インナーマッスルを鍛えるチューブ運動で、肩を速く戻すほどよいのか。動く速さと腕の角度を比較した研究、健康な男性や競泳選手の筋力試験、肩に痛みのある人の運動試験を読み分ける。筋活動の大きさを効果と取り違えず、反動や測定速度に惑わされない練習の見方を考える。
チューブを外へ引いた手が、戻るときだけ急に内側へ走る。引く間は慎重だったのに、ゴムが縮むと動きが変わる。「戻りを速くすれば、肩の奥まで鍛えられるのか」。動画の動きには追いつけても、その速さを選ぶ理由は案外つかみにくい。
先に答えると、速く戻すほど肩のインナーマッスルによい、とは決められない。ゴムを使った肩の運動を比較した研究では、速さだけでなく肩や肘の角度も異なり、よく働く筋肉も運動によって違った。速度だけを抜き出して優劣をつける比較にはなっていない。[1]
また、その場で筋肉が活動することと、練習後に筋力が増すこと、肩の痛みが変わることは別の結果である。実際、筋力を測った試験と、痛みや生活の不自由さを測った試験では、評価の物差しが違う。戻す動きの速さを考えるには、まず何を変えたいのかを分ける必要がある。[1][2][5]

速さの研究は、同じ動作の早送りではない
男性26人を無作為に分けた比較研究では、太極拳を取り入れたゴムバンドの開閉運動と、腕を左右へ開くリバースフライを比べた。各群は13人で、動作計測、皮膚上で筋肉の電気的活動を捉える表面筋電図、筋骨格のモデルによって動きと負担を調べている。運動中の特徴を比較した研究であり、長く続けた後の筋力増加を比べた結果ではない。男性を対象にした結果であり、18〜39歳の女性でも同じ筋活動の違いが生じるかは、この比較だけでは判断できない。[1]
太極拳型の開閉運動は、肘の曲がりが大きく、肩の水平に開く角度や前へ上げる角度が小さく、ゆっくり均一に動く特徴があった。リバースフライは、肩を大きく開き、肘の曲がりは小さく、速さが速く不均一だった。ここでいう不均一とは、動きの速さがそろっていないことである。[1]
肩の後ろ側の棘下筋は、太極拳型の運動でより大きく刺激された。一方、リバースフライでは三角筋の前部や後部、肩甲下筋などへの刺激が大きかった。肩に関わる筋肉をひとまとめにすると、どちらの運動が何を変えたのかが消えてしまう。「肩に効いた」という短い感想に、研究の結果を全部詰めることはできない。[1]
この比較では、肩を水平に開く方向や外へ回す方向のトルク、つまり関節を回そうとする力は、リバースフライの方が大きかった。ところが棘下筋への刺激は太極拳型の方が大きい。回す力が大きい動作と、特定の筋肉の活動が大きい動作が、異なるという点が読みどころである。[1]
速い運動を見て、その速さだけをまねしたくなる場面はある。しかしこの研究を練習の参考にするなら、腕の開き方、肘の曲がり、手の位置も含めて見る必要がある。著者らも、関節角度、角速度、手の位置の違いが、関節の力や筋活動の違いに関わる可能性を挙げている。戻る局面だけを速くする処方とは区別して読みたい。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
肩の奥の筋肉と、手が戻る速さを分ける
インナーマッスルという検索語で探していても、今回の研究で実際に測っているのは、棘下筋などの活動や肩を外へ回す筋力である。棘下筋は肩の回旋に関わる筋肉として扱われている。肩の奥が熱く感じる、腕が疲れるといった感覚を、その筋肉だけが働いた証拠に置き換えることはできない。[1][2]
外旋とは、肩を外向きに回す動きである。健康な男性を対象にした筋力試験では、外旋する筋肉の、縮みながら力を出す働きと、伸ばされながら力を出す働きを分けて測っている。それぞれ短縮性収縮、伸張性収縮と呼ばれる。このように研究では、動く方向だけでなく、筋肉がどのように力を出しているかも区別する。[2]
手が内側へ戻る場面を見ただけで、研究と同じ条件の伸張性収縮を行えている、と判定することはできない。少なくとも、測定装置で一定の速度にした筋力評価と、部屋で自由に動くチューブ運動は、同じ課題ではない。見える手の速度と、測られた筋力の条件をそろえて読まなければならない。[2]
隣接する「インナーマッスルの肩トレは戻す動きも大切?回す方向と負荷の違いを研究で読む」では、戻る局面そのものと負荷の方向を扱う。ここでは、速さを変えたつもりでも、姿勢や測定の条件まで変わっていないかに焦点を絞る。
