夜の十時すぎ、駅から家までの道。イヤホンを外したら、後ろから足音が近づいてくる。たぶん、ただ同じ方向へ帰る人です。たいていの場合は、そうです。それでも肩がこわばり、歩幅が小さくなり、息が浅くなる。こういうときに体が固まってしまうのは、弱いからではありません。人は強い恐怖に直面すると、体が一時的に固まってしまうことがあります。
護身術というと、相手の腕をひねり上げたり、大きな男性を投げ飛ばしたりする場面を思い浮かべるかもしれません。映画ではそうです。現実の護身で求められることは、ずっと地味で、ずっと手前にあります。この記事では、オンザショア立川店がキックボクササイズと極真空手のレッスンの中で教えている護身の基本となる三つの原則、距離、声、逃げるを軸に、日常の予防と、万が一つかまれたときの対処を考えます。
最初にお断りしておくと、オンザショアに護身術だけの専用クラスはありません。護身の考え方と動きは、キックボクササイズと極真空手のレッスンの中で、必要に応じて教えています。そして、どんな練習をしても「これで絶対に安全」ということはありません。そのうえで、知っているのと知らないのとでは、固まったあとの一秒が変わります。

護身の目的は、勝つことではなく離れること
護身でいちばん大切な考え方は、相手に勝つことを目的にしない、ということです。目的は、その場から離れて、安全な場所にたどり着くこと。相手を倒す必要はありません。倒そうとすると、近づくことになります。近づけば、力の差がそのまま出ます。
体格や筋力の差は、一回の練習では埋まりません。半年、一年続けても、埋まらない差はあります。それを正直に認めるところから、護身は始まります。力で勝てないなら、力比べにしない。つかまれないように距離をとり、声で周りを巻き込み、隙ができたら走る。打つ技、蹴る技は、そのための時間を一瞬つくる道具にすぎません。
キックボクササイズで技を覚えると、つい「いざとなったら打てばいい」と考えたくなります。けれど、ミットを打つのと、人を打つのとはまったく別のことです。ミットは打ち返してきません。護身として技を学ぶ意味は、相手を倒すためではなく、体が固まったときに「動ける」状態を思い出すためにある。そう考えてもらうのがいちばん近いと思います。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
体より先に、できること
体を鍛えるより前に、帰り道を見直す。ミットに強い蹴りを入れられることと、夜道で危険に気づけることは別です。汗を拭いてスタジオを出たあとにも、護身は続きます。
立川駅を出て、スマートフォンの画面に目を落としたまま、両耳をイヤホンでふさいで歩く。どれほどキックを練習していても、その歩き方に技の出番を任せてはいけません。まず画面から顔を上げる。音を聞けるようにする。暗い近道を選ぶくらいなら、少し遠回りでも明るい道を歩く。帰宅が遅くなる日は、家族や同居の人に連絡を入れるのも一つの備えです。玄関の前でカバンの底の鍵を探し続けないよう、鍵の置き場所も決めておく。誰かについてこられている気がしたら、自宅へ急ぐより、人のいる店へ向かう。強い蹴りを一発覚える前に、自分を一人きりにしない道を選ぶ。この地味な判断を、技より先に置きます。
こうした習慣は、体力も技術もいりません。そして、どれほど技を身につけても、こちらのほうが効きます。危ない場面に近づかないことが、護身のいちばん外側の防壁です。距離、声、逃げるは、その内側の備えです。打つ技、蹴る技は、追い詰められたときの最後の手段にすぎません。

距離 腕一本の外側に、自分を置く
キックボクササイズの練習で最初に身につくものの一つが、距離の感覚です。ジャブが届く距離、ストレートが届く距離、前蹴りが届く距離。ミットを持つ受け手と向き合っていると、どこまで近づけば拳が届くのかが、体で分かるようになってきます。
この感覚は、裏返せば「相手の手が届く距離」の感覚でもあります。自分のジャブが届く距離は、相手の手も届く距離です。知らない人に声をかけられたとき、道を聞かれたとき、相手との間に腕一本より長い距離を残しておく。それだけで、つかまれる危険はずいぶん減ります。
距離を保つときの立ち方も、キックの構えがそのまま使えます。足を前後に開き、少し斜めに立つ。真正面から向き合うより、相手に見える体の面が小さくなり、押されたときにもよろけにくい。両手は胸の前あたりに上げ、手のひらを相手に向けておく。「それ以上近づかないで」という合図にもなりますし、何かあったときに顔と体をかばえる位置でもあります。拳を握って構える必要はありません。握ると、相手を刺激することがあります。
