肩の痛みに対するピラティスの無作為化比較試験は、現時点でごくわずかです。
| 研究 | 人数 | 設計 |
|---|---|---|
| Atılgan ら, 2017 | 33名 | 無作為化(ピラティス17/従来運動16) |
| Akbaş & Erdem, 2016 | 19名 | 無作為化(ピラティス9/対照10) |
| Al Shahawy ら, 2026 | 60名 | 無作為化・4群 |
| Şimşek ら, 2025 | 28名 | 単群の前後比較 |
合計140名。結論を出すには足りません。
一方、ピラティスが依拠する「肩甲骨を安定させる」という考え方については、大量の研究があります。そしてそこから見えてきたのは、肩甲骨の動きは変えられるが、痛みの改善はそれでは説明できないという、やや意外な事実です。

ピラティスそのものの試験
Atılgan E, et al. The effects of Clinical Pilates exercises on patients with shoulder pain: A randomised clinical trial. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2017. DOI: 10.1016/j.jbmt.2017.02.003
4週間以上肩の痛みが続いている33名を、クリニカルピラティス群(17名)と従来運動群(16名)に無作為化し、週5日・計10日間治療したものです。
| 群 | 改善した指標 |
|---|---|
| ピラティス群 | すべての評価指標(p < 0.05) |
| 従来運動群 | SPADI 合計スコアのみ(p < 0.05) |
| 群間比較 | VAS、SPADI-痛み、SPADI-合計でピラティス群が有意に良好 |
結果は明確にピラティス有利です。ただし1群17名と16名、介入期間は10日間です。
回旋筋腱板の腱障害を対象とした試験は、さらに小規模です。19名(ピラティス9名、対照10名、平均約51歳)を、3週間・15セッションで比較したものです。
| 指標 | 両群で改善 | ピラティス群のみ改善 |
|---|---|---|
| 夜間痛、内旋・外旋時の痛み、DASH、SPADI | ○ | — |
| 安静時痛、屈曲・外転時の痛み、HAQ-DI、不安(BAI) | — | ○ |
著者らの結論は控えめです——「肩の複合体に合わせてよく設計されたクリニカルピラティスのプログラムは、回旋筋腱板腱障害の患者にとって、従来の治療への追加として有益な選択肢となるかもしれない」(Akbaş & Erdem, 2016)。
より新しい60名の4群試験では、組み合わせの効果が検討されました。ピラティス+通常理学療法(A群)、横隔膜の徒手療法+通常理学療法(B群)、両方+通常理学療法(C群)、通常理学療法のみ(D群)を8週間・週3回行っています。
結果はC群がA・B・D群すべてを上回り、痛みの強さ、圧痛閾値、筋力、肩の機能、運動耐容能のすべてで有意に改善しました(Al Shahawy ら, 2026, Physiotherapy Quarterly)。ただし1群15名です。
慢性的な首と肩の痛みのある28名に、理学療法士の監督下で週2回・8週間のクリニカルピラティスを行った研究では、痛みの強さが有意に減少しました。ただし対照群がない単群の前後比較です(Şimşek ら, 2025, Ebelik ve Sağlık Bilimleri Dergisi)。
「肩甲骨の安定化」は何を変えるのか
ピラティスの肩に対する理屈は、体幹と肩甲骨の安定性を高めることで、肩関節の負担を減らすというものです。この考え方自体は、理学療法の「肩甲骨安定化運動」として広く研究されています。
Brasileiro A, et al. Scapular stabilization exercise on pain and functional recovery in people with shoulder impingement syndrome: a systematic review and meta-analysis. The Physician and Sportsmedicine. 2025. DOI: 10.1080/00913847.2025.2470115
14研究666名を対象としたものです。
| アウトカム | 平均差(95%CI) | I² |
|---|---|---|
| 痛み | −0.8 cm(−1.07〜−0.4) | 0% |
| 機能的回復 | −13.27(−16.85〜−9.69) | 5% |
| 肩の外転可動域 | +2.74度(0.3〜5.2) | 0% |
異質性がいずれも極めて低く、結果は一貫しています。ただし「エビデンスの確実性は低い〜極めて低い」とされています。
そして可動域の改善は 2.74度です。統計的には有意でも、実感できる変化かどうかは別の問題になります。
