連載「痛みをほどく」全10回の第3回です。
肩こりは、画像にほとんど写りません。第2回で見たとおり、頸椎のMRIには痛みのない人にも椎間板の膨隆が写ります。では、多くの人が「肩が張る」「重い」と感じているあの状態は、身体のどこで何が起きているのでしょうか。
この問いに最も長く取り組んできたのは、北欧を中心とした労働生理学の研究です。事務作業のように力をほとんど使わない仕事で、なぜ肩と首に痛みが出るのか。彼らが使った道具が筋電図(EMG: electromyography)でした。結論を先に書きます。僧帽筋上部では、低い強度のまま長時間働き続ける運動単位が確かに見つかります。ただし、筋活動の大きさで痛みの有無を説明することはできません。この二つは矛盾しているように見えて、両立します。
この回では、その説明の中心にある「Cinderella仮説」が何を主張しているのか、実測がそれをどこまで支持しているのか、精神的な負荷が筋に何をするのか、そして「こり=硬さ」という手の感触がどれくらい当てになるのかを見ていきます。

Cinderella仮説——最初に起き、最後に休む
筋を弱く収縮させると、閾値の低い運動単位から順に動員されます。力を強めると閾値の高いものが加わり、力を抜くと逆の順で外れていく。この順序を、Cinderella仮説はこう解釈しました——閾値の低い運動単位は最初に動員され、そして筋全体の活動が一定の水準を超えている間ずっと活動し続ける。単調な低強度の作業では、この一部の筋線維だけが使われ続け、代謝的に過負荷になり、やがて損傷と痛みを生む。灰かぶり姫が朝いちばんに起きて夜いちばん遅くに休むことになぞらえた名前です。
この仮説が成り立つには、前提として「そんなに長く活動し続ける運動単位が実在する」ことが必要です。そこで、細い針電極を筋に刺して単一の運動単位を追跡する研究が行われました。
Thorn S, Forsman M, Zhang Q, Taoda K. Low-threshold motor unit activity during a 1-h static contraction in the trapezius muscle. International Journal of Industrial Ergonomics. 2002;30(4-5):225-236.
健常な8名に、最大随意筋電図のおよそ5%に相当する等尺性収縮を60分間続けてもらった研究です。8名のうち3名で、60分の計測を通じて活動し続ける運動単位が見つかりました。ただし例外があり、うち2名では表面筋電図の谷と一致する1秒から3秒の中断が数回ありました。同時に、全員で運動単位の交代を示す所見も見つかっています。
実際のパソコン作業でも調べられています。
Zennaro D, Läubli T, Krebs D, Klipstein A, Krueger H. Continuous, intermitted and sporadic motor unit activity in the trapezius muscle during prolonged computer work. Journal of Electromyography and Kinesiology. 2003;13(2):113-124.
健常な14名にマウスを使う対話型の学習プログラムを30分間行わせ、右僧帽筋の6チャネルの筋内筋電図と2チャネルの表面筋電図を記録しました。14名のうち2名で、3つの運動単位が30分間を通じて活動し続けていました。大多数の運動単位は一部の時間だけ活動しており、整然とした交代のパターンは観察されませんでした。著者らは、長時間の活動は一部の被験者で確かめられたが、どれだけ長く活動し続けうるかまでは結論できないと書いています。
交代も起きている——反証の側
同じ手法で、逆向きの所見も報告されています。
Westgaard RH, De Luca CJ. Motor unit substitution in long-duration contractions of the human trapezius muscle. Journal of Neurophysiology. 1999;82(1):501-504.
