変形性膝関節症(膝の軟骨がすり減り、痛みと動きにくさが続く状態)に対して、運動が中核の治療であることは国際的なガイドラインが一致して認めています。問題は「どの運動か」です。ヨガは選択肢の一つとして関心を集めてきましたが、長らく小規模で質の低い試験しかなく、標準的な運動である筋力訓練と正面から比べた研究がありませんでした。
その空白を埋めたのが、2025年に公表されたオーストラリアの比較試験(YOGA試験)です。ここではこの試験を中心に、関節リウマチを含む試験、統合解析、有害事象、ポーズの調整までを読みます。結論を先に述べると、膝の痛みに対してヨガは筋力訓練に劣らない(非劣性)が、上回ってもいない。運動そのものが効いているのであって、ヨガという種目に固有の上乗せは示されていない——これが現時点で最も正確な要約です。
前提:膝の変形性関節症に運動は効くのか
コクラン共同計画は2015年に、陸上で行う運動療法と運動なし対照を比べた54試験を統合しました。
Fransen M, McConnell S, Harmer AR, Van der Esch M, Simic M, Bennell KL. Exercise for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(1):CD004376.
痛みは44試験3,537名を統合し、確実性「高」の証拠として SMD −0.49(95%CI −0.39〜−0.59)。0〜100点の尺度に置き換えると、対照群の44点に対して約12点(95%CI 10〜15)の改善です。身体機能は44試験3,913名で SMD −0.52、100点換算で約10点(同8〜13、確実性「中」)。効果は運動をやめた後2〜6か月では痛みで約6点、機能で約3点まで縮みます。つまり「中くらい」で「続けている間が主」です。
有害事象を報告した8試験では、いずれも膝や腰の痛みの一時的な増加で、重篤なものはありませんでした。脱落率は運動群14%、対照群15%で差がありません。ヨガの数字は、この「運動一般」の数字と並べて読む必要があります。
YOGA試験——筋力訓練との直接比較
ヨガを「運動なし」と比べれば差が出るのは当然です。問われるべきなのは、標準治療である筋力訓練と比べてどうかという点でした。タスマニアで行われた YOGA 試験は、それを初めて正面から検証した無作為化比較試験です。
Abafita BJ, Singh A, Aitken D, et al. Yoga or Strengthening Exercise for Knee Osteoarthritis: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2025;8(4):e253698.
設計
40歳以上で膝の痛みが 100 mm の目盛り(VAS)で 40 mm 以上ある117名を、ヨガ群(58名)と筋力訓練群(59名)に割り付けました。平均年齢は62.5歳、72.6%が女性です。両群とも最初の12週間は、指導者付きの60分のグループセッションを週2回と自宅での60分を週1回、続く12週間は自宅で週3回を続け、合計24週間を追跡しました。
要点は、「ヨガが筋力訓練より優れる」という優越性を検証する設計でありながら、事前に 10 mm の非劣性マージンを定め、痛みの MCID(患者本人が変化を実感できる最小の差)を 15 mm として検出力を計算していたことです。
主要な結果
| 評価項目(時点) | 群間差(ヨガ − 筋力訓練) | 判定 |
|---|---|---|
| 膝の痛み VAS(12週・主要評価) | −1.1 mm(95%CI −7.8〜5.7) | 有意差なし。非劣性は成立 |
| WOMAC 痛み(24週、0〜500 mm) | −44.5 mm(95%CI −70.7〜−18.3) | ヨガ有利 |
| WOMAC 機能(24週、0〜1,700 mm) | −139 mm(95%CI −228.3〜−49.7) | ヨガ有利 |
| WOMAC こわばり(24週、0〜200 mm) | −17.6 mm(95%CI −30.9〜−4.3) | ヨガ有利 |
| うつ症状 PHQ-9(12週) | −1.1(95%CI −1.9〜−0.2) | 小さい |
| 生活の質 AQoL-8D(24週) | 0.04(95%CI 0.0〜0.07) | MCID 0.06 に届かず |
主要評価項目である12週の痛みでは、両群とも改善したものの群間差は −1.1 mm と、ほぼゼロでした。優越性を示すために設計された試験が、優越性を示せなかったということです。一方で信頼区間は非劣性マージンの内側に収まったため、「ヨガは筋力訓練に劣らない」とは言えます。副次評価項目は27項目あり、7項目でヨガが有意に良好でした。24週時点の WOMAC(痛み・機能・こわばりを尋ねる質問票)はいずれもヨガ群が有利ですが、27項目中7項目という数は多重比較を考えれば慎重に読むべきで、著者らも「控えめな(modest)差」と表現しています。