たとえば、初めは肘を曲げていたのに、後半は肘を伸ばして大きく腕を開いていたとする。本人の印象は「慣れて速くなった」でも、比較している運動そのものが違う可能性がある。研究でも、肘と肩の角度が異なる運動では筋活動の分担が違っていた。記録に残すなら、テンポの感想だけより、どんな姿勢で動いたかを添えた方が解釈しやすい。[1]
ゴムがぱっと戻る見た目を、反動をうまく使えた成功と呼ぶか、動きをそろえられなかったと呼ぶか。印象だけならどちらにも言える。今回の比較研究が示すのは運動全体の違いであり、反動を増やすことの長期的な利点ではない。映像の勢いと、効果を裏付ける比較結果は分けて見る。[1]
筋力を測る速度は、練習の指定速度ではない
肩に障害のない健康な男性20人を無作為に分けた試験では、電気刺激で反対側の筋肉を働かせて抵抗を作る方法と、ゴムバンドによる一般的な運動を比べた。実験室で6週間、週3回、各10分の肩の運動を行っている。速い戻し方と遅い戻し方を比べた試験ではなく、抵抗を作る方法の比較である。健康な男性の結果を、18〜39歳の女性の筋力変化や練習条件へそのまま移すには、対象の違いが残る。[2]
外旋筋力を測った速度は、短縮性の評価で毎秒60度と毎秒180度、伸張性の評価で毎秒60度だった。毎秒180度の短縮性筋力の変化は、電気刺激を使う群で平均6.0、ゴムバンド群で平均0.3ニュートンメートルだった。ばらつきを表す標準偏差はそれぞれ6.0と5.2で、群間の増加量に統計的な有意差があった。[2]
伸張性筋力の変化は、電気刺激を使う群で平均7.5、ゴムバンド群で平均1.8ニュートンメートルで、標準偏差はそれぞれ4.7と5.3だった。こちらも群間差が認められた。一方、毎秒60度の短縮性筋力の増加量の群間差は、有意とは判定されなかった。筋力の評価条件によって、群間差の判定が分かれた。[2]
大事なのは、毎秒180度が検査装置で筋力を測る際の条件だったことだ。この数字を、チューブを戻す推奨速度として使うことはできない。検査で速く動かしたときにどれだけ力を出せるかと、練習中に速く動かすべきかは、別の問いである。体温計の数字が入浴の設定温度ではないように、測った条件をそのまま実践の指示には移せない。[2]
この試験のゴムバンド群では、挙げた評価の変化は群内で有意ではなかった。ただし、ここからチューブ全般に価値がないと広げるのも早い。対象も期間も運動の内容も限定された比較だからだ。効果を読むときは、器具の名前だけを残して対象と課題を消さないことが大切である。[2][10]
数値の単位にも注意したい。ニュートンメートルで表すのは関節を回す力であり、持ち上げた重りの重量ではない。チューブの強さや体重の変化へ置き換える数字でもない。この試験が評価したのは外旋筋力であり、日常で腕が軽く感じる程度や、運動中の疲れの強さを測ったものではない。何の数値かを保ったまま読むと、平均の増加量を過大に受け取らずに済む。[2]
平均の横にある標準偏差も飾りではない。たとえばゴムバンド群の毎秒180度の評価は、平均変化が0.3ニュートンメートル、標準偏差が5.2だった。全員が平均と同じだけ変わった、という意味ではない。集団の代表値と個人差を区別し、自分にも同じ変化が出るという予想の立て方を避けたい。[2]
また、統計的に有意な差がなかったことを、比較した方法が完全に同じだと証明された、と読むこともできない。毎秒60度の短縮性筋力では、増加量の群間比較の値は0.0677で、有意差とは判定されなかった。ほかの評価で差が出たからといって、この評価まで同じ結論に塗り替えない。肩を外へ回す力にも、測る条件ごとの結果がある。[2]
数字で読む肩のチューブ研究
26人:太極拳型の開閉運動とリバースフライを比べた男性の人数である。[1]
6週間:健康な男性で、抵抗を作る方法による筋力変化を比べた介入期間である。[2]
毎秒180度:短縮性の外旋筋力を測った速度のひとつであり、戻す動きの推奨値ではない。[2]
16週間:若い男性競泳選手が陸上で肩を補強した試験の期間である。[10]
120人:肩の痛みが続く患者で、異なる運動プログラムを比較した試験の人数である。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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