ヨガは有酸素か無酸素か、深く呼吸すると消費が増えるのか。呼吸筋の酸素消費を測った試験から、息の仕事と全身の運動強度を分けて読む。男性自転車選手の呼吸筋トレーニングや健康な成人の抵抗呼吸の結果をたどり、ヨガへ当てはめられる範囲と、苦しさを効果の証拠にしない考え方を示す。
マットに座り、ポーズを始める前に吸って吐くことに意識を向ける。脚を動かしていなくても、胸の周りには働いている感じがある。同じ「呼吸」でも、こちらは運動の一部なのか、それとも動作の合間の休息なのか。深く吸おうとするほど胸の周りを使う感じがすると、呼吸だけでも相当に消費している気がしてくる。
息をする筋肉も酸素を使う。呼吸に抵抗を加えた健康な成人の小規模試験では、抵抗の大きい条件ほど全身の酸素消費などが増えた。ただし、これは吸う息に設定した抵抗をかける実験であり、普通のヨガの深呼吸を測った結果ではない。「呼吸も仕事をする」と「このヨガは有酸素運動として十分な強度だ」は、分けて判断する必要がある。[1]
さらに、呼吸筋を鍛えた男性自転車選手では、同じ換気の課題に必要な酸素が減った。息の筋肉が働くことと、いつも多くのエネルギーを使わせることは同義ではない。男性の競技選手の結果を、18〜39歳の女性の日常のヨガへそのまま当てはめることはできない。[9] ヨガは有酸素か無酸素かという検索の先で、ここでは呼吸を支える筋肉の消費と、全身の負担との関係を追う。

呼吸にも仕事があるが、息の大きさは強度の判定票ではない
呼吸筋とは、横隔膜や呼吸を補助する筋肉を指す。吸気筋トレーニングは、こうした筋肉の強さや持久力を高める目的で、吸う息に抵抗を加える方法である。喘息などを扱ったレビューでは、安静時に抵抗へ逆らって自分で吸い込む方法として説明されている。胸が大きく動くことだけでなく、どのような抵抗に対して筋肉が働くかが関わる。健康な人と喘息のある人を扱うレビューであり、18〜39歳の女性のヨガでの成果は別に確かめる必要がある。[5]
「呼吸の仕事」は、空気を出し入れするために呼吸筋が担う負担として考えると理解しやすい。一方、「呼吸の酸素コスト」は、その呼吸を支えるために必要な酸素の量である。高い換気を保つと酸素の需要が大きくなり、呼吸筋への血流が増えることを、運動の制約を扱った生理学レビューは整理している。空気を取り込む係にも、その仕事をするための酸素が要る。レビューが扱うのは呼吸器疾患のある患者や高強度運動中の選手などで、18〜39歳の女性が通常のヨガで感じる負担へそのまま置き換えることはできない。[20]
ここで全身の酸素消費と呼吸筋の酸素消費を取り違えないことが大切だ。自転車をこぐときの全身の測定値と、そのときに相当する換気だけを再現した測定値は、別々の問いに答えている。脚も動かしている運動と、呼吸を再現する実験とを組み合わせることで、研究者は息をする側の負担に近づいている。[9]
ヨガで胸がよく動いたという体感だけから、この内訳を計算することはできない。呼吸筋が酸素を使うという生理学的な話を、そのままレッスンの消費量へ置き換えるには飛躍がある。呼吸の仕事を調べる研究では、換気量や吸うときの圧力、全身の酸素消費など、体感とは異なる指標を使っている。[1][9]
中央線の車内で息を整える時間にまで、「どれだけ燃えたか」という採点表を持ち込む必要はない。まず知りたいのが呼吸のしやすさなのか、運動中に出せる力なのか、消費エネルギーなのかを言葉にする。同じ呼吸の話でも、目的が違えば確認する結果も違う。この区別を置いておくと、呼吸を大きくする練習が何にでも効くという説明を、少し立ち止まって読める。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
抵抗をかけて吸う実験は、普通の深呼吸とは条件が違う
健康な成人を対象にした無作為化試験では、参加したのは6人であった。各参加者が抵抗のない条件、最大吸気圧の約40%の条件、約60%の条件を、無作為な順序で経験した。最大吸気圧とは、吸うときに発揮できる圧力の最大値であり、この実験ではその値を基準に抵抗を設定している。[1]
参加者は45gのブドウ糖を摂取したあと、休憩を挟む30分の吸気負荷の課題を行った。研究者は酸素消費、心拍数、吸気圧、推定した呼吸の仕事を連続して記録し、血糖も測定した。抵抗のある条件では、抵抗のない条件に比べて酸素消費などが有意に高くなり、負荷に応じた増加がみられた。[1]
この結果は、脚や腕を大きく動かさなくても、呼吸筋を狙って働かせれば全身の代謝需要が増えることを示す。同時に、何を増やした実験なのかを忘れてはいけない。研究者が操作したのは「気持ちよく深く吸えたか」ではなく、吸う息へ加える抵抗の程度である。ヨガで呼吸を意識したというだけで、同じ刺激を与えたとは扱えない。[1]
