「格闘技を習うと気性が荒くなる」という心配と、「格闘技は礼儀と自制心を育てる」という期待は、同じくらい根強くあります。この問いには、子どもと若者を対象にした研究を数値で統合したメタ分析が少なくとも3本あり、2026年には種目ごとに順位づけをするネットワークメタ分析も出ています。

ところがその3本は、同じ問いに対して「中程度に下がる」「関係なし」「ほぼゼロ」という異なる答えを出しました。ここでは3本の数字を並べ、食い違いの理由を設計の違いから読み、そのうえで種目・自己選択・測定という3つの論点を原典で確かめます。

結論を先に述べると、格闘技の練習が攻撃性を下げるという証拠も高めるという証拠も、全体を平均すれば弱く、差を生んでいるのは「どの種目を」「誰が」「どう教わって続けたか」であって、練習そのものが人の性格を変えると言える段階にはない——これが現時点で最も正確な要約です。

3つのメタ分析が出した数字

メタ分析とは、同じ問いを扱った複数の研究の結果を統計的に1つにまとめる方法です。効果量(d や SMD)は群間の差を標準偏差の単位で表した数で、慣例的に 0.2 が小、0.5 が中、0.8 が大とされます。

メタ分析対象結果方向
Harwood ら(2017)12研究・507名(6〜18歳)介入・縦断9研究で効果量 0.65(95%CI 0.11〜1.03)攻撃性の低下
Gubbels ら(2016)12研究・94効果量・5,949名(20歳まで)r = −0.019(95%CI −0.150〜0.112)関係なし
Moore ら(2020)14研究d = 0.022(95%CI −0.191〜0.236)ほぼゼロ

「中程度に下がる」——Harwood ら

Harwood A, Lavidor M, Rassovsky Y. Reducing aggression with martial arts: A meta-analysis of child and youth studies. Aggression and Violent Behavior. 2017;34:96–101.

6〜18歳を対象にした12研究・507名を統合し、攻撃性・怒り・暴力をまとめた「外在化行動」への効果を調べたものです。介入研究と縦断研究の9本に限ると効果量は 0.65(95%信頼区間 0.11〜1.03)で、中程度の低下にあたります。ただし残りの3本、つまり練習者と非練習者をある一時点で比べただけの研究は、結果がばらついて1つの数字にまとまりませんでした。著者ら自身が、無作為化比較試験(RCT)の不足を今後の課題に挙げています。

「関係なし、むしろ逆かもしれない」——Gubbels ら

Gubbels J, van der Stouwe T, Spruit A, Stams GJJM. Martial arts participation and externalizing behavior in juveniles: A meta-analytic review. Aggression and Violent Behavior. 2016;28:73–81.

同じ雑誌に前年に載ったこちらは、12研究から94個の効果量を取り出し、5,949名(格闘技群1,169名・比較群4,780名)を扱っています。全体の相関は r = −0.019、信頼区間は −0.150〜0.112 でゼロをまたぎ、格闘技への参加と外在化行動のあいだに関係は見つかりませんでした。

見逃せないのは出版バイアスの検定です。Egger の検定は有意(t = −3.455、p = 0.001)で、「格闘技をしている子のほうが問題行動が多い」方向の研究が公表されずに埋もれている可能性を示しました。欠けている研究を補う trim-and-fill という手続きをすると、全体の相関は r = 0.185 と正の値、つまり格闘技群のほうが外在化行動が多い方向に転じます。著者らは「現在の結果は格闘技練習者の外在化行動を過小評価しているかもしれない」と書いています。

「ほぼゼロ」——Moore ら

Moore B, Dudley D, Woodcock S. The effect of martial arts training on mental health outcomes: A systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2020;24(4):402–412.