脱落・出席・有害事象
12週の評価を完了したのは 77.8%、24週では 74.4% でした。最初の12週間の完遂率はヨガ群 69.8%、筋力訓練群 71.9% で同程度でしたが、13〜24週の自宅での実施率はヨガ群 70.2%、筋力訓練群 60.0% と差があり、著者らは24週の副次項目でヨガが優位だった理由の一部をここに求めています。
有害事象は「2日を超えて続いた不調、または受診に至った不調」と定義され、少なくとも1件を報告した参加者はヨガ群 37.9%、筋力訓練群 27.1% でした。重篤なものはなく、大半は介入と無関係と判定されています。ただし転倒・膝のひねり・手の負傷を含む「外傷」はヨガ群5名(8.6%)、筋力訓練群0名で、著者らは理由として「慣れないポーズがあったこと」を挙げています。あわせて、この試験のプログラムは関節炎の患者向けに専門家が設計したものであり、一般のコミュニティで行われるヨガクラスの安全性や効果を反映するものではないと明記されています。
関節炎全般——関節リウマチを含む試験
病態の異なる関節リウマチ(免疫の異常で関節に炎症が起こる病気)を含め、「座りがちな関節炎の成人」を対象にした実用的試験があります。
Moonaz SH, Bingham CO, Wissow L, Bartlett SJ. Yoga in Sedentary Adults with Arthritis: Effects of a Randomized Controlled Pragmatic Trial. The Journal of Rheumatology. 2015;42(7):1194–1202.
関節リウマチまたは膝の変形性関節症をもつ75名(96%が女性、平均52歳、49%がリウマチ)を、8週間のヨガ(60分のクラスを週2回と自宅練習週1回)と待機リストに割り付けました。8週後、主要評価項目である SF-36 の身体的側面サマリー(PCS)はヨガ群が 6.5 点高く(95%CI 2.0〜10.7)、6分間の歩行距離は 125 m 長く(同15〜235)、抑うつ尺度 CES-D は 3.0 点低い(同 −4.8〜−1.3)結果でした。一方で、バランス・握力・柔軟性には群間差がありませんでした。
対照は待機リスト、つまり「何もしない群」で、示されたのは他の運動との優劣ではありません。有害事象は7件報告されましたが、いずれもヨガとは無関係と判定されました。脱落は無視できず、ヨガに割り付けられた40名のうち24%が脱落しています。
統合解析が示す効果量と、その確実性
Lu J, Kang J, Huang H, et al. The impact of Yoga on patients with knee osteoarthritis: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. PLoS One. 2024;19(5):e0303641.
| 評価項目 | SMD(95%CI) | 異質性 I² | 判定 |
|---|---|---|---|
| 痛み | −0.92(−1.64〜−0.20) | 94% | 有意だがばらつきが極端 |
| こわばり | −0.51(−0.91〜−0.12) | 66% | 有意 |
| 身体機能 | −0.53(−0.89〜−0.17) | 59% | 有意 |
| 日常生活動作 | 1.03(−0.01〜2.07) | 84% | 有意でない |
| 生活の質 | 0.21(−0.33〜0.74) | 83% | 有意でない |
8試験756名の統合です。痛みの SMD −0.92 は「大きい効果」に分類される数字ですが、I² 94% は集めた試験の結果がほとんど揃っていないことを意味します。8週間以下の4試験では SMD −0.83(95%CI −1.22〜−0.43、I² 42%)と比較的揃っていたのに対し、8週間を超える2試験では SMD −1.13(同 −2.92〜0.66)で有意でなく、I² は99%でした。長期の効果については試験どうしが矛盾しています。出版バイアスは試験数が足りず解析されていません。
Lauche R, Hunter DJ, Adams J, Cramer H. Yoga for Osteoarthritis: a Systematic Review and Meta-analysis. Current Rheumatology Reports. 2019;21(9):47.
