連載「痛みをほどく」全10回の第10回です。
ここまで9回にわたって、肩こりと腰痛について公表された研究を並べてきました。画像に写るものと痛みのずれ、筋電図が捉えたもの、姿勢との関連の弱さ、経過の実際、運動の効果量、慢性化の予測因子、職場での介入、安静と恐怖回避。
最終回では二つのことをします。一つは、これらの数字がどのような制約のうえに立っているのかを整理すること。もう一つは、この連載の枠の外にある問題——速やかに受診すべき兆候——を、独立した節にまとめることです。
研究の限界を書くのは、研究を否定するためではありません。どこまでが言えていて、どこからが言えていないのかの線を引くためです。線を引かないまま数字だけを受け取ると、期待も失望も過剰になります。

この連載を仕分ける
| 回 | 言えていること | 言えていないこと |
|---|---|---|
| 第1回 痛みとは何か | 痛みは損傷の量を測る計器ではない。定義も改訂された | 痛覚変調性疼痛を個人で確定する方法 |
| 第2回 画像所見 | 無症状の人にも所見は高頻度。早期画像で経過は良くならない | どの所見が誰の痛みの原因かの判定 |
| 第3回 肩こり | 低強度で持続する運動単位は実在する。触診の一致度は低い | その活動が痛みを生む経路 |
| 第4回 姿勢 | 姿勢の形と痛みの関連は弱い。座位時間と発症は無関連 | 姿勢を変えれば痛みが減るという因果 |
| 第5回 自然経過 | 最初の数週で大きく軽快し、その後は頭打ち。再発は多い | 個人がどの経過をたどるかの予測 |
| 第6回 運動療法 | 最小限の治療より良い。様式間の差はほとんど無い | 誰にどの様式が向くか |
| 第7回 慢性化 | 予測因子はある。相関は中程度以下 | 予測因子が原因であるかどうか |
| 第8回 職場 | 運動を含む介入のほうが一貫。効果は小さく持続しない | 組織要因の寄与の大きさ |
| 第9回 安静と恐怖回避 | 床上安静に利点はない。行った動作の恐怖だけが下がる | どこまで動くべきかの個別の境界 |
痛みの点数は自己申告である
この連載に出てきた主要な転帰は、ほぼすべて自己申告です。0から10の数値評価尺度、0から100の視覚的アナログ尺度、Roland-Morris障害質問票。これらは痛みの経験を測る現時点で最良の方法ですが、血圧や血糖のように外から確かめられる量ではありません。
第1回で見たとおり、痛みは常に個人的な経験であり、その訴えは尊重されるべきものです。同時に、自己申告の尺度は、答える場面・聞き方・期待によって動きます。第1回で見た予期の実験は、まさにその可動性を示していました。「測れている」と「客観的である」は別のことです。

盲検化ができない
薬の試験では、患者も担当者も、どちらの群かを知らないまま進められます。運動や手技の試験ではそれができません。第6回で見た偽治療対照の試験でも(Costa LO ら, Physical Therapy, 2009)、治療を提供する臨床家を盲検化することはできなかったと明記されています。
この制約の帰結は二つあります。介入群の期待が高まりやすいこと、そして効果を測る側の判断も影響を受けうること。第1回で見たとおり、期待は痛みの処理そのものに影響します。運動の試験の効果量には、運動そのものの効果と、期待の効果が分けられないまま含まれています。
待機対照は効果を大きく見せる
比較の相手が「待機リスト」だと、効果はどれくらい大きく見えるのか。腰痛ではなく、うつ病の心理療法の領域ですが、正面から測った研究があります。
Cuijpers P, Miguel C, Harrer M, Ciharova M, Karyotaki E. The overestimation of the effect sizes of psychotherapies for depression in waitlist controlled trials: a meta-analytic comparison with usual care controlled trials. Epidemiology and Psychiatric Sciences. 2024;33:e56.
