連載「老化と運動」全10回の第5回です。

テロメアは、染色体の端にある繰り返し配列です。靴ひもの先端のプラスチックにたとえられることが多く、細胞が分裂するたびに少しずつ短くなり、一定の長さを下回ると細胞は分裂をやめます。この性質から「細胞の寿命を数える時計」と呼ばれ、老化の指標として広く知られるようになりました。運動との関係も、この20年ほどで大量に研究されています。

結論から書きます。よく運動している人のテロメアが長いという報告は多数あります。しかし、運動を割り付けて比べた介入研究では、その効果は一貫して確認されていません。さらに、テロメアが長いことが健康にとって望ましいとは限らないことが、遺伝を使った解析から示されています。

この回は、この連載で最も慎重に書く必要がある題材です。代理指標の問題、測定誤差の問題、因果の向きの問題が、すべて同時に現れるからです。逆にいえば、ここを読み解く力がつけば、他の「老化指標」の主張もほぼ同じ手順で検討できます。

老化と運動 第5回 テロメアと運動期待と実測のずれ|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

テロメアは何を測っているのか

研究で測られるテロメア長のほとんどは、血液中の白血球のものです。採血だけで得られ、大規模な集団でも測定できるからです。値は、実際の塩基対の長さとして報告されることもあれば、テロメアの量を単一コピー遺伝子の量で割った比(T/S比)として報告されることもあります。この2つは単位が違い、直接は比較できません。研究をまたいで数値を並べるときの最初の落とし穴がここにあります。

そして、白血球のテロメア長が短いことは、心血管疾患や全死因死亡と関連することが知られています。この関連があるからこそ、テロメアは「生物学的な老化の指標」として使われてきました。ただし関連があることと、その指標を動かせば健康が動くことは、第1回で述べたとおり別の問題です。

横断研究が見せる、きれいな関連

米国の国民健康栄養調査のデータを使った解析を見てみます。タッカー(Tucker)は、5,823名の成人を横断的に調べ、定量的PCR法でテロメア長を測定しました。暦年齢が1年上がるごとにテロメアは15.6塩基対短く、身体活動量はすべての共変量を調整したあともテロメア長と関連していました(F = 8.3、P = 0.0004)。活動量が最も高い群と、座位中心・低活動・中活動の各群との差は、それぞれ140、137、111塩基対です。著者は、最も活動的な群が座位中心の群に対して9年分の細胞老化の優位性を持つと推定しました。

この「9年」は、テロメアと運動を扱う記事で最もよく引用される数字のひとつです。しかし、この計算が何をしているかを見てください。140塩基対を、1年あたり15.6塩基対という別の推定値で割っているだけです。年齢に換算すると印象が強くなりますが、新しい情報が加わったわけではありません。そしてこれは横断研究であり、活動的な人のテロメアが長いのか、テロメアが長い(あるいは健康な)人が活動的でいられるのかを区別していません。

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介入研究では確認されない

横断と介入を分けて統合した検討があります。

Valente C, Andrade R, Alvarez L, et al. Effect of physical activity and exercise on telomere length: Systematic review with meta-analysis. Journal of the American Geriatrics Society. 2021;69(11):3285-3300.

30件の研究・7,418名を対象に、身体活動を評価した24件と運動介入を評価した6件を分けて解析しています。身体活動が多い人のテロメアは長く(標準化平均差 0.70、95%信頼区間 0.12〜1.28)、中年層(0.90、0.08〜1.72)とアスリートに限った場合(0.54、0.18〜0.90)でも同じ方向でした。ただし、いずれも証拠の確実性は「非常に低い」と判定されています。さらに、出版バイアスを補正する解析を行うと、統合された効果の多くは過大評価されていたことが示されました。そして運動介入では、テロメア長に有意な効果は認められませんでした。

健康な成人の無作為化比較試験に絞った統合でも、同じ結論が出ています。

Sánchez-González JL, Sánchez-Rodríguez JL, Varela-Rodríguez S, et al. Effects of Physical Exercise on Telomere Length in Healthy Adults: Systematic Review, Meta-Analysis, and Meta-Regression. JMIR Public Health and Surveillance. 2024;10:e46019.