近づかれたら、下がる。このとき、まっすぐ後ろへ下がるより、斜め後ろへ下がるほうがいい。まっすぐ下がると、相手はまっすぐ追ってくるだけです。斜めに下がると、相手は向きを変えなければならない。その一瞬の遅れが、次の一歩をつくります。キックボクササイズのフットワークで、前後だけでなく斜めに動く練習をするのは、こういうときのためでもあります。
声 大きな声は、練習しないと出ない
怖いとき、人は声が出なくなります。叫ぼうとしても、のどが締まって、かすれた息しか出ない。これは珍しいことではありません。ふだん大きな声を出す機会のない大人ほど、とっさに声が出ません。
キックボクササイズでは、打つ瞬間に「シュッ」と短く息を吐きます。お腹を締め、体を一つにまとめるための呼吸です。この「お腹から吐く」感覚が、声の土台になります。息を止めたままでは声は出ません。お腹から一気に吐く練習を何百回も繰り返していると、とっさのときに息が出やすくなる。息が出れば、声になります。
レッスンの中で、実際に声を出してみることもあります。最初は恥ずかしくて小さな声しか出ません。それでいいのです。一回目より二回目、二回目より三回目と、少しずつ大きくなっていく。大きな声を一度でも出したことがある体と、一度も出したことがない体とでは、いざというときの出方が違うはずです。
叫ぶ言葉は、短く、はっきりと。長い文は出てきません。周りの人に、何が起きているかが伝わる言葉がいい。そして、声は相手を威嚇するためだけでなく、周りの人を巻き込むためのものだと考えてください。人が振り向けば、それだけで相手は離れることがあります。

逃げる 走り出せる足をつくる
距離をとり、声を出したら、あとは走ります。護身でいちばん確かな技は、逃げることです。走って、明るいほうへ、人のいるほうへ向かう。お店、コンビニ、駅の改札、交番。人の目のある場所にたどり着けば、そこで終わりです。
ところが、怖さで固まった体は、すぐには走り出せません。棒立ちになった膝は、一度曲げてからでないと床を蹴れない。キックボクササイズの構えで「膝を少しゆるめておく」ことを繰り返し言われるのは、いつでも床を押せる状態にしておくためです。この構えが体に入っていると、固まった瞬間にも、膝が少しだけ動きやすくなります。
もう一つ大切なのは、走り続けられる体力です。百メートルを全力で走ったあとに息が上がって動けなくなるようでは、逃げきれないかもしれません。溶岩の暑い部屋で、ミットを打ち、蹴り、ステップを踏む。動いては短く呼吸を整え、また動く。この繰り返しは、苦しいときにもう一歩出す練習にもなっています。
逃げるときに、持ち物にこだわらないことも覚えておいてください。バッグをつかまれたら、手を放す。財布やスマートフォンは取り戻せますが、体はそうはいきません。何を守るのかの順番を、ふだんから決めておくと、とっさのときに迷いが減ります。
つかまれたとき 腕力で振りほどこうとしない
距離をとっていても、手首や腕をつかまれてしまうことはあります。そのとき多くの人は、つかまれた腕を自分のほうへ力いっぱい引こうとします。けれど、相手のほうが力が強ければ、引っぱり合いでは勝てません。
力で振りほどくのではなく、相手の手のいちばん弱いところから抜ける。たとえば手首をつかまれたとき、指が四本そろっている側より、親指と人差し指のあいだのほうが開きやすい。そこに向けて、腕を回すように抜く。こうした動きは、言葉で読むと簡単そうに見えますが、実際に人につかまれた状態でやってみないと、ほとんど身につきません。どの向きに、どのくらいの速さで抜くのか。抜いたあと、どちらへ下がるのか。これは本や動画で覚えるより、1対1で、実際に手首をつかんでもらって体感するほうが確実です。
抜けたら、すぐに距離をとって走る。抜いて終わりではなく、抜いたあとに離れるところまでが一つの動きです。これも、キックボクササイズで「打った手は、打つより速く戻す」と習うのと同じ考え方です。一つの動きを、次の動きにつなげて終える。
練習で、固まる時間を短くする
最初に書いたとおり、怖いときに体が固まるのは自然なことです。練習しても、固まらなくなるわけではありません。ただ、固まってから動き出すまでの時間は、練習で短くできる可能性があります。
そのための練習は、落ち着いた場所で、何度も同じ動きを繰り返すことです。構える、下がる、声を出す、走り出す。一つ一つは単純でも、続けて行うと案外つながりません。構えたあと、下がる足がどちらか迷う。声を出そうとして、息を吸いすぎて止まる。走り出す前に、なぜか一度相手のほうを振り返ってしまう。こうした迷いは、実際にやってみて初めて見つかります。見つかった迷いを、一つずつ消していく。
1対1のレッスンでは、受け手が少しずつ状況を変えます。距離を詰めてくる速さを変える。声をかけてくる位置を変える。正面からではなく、斜めから近づく。同じ「下がる」でも、状況が変われば足の運びが変わります。何度か繰り返すうちに、考える前に足が出る瞬間が来ます。その瞬間が、固まる時間が少しだけ短くなった証拠です。
