糖質制限中は、糖質の少なさだけで油や肉料理を選んでよいのか。同じ糖質量で脂肪の質を変えた試験から、飽和脂肪と不飽和脂肪、LDLコレステロールと中性脂肪の動きの違いを読む。結果が食い違う研究の対象や条件も確かめ、食事記録と検査結果を医師に相談する際の見方につなげる。
夕食の肉をフライパンに並べ、主食を控えるぶんの献立を考える。主食を減らしたぶん、油の種類までは見なくてよいのだろうか。糖質の欄だけで夕食の審査を終えたくなるが、同じ糖質量でも脂肪の質によって血中脂質に違いが出た試験がある。[9][10]
答えの芯は、糖質制限中にも脂肪の質を見る意味がある、ということだ。ただし「飽和脂肪を食べれば全員のLDLコレステロールが同じように上がる」とまではいえない。脂肪の質で差が出た試験がある一方、糖質と飽和脂肪の割合を同時に変えた別の試験では、LDLに食事間の差が出なかった。[9][2]
ここでは、肉料理や調理に使う油を含む食事全体を、何に置き換えたのかという視点で読む。体重と検査結果の関係全般は既存記事「コレステロールは減量で変わるか 体重と検査結果がそろわない理由を知る」に譲り、今回は糖質を減らした後の脂肪の内訳に問いを絞る。

糖質を減らした後、何が増えた食事なのか
糖質を減らすという言葉は、減った側だけを表している。ところが食事の比較では、代わりに増えた栄養素も動く。低糖質・低脂質食を検討したレビューは、栄養素の量と質を切り分けていない研究が多いことや、外来での試験では食事の実行状況が結果の読み方を難しくすることを指摘している。[6]
たとえば、主食を控えた夕食という説明だけでは、肉料理が増えたのか、別の食品が増えたのか、調理に使う油を変えたのかが分からない。これは特定の献立の優劣を決める話ではない。研究を日常に当てはめる前に、比較している食事の姿を言葉にする作業である。低糖質という札だけで、食事全体の中身まで同じにはならない。[6][9]
脂肪の質を比べる際に登場するのが、飽和脂肪と不飽和脂肪という区分だ。今回の牛肉を含む食事試験では、飽和脂肪を一価不飽和脂肪に置き換えて食事を比較している。ここでいう質とは、値段や味の評価ではなく、脂肪の構成の違いを指す。油を足すか抜くかだけでなく、置き換える相手まで含む問いになる。[9]
もうひとつ、脂肪の「割合」と「量」は分けておきたい。糖質を減らした食事で脂肪の割合が高くなったという報告を読んでも、それだけで実際に食べた量まで同じように増えたとは決められない。血糖管理が不十分な肥満の2型糖尿病患者を対象にした無作為化試験でも、低糖質群の飽和脂肪の相対的な摂取割合は高かったが、絶対的な摂取量は中程度と報告された。病状のある患者の結果を、18〜39歳の女性一般にそのまま当てはめることはできない。[12]
買い物で確かめるなら、「糖質が少ないから同じ食事」という見方をいったん止めるところからでよい。肉料理の選び方と油の使い方を別々に思い出し、何を減らし、何で補ったかを記録する。研究で脂肪の質を比較できるのも、糖質以外の条件を並べているからである。[9][10]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
同じ糖質量でも、脂肪の質で差が出た試験
問いに近いのは、健康な男性40人を対象にした無作為化クロスオーバー試験だ。これは同じ参加者が比較する食事を順に経験する設計である。各食事の期間は3週間で、牛肉を多く含む比較食は、糖質が総エネルギーの31%、たんぱく質も31%という条件でそろえられた。男性のみの試験なので、18〜39歳の女性でも同じ反応になるかは、この比較では確かめられていない。[9]
そのうえで、飽和脂肪の割合を8%と15%に変えた。少ない側では飽和脂肪を一価不飽和脂肪に置き換えている。糖質もたんぱく質も同じ割合にした比較なので、「糖質をもっと減らしたから違いが出た」という説明ではない。肉料理を中心にした低糖質食でも、脂肪の構成を比較できることが、この試験の読みどころだ。[9]
血液の結果は、項目ごとに分かれた。中性脂肪は基準となる食事の後より低糖質食の後に減り、その減少は飽和脂肪の摂取量によらなかった。一方、総コレステロール、LDLコレステロール、非HDLコレステロール、アポBは、飽和脂肪の少ない低糖質食の後のほうが低かった。[9]
ここでのLDL、非HDL、アポBは、論文が別々に測定した脂質・リポたんぱく質関連の指標である。名前を全部覚える必要はない。中性脂肪に見えた変化と、LDLなどに見えた変化が同じ条件で説明できなかったことを押さえたい。「中性脂肪が下がったから、油の内訳は問わなくてよい」という読み方は、この比較とは合わない。[9]
