連載「痛みをほどく」全10回の第9回です。

腰が痛くなったとき、最初に頭に浮かぶのは「しばらく横になっていよう」でしょう。悪化させたくない、という判断としては自然です。そして長いあいだ、医療の側もそう助言してきました。

結論を先に書きます。床上安静は回復を早めません。活動を続けるほうが、痛みと機能の改善がわずかに良いという結果です。ただし「わずかに」であり、「動きなさい」という助言だけで大きく変わるわけでもありません。そして、痛みを避ける行動が長期化すると、それ自体が経過を悪くしうる——これが恐怖回避モデルの主張です。

この回では、床上安静と活動継続を比べた試験、恐怖回避モデルに基づく段階的曝露と段階的活動の結果、そして「痛みが出ない範囲に限る」という助言の落とし穴を順に見ていきます。痛みを我慢して続けるべきだ、という話にはなりません。境界がどこにあるかを、研究の言葉で確認します。

痛みをほどく 第9回 安静と恐怖回避やらない方がよいこと|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

床上安静と活動継続

この比較は、コクランで系統的に統合されています。

Dahm KT, Brurberg KG, Jamtvedt G, Hagen KB. Advice to rest in bed versus advice to stay active for acute low-back pain and sciatica. The Cochrane Database of Systematic Reviews. 2010;(6):CD007612.

バイアスのリスクがまちまちな10本の無作為化比較試験が対象です。急性腰痛では、2本(401名)の結果から、活動継続を勧める助言に有利な小さな改善が示されました——痛みの軽減で標準化平均差 0.22(95%信頼区間 0.02から0.41)、機能状態で 0.29(0.09から0.49)。坐骨神経痛では、床上安静と活動継続の間に痛みの軽減(-0.03、-0.24から0.18)でも機能状態(0.19、-0.02から0.41)でも差はほとんど無く、これは中程度の質の証拠でした。

さらに、低い質の証拠として、急性腰痛では運動・床上安静・活動継続の間に差がほとんど無い(3本、931名)、坐骨神経痛では理学療法・床上安静・活動継続の間に差がほとんど無い(1本、250名)とも報告されています。著者らの結論は慎重です。今後の研究が効果の推定に重要な影響を与える可能性が非常に高い、と明記されています。

「安静が悪い」ではなく「安静に利点がない」

より古い統合も、同じ方向を指しています。

Hagen KB, Hilde G, Jamtvedt G, Winnem MF. The Cochrane review of bed rest for acute low back pain and sciatica. Spine. 2000;25(22):2932-2939.

9本の試験、1435名が対象です。床上安静と活動継続を比べた4本の結果は不均一でした。質の高い2本からは、3週後の痛みの強さに差が無い(標準化平均差 0.0、95%信頼区間 -0.3から0.2)一方、機能状態には活動継続に有利な小さな差(加重平均差 3.2、0から100の尺度で、95%信頼区間 0.6から5.8)が示されました。

また、質の高い2本では、2日から3日の床上安静と7日の床上安静の間に痛みの強さの差はありませんでした。別の質の高い2本では、床上安静と運動の間にも痛みの強さ・機能状態の差がありませんでした。著者らの結論はこうです——活動継続の助言と比べて、床上安静はよくても効果が無く、悪ければ腰痛にわずかに有害でありうる。

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「動きなさい」だけでは足りない

では、活動継続の助言そのものにどれだけの力があるのか。

Hagen KB, Hilde G, Jamtvedt G, Winnem MF. The Cochrane review of advice to stay active as a single treatment for low back pain and sciatica. Spine. 2002;27(16):1736-1741.