メンタルヘルス全般を扱ったこの分析では、14研究を統合し、幸福感には小さな効果(d = 0.346)、抑うつ・不安などの内在化症状には中程度の効果(d = 0.620)を認めた一方、攻撃性への効果は d = 0.022(95%CI −0.191〜0.236)で、統計的に有意ではありませんでした。研究間のばらつき(I²)は 58.12% で、まとめ方によって答えが動きうる大きさです。

なぜ食い違うのか

答えが違う理由は、集めた研究の種類が違うからです。

  • 研究の設計。 Harwood らが「中程度」を出したのは介入・縦断研究に絞った部分で、一時点比較の研究は数字にまとまりませんでした。Gubbels らの対象は横断研究が7本・縦断研究が2本で、参加者が自分で種目を選んだ研究が7本を占めます。
  • アウトカムの定義。 Gubbels らは攻撃性だけでなく非行を含む「外在化行動」を扱い、Moore らは標準化された尺度で測った攻撃性に限りました。
  • 出版バイアス。 「格闘技は良い」という結果のほうが公表されやすいなら、公表論文だけを集めた平均は良い方向に偏ります。Gubbels らの trim-and-fill はその偏りを数字で示しました。
  • 研究の質。 Lafuente らの2021年の系統的レビューは、コホート研究3本とRCT6本の計9本しか基準を満たさず、「結果は慎重に見るべきで、全体としては練習と怒り・攻撃性のあいだに関係は示されない」と結んでいます。

「下げる」と主張したければ Harwood らを、「関係ない」と言いたければ Gubbels らか Moore らを引けばよい状況です。1本だけ引いた記事は、それだけで信用しないほうがよいということでもあります。

種目で分けると何が見えるか

2026年に発表されたネットワークメタ分析は、「格闘技」をひとまとめにせず、種目の性格で分けて比較しました。ネットワークメタ分析とは、複数の介入を同時に比較して順位づけする方法です。

Wang X, Wang L, Qin XM, Lun X, Dong D. Effects of Martial Arts Exercise on Aggressive Behaviors in Young People: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Trauma, Violence, & Abuse. 2026.

実験研究に限った結果では、型や礼法を重んじ試合で打ち合わない「伝統的・非対戦型」の武道が、運動をしない対照群に対して SMD −0.41(95%CI −0.73〜−0.10)と、攻撃性を有意に下げていました。接触のない一般スポーツも −0.41(95%CI −0.73〜0.10)とほぼ同じ大きさでしたが、こちらは信頼区間がゼロをまたぎます。対して、複数流派をまぜたプログラムと対戦志向の格闘技は効果が弱いか有意でなく、接触スポーツは最も小さく、ときに攻撃傾向がわずかに上がる方向でした。観察研究でも同じ順序で、伝統的武道は −0.63(95%CI −0.88〜−0.39)、非接触スポーツは −0.60(95%CI −0.91〜−0.29)でした。

ここで読み取るべき点が2つあります。第一に、「伝統的武道」の効果は「接触のない普通のスポーツ」とほぼ同じ大きさだということ。武道に固有の何かというより、規律のある身体活動に共通する効果である可能性が残ります。第二に、キックボクシングやMMAが属する「対戦志向」の群では、下げる効果が確認されていないということです。Gubbels らの副次解析でも、練習強度が高いほど外在化行動が多く、柔道より空手のほうが外在化行動との関連が弱いという結果が出ています。

無作為に割り付けた試験は何を示したか

因果を言うには、くじ引きで割り付ける必要があります。2024年に中学校で行われた試験がその条件を満たしています。

Moore B, Woodcock S, Dudley D. Martial arts and school violence: Examining the potential of martial arts training to reduce or foster aggressive behaviour in schools. International Journal of Educational Research Open. 2024;6:100313.

