睡眠不足の翌日、いつものランニングが続かないのは気合の問題なのか。持久力のメタ分析と走行・自転車の比較試験から、距離やタイム、心拍ときつさのずれを読む。短い運動なら影響がないという誤解、動いた後の眠気と能力の違い、昼寝やカフェインの研究を踏まえ、その日の予定を見直す視点を示す。
寝つけない夜の翌日、いつもの道を走り始めると、脚より先に「今日はもう十分だ」が出てくる。予定した距離は同じなのに、終点だけが遠い。
睡眠不足で有酸素運動の持久力は下がりうる。健康な人を対象とした比較試験をまとめたメタ分析では、低下の大きさは平均すると中程度だった。ただし、低下の程度には運動時間や実験条件による違いがある。運動の長さや測り方と一緒に読む必要がある。[2]
また、寝不足の日に動いて眠気が軽くなることと、普段の記録を出せることは別である。運動後に気分の面が改善しても、認知課題の成績には有意な違いが出なかった試験もある。今日は記録を狙うのか、軽く動く時間を持つのか。目的を決め直す手がかりは、その違いにある。[1]

持久力は平均で下がるが、全員一律ではない
持久力に絞った系統的レビューとメタ分析は、健康な人の普段の睡眠後と睡眠不足後を比べる、無作為化・非無作為化の比較試験を集めたものである。採用されたのは31研究、合計478人。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、健康な人を広くまとめた平均値である点に注意が要る。睡眠不足の持久力への影響は、標準化平均差で−0.52、95%信頼区間は−0.67〜−0.38だった。[2]
標準化平均差は、異なる測定尺度の結果を共通の尺度にそろえて比較するための値である。この解析の−0.52は中程度の悪影響として解釈されている。走る速さがそのまま半分になる数字でも、翌日の距離から一定割合を引く計算式でもない。タイムを測った試験と、走れた距離を測った試験を一緒に読むための数字だ。[2]
ここで注目したいのは運動時間である。30分を超える運動は、それより短い運動よりも睡眠不足の影響を受けやすかった。一方、トレーニング状況、睡眠不足の程度、評価する時刻、運動様式、評価指標の種類については、この解析では影響の違いが検出されなかった。長さは判断材料になるが、ほかの条件を無関係と断定する結果ではない。[2]
研究の確かさにも幅がある。結果を偏らせるおそれを評価すると、低リスクとされた研究は8%、不明は74%、高リスクは18%だった。多くの実験を集めたことは強みだが、細かな条件別に断言できるほど均一な根拠ではない。「寝不足なら持久力は下がりやすい」と「自分は今日どれだけ遅くなるか」は、答えの精度が異なる問いである。[2]
たとえば、仕事帰りに長めに走る予定を立てていた日を考える。普段の睡眠で作った予定を、睡眠が短かった日にもそのまま適用してよいかを考え直す余地がある。長時間の方が影響を受けやすいという結果は、予定の完遂に固執しない根拠になる。ただし、どの距離まで縮めれば普段と同じになるかを決める公式ではない。[2]
なお、筋力や筋肉の成長に関する問いは、既存の「【連載】回復の科学 第2回|睡眠不足は筋力と筋肥大を削るのか」に譲る。ここでは、走る・こぐといった運動を続けるときの成績と、その最中の感覚を扱う。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
短いランニングでも、距離は変わる
短い運動にも影響を調べた試験がある。平均年齢20.8歳のランナー20人が参加した無作為順の比較試験では、普段どおりの睡眠機会と、夜の一部を削った睡眠機会の後で、自分でペースを選んで12分間走った。就床時間帯は通常条件が22時30分〜6時30分、短縮条件が0時30分〜4時30分だった。対象はランナーであり、18〜39歳の女性の日常的な運動に同じ低下率を当てはめることはできない。[15]
睡眠を短縮した後は走行距離が6%減り、速度も低下した。効果量は距離で0.7、速度で0.59。一方、運動のきつさを自己評価する指標は高くなり、その効果量は0.90だった。短い走行でも、成績が落ちる方向と、きつく感じる方向が同時に現れたのである。[15]
この試験では睡眠短縮後の心拍数や酸素摂取量も低かった。ただし、参加者は自分で速度を決めて走っている。低い心拍や酸素摂取量を見て、同じ負荷を楽にこなせる体になったと読むことはできない。実際には走る速度と距離も下がっていた。出した仕事が小さくなった場面では、体の数値だけを切り離すと意味を取り違える。[15]
