移住後に体重が増えるという研究結果は、すべての人に同じように当てはまるのか。移民の系統的レビューと追跡研究から、食生活の変化、移住した年齢、滞在期間の測り方を確かめる。海外生活や転居の際に残したい習慣と、日本の読者が研究の数字をそのまま自分へ移せない理由も整理する。
引っ越しの荷物は片づいたのに、食事の段取りはまだ落ち着かない。以前は迷わず選んでいた食品を、新しい店では棚から探すところから始める。海外生活なら、慣れた料理の名前と、目の前の表示が結びつかない場面もある。住まいを移すとき、生活のどこを引き継ぐかは、荷物の送り先とは別に考える話になる。
移民の研究では、新しい文化への適応と体重との関連が調べられている。ただし、適応が進むことを、そのまま不健康になることと同一視すると読み違える。食事が変化した追跡研究もあれば、移住先で生まれた人との肥満率の差が縮まらなかった分析もある。[10][11]
研究の対象は主として国境を越えた移住者である。日本国内での転居に同じ増加量や危険度を割り当てるのは避けたい。持ち帰れるのは、滞在年数だけで人を分類せず、変わった食べ方と残せる習慣を分けて眺める視点だ。[6][12]

文化への適応を、食べ過ぎの別名にしない
文化適応とは、ここでは移住先の文化へのなじみ方を指す。研究では尺度による評価のほか、滞在期間を代わりの指標に使っている。成人移民を対象とした35研究の系統的レビューでは、こうした指標と肥満との関連が複数の研究で認められた。ただし、大半はある時点の状態を比べる横断研究だった。[6]
同じ時点で「長く住んでいる人のほうが重い」と分かっても、各人が住み続けたために体重を増やした過程までは見えない。レビューが指摘したのは、健康行動や体重の変化を動かした要因を、横断研究から探る難しさである。滞在年数は測りやすいが、それだけで食事、活動、適応の中身を代表させるには限界がある。[6]
標準化された適応尺度を用いた研究に絞った別のレビューには、米国で行われた9研究が入った。適応度が高いほどBMIが高いという関連は6研究にあり、反対に低いという関連は3研究にあった。BMIは体重と身長から体格を見る指標だ。逆向きの関連は主に女性で報告されており、適応の進み方と体格の結びつきをひとつの方向にそろえることはできなかった。[12]
このレビューでは、元の文化を保つ面と移住先に適応する面を双方向に扱う尺度と、一方向に扱う尺度が混在していた。何を適応と呼んで測ったかが違えば、同じ見出しの下に並ぶ結果でも意味が変わる。「現地になじめたか」という大きな問いだけで食習慣を採点するより、どの行動が変わったかに下りていくほうが、結果を生活に結びつけやすい。[12]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
中国出身の女性を追うと、食事の中身は少しずつ変わった
フィラデルフィアの中国系移民女性312人を対象にした追跡研究は、その具体を示す。研究者は面接と食事の聞き取りを繰り返し、文化適応と食生活の関係を調べた。滞在が長くなるにつれて適応尺度の得点は小さく上がり、その上昇は食事のエネルギー密度、脂肪由来のエネルギー割合、糖の摂取量の増加と関連していた。[11]
エネルギー密度は、食事の量に対してどれだけエネルギーがあるかという見方である。食べ物の名前が変わったかだけでなく、食事の構成がどう変わったかを見ている。研究では食事の節度に関する得点の低下も認められた。適応という抽象的な言葉の先に、測定できる食べ方の変化が並んだ点に価値がある。[11]
中国系女性の研究では、適応尺度の得点の上昇は年に約1%と小さかったが、統計的には有意だった。募集は2005年10月から2008年4月で、面接と食事の聞き取りは2010年4月まで続いた。同じ女性の繰り返し測定を考慮した分析で、適応と食事の変化を時間の経過に沿って捉えた。[11]
