食べた後に体が出す熱、食事誘発性熱産生は、たんぱく質の多い食事で高くなる。52件の研究を束ねた分析では1回の食事で差が出た一方、数日から1年続けた食事では差が見えなかった。量、男女差、肥満の人での値、減量後の体重の戻りとの関係まで、熱を測った試験で確かめる。
同じエネルギーの食事でも、たんぱく質を50g入れた食事の後は、食べたエネルギーの18.0%が熱として使われた。たんぱく質を増やさなかった食事では6.7%だった。[7] 過体重の成人17人を、吐く息の測定で調べた試験の数字である。[7]
食べた後に体が余分に使うこのエネルギーを、食事誘発性熱産生という。英語の頭文字でDITとも、食事の熱効果とも呼ばれる。1日の消費エネルギーの中では、大事なのに見落とされがちな部分とされる。[19] 100kcalを食べて約7kcalが熱になるのか、18kcalになるのか。ダイエットを考える人が気になるのは当然だろう。
ただ、1回の食事で測った差が、毎日の食事でも同じように積み上がるとは限らない。ここでは、食後の熱の大きさを決める条件と、その差が体重にまで届くのかを、熱を実際に測った試験で順に確かめる。たんぱく質の満腹感や筋肉を守る働きは「たんぱく質とダイエットの科学 満腹感と筋肉維持は、体重計だけでは見えない」に、安静時の代謝の見積もりは「基礎代謝の計算式はどれだけ当たるのか 平均の正しさと自分の誤差を論文で読む」に譲る。

食後の熱は、皿の中身で大きさが変わる
ここで紹介する試験の多くは、間接熱量測定という方法で食後の熱を測っている。[6][7] 吐く息から体が取り込んだ酸素などの量を測り、使ったエネルギーを計算するやり方だ。[1] 食べる前の安静時の値を測り、標準化した食事の後に数時間測り続け、その上乗せ分を食後の熱とする。[6][19]
栄養素のうち、最も熱を生みやすいのはたんぱく質とされる。[5] それを部屋ごと測った試験がある。マーストリヒト大学の呼吸を測る部屋で、23〜33歳の標準体重の女性8人が36時間ずつ過ごした。[15] 一方の食事はたんぱく質29%・炭水化物61%・脂質10%、もう一方はたんぱく質9%・炭水化物30%・脂質61%で、エネルギーの量はそろえてあった。[15] 24時間の食後の熱は、前者で食べたエネルギーの14.6%、後者で10.5%だった。[15]
同じ試験では、たんぱく質と炭水化物の多い食事のほうが、食事中も24時間を通しても満腹感が高かった。[15] 二つの食事の熱の差は、満腹感の差と相関していた(相関係数0.8)。[15] 熱と満腹は、同じ方向へ動いていたことになる。
大学に通う19〜22歳の女性10人を対象にした交差試験も、似た向きの結果を出した。高たんぱく・低脂肪の食事と、高炭水化物・低脂肪の食事をそれぞれ1日ずつ食べ、朝・昼・夕の各食事の2.5時間後に測ると、食後の熱は高たんぱくの日でおよそ2倍だった。[16] 差が有意だったのは朝食と夕食の後である。[16] 体温も高たんぱくの日にわずかに高い傾向があった。[16] 体に残る窒素の量を示す窒素出納は、高たんぱくの日に1日7.6gのプラス、高炭水化物の日に0.4gのマイナスで、翌朝の血液中の尿素窒素も高たんぱくの日の後に高かった。[16] 食べたたんぱく質を処理した跡が、血液にも残っていたことになる。著者らは、高たんぱく・低脂肪の食事には余分なエネルギーの出費が伴い、それがこうした食事で減量が進みやすい理由を説明する助けになるかもしれないと書いた。[16] この見立てが減量の試験で確かめられたかは、後半で見る。
肥満の人を含めた比較でも、たんぱく質の強さは変わらない。やせた女性15人と肥満の女性15人に、エネルギーと量をそろえたたんぱく質の多い食事と脂質の多い食事を1週間あけて食べてもらった試験では、どちらの群でも、たんぱく質の多い食事の後の熱が、脂質の多い食事のほぼ3倍だった。[17]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
量を増やすと、熱はどこまで伸びるのか
冒頭の試験は、量を変えて熱の伸びを見たものだ。過体重の男女17人が、エネルギーをそろえた4種類の食事を二重盲検の交差法で食べた。たんぱく質と炭水化物を入れ替え、乳清たんぱく30g、乳清たんぱく50g、乳たんぱくの一種カゼイン50g、そして対照を比べている。[7] 食後の熱は、対照6.7%、乳清30g13.0%、乳清50g18.0%、カゼイン50g16.0%だった。[7]