333本の無作為化比較試験(472の比較、41,480名)を、待機対照141本と通常ケア対照195本に分けて比べた研究です。全体の効果量は g = 0.77(95%信頼区間 0.71から0.84、I2 = 84)でした。ところが内訳を見ると、通常ケア対照では g = 0.63(0.55から0.71)、待機対照では g = 0.95(0.85から1.04)で、この差は高度に有意でした(p < 0.001)。
差の理由も特定されています。待機条件の中での前後の変化(g = 0.37、0.28から0.46)が、通常ケア条件の中での変化(g = 0.64、0.50から0.78)より有意に小さかったためです。待機群は「何も起きない群」ではなく「改善が抑えられた群」だったということです。著者らは、待機対照は避けるべきだと結論しています。
領域は違いますが、構造は同じです。第6回で見た運動療法の効果量の多くは、無介入・待機・最小限の治療との比較でした。それらの数字は、実際の臨床で期待できる差より大きい可能性があります。

平均は個人に当てはまらない
この連載の数字は、ほぼすべて集団の平均です。第5回で見たとおり、急性腰痛の経過は4つの型に分かれ、そのうち「軽度から中等度で変動する痛み」が54.0%、「持続する中等度の痛み」が33.0%でした。平均の曲線は、このどちらの人の経過も表していません。
第6回で見た運動療法でも同じです。改善する人と変わらない人が混ざった結果として、平均の差が出ています。慢性腰痛のある人は自分が楽しめる運動を行うよう勧められるべきだ、という結論(Hayden JA ら, Journal of Physiotherapy, 2021)は、この不確かさへの実務的な応答とも読めます。
追跡・脱落・出版バイアス
Wallwork SB, Braithwaite FA, O’Keeffe M, et al. The clinical course of acute, subacute and persistent low back pain: a systematic review and meta-analysis. CMAJ. 2024;196(2):E29-E46.
第5回で使った経過の統合には、限界が明記されています。組み入れた研究のバイアスのリスクはまちまちで、研究の脱落と追跡が不十分であり、大半の研究は参加者を連続症例として組み入れていませんでした。経過が悪い人ほど追跡から抜けやすければ、推定は良い方向へ歪みます。逆に、良くなった人が答えなくなれば、悪い方向へ歪みます。どちらに歪んだかは、脱落した人を調べない限り分かりません。
出版バイアスも同じ構造の問題です。有意差が出た研究のほうが発表されやすければ、統合された効果量は実際より大きく出ます。第6回で見た統合の一つは出版バイアスを認めなかったと報告していますが、検出力の低い検定であることが多く、無いことの証明にはなりません。
それでも確かなこと
Brinjikji W, Luetmer PH, Comstock B, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR. American Journal of Neuroradiology. 2015;36(4):811-816.
限界を並べたあとでも、揺らがない所見はあります。無症状の人3110名を扱った33本の統合で、椎間板変性は20歳の37%から80歳の96%へ増えました。椎間板膨隆は30%から84%、椎間板突出は29%から43%、線維輪の亀裂は19%から29%です。これは介入の効果量ではなく有病率であり、盲検化も対照群も必要としません。方法論の議論に左右されにくい種類の事実です。
同じ性質の事実は他にもあります。触診の検者間一致度、無症候性の脊髄圧迫の割合、急性腰痛の再発率。これらは「介入が効くか」ではなく「どれくらいの人にそれが当てはまるか」を測っており、盲検化の可否とは無関係です。この連載でいちばん頑丈なのは、こうした有病率と一致度の数字です。逆に最も脆いのは、様式どうしの優劣を論じた順位表でした。
速やかに受診すべき兆候
ここからは、この連載のどの回にも優先します。次のいずれかがある場合は、経過を見ずに医療機関を受診してください。
- 脚や腕のしびれ、感覚の低下、力が入らない感じ
- 排尿や排便の異常(出にくい、漏れる、感覚が鈍い)、肛門や陰部まわりの感覚の低下
- 原因の分からない体重減少
- 発熱を伴う痛み
- 夜間や安静時に強くなる痛み、横になっても軽くならない痛み
- 転倒・事故など外傷のあとに生じた痛み
- がんの既往がある人に新しく生じた痛み
- ステロイド(副腎皮質ホルモン)を長期に使用している場合の痛み
- 50歳を超えてから初めて生じた腰痛
これらは「レッドフラグ」と呼ばれ、多くの診療ガイドラインに掲載されています。第2回で見たとおり、深刻な原因が疑われない腰痛に画像を撮ることは経過を良くしませんでしたが、それは「疑われない」場合に限った話でした。上の項目は、その但し書きのほうに当たります。ただし、レッドフラグそのものの診断精度には注意が必要です。
Downie A, Williams CM, Henschke N, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. 2013;347:f7095.