それ以前の統合解析(9試験640名)では、痛みについて非運動対照との比較で SMD −0.75(95%CI −1.18〜−0.31)、運動対照との比較でも SMD −1.07(同 −1.92〜−0.21)とヨガ有利でした。しかし著者らは GRADE で証拠の質を「非常に低い」と評価し、推奨は「弱い」にとどめています。「運動対照より優れる」という数字が質の高い YOGA 試験で消えたことは、低い確実性の意味をそのまま示しています。
関節リウマチについては、Ye らの2020年の統合解析(10試験840名)で身体機能(SMD −0.32)と疾患活動性(SMD −0.38)に小さな有意な効果が見られた一方、痛み・関節の圧痛や腫れ・炎症マーカー(CRP など)には効果が見られていません。Cramer らの2013年のレビューでは、8試験のうち低バイアスは2試験のみで、安全性のデータを明示的に報告した無作為化試験は1つもないと結論しています。
有害事象と関節の安全性——「報告がない」は「安全」ではない
- YOGA 試験(2025年):有害事象を報告した割合はヨガ群 37.9%、筋力訓練群 27.1%。重篤なし。外傷はヨガ群5名、筋力訓練群0名。
- Moonaz らの試験(2015年):7件、いずれもヨガと無関係と判定。
- Cramer らの2013年、Lauche らの2019年のレビュー:安全性はほとんど報告されていない。
読み取るべきは、「ヨガで膝を傷めた報告が少ない」ことではなく、多くの試験がそもそも有害事象を系統的に記録していないことです。有害事象を定義して前向きに記録した YOGA 試験では、ヨガ群のほうが軽微な事象と外傷が多く出ています。膝の関節そのもの(軟骨や関節構造)に対するヨガの長期的な影響を調べた試験は、この記事で扱った範囲には存在しません。
ポーズはどう調整されているのか
試験で使われた「ヨガ」は、一般のクラスと同じではありません。Moonaz らの試験のクラスは60分で、呼吸法5分、太陽礼拝を含む準備運動15分、静止ポーズ20分、深いリラクゼーション10分、瞑想5分という構成でした。ポーズは指導者または参加者の判断で個別に調整されました。ブロック、ストラップ、毛布、椅子が補助具として用意され、参加者には「不快感を避ける」よう指示されています。
Biswas I, Nalbant G, Lewis S, Chattopadhyay K. Key characteristics of effective yoga interventions for managing osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Rheumatology International. 2024;44(9):1647–1677.
変形性関節症の試験16本の中身を整理した系統的レビューによると、効果のあった介入で使われたポーズは34種類(座位12、立位10、仰臥位8、伏臥位4)でした。関節症向けのポーズ変更を明示していた介入は4つだけです。施設でのセッションは中央値で8週間、1回およそ53分、週1回が多く、自宅練習は1回30分、週4回が標準的でした。要するに試験のヨガは「補助具を使い、指導者が個別に調整した、関節炎向けのプログラム」であり、YOGA 試験の著者らが「一般のクラスの安全性を反映しない」と断ったのは、この意味です。
ガイドラインの位置づけ
Kolasinski SL, Neogi T, Hochberg MC, et al. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis Care & Research. 2020;72(2):149–162.