10分間の収縮を3つの手順——表面筋電図を一定の低い水準に保つ静的収縮、集中を要する手作業、ワープロでの文章の書き写し——で行い、四線の細線電極で単一運動単位の活動を記録しました。すると、閾値の低い運動単位に活動の途切れる期間が現れ、より高い動員閾値を持つ運動単位がそれを肩代わりしていました。この現象は収縮開始の数分間には見られず、8回の実験のうち5回で観察されています。著者らは、この交代は、持続的な低強度の筋活動が求められる場面で、姿勢筋の運動単位を過度の疲労から守る仕組みかもしれないと推測しています。
つまり実測の結論は、白でも黒でもありません。活動し続ける運動単位は存在するが、全員でもなければ全ての運動単位でもない。守る仕組みも同時に働いている。そして肝心の点——どれくらいの時間の連続活動が細胞の損傷を起こすのか、その損傷がどう痛みに変わるのか——は、いまも埋まっていません。

精神的な負荷が筋を動かす
肩こりの話で「ストレス」が持ち出されるのは、根拠のない連想ではありません。実験室でそれは測られています。
Lundberg U, Forsman M, Zachau G, Eklöf M, Palmerud G, Melin B, Kadefors R. Effects of experimentally induced mental and physical stress on motor unit recruitment in the trapezius muscle. Work & Stress. 2002;16(2):166-178.
17名に、精神的ストレス課題(暗算、ストループ色名課題)と身体的な負荷課題(標準化した基準収縮、漸増収縮)、さらに寒冷昇圧試験を行った研究です。僧帽筋に双極の筋内電極を入れ、自動分類プログラムで個々の運動単位の寄与を分離しました。精神的ストレスは筋活動(P < .05)と心拍数(P < .05)を有意に増やしました。そして14名のうち12名で、精神的に誘発された収縮でも身体的に誘発された収縮でも、同じ運動単位が一つ以上活動していました。著者らは、精神的なストレスが、身体的な要求がないときでさえ低閾値運動単位を活動させ続けうると結論しています。
筋活動の大きさは痛みを説明しない
ここまでの話だけなら「筋が働きすぎるから痛い」で終わります。ところが、職場で実際に記録すると話が合わなくなります。
ホルテ(Holte KA, American Journal of Industrial Medicine, 2002)らは、医療・小売・銀行・大学事務の4職種から女性93名を集め、24時間にわたって1時間ごとに肩・首の痛み、緊張感、疲労を記録しながら、両側の僧帽筋を表面筋電図で測りました。38名が過去6か月の痛みの得点から「痛みあり」に分類され、55名は痛みがありませんでした。勤務時間中の筋活動は、痛みのある群とない群で同程度に低いままでした。違いは別の場所にありました。痛みのない群では仕事から余暇へ移ると筋活動が有意に下がったのに対し、痛みのある群では変わらなかったのです。
より長い記録でも同じ構造が見えます。
Mork PJ, Westgaard RH. Low-amplitude trapezius activity in work and leisure and the relation to shoulder and neck pain. Journal of Applied Physiology. 2006;100(4):1142-1149.
女性118名(うち73名は仕事と余暇の両方を記録)の長時間の表面筋電図を解析し、最大随意収縮の2%を超える活動(EMGバースト)の持続時間と振幅を数えた研究です。勤務中のバースト期間の長さで、低反応群(50%未満)・中間群(50-70%)・高反応群(70%超)の3つに分けました。6か月の得点で定義した持続的な痛みは、高反応群で73%、低反応群と中間群で37%に見られ、相対危険度は2.0でした。また、仕事から余暇への筋活動の低下は高反応群では見られましたが、低反応群では見られませんでした。著者らは、活動パターンは高反応群では低閾値運動単位の過活動と整合するが低反応群では整合しないとし、運動活動のパターンに依存する痛みの機序と、依存しない機序が共存していると推測しています。

筋の中で何が起きているのか
筋活動の外側で何が起きているかを直接調べるには、筋の中の液を採るしかありません。マイクロダイアリシスを使った研究があります。
Larsson B, Rosendal L, Kristiansen J, et al. Responses of algesic and metabolic substances to 8 h of repetitive manual work in myalgic human trapezius muscle. Pain. 2008;140(3):479-490.