8試験387名を対象とした別の統合でも、痛み(WMD −0.94)と SPADI(−10.10)は改善した一方、可動域は対照群より優れていませんでした(Zhong ら, 2024, Frontiers in Neurology)。

肩甲骨の動きは変わる。ただし痛みとは結びつかない
ここからが、この領域の核心です。
Camargo PR, et al. Effects of Stretching and Strengthening Exercises, With and Without Manual Therapy, on Scapular Kinematics, Function, and Pain in Individuals With Shoulder Impingement: A Randomized Controlled Trial. The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2015. DOI: 10.2519/jospt.2015.5939
46名を対象に、運動のみと運動+徒手療法を4週間比較したものです。結論は次のとおりです。
「介入群にかかわらず、介入後の肩甲骨の運動学には、小さく臨床的に無意味な変化が観察された。」
「痛みと機能に見られた改善は、肩甲骨の運動学の変化によって説明される可能性は低い。」
同じ構造が、より厳密な試験でも確認されています。慢性肩痛と肩甲骨のディスキネジスがある64名を、肩甲骨の動きを訓練する群と標準的な運動群に無作為化し、8週間・16セッション行った試験です。
| アウトカム | 結果 |
|---|---|
| 肩甲骨の内旋(腕を上げ下げする際) | 訓練群で有意に減少(平均差 2.8〜4.1度) |
| 僧帽筋上部の活動 | 訓練群で増加(10.3%) |
| 僧帽筋中部・前鋸筋の活動 | 訓練群で減少 |
| 痛み・障害・恐怖回避・運動恐怖・自覚的変化 | 両群とも有意に改善し、群間差なし |
著者らの結論は「肩甲骨の動きの訓練は、肩痛のある人の肩甲骨のバイオメカニクス、行動的側面、臨床的側面を改善するうえで、標準的な運動より優れていない」。そして臨床への含意として「患者が報告するアウトカムの変化は、肩甲骨の運動学と筋電図活動の変化と関連している可能性は低い」「臨床家は、肩痛の治療において肩甲骨の動き以外の要因を考慮すべきである」と述べています(Kamonseki ら, 2022, Disability and Rehabilitation)。
30名を対象とした別の試験でも、肩甲骨の外旋・後傾・上方回旋には群間差が出た一方、自己申告の痛みと障害には群間差がありませんでした。著者らは「特異的な肩甲骨安定化運動とは独立に、漸進的な運動トレーニングがインピンジメント症候群における障害と痛みの重症度を減らす」と結論しています(Turgut ら, 2017, Archives of Physical Medicine and Rehabilitation)。
20研究を検討した総説も、同じ結論に達しています。
「肩甲骨のディスキネジスがある人において、肩甲骨の位置と運動を改善する運動の有益な効果については、エビデンスが不足している。しかしながら、運動は肩インピンジメント症候群のある人の痛みと障害を減らすうえで有益である。」(Rahnama ら, 2019, Journal of Shoulder and Elbow Surgery)
7つの無作為化比較試験を検討した最新の総説でも、4研究が有意な効果を示し、3研究が示さなかったという結果で、「肩甲骨の機能改善と不快感の軽減に対する有効性については、決定的でないエビデンス」とされています(Al-otaibi ら, 2026, Retos)。
ただし、優位を示した試験もある
結果が一方向でないことも、正確に書く必要があります。
| 研究 | 規模 | 結果 |
|---|---|---|
| Struyf ら, 2012 | 22名 | 肩甲骨に焦点を当てた治療が、自己申告の障害で大きな効果(Cohen’s d = 0.93、p = 0.025)。3か月後も維持 |
| Yuksel ら, 2023 | 64名 | 肩甲骨安定化運動の追加群が、ディスキネジス・痛み・筋力・障害で優れる(p < 0.05)。可動域と肩甲骨上方回旋には差なし |
| Tang ら, 2024 | 90名(多施設・評価者盲検) | 標的型の肩甲骨安定化運動が従来運動より優れ、6週後の追跡でも継続(p < 0.001) |
| Wen ら, 2025 | 32名 | 両群とも8週で改善したが、12週時点で改善を維持したのは肩甲骨ディスキネジス基盤の運動群のみ |
とくに最後の試験は、示唆的です。痛みは8週時点では多面的理学療法群のほうが改善していましたが、12週には戻ってしまい、群間差が消えました。一方、可動域と筋力は肩甲骨に焦点を当てた群だけが維持しています(Wen ら, 2025, BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation)。
短期の痛みと、長期の機能維持では、答えが違うのかもしれません。

「何を足しても差が出ない」という所見