4本、491名が対象です。単純な急性腰痛を扱った質の高い1本では、2日の床上安静を勧める助言と比べて、機能状態(加重平均差 6.0、0から100の尺度、95%信頼区間 1.5から10.5)と病欠期間(加重平均差 3.4日、1.6から5.2)に、活動継続に有利な小さな差が出ました。もう1本の質の高い試験は、坐骨神経症候群の患者で14日の床上安静と比べ、群間差を見いだしませんでした。

著者らの結論は率直です。活動継続の助言だけでは、単純な急性腰痛に対して有益な効果はわずかであり、坐骨神経痛にはほとんどまたは全く効果が無い。ただし、活動継続が有害だという証拠は無く、長期の床上安静には有害となりうる影響があるため、活動を続けるよう助言するのは合理的である——そう書かれています。「効くから勧める」ではなく「害が無く、代替に害があるから勧める」という論理です。

恐怖回避モデル

ここから先は、痛みが長引いた人の話になります。恐怖回避モデルは、痛みに対して破局的な解釈をする人が、痛みや再受傷への恐怖を抱き、回避行動をとり、その結果として痛みと障害が長引く、という筋道を描きます。このモデルに基づく治療が、段階的曝露です。恐怖を引き起こす動作を、個別に順序づけて少しずつ実行していきます。

このモデルが説明しようとしているのは、痛みそのものではなく障害度のほうです。第7回で見たとおり、痛みの強さと障害度の相関はさほど強くありません。同じ強さの痛みを抱えていても、働けている人と働けなくなる人がいる。その差を、恐怖と回避という行動の側から説明しようとするのが、このモデルの位置づけです。したがって、このモデルに基づく治療の転帰も、痛みの点数より活動の範囲のほうに現れると予想されます。実際、以下に見る試験の結果はその予想と整合しています。

比較の相手になるのが段階的活動です。こちらは、痛みではなく決めた量(クオータ)に従って活動を少しずつ増やす方法で、恐怖の対象そのものを狙うわけではありません。

yogaのレッスン前の様子生徒の足もとにあるヨガマット 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

段階的曝露は何を変えるか

Woods MP, Asmundson GJG. Evaluating the efficacy of graded in vivo exposure for the treatment of fear in patients with chronic back pain: a randomized controlled clinical trial. Pain. 2008;136(3):271-280.

慢性腰痛の44名を、段階的曝露・段階的活動・待機のいずれかに無作為に割り付けた試験です。痛みに関連した障害度では、傾向の差が見られただけでした。一方、段階的活動と比べると、痛みや動作への恐怖、恐怖回避の信念、痛みに関連した不安、痛みへの自己効力感で有意に大きな改善が見られました。待機対照と比べると、これらに加えて痛みの破局的思考、痛みの経験、不安と抑うつでも有意に大きな改善が出ています。改善は1か月後の追跡でも保たれました。

より規模の大きい多施設試験では、結果がやや違います。

Leeuw M, Goossens MEJB, van Breukelen GJP, et al. Exposure in vivo versus operant graded activity in chronic low back pain patients: results of a randomized controlled trial. Pain. 2008;138(1):192-207.

中等度以上の痛み関連恐怖を報告する慢性腰痛85名を、段階的曝露か段階的活動に割り付けました。段階的曝露は、痛みの破局的思考と活動の有害性の認識を減らす点では際立っていたものの、機能的障害と主訴の改善では段階的活動と同等でした。群間差は段階的曝露に有利な方向でほぼ有意に達した、という表現です。恐怖が特に強い部分集団でも、段階的曝露が優れてはいませんでした。痛みの強さと日常の活動量でも差はありません。治療にかかわらず、およそ半数の患者が主訴と機能的障害で臨床的に意味のある改善を報告しました。

上乗せしても変わらないことがある

急性・亜急性の段階ではどうか。

George SZ, Zeppieri G, Cere AL, et al. A randomized trial of behavioral physical therapy interventions for acute and sub-acute low back pain. Pain. 2008;140(1):145-157.

108名を、分類に基づく理学療法だけの群、それに段階的活動を足した群、段階的曝露を足した群に割り付けた試験です。主要な仮説は「恐怖が強い人には段階的曝露が最も有効だろう」でした。結果は、4週後と6か月後の障害度・痛みの強さ・痛みの破局的思考・身体的な機能障害のいずれにも群間差がありませんでした。恐怖回避の信念だけは、6か月時点で段階的曝露と分類に基づく理学療法でより大きく減っています。著者らの結論は明快です——分類に基づく理学療法に段階的活動や段階的曝露を足すことは、慢性腰痛への進展に関わる重要な転帰の改善には有効でなかった。