食後の血糖についても、抵抗のある条件では課題後に低下し、抵抗のない条件では高い状態が続いた。ただし、これは健康な成人の急性の反応を調べた小規模な試験である。呼吸筋を働かせることが代謝に関わる手がかりとして読む結果であり、ヨガを続けたあとの体重変化や、病気の治療効果を答えたものではない。[1]
この研究を日常へ持ち帰るなら、「座っているから筋肉は働いていない」という思い込みを改める材料にはなる。一方で、食後にわざと息を苦しくして同じ効果を狙う、という実践にはつながらない。実験では個人の最大吸気圧に対して負荷が設定されていた。器具も測定も条件も異なる場面で、苦しさだけを目安に再現できる課題ではない。[1]
小さな研究には、小さな研究としての使い道がある。「呼吸だけでも代謝の反応が起こりうるか」という問いを具体的にする点だ。反対に、「ヨガのどの呼吸なら、どれだけ消費するか」という問いへの答えとして使うと、対象の運動を途中ですり替えることになる。呼吸筋への抵抗という条件を、結果の横に置いたまま読む必要がある。[1]
呼吸筋を鍛えたら、同じ呼吸の酸素コストは下がった
男性自転車選手16人を対象にした無作為化比較試験は、負荷を与えた瞬間とは別の時間軸を示している。選手は6週間、最大吸気圧の50%の抵抗を使う群と、15%の抵抗を使う比較群に分かれた。前後に、自転車運動中の換気に相当する呼吸を再現する課題を行い、その酸素コストを調べた。対象は男性の競技選手なので、18〜39歳の女性にも同じ変化が起こるかは、この試験だけでは判断できない。[9]
呼吸の再現では、二酸化炭素の状態を保つ条件のもと、最大酸素摂取量の50%、75%、100%に相当する運動時の換気を、それぞれ4分間行った。最大酸素摂取量とは、最大に近い運動で取り込める酸素量を表す指標である。この研究の「100%」は深呼吸の出来栄えではなく、運動時の換気を再現する基準である。[9]
訓練前に呼吸筋が必要とした酸素は、それぞれの運動時の全身の酸素消費に対して、平均で5.1%、5.7%、11.7%に相当した。これらは運動に対応した特定の換気課題での割合であり、ヨガの時間すべてに使える一定の取り分ではない。最後の数字だけを抜き出して「呼吸で全消費のこれだけを使う」と宣伝すると、前提が抜け落ちる。[9]
訓練後、強い抵抗を使った群の最大吸気圧は平均22.5%増えた。一方、換気を再現した課題の酸素コストは、最大酸素摂取量の75%に対応する条件で全身の4.2%、100%に対応する条件で8.1%へ低下した。比較群に有意な変化はなかった。鍛えた筋肉が、同じ呼吸の課題をより少ない酸素で担う方向に変わったのである。[9]
抵抗を増やした直後に酸素消費が増えた試験と、訓練後に同じ課題の酸素コストが減った試験は矛盾しない。前者は負荷の違い、後者は訓練前後の違いを調べているからだ。今の負担が大きいことと、練習して負担が減ることを、同じ「呼吸が効く」という箱に入れない方がよい。[1][9]
呼吸の酸素コストを割合で読む際には、分母にも目を向けたい。自転車選手の試験で示された割合は、その換気に対応する自転車運動時の全身の酸素消費を基準としている。日中の総消費や、呼吸練習をした時間全体の消費に対する割合ではない。同じ「酸素を使う」という言葉でも、何に対する量なのかを省くと、数字の意味が変わってしまう。[9]
また、呼吸筋に必要な酸素が減ることで、運動する筋肉が利用できる酸素が増える可能性を、研究者らは考えている。ただし、呼吸の酸素コストを測った結果から、持久的な運動の成績が必ず上がるとまでは結論づけていない。測定で確かめた変化と、それが役立つかもしれない仕組みを分ける姿勢は、ヨガの説明を読むときにも使える。仕組みがもっともらしいことと、目の前の運動で成果を確かめたことは別の段階にある。[9]
数字で読む呼吸筋の消費
6人:抵抗の異なる吸気負荷を経験した健康な成人の人数である。[1]
約40%と約60%:吸気負荷の試験で使われた最大吸気圧に対して吸う息の抵抗を設定した。[1]
16人・6週間:呼吸筋の訓練前後を比べた男性自転車選手を調べた。[9]
11.7%から8.1%:最大酸素摂取量の100%に相当する換気課題で、訓練群の呼吸の酸素コストが全身の酸素消費に占めた割合である。[9]
51人:体幹の安定化運動と呼吸補助筋の運動などを比較した試験の参加者数である。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