肩の運動療法には、繰り返し現れるパターンがあります。基本的な運動に何かを足しても、上乗せの効果が出にくいのです。
| 足したもの | 結果 |
|---|---|
| 徒手療法 | 肩甲骨の運動学・機能・痛みの改善を高めなかった(Camargo ら, 2015) |
| 固有受容感覚の運動 | SPADI に群×時間の交互作用なし(p = .25)。すべてのアウトカムで追加の改善なし |
| 運動制御訓練へのフィードバック | フィードバックあり/なしで、事前・事後・追跡のいずれの時点でも有意差なし |
| 肩甲骨安定化運動へのフィードバック | 痛み・機能的回復に有意差なし |
固有受容感覚の運動を検討した70名の試験の著者らは、限界も明記しています——「非介入群がないため、両群に見られた改善が運動プログラムによるものか、自然回復によるものかを判断できない」(Buccioli ら, 2025, JOSPT Open)。
ただし徒手療法については、逆の結果を示した試験もあります。32名を対象に、ストレッチと筋力強化に徒手療法を加えた群では、痛み、機能的能力、肩甲骨可動域のすべてで有意な改善が見られ、対照群では痛みと肩甲骨上方回旋が有意にならなかったと報告されています(Tauqeer ら, 2024, BMC Musculoskeletal Disorders)。なおこの試験では、治療群のセッションが45分、対照群が30分でした。
運動制御の再訓練を8週間行った45名の試験では、痛み、圧痛閾値、機能、固有受容感覚、内旋・外旋筋力、90度・135度・最終域での肩甲骨運動学が改善し、1か月後の追跡でも効果が持続していました(Moradi ら, 2025, Journal of Bodywork and Movement Therapies)。
68名を対象とした試験では、肩甲骨安定化を基盤とする運動療法群で外転・外旋の可動域、肩の前方偏位、柔軟性、前方頭位、胸椎の彎曲が有意に改善した一方、痛みの軽減には群間差がありませんでした(p = 0.576)(Moezy ら, 2014, Medical Journal of the Islamic Republic of Iran)。
いま言えること
- ピラティスに特化した肩の試験は4件・合計140名。うち1件は対照群なし
- 33名の試験では、ピラティス群がVAS・SPADI で従来運動より有意に良好。ただし介入は10日間
- 肩甲骨安定化運動全般では、14研究666名で痛み −0.8 cm、機能 −13.27 と一貫(I² = 0〜5%)。確実性は低い〜極めて低い
- ただし可動域の改善は 2.74度。別の統合では可動域に差なし
- 肩甲骨の運動学は変えられるが、痛みと機能の改善はそれで説明できない
- 64名の試験で、肩甲骨の動きの訓練は標準的な運動より優れなかった
- 20研究の総説は「肩甲骨の位置と運動を改善する効果にはエビデンスが不足。ただし運動は痛みと障害を減らす」
- 一方、90名の多施設試験では標的型の肩甲骨安定化運動が従来運動より優れ、効果が持続
- 32名の試験では、12週時点で改善を維持したのは肩甲骨に焦点を当てた群のみ
- 基本的な運動に徒手療法や固有受容感覚の運動を足しても、上乗せ効果は出にくい
肩の痛みには、運動が効きます。これは繰り返し確認されています。
ただし「どの運動か」による差は、思ったより小さい。肩甲骨を狙った運動と、一般的なストレッチ・筋力強化のあいだに、明確な差が出ないことが多くあります。
そして効果の理由は、肩甲骨の動きが変わったからではないようです。運動学の変化と、痛みの改善は結びついていませんでした。
ピラティスについては、判断できるだけの研究がまだありません。4試験140名です。
実務的には、ピラティスは「肩の運動療法のひとつの形式」として位置づけるのが妥当です。特別に優れているという根拠も、劣っているという根拠もありません。小規模な試験では良好な結果が出ていますが、規模が足りません。
肩の痛みが続く場合は、まず整形外科で原因の評価を受けてください。回旋筋腱板の断裂、石灰沈着、関節唇損傷など、運動療法の前に確認すべき病態があります。
出典
- Atılgan E, et al. The effects of Clinical Pilates exercises on patients with shoulder pain: A randomised clinical trial. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2017. DOI: 10.1016/j.jbmt.2017.02.003
- Akbaş E, Erdem EU. Does Pilates-Based Approach Provide Additional Benefit over Traditional Physiotherapy in the Management of Rotator Cuff Tendinopathy? A Randomised Controlled Trial. 2016.