慢性の集団で両者を比べた別の研究でも(George SZ ら, The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy, 2010)、退院時の痛みの強さと障害度は有意に改善しましたが(P < .01)、改善の速さに群間差はありませんでした(いずれも P > .05)。臨床的に意味のある変化の基準を満たしたのは、痛みの強さで50%、障害度で30%です。そして、痛みの強さの変化と関連したのは抑うつ症状の変化、障害度の変化と関連したのは痛みの破局的思考の変化でした。効いていたのは、特定の行動的介入の種類ではなかったということです。

「痛みが出ない範囲に限る」ことの不利

ここまでの結果は「段階的曝露に意味がない」と読めてしまいますが、もう一つ重要な所見があります。

Gibbs MT, Morrison NMV, Jones MD, Burgess D, Marshall PW. Reductions in movement-associated fear are dependent upon graded exposure in chronic low back pain: An exploratory analysis of a modified 3-item fear hierarchy. Musculoskeletal Care. 2023;21(1):25-34.

慢性腰痛の参加者に、3つの動作(スクワット、デッドリフト、オーバーヘッドプレス)からなる恐怖の階層を作り、実際に行った動作と行わなかった動作で、恐怖の変化を比べた探索的解析です。両群が行ったスクワットでは、どちらの群も恐怖が改善しました(p ≤ 0.05)。デッドリフトを行ったのは筋力トレーニング群だけで、改善したのもその群だけでした(p ≤ 0.01)。どちらの群も行わなかったオーバーヘッドプレスでは、どちらも改善しませんでした(p ≥ 0.05)。

読み方はこうです。動作に伴う恐怖の低下は、その動作を実際に行うかどうかに条件づけられている。「痛みが出ない範囲に限る」という助言は、安全に見えて、恐怖が残る動作を手つかずのまま残す可能性があります。第7回で見たとおり、痛みへの自己効力感と「自分でどうにかできる」という感覚は、転帰の強い予測因子でした。行わなかった動作について、その感覚は育ちません。

では、どこまで動くのか

ここが最も誤読されやすい部分です。上の所見は「痛みを我慢して続けなさい」という意味ではありません。段階的曝露は、無作為化された試験の中で、専門家が個別に階層を作り、順序を管理しながら行われています。自己流で痛みを押して量を増やすこととは別物です。

実際、段階的活動を加えた試験でも結果は一様ではありません。慢性非特異的腰痛180名を、認知行動療法を含む段階的活動(59名)、監督下の集団運動と教育(63名)、通常のケア(58名)に割り付けた試験では(Hrkać A ら, BMC Musculoskeletal Disorders, 2022)、介入後の痛みの軽減は段階的活動が対照より平均差22.64点(95%信頼区間 16.10から29.19、p < 0.0001、Cohen’s d = 1.70)、監督下運動が対照より21.08点(14.64から27.52、p < 0.0001、d = 1.39)で、二つの介入群の間に有意差はありませんでした。3か月と6か月の追跡では段階的活動のほうが良好でした。なお、この試験では有害事象が報告されていません。報告が無いことは、有害事象が無かったことと同じではありません。

この連載を通じて言えることを、最後にもう一度だけ確認しておきます。痛みの強さは、組織が壊れている量を表す計器ではありません(第1回)。だからといって、痛みの信号を無視してよいという結論も出てきません。強くなる痛み、新しく現れた症状、夜間や安静時に強くなる痛みは、この連載の枠の外にある問題を示している可能性があります。その見分け方は最終回でまとめます。

よくある助言研究の言葉で言い直すと
まず数日は横になって休む床上安静は活動継続より良くならず、わずかに不利でありうる
とにかく動けばよい助言だけの効果はわずか。坐骨神経痛ではほとんど無い
痛みが出ない範囲だけ動く行わなかった動作への恐怖は下がらない
恐怖に向き合う方法が特別に効く段階的活動と転帰はおおむね同等だった

整理すると、この回の研究が支持しているのは「安静を選ぶ理由がない」ということまでで、「特定のやり方で動けば良くなる」というところまでは届いていません。効果の大きさは一貫して小さく、方法どうしの差もほとんど出ません。それでも、避け続けた動作への恐怖だけは、実際にその動作を行った人でしか下がりませんでした。ここが、この回で最も再現性のある所見です。