運動前の意欲の得点には睡眠条件による違いが認められなかった。それでも、実際の走行成績には違いが出た。「走りたいと思えたなら、あとは気持ちで何とかなる」と片づけにくい結果である。意欲の有無と、走り始めてから続けられるペースは分けて考えたい。[15]
身近な場面に置き換えるなら、駅からの帰り道に早歩きを足そうと決めた日だ。やる気はあるのに、足取りがいつもより遅いこともあるだろう。その場で自分を怠け者と採点する前に、昨夜の睡眠という条件を書き添える。この試験は日常の徒歩を直接調べたものではないが、意欲だけで運動成績を説明しないための材料になる。[15]
心拍ときつさと記録は、同じ方向に動くとは限らない
寝不足なら必ず心拍が高くなる、あるいは必ずきつさの評価が上がる、という単純な図にはならない。男性11人を対象とした無作為順の試験では、通常睡眠後と30時間眠らなかった後を比較した。一定負荷で30分動いた後、続く30分で走れる距離を自分のペースで測る手順だった。男性を対象とした結果なので、18〜39歳の女性にも同じ変化が出るかは別に検討する必要がある。[19]
眠らなかった後の走行距離は6,037m、通常睡眠後は6,224mで、距離は有意に短かった。95%信頼区間はそれぞれ5,527〜6,547mと5,674〜6,773m、効果量は0.23だった。これは徹夜に近い強い睡眠不足と、先に運動した後の走行を扱った結果であり、少し夜更かしした日の散歩と同じ条件ではない。[19]
ところが、距離テスト中の平均のきつさは、通常睡眠後が14.8、睡眠不足後が14.9で、ほぼ同じだった。平均心拍数はそれぞれ毎分174拍と170拍で、有意な違いはなかった。走れた距離は短くなっているのに、本人が感じる努力の程度は同程度だったのである。[19]
先ほどの短時間走行では、距離が減ると同時にきつさが高まっていた。こちらでは距離が減っても、きつさ自体は変わらなかった。両方の結果を合わせると、「きつくなければ普段の能力が出ている」とも、「きつさが上がらなければ睡眠不足の影響はない」とも言えない。感覚と達成した距離の組み合わせを見る必要がある。[15][19]
自転車でもずれは見られる。持久系競技者13人のクロスオーバー試験では、連日のタイムトライアルの間に通常睡眠を取る場合と、徹夜する場合を比べた。徹夜後の完了時間は64分、通常睡眠後は59分で、研究では徹夜後が10%遅いと報告された。主観的なきつさと平均心拍数の比も高くなった。対象は持久系競技者であり、18〜39歳の女性一般にこの遅れの割合をそのまま当てはめることはできない。[13]
クロスオーバー試験とは、同じ参加者が異なる条件を経験して比較する設計である。もともと速い人と遅い人の違いだけで結果を説明しにくい点が強みになる。この自転車試験では気分の乱れと注意反応課題の反応時間も増加した。走る・こぐ成績だけでなく、その日の感じ方や反応も併せて変わっていた。[13]
時計の心拍欄がいつもの範囲だから、予定のペースまで上げなければならない。そう考えると、異なる条件の日を同じ基準に押し込むことになる。心拍に加え、実際の速度、続けられた時間、きつさを並べる方が、これらの試験に沿った見方だ。時計には昨夜の寝床での事情まで表示されない。[13][15][19]
睡眠不足の研究を自分の記録と比べるときは、テストの順番も見たい。男性の走行試験では、距離を測る前に一定負荷の運動が入っていた。自転車試験では、前日にもタイムトライアルを行っている。寝不足という条件だけでなく、すでに運動した後なのか、連日なのかも結果の背景になる。出勤前に短く歩く場合と、前日も走った週末の練習では、予定の成り立ちが違う。研究の数字を借りるときも、どの場面の結果かを一緒に持ち帰りたい。[13][19]
数字で読む睡眠不足と持久力
31研究・478人:持久力に絞ったメタ分析が対象とした規模だ。[2]
−0.52:持久力低下の標準化平均差。95%信頼区間は−0.67〜−0.38である。[2]
30分超:メタ分析で、それより短い運動より影響が大きかった運動時間の区分である。[2]
6%減:睡眠機会を短縮した後の12分間走行で、走れた距離は短くなった。[15]
64分対59分:競技者の自転車試験における、徹夜後と通常睡眠後の完了時間である。[13]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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