条件を満たした9件の試験を統合したところ、運動は対照群と比べてテロメア長を有意には増やしませんでした(平均差 0.0058、95%信頼区間 -0.05〜0.06、P = 0.83)。部分集団の解析では高強度の介入で有意な増加が見られましたが(平均差 0.15、0.03〜0.26、P = 0.01)、研究の56%はバイアスのリスクが高いと判定され、多くの結果で確実性は「低い」から「非常に低い」と評価されています。事前に決めていない部分集団の解析で有意差が出たときは、偶然の産物である可能性を常に残す必要があります。

個々の試験を1つ見ておきます。

Friedenreich CM, Wang Q, Ting NS, et al. Effect of a 12-month exercise intervention on leukocyte telomere length: Results from the ALPHA Trial. Cancer Epidemiology. 2018;56:67-74.

身体活動の少ない、疾患のない非喫煙の閉経後女性212名(運動群99名、対照群113名)を1年間追跡した試験です。運動の処方は週5回(うち3回は監督下)、1回45分、心拍予備能の70%〜80%でした。結果は、テロメア長の変化に群間差の証拠なし——運動群で-13%(95%信頼区間 -32%〜11%)、対照群で-8%(-27%〜15%)、処置効果比は0.95(0.68〜1.32)でした。処方の90%以上を守った人に限った解析でも0.87(0.59〜1.30)で、開始時のテロメア長・年齢・BMI・体力で層別しても結論は変わりませんでした。

注目したいのは、この試験では両群ともテロメア長が短くなっていることです。そして信頼区間の幅——運動群で-32%から11%——が、この種の測定のばらつきの大きさを物語っています。

測定法を変えると、結果が変わる

そのばらつきの正体を見ていきます。

Aviv A, Hunt SC, Lin J, Cao X, Kimura M, Blackburn E. Impartial comparative analysis of measurement of leukocyte telomere length/DNA content by Southern blots and qPCR. Nucleic Acids Research. 2011;39(20):e134.

同じ50名分の検体を、2つの独立した研究室が、2つの異なる時期に、盲検で測定しました。末端制限酵素断片のサザンブロット法と、定量的PCR法の比較です。どちらの方法も、同一方法での2回の測定の相関は高い値でした(いずれも r > 0.9)。しかし測定間の変動係数は、定量的PCR法で6.45%、サザンブロット法で1.74%と差がありました。そして、サザンブロット法で得られた値と定量的PCR法で得られた値の関係は、直線からずれていました。

診断目的での比較も行われています。グティエレス-ロドリゲス(Gutierrez-Rodrigues)らは、末端制限酵素断片の測定を基準として、蛍光in situハイブリダイゼーションを用いたフローサイトメトリー法と定量的PCR法を比べました。基準との一致は、フローサイトメトリー法では健常者で R2 = 0.60、患者で R2 = 0.51 と良好だったのに対し、定量的PCR法では健常者で R2 = 0.35、患者で R2 = 0.20 にとどまりました。測定間の変動係数はフローサイトメトリー法で9.6±7.6%、定量的PCR法で16±19.5%(p = 0.02)です。

この分野の報告のされ方そのものにも指摘があります。リンドローズ(Lindrose)らは、定量的PCR法を含む測定法比較の研究25件を精査し、検体とDNAの品質、測定の特性、盲検化、解析手順の報告がいずれも不十分であること、ほとんどの研究の標本数が100未満で検出力に懸念があることを指摘しました。著者らの結論は率直です——測定法どうしの関係についての現在の文献は、妥当性と科学的な厳密さを欠いている。

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「伸びた」という報告をどう読むか

ここまでを踏まえると、「運動でテロメアが伸びた」という報告の読み方が変わってきます。テロメアは、通常の細胞では分裂のたびに短くなる一方向の変化です。集団の平均として伸びたように見えるとき、考えられる説明は複数あります。測定のばらつきがそう見せている可能性、白血球の種類の構成が変わった可能性(テロメアの長い細胞の割合が増えれば、平均は長くなります)、そして実際にテロメラーゼの働きで伸長した可能性です。