12〜14歳(平均12.76歳)の生徒283名を、10週間の格闘技プログラムを受ける群と受けない群に無作為に割り付けたところ、攻撃行動は減りもせず、増えもしませんでした。著者らはこの結果が過去の多くの報告と食い違うことを認めたうえで、格闘技を攻撃性の対策として学校に導入する前には慎重であるべきだと述べています。Deng らの2026年の系統的レビューも、縦断的な介入研究11本(RCT2本・準実験9本)を見渡して「一貫した方向の効果は示されていない」と結論しています。

ただし、これは「格闘技は無害」の証明でもありません。10週間は、種目の作法が身につくにも、何かが悪化するにも短い期間です。示されたのは「短期の学校プログラムでは、良くも悪くも動かなかった」までです。

自己選択と脱落——数字が動く本当の理由

横断研究で「MMA選手は攻撃性が高い」と出ても、練習で高くなったのか、もともと高い人が選んだのかは区別できません。この問題を正面から測った研究があります。

Blomqvist Mickelsson T. Modern unexplored martial arts – what can mixed martial arts and Brazilian Jiu-Jitsu do for youth development? European Journal of Sport Science. 2020;20(3):386–393.

スウェーデンの10クラブで、MMAかブラジリアン柔術(BJJ)を新しく始めた若者を5か月追跡した研究です。開始時点で145名が参加し、最終的に113名(MMA 63名・BJJ 50名)が残りました。結果は3層に分かれます。

  1. 入口の差。 練習を始める前の時点で、MMAを選んだ人の攻撃性得点(平均83.4)はBJJを選んだ人(平均70.48)より有意に高かった。つまり選ぶ段階で、すでに差があります。
  2. 変化の差。 5か月のあいだにMMA群の攻撃性はわずかに上がり、BJJ群は下がりました。一方で自制心は両群とも同じように向上し、種目による差はありませんでした。
  3. 出口の差。 途中でやめた28名は、続けた人より攻撃性得点が低かった(平均67.18 対 77.67)。

3つ目が重要です。攻撃性の低い人が去り、高い人が残るなら、「続けている人」だけを調べた研究は、練習の効果とは無関係に攻撃性が高く見えます。著者はこれを、高い攻撃性がMMAでは「自然な構成要素」であることを示す結果と解釈しました。裏返せば、横断研究の「格闘技経験者は攻撃性が低い(高い)」という結果は、誰が入り誰が残ったかの結果でもあるということです。

Kuśnierz らの2025年の横断研究(16〜57歳・367名)も同じ構図を示しています。経験の長い上級者群は初心者群より攻撃性が低く、初心者群は非競技者より身体的攻撃性が高かった。上級者群にはBJJが多く、極真空手とMMAは少なかった。長く続けると下がるとも読めますし、下がった人だけが長く続けたとも読めます。横断研究ではこの2つを分けられません。

「攻撃性」は何を測っているのか

ここまで「攻撃性」と書いてきた数字の多くは、Buss と Perry が1992年に作った質問票(Buss-Perry Aggression Questionnaire)かその同類で測られています。この尺度は「身体的攻撃」「言語的攻撃」「怒り」「敵意」の4つの下位尺度からなり、「十分に挑発されれば人を殴るかもしれない」といった29の文に、自分にどれくらい当てはまるかを1〜5で答える自己報告式です。

自己報告には固有の限界があります。礼儀を重んじる道場で数か月過ごした人ほど「望ましい自分」を答えるなら、得点の低下は行動ではなく回答の変化です。逆に、対戦系の練習で「自分は攻撃的だ」と自認するようになれば、行動が変わらなくても得点は上がります。Buss と Perry の原著でも、男性は身体的攻撃で大きく、言語的攻撃と敵意でわずかに高く、怒りには性差がないと報告されており、男性に偏った格闘技研究では下位尺度ごとに見ないと意味を取り違えます。

さらに、Gubbels らの「外在化行動」は非行や規則違反を含む広い概念で、Harwood らの「攻撃性・怒り・暴力」とも、Moore らの尺度得点とも一致しません。Deng らは、研究ごとに概念と測定がばらばらで直接比較できないことを、結論を出せない主因に挙げています。「格闘技は攻撃性を下げる」の「攻撃性」が質問票の合計点なのか、学校での暴力行為なのかで、話は別物になります。