食事の変化として並んだのは、エネルギー密度、脂肪が占めるエネルギー割合、糖の摂取量、食事の節度に関する得点だった。料理の名称や出身国を置き換えるより、何を食事の指標にしたかが具体的である。海外で買い物をするときにも、慣れた料理を残すことと、食事の構成を調整することを一緒に考えられる。[11]
著者らは食事の変化が小さく、健康への影響は不明だと述べ、適応以外に移民の健康や適応の進み方へ関わる要因を調べる必要も挙げた。この研究が追ったのは中国出身の女性であり、食事を割り付けた介入試験ではない。[11]
早い時期の変化は、国籍だけでまとめられない
マサチューセッツの医療システムを利用した成人7,973人の診療情報を、平均42.0か月、後ろ向きに追った研究もある。移民や民族的少数集団の体重と肥満の推移を調べたもので、対象集団による違いが大きかった。メキシコ・中米系の男性、ハイチ・黒人カリブ系の女性では、肥満の負担が特に高かった。[5]
追跡は2011〜2016年の診療情報を用い、データの収集と分析は2018〜2019年に行われた。肥満はBMIが30以上、過体重は25以上という区分で調べている。追跡開始時の年齢と体重、追跡の長さが、男女とも肥満と関連していた。起点は医療システムでの追跡である。[5]
男女差だけでも結果は一様でなく、出身地域によっても推移が違う。「移民」という括りは研究対象を示すには便利でも、個人の変化を予測するには粗い。著者が早期の予防や治療を重視していることと、すべての人へ同じ時期に同じ目標体重を課すことは分けて考えたい。[5]
国際移民の肥満を扱ったレビューでは、移住時には健康な体重という優位がある場合も、移住後10〜15年で移住先の人と同程度か、それ以上の肥満リスクになる場合があると整理している。遺伝や後天的な遺伝子調節、望ましい体格の考え方、社会経済状況、ストレスなどを候補要因に挙げたが、原因について複数の可能性を検討した整理である。[1]
このレビューの対象は、肥満の割合が低い国から高い国へ移った人々である。移住時の体格だけでなく、移住先の人々との肥満割合の比較と、危険度を形づくる要因に関する知見を整理した。著者らは、多様な集団での予防と治療を進めるため、研究で少数集団へさらに注意を向ける必要を指摘している。[1]
診療情報の研究が報告した有病割合は集団のうち肥満に該当する人の割合で、オッズは該当する場合としない場合の比だ。一方、食事の研究は適応尺度と食事指標との関連を扱う。体重の増加量、肥満のオッズ、適応尺度の変化率は、それぞれ別の指標として扱う。[5][11]
診療情報では、メキシコ・中米系男性の肥満割合は2011年の32.6%から2016年の42.5%へ、ハイチ・黒人カリブ系女性では37.5%から51.5%へ上がった。東・東南アジア系の肥満の負担は最も低かった。体重増加のうち最初の3年以内に起きたものは、男性で63%、女性で75%だった。集団ごとの水準と変化の速さの両方を報告した研究である。[5]
成人移民のレビューが支援の対象に挙げたのは、第1世代の移民が元から持つ健康的な行動の維持である。新しく移住した集団は、比較した移住先の人々より健康的な行動を報告していた。移住の初期から支援し、不健康な行動を取り入れるのを防ぐという提案だ。食事や活動の良い面を新しい生活にも残すことが、支援の出発点になる。[6]
数字で読む移住と体重
35研究:成人移民の文化適応と体重を集めたレビューの対象数。多くは横断研究だった。[6]
312人:文化適応と食事の変化を繰り返し調べた中国系移民女性の人数。[11]
42.0か月:診療情報を用いた成人集団の平均追跡期間。入国からの期間を意味しない。[5]
44,002人:移住した時期と滞在期間を分けて調べた、米国のアジア系移民の分析対象数。[19]
6,421人:入国時の年齢によって滞在期間との関連が違うかを調べた成人移民の人数。[20]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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