糖質制限中の味噌汁で具を選ぶとき、糖質の量とは別に考えたいのが、うま味と塩味の関係である。健康な成人の味覚試験、かつおだしの香り、きのこ粉末や野菜スープの食品実験を読み、薄味でもおいしい条件と、家庭の鍋にそのまま移せない数字の違いを確かめる。具材選びと味付けを分ける視点を示す。
仕事から帰って味噌汁を作り、味見のあとで味噌を足す。具を選ぶときは糖質が気になったのに、味付けになると手の感覚だけになる。切った具はまな板に残っているのに、物足りなさを埋める役は味噌だけになっていないだろうか。
具やだしのうま味は、薄い塩味の汁をおいしくする手掛かりになる。ただし、塩味が強くなることと、おいしく感じることは別である。人を対象とした試験では、うま味成分で両方が変わる条件がある一方、かつおだしの香りでは塩味の強さを増さずに好ましさが上がった。[1][6]
ここで考えるのは、糖質を厳しく減らす献立ではなく、味噌を足す前に味の組み立てを見直す方法だ。特定の具を入れれば糖質制限の効果や疲労回復が高まる、という話にはしない。食材の栄養順位ではなく、汁の味をどう評価するかに焦点を当てる。

味噌を足す前に、塩味とおいしさを分ける
日本の健康な参加者584人を対象にした無作為化二重盲検試験では、食塩濃度を変えた溶液に、うま味成分であるグルタミン酸ナトリウムを加え、塩味と好ましさをそれぞれ評価した。二重盲検とは、試料を評価する際に、どの条件か分からないようにする方法である。全国19地域の参加者が調べられた点も、この試験の特徴だ。対象は若い女性に限定されておらず、18〜39歳の女性の家庭の味噌汁にも同じ評価の変化が起こるかは、別に確かめる必要がある。[1]
食塩濃度は0.3%、0.6%、0.9%で、うま味成分を加える条件では0.3%のグルタミン酸ナトリウムを用いた。以後、この成分を研究で使われる略称のMSGと呼ぶ。食塩の濃度が高いほど、塩味の評価も段階的に高くなった。一方、最も薄い0.3%食塩水では、MSGを加えた方が、加えない場合より塩味を強く評価された。[1]
面白いのは、好ましさの結果である。どの食塩濃度でも、MSGを加えた溶液の方が好ましさの評価は高かった。特に0.3%食塩水にMSGを加えた条件では、加えない同濃度の条件に対する好ましさの評点が約2倍になり、ほかの試料より高かった。[1]
この「約2倍」は、健康効果でも満腹感でもなく、味の評価の比である。「満足が倍になる」「食事量を半分にできる」と読み替えると、別の話になってしまう。評価している対象を見失わなければ、薄い塩味だから必ずおいしくない、という決め付けを外す材料になる。[1]
この試験では、性別や年齢、地域などによらず、結果はおおむね同様だった。異なる地域の参加者を含めても傾向が共通していたことは、限られた場所だけの好みでは説明しにくい点である。ただし、対象は健康な参加者であり、治療のために食事を調整している人の味付けを決める試験ではない。[1]
家庭の味噌汁で役立つのは、味見の問いを分けることだ。「しょっぱさが足りない」のか、「全体が物足りない」のか。後者なら、すぐに味噌を足す以外の組み立てを試せる。研究の溶液を家庭の味噌汁と同じものとして扱わず、まず評価する項目を借りるのである。
また、0.9%から0.3%という食塩濃度の比較は、そのまま家庭で使う味噌の削減割合にはならない。試験で操作したのは食塩とMSGの条件であり、いつもの鍋で味噌だけを同じ割合に減らす実験ではない。数字は材料の分量表ではなく、比較条件として読む必要がある。[1]
同じ理由で、「うま味があるから味噌は多くてもよい」という結論にもならない。この試験が示すのは、食塩を少なくした条件でも、うま味の組み合わせによって好ましさを保てる可能性である。足し算を重ねる口実より、味付けを組み直すきっかけとして使いたい。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
だしの香りは、塩味を強めずに役立つ場合がある
かつおだしの研究では、口から鼻へ抜ける香りに注目している。鼻先から嗅ぐ香りと、口に含んだあとに鼻へ抜ける香りを区別した官能評価、つまり人の感覚による味の評価である。飲む前に器へ顔を近付ける場面と、飲み込む際の風味を、同じ刺激として扱わないところが重要だ。人による官能評価の結果だが、18〜39歳の女性の普段の食卓へ当てはめる際にも、香りを提示する条件の違いを考える必要がある。[6]
この試験で、口から鼻へ抜けるかつおだしの香りは、塩味の強さを高めなかった。しかし、塩味の好ましさは改善した。食塩以外の味物質を含まない0.68%食塩水という条件でも、香りによってうま味が生じ、かつおだしとしてのふさわしさや好ましさが高く評価された。[6]