乳清の50gは30gより有意に高く、30gを超えても熱は増えることが示された。[7] 乳清50gとカゼイン50gの差は、有意に近い傾向(p=0.06)にとどまった。[7] 著者らは、体の中でたんぱく質を分解して作り替える働き、とくにたんぱく質を燃やす量が、30gを超える量での熱の原動力かもしれないと考えている。[7] 熱は、たんぱく質を食べたこと自体より、それを処理する手間から生まれている、という見方である。実際、乳清50gの後は血液中のアミノ酸の濃度が最も高く、インスリンの濃度もカゼインより高かった。[7] たんぱく質を燃やす量も乳清50gのほうが多く、ロイシンというアミノ酸が燃やされる量を通じて、たんぱく質の作り替えの速さが熱と相関していた(相関係数0.52)。[7]
ただし、伸び方は人によって違う。若い成人21人(男性7人、経口避妊薬を使っていない女性7人、使っている女性7人)が、590kcalでたんぱく質を11%、23%、31%含む3種類の食事を食べた試験がある。[13] 男性では、たんぱく質が増えるほど熱も段階的に増えた。[13] 経口避妊薬を使っていない女性では、熱の増え方は23%未満で頭打ちになった。[13] 経口避妊薬を使っている女性では、どの食事の間にも熱の差が見られなかった。[13] 同じ体格でも、食後の満腹感は避妊薬を使う女性のほうが低かった。[13] 平均の数字が一人ひとりに同じように当てはまるわけではない。著者らは、食事の介入への反応を左右する要因を丁寧に考える必要を強調している。[13]
食事の量そのものも熱を変える。肥満の10代15人が、栄養素の割合をそろえた700kcal、1,000kcal、1,300kcalの昼食を食べた試験では、1,300kcalの食事の熱が700kcalより大きかった。[19] 一方、食べたエネルギーに対する熱の割合はどの食事でも変わらず、空腹感や満腹感の評価も食事の量で変わらなかった。[19] 大きな食事は熱を多く出すが、その割合は同じで、満腹感も増えない。著者らは、大きな食事が1日の摂取を消費より多くしやすい可能性を指摘している。[19] 熱を稼ぐつもりで大盛りにすれば、熱より先に食べた量が増えるということだ。
同じたんぱく質でも、おいしい皿は最初に熱を出す
たんぱく質の種類で熱は違うのか。52件の研究を集めた2024年のメタ分析は、たんぱく質の種類によって代謝が変わるという証拠は無かったとした。[5] 比べるなら種類より量、というのが現時点の大きな構図である。
それでも、食べ物の違いが熱に表れる場面がある。ある研究は、たんぱく質を同じ43g含む牛ステーキ195gと鱈の切り身250gを食べ比べた。[1] 参加者がつけたおいしさの評価は、10cmの物差しの上で牛ステーキ7.4、鱈3.0と大きく開いた。[1] 食べ始めから40分までの、見る・嗅ぐ・味わうといった感覚の刺激が中心の時期には、牛ステーキのほうが熱が大きかった。[1] 40分から180分を超える消化の時期になると、熱は食べ物の種類に左右されず、食べたたんぱく質の量に関係していた。[1] 血液の中では、牛ステーキの後にヒスチジンとグルタミンというアミノ酸が高かったが、それが熱とどう関わるかは分からなかった。[1] インスリンの上がり方は両方の食事で同じで、血糖は変わらなかった。[1]
おいしいと感じた皿は、最初の40分に熱を多く出した。物差しの上で3.0の評価をつけられた鱈には、少し気の毒な結果である。ただ、その差は食べ始めの時期に限られ、消化が進めば量の勝負に戻った。[1] 食後の熱を味付けで稼ぐ、という発想は、この研究からは出てこない。
数字で読む食後の熱
- 6.7%から18.0%:乳清たんぱくを50g入れた食事で、食べたエネルギーに占める熱が増えた幅。対照と比べた値である。[7]
- 14.6%と10.5%:たんぱく質と炭水化物の多い食事と、脂質の多い食事の24時間の熱。[15]
- およそ2倍:高たんぱくの日に、各食事の2.5時間後の熱が高炭水化物の日を上回った大きさ。[16]
- ほぼ3倍:やせた女性でも肥満の女性でも、たんぱく質の多い食事の熱が脂質の多い食事を上回った大きさ。[17]
- 7.4と3.0:牛ステーキと鱈のおいしさの評価。違いが熱に出たのは最初の40分だけだった。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






