしもそうではありません。

この疾患に対して確立しているのは、大腿四頭筋を中心とした筋力トレーニング有酸素運動です。ガイドラインが推奨するのはこれらであり、ピラティスがそれらと同等の結果を出せるなら、選択肢としては成立します。

実務上の分かれ目は、続けられるかどうかです。膝の運動療法は数か月から年単位で続けて初めて意味を持ちますが、単調な筋力トレーニングを一人で継続できる人は多くありません。クラス形式で、全身を使い、他の参加者がいる環境のほうが通い続けられる人にとっては、「同等の効果で、続けられる」という選択になります。

逆に、膝の筋力が明らかに低下している人にとっては、負荷を段階的に上げられる筋力トレーニングのほうが合理的です。ピラティスの標準的なクラスは、大腿四頭筋に高い負荷をかけることを主目的としていません。

体重という、効果量に表れない要因

変形性膝関節症の管理で、運動と並んで確立しているのが減量です。体重は膝にかかる負荷に直接効き、過体重・肥満のある人では減量が症状の改善につながることが繰り返し示されています。

この観点から見ると、運動療法の効果には2つの経路があります。筋機能や動作の改善という直接の経路と、体重や体組成の変化を介した間接の経路です。本稿で見たメタアナリシスは、この2つを分けていません。

別稿で扱ったとおり、ピラティスには体重 −2.40kg、BMI −1.17 という報告があります。もし膝の症状改善の一部がこの経路によるものなら、「どの運動か」より「どれだけのエネルギーを消費し、どれだけ続けたか」のほうが結果を左右することになります。有酸素運動がガイドラインで推奨される理由のひとつも、ここにあります。

ピラティスの平均的な運動強度は高くありません。減量を主目的とするなら、ピラティス単独ではなく、歩行や自転車といった有酸素運動を組み合わせるほうが理にかなっています。

安全性について分かっていないこと

2件のうち1件は、2研究が重篤な有害事象なしと報告したとしています。もう1件は、有害事象の報告が不十分で安全性については結論できないと明記しています。

これは「危険だ」という意味ではなく、「調べられていない」という意味です。膝に不調のある人が運動を行う以上、痛みの一時的な増悪は一定の頻度で起こると考えるのが自然で、それが記録されていないだけの可能性が高い。

実務的に重要なのは、深屈曲や膝を強くひねる動作、床上での長時間の膝立ちといった、膝関節に大きな負荷や剪断力がかかる肢位です。これらは変形性膝関節症では避けたほうがよいとされる動作で、クラスの内容によっては含まれます。どの動作を避けるべきかは個人の状態によって異なり、その判断には医学的な評価が要ります。

整理

  1. 無介入・無処置と比べれば、痛みも WOMAC も改善する。
  2. 通常の運動と比べると、痛み(SMD −0.28)も WOMAC(SMD −0.14)も差がない。 2件のメタアナリシスが一致している。
  3. 関節可動域については2件の結論が食い違う。比較の相手が違う可能性があるが、確認できていない。
  4. エビデンスの確実性はいずれも「低い」または「非常に低い」。I² が 86〜91% に達する項目がある。
  5. 安全性は結論できる段階にない(有害事象の報告が不十分)。

変形性膝関節症に対して運動をすることには、十分な根拠があります。その中でピラティスを選ぶ理由は「他より効くから」ではなく、「同等の結果が期待でき、自分が続けられるから」——そう位置づけるのが、現在のデータに整合的です。

出典

  1. de Oliveira TMD, et al. Effect of Pilates Exercise on Health-Related Outcomes in Patients With Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Rheumatic Diseases. 2025;28(10):e70434.
  2. The efficacy and safety of pilates exercise in patients with knee osteoarthritis: a systematic review with meta-analysis of randomized controlled trials. Annals of Medicine. 2025. doi:10.1080/07853890.2025.2540616

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。膝の痛み・腫れ・熱感・可動域の急な制限がある場合は、運動を始める前に整形外科でご相談ください。

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宮川涼 Founder
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