大切なのは、怖がらせすぎないことです。護身の練習は、本物の怖さに近づけるほど効くように思えますが、怖がらせすぎて体が固まってしまっては、練習の意味がありません。少し緊張するくらいの強さで、成功する回数を多くする。うまくできた感覚を、体に何度も覚えさせる。暑い部屋で汗を流しながら笑ってしまうくらいの練習のほうが、結局は長く残ります。
レッスンの中で、何を学ぶのか
オンザショア立川店のキックボクササイズは、1対1のパーソナルで、女性限定です。溶岩プレートの床の上、室温35〜40℃・湿度60〜70%の部屋で行います。ふだんはパンチやキックの技を練習しながら、必要に応じて、ここまで書いてきた距離、声、逃げる、つかまれたときの動きを組み込んでいきます。
1対1であることには、護身を学ぶうえでの利点があります。一つは、その人の暮らしに合わせられること。夜遅くに帰ることが多いのか、子どもを連れて歩くことが多いのか、仕事で人と向き合う場面が多いのか。状況が違えば、気をつけることも違います。もう一つは、怖さに合わせて進められること。人に手首をつかまれること自体が怖い人もいます。その場合は、無理に進めず、まずは距離と声の練習からにします。
もう一つの入口として、極真空手があります。オンザショアと同じ所在地にワールド極真会空手連盟東京支部の道場があり、代表(極真空手三段・師範代、ワールド極真会空手連盟東京支部長)が、女性と小中学生を対象に1対1で教えています。護身の考え方は、こちらの稽古の中でも教えています。打撃をしっかり学びたい人、礼法や型も含めて武道として取り組みたい人は、空手のほうが合うかもしれません。空手について知りたい方は、公式 LINE から相談してください。
まとめ
護身の目的は、勝つことではなく、離れることです。腕一本より長い距離を残し、斜め後ろへ下がる。お腹から息を吐く練習を、声の土台にする。膝をゆるめた構えで、走り出せる足をつくる。つかまれたら腕力で引き合わず、弱いところから抜いて、すぐ離れる。そして、それより先に、危ない場面に近づかない習慣を持つこと。
オンザショア立川店には護身術の専用クラスはありませんが、キックボクササイズと極真空手のレッスンの中で、こうした考え方と動きを教えています。キックボクササイズは、溶岩の暑い部屋(室温35〜40℃・湿度60〜70%)で行う1対1のパーソナルで、女性限定。初めての方の体験は、1回 税抜4,980円(税込5,478円)、事前決済です。金曜19時からの「パーソナル美ボディ・キック」は、通常1回 税抜10,000円(税込11,000円)、会員の方は初回 税抜5,000円(税込5,500円)で、こちらも事前決済になります。極真空手は、代表(極真空手三段・師範代)が女性と小中学生に1対1で教えています。空手の相談は公式 LINE からどうぞ。お子さまの場合は、保護者の方から LINE で申し込んでください。
スタジオはJR立川駅の北口から徒歩1分、東京都立川市曙町2-14-10 エトロワビル3F。年中無休で、8:00から23:30まで開いています。体験を予約するときは、公式サイトの予約ページへお進みください。Web予約は24時間受付で、公式 LINE でも予約できます。レッスン中は電話に出られないことが多いので、質問も LINE でお送りください。妊娠中の方(常温のマタニティヨガを除く)と、医師から運動を止められている方は利用できません。持病や怪我のある方は、事前に医師に相談してください。
固まった体を、一秒でも早く動かす。そのための練習を、汗をかきながら一緒にやっていきましょう。
同じ分野のほかの記事
- ジャブとストレートの打ち方 腕ではなく足から打つキックボクササイズの基本
- フックとアッパーの打ち方|体のひねり・肘の角度・腹と背中の使い方を1対1のキックで
- 前蹴り・ミドル・ローキックは軸足で決まる。股関節の使い方と蹴った後に崩れないコツ
- キックボクササイズの構え・ガード・呼吸|肩の力みを抜き、顎を引き、打つ瞬間に吐く
- ミット打ちは1対1で何が変わるか|受け手が距離と強さを作る、サンドバッグとの違い
- キックボクササイズを半年続けるコツ 週1回の予定の入れ方と休んだ後の戻り方
- 暑い部屋のキックボクササイズ|35〜40℃で打つ日の水分・体調の見方・やめどき
- 怒りやストレスは殴って発散できるか|研究とキックボクササイズで考える気持ちの切り替え
- ホットボクササイズとパーソナルキックの違い|大勢か1対1か、立川で選ぶ前に知りたいこと
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。







