連載「見た目と運動の科学」全10回の第7回です。
夕方に靴がきつくなる。長時間のフライトのあと足首が太くなる。立ち仕事の日は脚が重い。この「むくみ」は、この連載で扱う題材の中では珍しく、物理的に何が起きているのかがよく分かっており、実測値も揃っている領域です。
結論を先に書きます。重力のかかる姿勢を続けると、下肢に体液が移動して溜まります。その量はミリリットル単位で測られており、8時間の立位で片脚あたり約90 mL、10時間の座位で下腿に約145 mLといった数字が報告されています。溜まった体液は、横になれば戻ります。圧迫衣類と筋のポンプ作用は、この移動を抑える方向に働くことが実測されています。
最初に重要な線を引いておきます。ここで扱うのは、健康な人に起きる姿勢由来の一時的な体液移動です。心不全・腎臓や肝臓の病気・リンパ浮腫・深部静脈血栓症などによる浮腫は、まったく別の話であり、受診が必要な状態です。片脚だけ急に腫れる、押すと跡が長く残る、息切れや体重増加を伴う、赤みや熱感や痛みがある——こうした場合は、この記事の内容を当てはめず医療機関にご相談ください。

なぜ溜まるのか
毛細血管では、血管の中から外へ水を押し出す力(毛細血管内の圧)と、外から中へ引き戻す力(血漿タンパク質による膠質浸透圧)がつり合っています。立ったり座ったりしていると、重力によって下肢の毛細血管内の圧が上がります。押し出す力が強まるので、水分が組織のすきまへ出ていく。出ていった分はリンパ管が回収しますが、回収が追いつかなければ組織に溜まります。これが姿勢由来のむくみです。
膠質浸透圧を担っているのは、血液中のアルブミンなどのタンパク質です。血管の壁は水と小さな分子を通しますが、タンパク質は通しにくい。だから血管の中はタンパク質の濃度が高く保たれ、水を引き戻す力が生じます。この力は姿勢では大きく変わりません。姿勢によって変わるのは、押し出す側の圧のほうです。足首の高さでは、心臓より下にある分だけ血柱の重さが加わります。立っていれば、その差は数十センチ分になります。
回収の側に、もうひとつ重要な仕組みがあります。ふくらはぎの筋が収縮すると、その中を通る静脈が圧迫されて血液が心臓側へ押し出されます。いわゆる筋のポンプ作用です。歩けば働き、じっとしていれば働きません。「動かないこと」がむくみの主因だというのは、この意味では正確です。
実測すると何ミリリットルか
まず立位から。手術室で働く医療者を対象にした測定があります。
Tessari M, et al. Assessment of lower limbs edema in healthy workers who are exposed to long-term gravity. Veins and Lymphatics. 2013.
20名が8時間立ち続ける前後で、水置換法により脚の容積を測りました。右脚は 1857.5±196.9 mL から 1945±209.6 mL へ、左脚は 1850±194.7 mL から 1940±216.2 mL へ、いずれも有意に増加しています(P < 0.0001)。増加量は時間と強く相関しました。
逆方向の測定も同じ研究に含まれています。別の20名が10時間仰臥位で休んだところ、右脚は 1875±175.1 mL から 1770±195.6 mL へ、左脚は 1862.5±166.9 mL から 1757.5±194.2 mL へ減りました(P < 0.0001)。重力の向きが変われば、体液は戻る。この可逆性が、姿勢由来のむくみの最大の特徴です。
座位についても実測があります。
Mittermayr M, et al. Leg edema formation and venous blood flow velocity during a simulated long-haul flight. Thrombosis Research. 2007;120(4):497-504.
健康な12名が、低圧環境を模した条件で航空機の座席に10時間座りました。下腿の容積は4時間の時点ですでに有意に増えており(+109 mL)、10時間で最大に達しました(+145 mL)。体重・総体水分・細胞外水分・脛骨前面の組織厚も増えています。一方、下肢静脈の断面径にも最大血流速度にも有意な変化はありませんでした。著者らは、体液の蓄積は主に最初の数時間に起きており、静脈の血行動態や血管径とは独立していたとしています。すべての指標は、翌日には基準値に戻りました。
実際の飛行でも測られています。
Mittermayr M, et al. Formation of edema and fluid shifts during a long-haul flight. Journal of Travel Medicine. 2003;10(6):334-339.