14本の研究で53のレッドフラグが評価されました。結論は厳しいものです——現行のガイドラインにある多くのレッドフラグは、骨折や悪性腫瘍の確率をほとんど変えないか、診断精度が未検証である。骨折の検出で検査後確率が高かったのは、高齢(9%、95%信頼区間 3%から25%)、ステロイドの長期使用(33%、10%から67%)、重度の外傷(11%、8%から16%)、打撲や擦過傷の存在(62%、49%から74%)でした。複数のレッドフラグが同時にあるときは、骨折の確率が90%(34%から99%)まで上がります。悪性腫瘍で最も高かったのは、がんの既往(33%、22%から46%)です。
Verhagen AP, Downie A, Popal N, Maher C, Koes BW. Red flags presented in current low back pain guidelines: a review. European Spine Journal. 2016;25(9):2788-2802.
15か国とヨーロッパ全体の16のガイドラインを比べたところ、悪性腫瘍・骨折・馬尾症候群・感染の4分類に関して、合計46の異なるレッドフラグが提示されていました。8つのガイドラインは合意か過去のガイドラインを根拠とし、5つは根拠を示さず、診断精度のデータが示されることはまれでした。どのレッドフラグを採るかについて、ガイドライン間の合意はありません。
Galliker G, Scherer DE, Trippolini MA, Rasmussen-Barr E, LoMartire R, Wertli MM. Low Back Pain in the Emergency Department: Prevalence of Serious Spinal Pathologies and Diagnostic Accuracy of Red Flags. The American Journal of Medicine. 2020;133(1):60-72.
救急外来を受診した腰痛患者41,320名を扱った22本の統合です。直ちに、あるいは緊急の治療を要する病態の有病率は、前向き研究で2.5%から5.1%、後ろ向き研究で0.7%から7.4%でした。内訳は椎体骨折0.0%から7.2%、脊椎の悪性腫瘍0.0%から2.1%、感染性疾患0.0%から1.9%、脊髄や馬尾の圧迫を伴う病態0.1%から1.9%、血管性病変0.0%から0.9%です。プライマリケアで報告されている有病率より高い、と著者らは述べています。
Hall AM, Aubrey-Bassler K, Thorne B, Maher CG. Do not routinely offer imaging for uncomplicated low back pain. BMJ. 2021;372:n291.