反復性の高い作業に従事し慢性の首・肩の痛みを持つ女性20名と、痛みのない同僚20名を、8時間の勤務日を通して比較した研究です。痛みのある群では、グルタミン酸が71±42 μmol/L(対照36±15)、ピルビン酸が187±89 μmol/L(対照125±63)と高く、間質のセロトニンは勤務前10.6±10.8 nM(対照2.2±1.2)、勤務後9.2±8.3 nM(対照1.5±2.9)でした。圧痛閾値は低く、痛みの強さは勤務日を通して高いままでした。
注目すべきは、見つからなかったものです。勤務中の僧帽筋の血流は、痛みのある群の方が高く、低くはありませんでした。そして筋電図・作業の曝露水準・自覚的な精神的ストレス・尿中コルチゾールのいずれにも、群間差はありませんでした。「こっている筋は血流が悪い」という説明は、少なくともこの測定では支持されていません。著者らは、これらの所見は、僧帽筋筋痛症と診断された就労者で末梢の侵害受容の過程が活性化していることを支持すると述べています。
「こり=硬さ」は触れて分かるのか
肩こりの診立ては、多くの場合、触診で行われます。硬いしこり、索状の張り、押すと響く点。その手応えは、別の人が触っても同じように再現されるのでしょうか。
Rathbone ATL, Grosman-Rimon L, Kumbhare DA. Interrater Agreement of Manual Palpation for Identification of Myofascial Trigger Points: A Systematic Review and Meta-Analysis. The Clinical Journal of Pain. 2017;33(8):715-729.
筋膜性トリガーポイントの同定について、Cohen の κ 係数を報告した研究を集めたメタアナリシスです。18本の候補のうち条件を満たしたのは6本、患者は合わせて363名でした。検者間一致の推定値は κ = 0.452(95%信頼区間 0.364-0.540)。最も信頼できたのは局所の圧痛(κ = 0.676)と痛みの再現(κ = 0.575)でした。著者らの結論は明快です——トリガーポイントの同定に用手触診を使うのは信頼性に欠ける。
「圧痛のある場所」と「硬い場所」が一致するかも調べられています。アンデルセン(Andersen H, The Journal of Pain, 2010)らは、健常な12名の僧帽筋上部に14か所の測定点を設け、用手触診で圧痛点を探したうえで、コンピュータ制御の圧痛計で圧痛閾値と筋の硬さを測りました。結果、手で見つけた圧痛点の29%は、圧痛計で最も敏感と判定された場所と一致しませんでした。さらに、圧痛閾値が低い典型的な2か所は、逆に最も硬さの低い場所でした。圧痛の感受性も硬さも、僧帽筋上部のなかで不均一に分布していたのです。
| よく言われること | 実測が示していること |
|---|---|
| こっている筋は硬い | 圧痛の強い場所と硬い場所は一致しないことがある |
| こっている筋は血流が悪い | 筋痛のある群で勤務中の血流はむしろ高かった |
| 筋の使いすぎが原因 | 痛みのある群とない群で勤務中の筋活動は同程度だった |
| 触ればこりの場所が分かる | 検者間一致は κ = 0.452 にとどまる |
この回の要点
肩こりを一つの原因で説明することは、現時点ではできません。ここまでに見た研究は、いずれも対象が数名から百数十名で、多くは女性の事務職や反復作業の従事者に偏っています。筋内に電極を入れる計測は同じ人でも再現性が低いことが知られており、群どうしの比較には向かないという指摘もあります。その限界を踏まえたうえで言えることを並べると、次のようになります。低強度で持続する運動単位の活動は実在し、一部の人では長時間続きます。精神的な負荷はその活動を保ちます。筋の中では、痛みに関わる物質の濃度が高くなっています。しかし、筋活動の大きさそのものは痛みの有無を分けませんでした。
実務的な含みを一つだけ挙げるなら、「休む」の中身です。痛みのない人は仕事を離れると筋活動が下がり、痛みのある人は下がりませんでした。姿勢を正すことでも、強く揉むことでもなく、活動の水準が実際に下がる時間があるかどうかが、これらの研究が繰り返し指し示している変数です。ただし、これは観察された関連であって、介入して痛みが減ったという証拠ではありません。職場での介入が実際に何をどれだけ変えたかは、この連載の第8回で扱います。
首や肩の痛みに対する運動の効果そのものについては、ヨガの研究をまとめた記事とピラティスの研究をまとめた記事が別にあります。
次回予告
第4回は「『悪い姿勢』は原因か——姿勢と痛みの関連」を扱います。前方頭位、猫背、骨盤の傾き。これらと痛みの関連を調べた横断研究とメタアナリシスを見たうえで、姿勢を変えると痛みが減るのかという別の問いに進みます。今回出てきた「同じ姿勢を続ける時間」のほうが、姿勢の形そのものより重要かもしれないという知見も扱います。
この連載の全10回
- 第1回|痛みとは何か——組織の損傷と痛みの乖離
- 第2回|画像所見と症状——MRIで見つかるものの意味
- 第3回|肩こりの正体——僧帽筋の持続的低強度活動(この記事)
- 第4回|「悪い姿勢」は原因か——姿勢と痛みの関連