20名がウィーンからワシントンへ9時間飛行し、光学式スキャナで脚の容積を測定しました。脚の容積は 8242±1420 mL から 8496±1474 mL へ増加しています(p < .001)。増加は下腿だけでなく大腿にも分布していました。脛骨前面の皮膚の厚さも飛行中に有意に増え(p < .05)、到着から1日後もなお高いままでした。血栓のリスクが無い群と中等度の群のあいだに、測定値の差はありませんでした。

圧迫衣類はどう働くか
圧迫は、外から組織の圧を上げることで、血管から外へ出ていく力を相殺します。効果は実測されています。
Olsen JHH, Öberg S, Rosenberg J. The effect of compression stocking on leg edema and discomfort during a 3-hour flight: A randomized controlled trial. European Journal of Internal Medicine. 2019;62:54-57.
34名が3時間の飛行で片脚だけに圧迫ストッキングを着用し、もう一方を対照としました。飛行の前後で、着用脚と非着用脚の足首周囲の差は中央値 5 mm 大きくなり(四分位範囲 0〜9、p = .001)、ふくらはぎでも中央値 5 mm でした(四分位範囲 1〜12、p < .001)。周囲は着用脚で減り、非着用脚で増えています。ただし痛みや不快感の差には変化がなく、有害事象もありませんでした。容積は動くが、本人の感じ方は3時間では変わらなかった、ということです。
姿勢による違いを調べた研究もあります。
Gianesini S, Raffetto JD, Mosti G, Maietti E, Sibilla MG, Zamboni P, Menegatti E. Volume control of the lower limb with graduated compression during different muscle pump activation conditions and the relation to limb circumference variation. Journal of Vascular Surgery: Venous and Lymphatic Disorders. 2020;8(5):814-820.
健康な30名(男性15名・女性15名、平均年齢 32±5 歳)の計60肢で、座位・立位・歩行を圧迫の有無で比較しました。圧迫なしでは、座位と歩行で有意な容積変化は生じず、立位でのみ増加しました(2.7%、P < .0001)。圧迫を用いると、座位で 4.8%、歩行で 4.4%、立位で 4.6% の容積減少が認められています(いずれも P < .0001 以下)。
ここに、この回で最も示唆的な所見があります。細胞外の水分そのものが減ったのは、圧迫を着けて歩いたときだけでした(40.55%±1.66% から 40.45%±1.71%、P < .017)。座っているだけ、立っているだけでは、圧迫があっても細胞外水分は動かない。圧迫は容積を押さえ込みますが、体液を実際に動かすには筋の収縮が要るということになります。
立ち仕事を想定した試験では、ルガー(Luger)らが健康な32名と慢性静脈不全の患者12名を対象に、2時間の立位を圧迫なし・圧迫クラスI(18〜21 mmHg)・圧迫クラスII(23〜32 mmHg)で比較しました。いずれの群でも圧迫は下腿の浮腫を有意に減らし、最も浮腫が小さかったのは圧迫クラスIIでした。ただし着け心地はクラスIのほうがやや良いと評価されており、著者らは長期の継続にはクラスIが向く可能性を示しています。
動かすほうの効果
筋のポンプ作用を直接刺激した実験もあります。
ヴェナ(Vena)らは、13名が150分座り続けるあいだ、腓腹筋に電気刺激を与える条件と偽刺激の条件を交差させました。脚への体液蓄積は、実刺激で 51.9±8.8 mL、偽刺激で 91.5±8.9 mL と、40%以上減っています(P < 0.001)。
自分で動く場合も同様です。リー(Li)らは、過体重・肥満の男性18名(21.0±1.2 歳、28.8±2.2 kg/m2)を対象に、8.5時間の連続座位と、座位を中断する3条件を比較しました。下腿容積の変化は、45分ごとに3分歩く条件で 70.34 mL 小さく(95%信頼区間 -112.78〜-27.91、P = 0.002)、同じ頻度でスクワットを行う条件で 62.49 mL 小さくなりました(-104.92〜-20.06、P = 0.005)。歩行条件では収縮期血圧も 2.54 mmHg 低下しています。
座り続けているときに何が起きるかも測られています。クロサワ(Kurosawa)らは健康な男性9名(22.6±1.4 歳、BMI 22.4±1.8)に8時間座位をとらせ、ふくらはぎの周囲が 2.4%±0.7%、くるぶしが 2.7%±1.4% 増え、下肢の筋の細胞外水分が 10.1%±1.78% 増え、足背の動脈血流が基準の 61.4%±16.2% まで低下したと報告しています。低圧の弾性衣類を片脚に着けると、これらの変化はいずれも有意に軽減されました(すべて P < 0.05)。

塩分と水分をめぐる俗説
「塩分を摂るとむくむ」「水を飲むとむくむ」「水を飲まないとむくむ」。どれも耳にする言い方です。実測はどうなっているか。
Heer M, Baisch F, Kropp J, Gerzer R, Drummer C. High dietary sodium chloride consumption may not induce body fluid retention in humans. American Journal of Physiology. Renal Physiology. 2000;278(4):F585-95.