変動係数の大きい方法を使った研究では、見かけ上の伸長が観察されやすいことが知られています。短い追跡期間で、測定誤差より小さい変化を追いかけると、平均への回帰と測定のぶれが「効果」に見えます。上で見たALPHA試験のように、1年という比較的長い期間をとり、信頼区間まで含めて報告している研究の結果のほうが、この点では信頼できます。

もうひとつ、白血球のテロメア長が全身を代表するのかという問題があります。測っているのは血液の細胞であり、筋、脳、血管壁の細胞ではありません。免疫細胞は分裂が盛んで、感染や炎症の状態にも影響されます。血液で測った値が、その人の他の組織の状態をどこまで反映するかは、まだ確定していません。第1回のエピジェネティック時計で見た「組織特異性」の問題が、ここでも同じ形で現れます。

長いテロメアは、良いことなのか

ここからが、この回の中心です。仮に運動でテロメアを長くできたとして、それは望ましいことなのでしょうか。生まれつきの遺伝的なばらつきを利用して因果を推定する方法(メンデルランダム化)が、この問いに答えを出しています。

Telomeres Mendelian Randomization Collaboration, Haycock PC, Burgess S, et al. Association Between Telomere Length and Risk of Cancer and Non-Neoplastic Diseases: A Mendelian Randomization Study. JAMA Oncology. 2017;3(5):636-651.

35種類のがんと48種類の非腫瘍性疾患について、420,081例の症例と1,093,105例の対照のデータを解析しました。遺伝的にテロメアが長いことは、部位別のがんのリスク上昇と全般に関連していました。最も強かったのは神経膠腫でオッズ比5.27(95%信頼区間 3.15〜8.81)、次いで低悪性度の漿液性卵巣がん、肺腺がん3.19(2.40〜4.22)、神経芽腫、膀胱がん、悪性黒色腫と続きます。一方、精神疾患・自己免疫疾患・炎症性疾患・糖尿病などの非腫瘍性疾患との関連はおおむね乏しく、冠動脈疾患(0.78、0.67〜0.90)、腹部大動脈瘤、セリアック病、間質性肺疾患ではリスクの低下と関連していました。

高齢者に絞った検討も同じ方向です。

Kuo CL, Pilling LC, Kuchel GA, Ferrucci L, Melzer D. Telomere length and aging-related outcomes in humans: A Mendelian randomization study in 261,000 older participants. Aging Cell. 2019;18(6):e13017.

英国の大規模コホートの40歳から70歳までの参加者379,758名(平均7.5年の追跡で、追跡終了時に60歳以上となった261,837名を主な対象)を解析しました。遺伝的に決まるテロメア長が250塩基対長いことに相当する変化は、冠動脈疾患のリスク低下(オッズ比0.95、95%信頼区間 0.92〜0.98)と関連した一方、がんのリスク上昇(1.11、1.06〜1.16)と関連していました。そして、親の寿命、100歳到達、認知機能、握力、サルコペニア、転倒については、関連の証拠はほとんど見られませんでした。著者らの結論はこうです——テロメアの伸長は後年の健康状態にほとんど利益をもたらさず、がんのリスク上昇に直面する可能性がある。

問い現時点の答え
運動習慣のある人はテロメアが長いか横断研究ではそう見える。確実性は非常に低いと評価されている
運動するとテロメアが伸びるか介入研究を統合すると有意な効果は確認されていない
測定法によって結果は変わるか変わる。方法間の一致は高くなく、変動係数も方法で差がある
血液の値は全身を代表するか確定していない。免疫細胞の構成や炎症に影響される
テロメアが長いほど健康か単純ではない。がんのリスク上昇と関連する一方、冠動脈疾患は低下

「運動でテロメアが伸びる」をどう扱うか

整理します。運動が健康に良いという主張と、運動でテロメアが伸びるという主張は、別のものです。前者には、症状・機能・入院・死亡といった最終的な転帰にもとづく強い証拠があります。後者には、横断研究の関連はあるが介入研究の裏づけがなく、測定法の問題があり、しかも仮に伸びたとしてもそれが良いことだと言い切れないという三重の留保がつきます。