米国リウマチ学会(ACR)の2019年ガイドラインは、運動そのものを「強い推奨」とする一方、ヨガは「条件付き推奨」に分類しています。差は効果の大小というより証拠の確実性の差です。国際変形性関節症学会(OARSI)の2019年ガイドライン(Bannuru ら)は、膝の変形性関節症の中核治療を「関節症の教育と、構造化された陸上での運動プログラム」と定めています。ヨガはその一形態であり、それ以上の特別な地位はありません。YOGA 試験の「非劣性」という結果は、推奨を「強い」に格上げするには足りないでしょう。
この証拠から何が言えるか
- 運動一般は痛みを100点中約12点、機能を約10点改善する。これは確実性の高い証拠であり、効果の主体は「運動すること」にある。
- ヨガは筋力訓練と比べて、主要評価項目の痛みで非劣性だが優越ではない(群間差 −1.1 mm、MCID 15 mm)。
- 24週時点の副次項目ではヨガ群が有利だったが、差は「控えめ」で追試が要る。
- 関節リウマチでは身体機能と疾患活動性に小さな効果がある一方、痛みと炎症マーカーには効果が示されていない。
- 有害事象は多くの試験で記録されておらず、記録した試験ではヨガ群のほうが軽微な事象と外傷が多かった。重篤な事象の報告はない。
研究の限界
盲検化ができない。参加者はどちらの運動をしているかを知っており、痛みや機能の質問票は本人が答えます。
単施設・小規模・短期間。YOGA 試験は単施設で、計画の126名に対して実際は117名でした。24週の追跡は短く、統合解析でも8週間を超える効果については試験どうしが矛盾しています。
「ヨガ」の中身の異質性。流派も頻度も試験ごとに異なり、I² 94% はその帰結です。構成・頻度・指導者を定めない限り、平均値は平均値以上の意味を持ちません。
脱落と継続。Moonaz らの試験では24%、YOGA 試験では24週時点で約26%が評価を完了していません。逆に言えば、YOGA 試験で自宅実施率がヨガ群で高かったことは、効果の大小とは別に種目を選ぶ材料になります。運動の効果が「続けている間が主」である以上、続けられる形式を選ぶことのほうが、種目間の小さな差より結果を左右するからです。
出典
- Abafita BJ, Singh A, Aitken D, Ding C, Moonaz S, Palmer AJ, Blizzard L, Inglis A, Drummen SJJ, Jones G, Bennell KL, Antony B. Yoga or Strengthening Exercise for Knee Osteoarthritis: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2025;8(4):e253698.
- Fransen M, McConnell S, Harmer AR, Van der Esch M, Simic M, Bennell KL. Exercise for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(1):CD004376.
- Moonaz SH, Bingham CO, Wissow L, Bartlett SJ. Yoga in Sedentary Adults with Arthritis: Effects of a Randomized Controlled Pragmatic Trial. The Journal of Rheumatology. 2015;42(7):1194–1202.
- Lu J, Kang J, Huang H, Xie C, Hu J, Yu Y, Jin Y, Wen Y. The impact of Yoga on patients with knee osteoarthritis: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. PLoS One. 2024;19(5):e0303641.
- Lauche R, Hunter DJ, Adams J, Cramer H. Yoga for Osteoarthritis: a Systematic Review and Meta-analysis. Current Rheumatology Reports. 2019;21(9):47.
- Ye X, Chen Z, Shen Z, Chen G, Xu X. Yoga for Treating Rheumatoid Arthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Frontiers in Medicine. 2020;7:586665.
- Cramer H, Lauche R, Langhorst J, Dobos G. Yoga for rheumatic diseases: a systematic review. Rheumatology (Oxford). 2013;52(11):2025–2030.
- Biswas I, Nalbant G, Lewis S, Chattopadhyay K. Key characteristics of effective yoga interventions for managing osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Rheumatology International. 2024;44(9):1647–1677.
- Kolasinski SL, Neogi T, Hochberg MC, et al. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis Care & Research. 2020;72(2):149–162.
- Bannuru RR, Osani MC, Vaysbrot EE, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage. 2019;27(11):1578–1589.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。膝の痛みが続く方、腫れや熱感・急な痛みの増悪・膝が崩れる感じを伴う方、関節リウマチなど炎症性の関節疾患をお持ちの方は、運動を始める前に医療機関にご相談ください。