代謝病棟で健康な男性32名を対象に、食塩の摂取量を1日あたり 50、200、400、550 meq の4段階に無作為に割り付けた管理下の研究です。血漿量は用量依存的に増加し(P < 0.01)、550 meq 群では 315±37 mL 増えました。ところが総体水分は増えず、体重も増えませんでした。赤血球の平均容積も変わっていません。
著者らの結論は、通説と明確に食い違います。高い食塩摂取は総体水分の貯留を起こすのではなく、間質(組織のすきま)から血管内へ、体液を相対的に移動させるのだと述べています。つまり「塩で水をため込む」という素朴な絵とは向きが違う。
誤解のないように補いますが、これは食塩を多く摂ってよいという話ではありません。血圧との関係は別の主題であり、この研究はそこを扱っていません。ここで言えるのは、体重計に乗って増えていた分を「塩分でため込んだ水」と説明する読み方に、この研究が合致しないということだけです。健康な人の一時的なむくみについて、水分摂取量との関係を直接調べた質の高い試験も、今回の調査では見当たりませんでした。
| 言われていること | 実測が示していること |
|---|---|
| 長時間座るとむくむ | 下腿容積は4時間で有意に増え、10時間で最大。翌日には戻る |
| 立ち仕事はむくむ | 8時間の立位で片脚あたり約90 mL増加 |
| 横になれば戻る | 10時間の仰臥位で片脚あたり約100 mL減少 |
| 圧迫すればむくまない | 容積は抑えられる。ただし細胞外水分が動いたのは圧迫+歩行のときだけ |
| 動けばよい | 45分ごとに3分歩く条件で容積増加が有意に小さい |
| 塩分でむくむ | 高食塩で血漿量は増えたが、総体水分と体重は増えなかった |
代理指標の限界も書いておきます。ここで扱った数値は、水置換法・光学スキャナ・生体電気インピーダンス・メジャーによる周囲径など、方法がまちまちです。ミリリットルやパーセントで表された変化が、鏡の前で見て分かる変化に対応するかどうかは、これらの研究からは分かりません。足首の周囲が 5 mm 違うことを本人や他人が視覚的に識別できるか——それを確かめた研究は、今回は見つかりませんでした。
もうひとつ、方向の話を付け加えます。この回で見た数値は、いずれも「溜まる」と「戻る」の両方向を含んでいます。8時間立てば増え、10時間横になれば減る。10時間座れば増え、翌日には基準値へ戻る。姿勢由来のむくみは、蓄積ではなく往復です。朝より夕方のほうが足が大きいのは、異常ではなく設計どおりの挙動だということになります。
もうひとつ。ここに挙げた試験の参加者は、いずれも数十名規模で、若く健康な人が中心です。年齢・体格・持病・服薬によって結果が変わりうることは、当然の留保として置いておく必要があります。
次回予告
第8回は「セルライト——何が分かっていて何が分かっていないか」を扱います。皮下脂肪を隔てる線維性の隔壁について、画像と解剖でどこまで分かっているのか。評価尺度の信頼性はどうなのか。そして各種の介入を調べた試験の質がどの程度なのか。分かっていないことを正確に列挙する回になります。
この連載の全10回
- 第1回|「肌がきれいになる」は測れるのか——皮膚科学の評価指標
- 第2回|運動と皮膚——血流・バリア機能・皮脂
- 第3回|紫外線と酸化ストレス——屋外運動の功罪
- 第4回|汗は「毒を出す」のか——発汗の生理学と言説の検証
- 第5回|睡眠と見た目——睡眠不足が顔にもたらす実測変化
- 第6回|姿勢と印象——姿勢は見た目を変えるか
- 第7回|むくみ——体液の分布と、圧迫・運動の効果(この記事)
- 第8回|セルライト——何が分かっていて何が分かっていないか
- 第9回|体重が減ると皮膚はどうなるか
- 第10回|総括——美容主張の読み方
出典
- Tessari M, et al. Assessment of lower limbs edema in healthy workers who are exposed to long-term gravity. Veins and Lymphatics. 2013.