だからといって、テロメアの研究に価値がないわけではありません。細胞の分裂能力と老化の関係を理解するうえで中心的な役割を果たしてきましたし、特定の疾患の診断では臨床的に用いられています。問題なのは、研究上の指標が、個人の健康状態の通知表として扱われはじめたときです。テロメア長を測定する消費者向けの検査も存在しますが、その値をどう解釈し、何を変えればよいのかについて、科学の側はまだ答えを持っていません。

この回の教訓は、次回以降にもそのまま適用できます。ある指標について、(1)横断の関連はあるか、(2)介入で動くか、(3)測定は安定しているか、(4)その指標を動かすと転帰が動くか——この4つを別々に確認すること。4つのうち1つでも欠けていれば、そこで主張を止めるのが誠実な読み方です。

次回予告

第6回は「慢性微小炎症——インフラメイジング」を扱います。加齢に伴って、はっきりした感染がないのに炎症の指標がじわじわ上がる現象です。今回とは違い、この指標は運動によって比較的よく動きます。だからこそ、動いた指標をどこまで健康の改善と読んでよいのかという問いが、また別の形で立ち上がります。

この連載の全10回

  1. 第1回|老化とは何か——生物学的年齢という考え方
  2. 第2回|有酸素能力の低下——運動で取り戻せる幅
  3. 第3回|筋はなぜ減るのか——加齢性筋減少の機序
  4. 第4回|ミトコンドリアと運動
  5. 第5回|テロメアと運動——期待と実測のずれ(この記事)
  6. 第6回|慢性微小炎症——インフラメイジング
  7. 第7回|骨と関節の加齢——何が可逆で何が不可逆か
  8. 第8回|脳の加齢と運動——認知機能はどこまで守れるか
  9. 第9回|運動量と死亡率——用量反応の疫学
  10. 第10回|総括——「アンチエイジング」の主張をどう読むか

出典

  1. Tucker LA. Physical activity and telomere length in U.S. men and women: An NHANES investigation. Preventive Medicine. 2017;100:145-151.
  2. Valente C, Andrade R, Alvarez L, et al. Effect of physical activity and exercise on telomere length: Systematic review with meta-analysis. Journal of the American Geriatrics Society. 2021;69(11):3285-3300.
  3. Sánchez-González JL, Sánchez-Rodríguez JL, Varela-Rodríguez S, et al. Effects of Physical Exercise on Telomere Length in Healthy Adults: Systematic Review, Meta-Analysis, and Meta-Regression. JMIR Public Health and Surveillance. 2024;10:e46019.
  4. Friedenreich CM, Wang Q, Ting NS, et al. Effect of a 12-month exercise intervention on leukocyte telomere length: Results from the ALPHA Trial. Cancer Epidemiology. 2018;56:67-74.
  5. Aviv A, Hunt SC, Lin J, Cao X, Kimura M, Blackburn E. Impartial comparative analysis of measurement of leukocyte telomere length/DNA content by Southern blots and qPCR. Nucleic Acids Research. 2011;39(20):e134.
  6. Gutierrez-Rodrigues F, Santana-Lemos BA, Scheucher PS, Alves-Paiva RM, Calado RT. Direct comparison of flow-FISH and qPCR as diagnostic tests for telomere length measurement in humans. PLoS One. 2014;9(11):e113747.
  7. Lindrose AR, McLester-Davis LWY, Tristano RI, et al. Method comparison studies of telomere length measurement using qPCR approaches: A critical appraisal of the literature. PLoS One. 2021;16(1):e0245582.
  8. Telomeres Mendelian Randomization Collaboration, Haycock PC, Burgess S, et al. Association Between Telomere Length and Risk of Cancer and Non-Neoplastic Diseases: A Mendelian Randomization Study. JAMA Oncology. 2017;3(5):636-651.
  9. Kuo CL, Pilling LC, Kuchel GA, Ferrucci L, Melzer D. Telomere length and aging-related outcomes in humans: A Mendelian randomization study in 261,000 older participants. Aging Cell. 2019;18(6):e13017.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。消費者向けのテロメア長測定の結果を、病気の有無や治療の要否、生活上の判断の根拠にすることはできません。がんや心血管疾患の家族歴が気になる場合は、検査の結果ではなく症状と健診の所見をもとに医療機関にご相談ください。持病のある方、高齢の方が新しい運動を始めるときは、開始前に主治医に相談してください。

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