ただし、この試験が直接比べたのは男性の短期間の食事であり、あらゆる油を個別に順位づけしたものではない。著者らも、たんぱく質の供給源が飽和脂肪の影響を変える可能性を挙げている。牛肉を含む食事で得た結果を、そのまますべての献立や若い女性の長期的な反応に広げないことが必要だ。[9]
別の無作為化試験には、平均BMIが29.2の男性178人が参加した。糖質を総エネルギーの26%にした条件で、飽和脂肪が少ない食事と多い食事を比較すると、多くのリポたんぱく質の変化に有意差はなかった。ただしLDLは例外で、飽和脂肪が多い側では低下の幅が小さかった。対象が男性であるため、18〜39歳の女性での低下幅をこの結果から予測することはできない。[10]
脂肪の質が関わるという点では、先ほどの試験と同じ方向である。それでも、検査の全項目が一斉に同じ反応を示すわけではない。食事を変えて結果を見る際は、どれかひとつを「脂質全体」の代表にしない。研究の比較自体が、項目を分けて答えを出している。[9][10]
飽和脂肪が多くてもLDLに差が出なかった研究をどう読むか
一方で、飽和脂肪の多い低糖質食に不利な結果ばかりではない。減量後の体重維持期に164人を割り付けた20週間の食事提供試験では、低糖質食の飽和脂肪は総エネルギーの21%だった。高糖質食では7%であり、かなり違う食事を比較している。参加者の70%が女性で、平均BMIは32.4だった。女性を多く含んでも、減量後の体重維持期という条件があり、18〜39歳の女性の日常の食事にそのまま当てはめるには慎重さが要る。[2]
低糖質食では、中性脂肪やHDLコレステロールなどに有利な変化があり、LDLコレステロールとLDL粒子の濃度には食事間の差がなかった。インスリン抵抗性に関連するリポたんぱく質の特徴をまとめたLPIRという指標も、低糖質食で改善した。飽和脂肪が多い食事であっても、この対象と期間ではLDLに不利な群間差が出なかったのである。[2]
この結果は省けない。しかし「飽和脂肪だけを増やしても影響がない」という実験ではない。糖質も低糖質食の20%から高糖質食の60%へ変わり、飽和脂肪の割合と同時に動いている。たんぱく質はそろえていても、糖質と脂肪の質のどちらがどの程度寄与したかを、この比較だけで切り分けることはできない。[2]
先ほどの男性の試験は、低糖質という条件の中で脂肪の質を比べた。こちらは糖質の割合が違う食事全体を比べた。対立して見える結果も、尋ねている問いが違うと分かれば整理しやすい。「低糖質食は血中脂質の一部を改善し得る」と「低糖質食の中でも脂肪の質でLDLが違う」は、両立する。[2][9]
また、食事提供を受けて減量後の体重を維持していた参加者の結果である。通勤帰りに毎日違う惣菜を選ぶ生活と、実験条件は同じではない。参考にできるのは、飽和脂肪の割合だけで反応を一律に予測しないという点であり、好きな量の油や肉料理を追加してよいという許可証ではない。[2][6]
数字を読むときは、比較の出発点にも目を向けたい。牛肉を含む試験では、中性脂肪については基準の食事の後と低糖質食の後を比べ、LDLなどについては脂肪の質が違う低糖質食同士を比べている。「下がった」という動詞は同じでも、何と比べて下がったのかが異なる。ここを省くと、糖質を減らした影響と脂肪を置き換えた影響が混ざってしまう。[9]
また、低糖質という呼び方だけで制限の強さをそろえないことも必要だ。牛肉の試験では糖質が総エネルギーの31%、体重維持期の試験では低糖質側が20%だった。これらは食事の説明に使われた研究条件であり、どちらかを誰にでも勧める数値ではない。夕食の主食を少し控えた経験と研究を結ぶ際にも、条件を確認する余地がある。[9][2]
数字で読む糖質制限と脂肪の質
40人:牛肉を含む低糖質食で脂肪の質を比べた、健康な男性の人数である。[9]
8%と15%:同試験の飽和脂肪のエネルギー比。糖質はどちらも31%にそろえられた。[9]
178人:糖質制限と減量を分けて検討し、飽和脂肪の違いも比較した男性の試験規模である。[10]
20週間:減量後の164人に食事を提供した体重維持期の比較期間である。[2]
41試験:開始時のBMIと低糖質食によるLDL変化を検討したメタ分析の対象試験数である。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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