- Mittermayr M, Fries D, Gruber H, Peer S, Klingler A, Fischbach U, Gunga HC, Koralewski E, Faulhaber M, Simmer M, Schobersberger W. Leg edema formation and venous blood flow velocity during a simulated long-haul flight. Thrombosis Research. 2007;120(4):497-504.
- Mittermayr M, et al. Formation of edema and fluid shifts during a long-haul flight. Journal of Travel Medicine. 2003;10(6):334-339.
- Olsen JHH, Öberg S, Rosenberg J. The effect of compression stocking on leg edema and discomfort during a 3-hour flight: A randomized controlled trial. European Journal of Internal Medicine. 2019;62:54-57.
- Gianesini S, Raffetto JD, Mosti G, Maietti E, Sibilla MG, Zamboni P, Menegatti E. Volume control of the lower limb with graduated compression during different muscle pump activation conditions and the relation to limb circumference variation. Journal of Vascular Surgery: Venous and Lymphatic Disorders. 2020;8(5):814-820.
- Luger T, Bott N, Seibt R, Gabriel J, Griese A, Enghofer AN, Rieger MA, Steinhilber B. Influence of compression stockings with different compression classes on lower leg edema and perceived discomfort during a two-hour static standing exposure – a pilot study. Applied Ergonomics. 2025;129:104621.
- Vena D, Rubianto J, Popovic MR, Fernie GR, Yadollahi A. The Effect of Electrical Stimulation of the Calf Muscle on Leg Fluid Accumulation over a Long Period of Sitting. Scientific Reports. 2017;7(1):6055.
- Li Q, Pesola AJ, Gao Y. Effects of thigh muscle activity patterns on blood pressure and edema during interrupted sitting in overweight and obese men. European Journal of Applied Physiology. 2026;126(1):305-315.
- Kurosawa Y, Nirengi S, Tabata I, Isaka T, Clark JF, Hamaoka T. Effects of Prolonged Sitting with or without Elastic Garments on Limb Volume, Arterial Blood Flow, and Muscle Oxygenation. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2022;54(3):399-407.
- Heer M, Baisch F, Kropp J, Gerzer R, Drummer C. High dietary sodium chloride consumption may not induce body fluid retention in humans. American Journal of Physiology. Renal Physiology. 2000;278(4):F585-95.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。片脚だけが急に腫れた場合、押した跡が長く残る場合、赤み・熱感・強い痛みを伴う場合、息切れ・急な体重増加・尿量の減少を伴う場合は、心臓・腎臓・肝臓の病気、リンパ浮腫、深部静脈血栓症などの可能性があるため、ただちに医療機関を受診してください。妊娠中のむくみ、服薬を始めてから生じたむくみも自己判断せず主治医にご相談ください。圧迫衣類は、動脈の血流障害や糖尿病による神経障害がある方では適さない場合があります。使用前に医師や薬剤師にご確認ください。皮膚の異常や急な変化に気づいたときは皮膚科を受診してください。