つまり、薄味を楽しめるようになる道筋は、塩味を強く錯覚することだけではない。「しょっぱくなった」と感じなくても、汁としてまとまりがよくなり、おいしさの評価が上がる場合がある。成人の食塩水試験と、かつおだしの香りの試験は矛盾しない。操作した刺激も、変化した評価項目も違うからだ。[1][6]
台所で考えるなら、だしを変えた日には、味噌の量を決める前に風味を確かめる、という順序が候補になる。ただし、だしの種類を変えることと、研究で香りの通り道を操作することは同一ではない。家庭では「研究と同じ効果を出す」より、「塩味以外の物足りなさも味見する」と受け取る方が無理がない。
ここでの好ましさは、食後まで続く満腹感を測ったものではない。「香りでおいしかった」と「長くお腹が空かなかった」は、日常語ではどちらも満足と呼べるが、研究では別の結果になる。味噌汁を飲んでほっとした感覚を、そのまま食欲抑制や体重変化へつなげないことが大切だ。[6]
「疲労回復のスープは温め直すと栄養が減る?加熱と保温を分けて考える台所の科学」では、温め直しと栄養の問題を扱っている。ここでは温めた回数ではなく、同じ塩味でも風味の組み合わせでおいしさの評価が変わる点に問いを絞る。
きのこの具と、きのこ粉末の実験は同じではない
具で味が変わる話に近いのが、スエヒロタケの粉末を透明なスープに加えた食品実験である。研究では加圧蒸しと電子レンジ加熱を比較し、味の成分や電子舌の反応を調べた。電子舌は、機器によって味に対応する反応を測る方法であり、人が食卓で付ける「おいしい」という評点とは区別する必要がある。対象はスープという食品であり、18〜39歳の女性が食べた場合の好みを直接測った結果ではない。[4]
味付けをしていない透明なスープでは、0.2〜0.8%のきのこ粉末を加えたときの電子舌による味の反応が、0.4〜0.6%のMSGを加えた場合と似ていた。一方、味付けしたスープでは、高濃度の粉末に味を強める働きが見られたが、低濃度ではその働きは見られなかった。[4]
「きのこなら少し入れるだけで同じ」という結論にはできない。同じ研究の中でも、土台となるスープと粉末の濃度で結果が違った。具の名前だけでなく、形や量、周囲の味付けも条件に入っている。粉末の結果を、切ったきのこを浮かべた家庭の味噌汁へ直接移すことはできない。[4]
研究では、うま味に関わるアミノ酸や核酸成分も調べられている。核酸成分とは、ここではうま味の評価に関わる食品成分である。加熱後にすべてが同じ方向へ変化したわけではなく、加熱方法によって塩分濃度や成分の測定結果が変わった。電子レンジで加熱すれば、うま味成分が何もかも増えるという単純な結果ではない。[4]
加圧蒸しでは、うま味に関わるアミノ酸のひとつであるアスパラギン酸が8.23%減少した。また、成分から算出した等価うま味濃度は、電子レンジ加熱後に43.11%、加圧蒸し後に44.53%低下した。この指標は、実際に食べた人の好ましさが同じ割合で低下したという数字ではない。成分の指標と味の評価を分けることは、調理法を比べる際にも必要になる。[4]
一方で、電子レンジ加熱では塩分濃度と核酸成分の総量が増え、うま味に関わるアミノ酸を維持できたと報告されている。ある成分が保たれることと、成分を組み合わせた指標が高くなることは同義ではない。測定項目を選んで都合のよい調理法だけを推すより、何を測った数字なのかを確かめたい。[4]
具を選ぶとき、この実験は「きのこを入れるべき」という献立の命令ではなく、食品の形と味付けをそろえないと比較しにくい、という見方を与える。普段の具を変えて味見するのはよい。ただし、そのときの感想は自分の鍋の結果として残し、特定の具に決まった減塩率を貼り付けない。
数字で読むうま味と薄味の研究
584人:日本の健康な参加者を対象にした、食塩水とMSGの無作為化二重盲検試験である。[1]
0.3%:食塩水に加えたMSGの濃度であり、家庭の味噌汁に一律に勧める添加量ではない。[1]
0.68%:かつおだしの口から鼻へ抜ける香りで、好ましさを調べた食塩濃度である。[6]
20%:酵素処理した野菜スープで、対照とほぼ同じ塩味強度になった食塩の削減割合である。[3]
4週間:健康な若い成人が、MSGを加えた野菜ブロスを日常的に飲んだ無作為化試験の期間である。[9]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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