運動によって痛みの感じ方が変わる仕組みについては、運動誘発性痛覚低下の研究をまとめた記事が別にあります。

次回予告

最終回となる第10回は「総括——研究の限界と、受診すべき兆候」です。この連載で並べてきた数字が、どのような制約のうえに立っているのかを整理します。自己申告の痛みの点数、盲検化ができないこと、待機対照が効果を大きく見せること、平均が個人に当てはまらないこと。そのうえで、速やかに受診すべき兆候を独立した節にまとめます。

この連載の全10回

  1. 第1回|痛みとは何か——組織の損傷と痛みの乖離
  2. 第2回|画像所見と症状——MRIで見つかるものの意味
  3. 第3回|肩こりの正体——僧帽筋の持続的低強度活動
  4. 第4回|「悪い姿勢」は原因か——姿勢と痛みの関連
  5. 第5回|腰痛の自然経過——多くはどうなるのか
  6. 第6回|運動療法——様式による差はあるか
  7. 第7回|なぜ慢性化するのか——中枢性感作と心理社会的因子
  8. 第8回|職場での介入——何が効いたか
  9. 第9回|安静と恐怖回避——やらない方がよいこと(この記事)
  10. 第10回|総括——研究の限界と、受診すべき兆候

出典

  1. Dahm KT, Brurberg KG, Jamtvedt G, Hagen KB. Advice to rest in bed versus advice to stay active for acute low-back pain and sciatica. The Cochrane Database of Systematic Reviews. 2010;(6):CD007612.
  2. Hagen KB, Hilde G, Jamtvedt G, Winnem MF. The Cochrane review of bed rest for acute low back pain and sciatica. Spine. 2000;25(22):2932-2939.
  3. Hagen KB, Hilde G, Jamtvedt G, Winnem MF. The Cochrane review of advice to stay active as a single treatment for low back pain and sciatica. Spine. 2002;27(16):1736-1741.
  4. Woods MP, Asmundson GJG. Evaluating the efficacy of graded in vivo exposure for the treatment of fear in patients with chronic back pain: a randomized controlled clinical trial. Pain. 2008;136(3):271-280.
  5. Leeuw M, Goossens MEJB, van Breukelen GJP, de Jong JR, Heuts PHTG, Smeets RJEM, et al. Exposure in vivo versus operant graded activity in chronic low back pain patients: results of a randomized controlled trial. Pain. 2008;138(1):192-207.
  6. George SZ, Zeppieri G, Cere AL, Cere MR, Borut MS, Hodges MJ, et al. A randomized trial of behavioral physical therapy interventions for acute and sub-acute low back pain. Pain. 2008;140(1):145-157.
  7. George SZ, Wittmer VT, Fillingim RB, Robinson ME. Comparison of graded exercise and graded exposure clinical outcomes for patients with chronic low back pain. The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2010;40(11):694-704.
  8. Gibbs MT, Morrison NMV, Jones MD, Burgess D, Marshall PW. Reductions in movement-associated fear are dependent upon graded exposure in chronic low back pain: An exploratory analysis of a modified 3-item fear hierarchy. Musculoskeletal Care. 2023;21(1):25-34.
  9. Hrkać A, Bilić D, Černy-Obrdalj E, Baketarić I, Puljak L. Comparison of supervised exercise therapy with or without biopsychosocial approach for chronic nonspecific low back pain: a randomized controlled trial. BMC Musculoskeletal Disorders. 2022;23(1):966.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。痛みを我慢して活動を続けるよう勧めるものでも、特定の運動や手技を勧めるものでもありません。脚のしびれや力が入らない感じ、排尿や排便の異常、原因の分からない体重減少、発熱、夜間や安静時に強くなる痛み、外傷のあとの痛み、がんの既往がある場合の新たな痛みは、速やかに医療機関にご相談ください。動くと痛みが強くなる場合や、痛みが続いて日常生活に支障が出ている場合も、自己判断で進めず医療機関にご相談ください。

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