腰痛全体のうち、特定の脊椎病変によるものは5%から10%未満です。残りの90%から95%には重篤な原因の徴候がありません。この比率を両方向に読むことが大切です。大多数は深刻な病態ではない。しかし、その少数は確実に存在し、病歴と診察による選別を抜かせば見落とされます。迷ったときに受診する、が正解です。この記事の一覧は受診の目安であって、自己診断の道具ではありません。
連載を終えて
この連載は、肩こりと腰痛を「どう治すか」ではなく「そもそも何なのか」から扱ってきました。並べてみて残るのは、いくつかの否定と、少数の肯定です。
否定のほうから書きます。画像所見は痛みを説明しませんでした。姿勢の形も説明しませんでした。触診の一致度は低く、筋活動の大きさも痛みの有無を分けませんでした。床上安静に利点はなく、机と椅子の交換だけでも変わりませんでした。そして、どの運動が最も良いかを決めようとした研究は、互いに違う答えを出しました。
肯定のほうは控えめです。無症状の人にも所見は高頻度にある。急性の腰痛の多くは最初の数週で大きく軽快し、しかし再発は多い。運動は最小限の治療より良く、その差は小さい。行わなかった動作への恐怖は下がらない。どれも「これをすれば治る」という形をしていません。
それでも、これらを知っていることには意味があります。自分の身体に起きていることを説明する言葉が増えれば、不要な不安と、不要な検査と、不要な安静を一つずつ減らせます。そして、本当に受診すべき兆候に気づく余裕も生まれます。この連載が目指したのは、そこまでです。
個別の運動と転帰については、腰痛とヨガ、腰痛とピラティス、首の痛みとヨガの研究をまとめた記事が別にあります。
この連載の全10回
- 第1回|痛みとは何か——組織の損傷と痛みの乖離
- 第2回|画像所見と症状——MRIで見つかるものの意味
- 第3回|肩こりの正体——僧帽筋の持続的低強度活動
- 第4回|「悪い姿勢」は原因か——姿勢と痛みの関連
- 第5回|腰痛の自然経過——多くはどうなるのか
- 第6回|運動療法——様式による差はあるか
- 第7回|なぜ慢性化するのか——中枢性感作と心理社会的因子
- 第8回|職場での介入——何が効いたか
- 第9回|安静と恐怖回避——やらない方がよいこと
- 第10回|総括——研究の限界と、受診すべき兆候(この記事)
出典
- Cuijpers P, Miguel C, Harrer M, Ciharova M, Karyotaki E. The overestimation of the effect sizes of psychotherapies for depression in waitlist controlled trials: a meta-analytic comparison with usual care controlled trials. Epidemiology and Psychiatric Sciences. 2024;33:e56.
- Costa LO, Maher CG, Latimer J, Hodges PW, Herbert RD, Refshauge KM, et al. Motor control exercise for chronic low back pain: a randomized placebo-controlled trial. Physical Therapy. 2009;89(12):1275-1286.
- Hayden JA, Ellis J, Ogilvie R, Stewart SA, Bagg MK, Stanojevic S, et al. Some types of exercise are more effective than others in people with chronic low back pain: a network meta-analysis. Journal of Physiotherapy. 2021;67(4):252-262.
- Wallwork SB, Braithwaite FA, O’Keeffe M, Travers MJ, Summers SJ, Lange B, et al. The clinical course of acute, subacute and persistent low back pain: a systematic review and meta-analysis. CMAJ. 2024;196(2):E29-E46.
- Brinjikji W, Luetmer PH, Comstock B, Bresnahan BW, Chen LE, Deyo RA, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR. American Journal of Neuroradiology. 2015;36(4):811-816.
- Downie A, Williams CM, Henschke N, Hancock MJ, Ostelo RW, de Vet HC, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. 2013;347:f7095.
- Verhagen AP, Downie A, Popal N, Maher C, Koes BW. Red flags presented in current low back pain guidelines: a review. European Spine Journal. 2016;25(9):2788-2802.
- Galliker G, Scherer DE, Trippolini MA, Rasmussen-Barr E, LoMartire R, Wertli MM. Low Back Pain in the Emergency Department: Prevalence of Serious Spinal Pathologies and Diagnostic Accuracy of Red Flags. The American Journal of Medicine. 2020;133(1):60-72.
- Hall AM, Aubrey-Bassler K, Thorne B, Maher CG. Do not routinely offer imaging for uncomplicated low back pain. BMJ. 2021;372:n291.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。上記の受診の目安は一般的な情報であり、自己診断のための道具ではありません。脚や腕のしびれや力が入らない感じ、排尿や排便の異常、原因の分からない体重減少、発熱、夜間や安静時に強くなる痛み、外傷のあとの痛み、がんの既往がある場合の新たな痛み、ステロイドの長期使用中の痛み、50歳を超えてからの初発の腰痛は、速やかに医療機関にご相談ください。当てはまる項目が無い場合でも、痛みが続いて日常生活や仕事に支障が出ているときは、医療機関にご相談ください。