この証拠から言えること・言えないこと

  1. 子ども・若者を対象にした3本のメタ分析は、中程度の低下・関係なし・ほぼゼロと食い違い、その差は主に集めた研究の設計と出版バイアスで説明できる。
  2. 種目で分けると、伝統的・非対戦型の武道には小〜中程度の低下が示されるが、その大きさは接触のない一般スポーツと同程度で、対戦志向の格闘技では低下は確認されていない。
  3. 唯一に近い大規模RCTでは、10週間の学校プログラムは攻撃行動を減らしも増やしもしなかった
  4. 横断研究で見える差の少なくとも一部は、誰がその種目を選び、誰が続けたかで生じている。MMAでは攻撃性の高い人が入り、低い人が去る傾向が実測されている。
  5. 数字の多くは自己報告の質問票で、行動そのものを測ったものではない。

Vertonghen と Theeboom は2010年、350本を超える文献から27本を選んで検討し、「格闘技は良い/悪い」という二項対立は解消されておらず、参加者の特性・指導の種類・社会的文脈・種目の構造を分けて考える必要があると書きました。15年分の研究が積み上がっても、この結論は変わっていません。

「格闘技を始めると攻撃的になる」という心配を裏づける強い証拠はなく、「格闘技で自制心が育ち攻撃性が下がる」という期待を裏づける強い証拠もない。練習が人の性格を変えると言える研究はまだなく、あるのは「どんな種目を、どんな指導のもとで、どんな人が続けるか」で結果が変わるという、地味で条件つきの知見です。

出典

  1. Harwood A, Lavidor M, Rassovsky Y. Reducing aggression with martial arts: A meta-analysis of child and youth studies. Aggression and Violent Behavior. 2017;34:96–101.
  2. Gubbels J, van der Stouwe T, Spruit A, Stams GJJM. Martial arts participation and externalizing behavior in juveniles: A meta-analytic review. Aggression and Violent Behavior. 2016;28:73–81.
  3. Moore B, Dudley D, Woodcock S. The effect of martial arts training on mental health outcomes: A systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2020;24(4):402–412.
  4. Wang X, Wang L, Qin XM, Lun X, Dong D. Effects of Martial Arts Exercise on Aggressive Behaviors in Young People: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Trauma, Violence, & Abuse. 2026. DOI 10.1177/15248380261437101.
  5. Moore B, Woodcock S, Dudley D. Martial arts and school violence: Examining the potential of martial arts training to reduce or foster aggressive behaviour in schools. International Journal of Educational Research Open. 2024;6:100313.
  6. Blomqvist Mickelsson T. Modern unexplored martial arts – what can mixed martial arts and Brazilian Jiu-Jitsu do for youth development? European Journal of Sport Science. 2020;20(3):386–393.
  7. Kuśnierz C, Niewczas M, Cynarski WJ, Bielec G, Rogowska AM. Latent class analysis of aggression in martial arts and combat sports: A cross-sectional study. PLOS ONE. 2025;20(7):e0328799.
  8. Lafuente JC, Zubiaur M, Gutiérrez-García C. Effects of martial arts and combat sports training on anger and aggression: A systematic review. Aggression and Violent Behavior. 2021;58:101611.
  9. Vertonghen J, Theeboom M. The social-psychological outcomes of martial arts practise among youth: a review. Journal of Sports Science and Medicine. 2010;9(4):528–537.
  10. Deng L, Ma X, Luo Q. Martial arts training and aggressive behavior in children and adolescents: a systematic review of longitudinal evidence and psychological processes. Frontiers in Public Health. 2026;14:1838396.
  11. Buss AH, Perry M. The Aggression Questionnaire. Journal of Personality and Social Psychology. 1992;63(3):452–459.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。怒りや衝動を自分で抑えられない、他者や自分を傷つけてしまう、お子さんの攻撃的な行動が続いているといった場合は、運動で対処する前に精神科・心療内科・小児科などの医療機関にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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