- Al Shahawy MSI, et al. Effect of Pilates exercises and diaphragm manual therapy techniques in rotator cuff tendinopathy. Physiotherapy Quarterly. 2026. DOI: 10.5114/pq/204823
- Şimşek T, et al. Clinical Pilates Impact on Pain, Joint Mobility, and Scapular Dyskinesia in Chronic Neck and Shoulder Pain Patients. Ebelik ve Sağlık Bilimleri Dergisi. 2025. DOI: 10.62425/esbder.1666698
- Brasileiro A, et al. Scapular stabilization exercise on pain and functional recovery in people with shoulder impingement syndrome: a systematic review and meta-analysis. The Physician and Sportsmedicine. 2025. DOI: 10.1080/00913847.2025.2470115
- Zhong Z, et al. Effect of scapular stabilization exercises on subacromial pain (impingement) syndrome: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Frontiers in Neurology. 2024. DOI: 10.3389/fneur.2024.1357763
- Camargo PR, et al. Effects of Stretching and Strengthening Exercises, With and Without Manual Therapy, on Scapular Kinematics, Function, and Pain in Individuals With Shoulder Impingement: A Randomized Controlled Trial. The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2015. DOI: 10.2519/jospt.2015.5939
- Kamonseki DH, et al. Scapular movement training is not superior to standardized exercises in the treatment of individuals with chronic shoulder pain and scapular dyskinesis: randomized controlled trial. Disability and Rehabilitation. 2022. DOI: 10.1080/09638288.2022.2114552
- Turgut E, et al. Effects of Scapular Stabilization Exercise Training on Scapular Kinematics, Disability, and Pain in Subacromial Impingement: A Randomized Controlled Trial. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2017. DOI: 10.1016/j.apmr.2017.05.023
- Rahnama L, et al. Exercise therapy may affect scapular position and motion in individuals with scapular dyskinesis: a systematic review of clinical trials. Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2019. DOI: 10.1016/j.jse.2019.05.037
- Al-otaibi A, et al. The effect of scapular stabilization exercises on shoulder pain, scapular dyskinesis, muscle strength, and function in patients with subacromial impingement: a systematic review. Retos. 2026. DOI: 10.47197/retos.v80.119119
- Struyf F, et al. Scapular-focused treatment in patients with shoulder impingement syndrome: a randomized clinical trial. Clinical Rheumatology. 2012. DOI: 10.1007/s10067-012-2093-2
- Yuksel E, et al. Scapular stabilization exercise training improves treatment effectiveness on shoulder pain, scapular dyskinesis, muscle strength, and function in patients with subacromial pain syndrome: A randomized controlled trial. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2023. DOI: 10.1016/j.jbmt.2023.11.005
- Tang L, et al. Efficacy of Targeted Scapular Stabilization Exercise Versus Conventional Exercise for Patients With Shoulder Pain. American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation. 2024. DOI: 10.1097/phm.0000000000002431
- Wen M, et al. Scapular dyskinesis-based exercise therapy versus multimodal physical therapy for subacromial impingement syndrome in young overhead athletes with scapular dyskinesis: a randomized controlled trial. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2025. DOI: 10.1186/s13102-025-01254-8
- Buccioli ALB, et al. Proprioceptive Exercises Combined With Strengthening Exercises Are Not Superior to Strengthening Exercises Alone for Shoulder Pain and Disability in Individuals With Chronic Rotator Cuff-Related Shoulder Pain: A Randomized Controlled Trial. JOSPT Open. 2025. DOI: 10.2519/josptopen.2025.13097
- Tauqeer S, et al. Effects of manual therapy in addition to stretching and strengthening exercises to improve scapular range of motion, functional capacity and pain in patients with shoulder impingement syndrome: a randomized controlled trial. BMC Musculoskeletal Disorders. 2024. DOI: 10.1186/s12891-024-07294-4
- Moradi M, et al. Effect of motor control retraining program on symptoms, strength, and function in individuals with shoulder impingement syndrome and scapular dyskinesis: a randomized controlled trial. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2025. DOI: 10.1016/j.jbmt.2025.04.041
- Moezy A, et al. The effects of scapular stabilization based exercise therapy on pain, posture, flexibility and shoulder mobility in patients with shoulder impingement syndrome: a controlled randomized clinical trial. Medical Journal of the Islamic Republic of Iran. 2014.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。肩の痛みが続く場合は、整形外科で原因の評価を受けてください。回旋筋腱板の断裂、石灰沈着性腱炎、関節唇損傷、凍結肩など、運動療法の内容を変える必要がある病態があります。夜間痛が強い、腕が上がらない、外傷後の痛みがある場合はとくに受診をお勧めします。運動中に痛みが強まる場合は中止してください。