- 第5回|腰痛の自然経過——多くはどうなるのか
- 第6回|運動療法——様式による差はあるか
- 第7回|なぜ慢性化するのか——中枢性感作と心理社会的因子
- 第8回|職場での介入——何が効いたか
- 第9回|安静と恐怖回避——やらない方がよいこと
- 第10回|総括——研究の限界と、受診すべき兆候
出典
- Thorn S, Forsman M, Zhang Q, Taoda K. Low-threshold motor unit activity during a 1-h static contraction in the trapezius muscle. International Journal of Industrial Ergonomics. 2002;30(4-5):225-236.
- Zennaro D, Läubli T, Krebs D, Klipstein A, Krueger H. Continuous, intermitted and sporadic motor unit activity in the trapezius muscle during prolonged computer work. Journal of Electromyography and Kinesiology. 2003;13(2):113-124.
- Westgaard RH, De Luca CJ. Motor unit substitution in long-duration contractions of the human trapezius muscle. Journal of Neurophysiology. 1999;82(1):501-504.
- Lundberg U, Forsman M, Zachau G, Eklöf M, Palmerud G, Melin B, Kadefors R. Effects of experimentally induced mental and physical stress on motor unit recruitment in the trapezius muscle. Work & Stress. 2002;16(2):166-178.
- Holte KA, Westgaard RH. Daytime trapezius muscle activity and shoulder-neck pain of service workers with work stress and low biomechanical exposure. American Journal of Industrial Medicine. 2002;41(5):393-405.
- Mork PJ, Westgaard RH. Low-amplitude trapezius activity in work and leisure and the relation to shoulder and neck pain. Journal of Applied Physiology. 2006;100(4):1142-1149.
- Larsson B, Rosendal L, Kristiansen J, Sjøgaard G, Søgaard K, Ghafouri B, et al. Responses of algesic and metabolic substances to 8 h of repetitive manual work in myalgic human trapezius muscle. Pain. 2008;140(3):479-490.
- Rathbone ATL, Grosman-Rimon L, Kumbhare DA. Interrater Agreement of Manual Palpation for Identification of Myofascial Trigger Points: A Systematic Review and Meta-Analysis. The Clinical Journal of Pain. 2017;33(8):715-729.
- Andersen H, Ge HY, Arendt-Nielsen L, Danneskiold-Samsøe B, Graven-Nielsen T. Increased trapezius pain sensitivity is not associated with increased tissue hardness. The Journal of Pain. 2010;11(5):491-499.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。個々の症状の原因を判断するものでも、特定の手技や器具を勧めるものでもありません。腕や手のしびれ、力が入らない感じ、細かい動作のしにくさ、歩きにくさ、排尿や排便の異常を伴う場合、原因の分からない体重減少や発熱がある場合、夜間や安静時に強くなる痛み、外傷のあとの痛み、がんの既往がある場合の新たな痛みは、速やかに医療機関にご相談ください。首や肩の痛みが続いて日常生活に支障が出ている場合も、医療機関にご相談ください。






