連載「減量の科学」全10回の第3回です。

第2回では、減量後にエネルギー消費がどう変わるかを見ました。今回は収支のもう一方、摂取の側を動かしている生理を扱います。食欲は「意志の強さ」の問題として語られがちですが、体重が減ったあとの食欲には、測定できる生化学的な変化が伴っています。

登場するのは主に三つの物質です。脂肪組織から分泌され、エネルギー貯蔵の量を脳に伝えるレプチン。胃から分泌され、食事の前に上昇して摂食を促すグレリン。そして小腸から食後に分泌され、満腹感と血糖の調節にかかわるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)です。

結論を先に書きます。減量するとレプチンは下がり、グレリンは上がります。この向きは、体重が元に戻る方向に働きます。しかも一部の変化は1年後も元に戻りません。ただし、その変化の大きさが「誰が戻るか」を予測したという証拠は、驚くほど乏しいままです。生理は減量に抵抗しますが、抵抗の強さと結果の関係は、まだ描けていません。

減量の科学 第3回 食欲のホルモンレプチングレリンGLP-1|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

脂肪の量を脳に伝える信号

レプチンは脂肪細胞から分泌され、血中濃度は体脂肪量にほぼ比例します。脳の視床下部にある受容体を介して、エネルギー貯蔵が足りているかどうかを伝えます。体脂肪が減ればレプチンも減り、脳は「貯蔵が減った」と受け取ります。この信号は摂食を促し、同時にエネルギー消費を抑える方向に働きます。

ここで重要なのは、レプチンが減る速さが、脂肪が減る速さより急だという点です。エネルギー不足の状態では、脂肪量の減少で説明できる以上にレプチンが落ちます。つまり体は、実際の貯蔵量よりも深刻な欠乏を知らせる信号を出します。第2回で見た代謝適応の一部も、この信号の低下と関連づけて論じられてきました。

1年たっても戻らない変化

この領域で最も引用される研究は、減量後のホルモン変化がどれだけ持続するかを直接測ったものです。

Sumithran P, Prendergast LA, Delbridge E, et al. Long-term persistence of hormonal adaptations to weight loss. The New England Journal of Medicine. 2011;365(17):1597-1604.

糖尿病のない過体重・肥満の50名が、超低エネルギー食による10週間の減量プログラムを受けました。平均13.5 ± 0.5 kgの減量です。プログラム終了時、レプチン・ペプチドYY・コレシストキニン・インスリンがいずれも有意に低下し(すべて P < 0.001)、アミリンも下がりました(P = 0.002)。一方でグレリン(P < 0.001)、胃抑制ポリペプチド(P = 0.004)、膵ポリペプチド(P = 0.008)は上昇しました。主観的な食欲も有意に増えています(P < 0.001)。

注目されたのは、その1年後です。最初の減量から62週の時点でも、レプチン、ペプチドYY、コレシストキニン、インスリン、グレリン、胃抑制ポリペプチド、膵ポリペプチドの平均値は、いずれも減量前と有意に異なったままでした。空腹感も減量前より高いままです(P < 0.001)。著者らは、体重の戻りを促す方向の食欲調節因子が、1年たっても元の水準に復さないと結論しました。

同じ方向の所見は、より長期の追跡でも得られています。ニーモ(Nymo)らの研究では、肥満の100名(うち男性45名)が8週間の超低エネルギー食と4週間の再摂食を経て1年間の維持プログラムに入りました。13週目には16%の減量(-18 ± 1 kg、P < 0.001)が達成され、空腹時・食後の空腹感が増し、活性型グレリンの濃度が上がっていました(P < 0.001)。1年後、15%の減量が維持されていた時点でも、空腹時の空腹感は高いままでした。ただし同時に、食後の満腹感も増していました。食べる前の欲求は強まるが、食べたあとの満足も強くなる——単純な一方向の悪化ではありません。

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グレリンは何を示したか

Cummings DE, Weigle DS, Frayo RS, et al. Plasma ghrelin levels after diet-induced weight loss or gastric bypass surgery. The New England Journal of Medicine. 2002;346(21):1623-1630.

グレリンが体重調節にかかわるという仮説を有名にした研究です。肥満の13名で、6か月の食事プログラムの前後に24時間のグレリン濃度の推移を測りました。血中グレリンは毎食の直前に急上昇し、直後に下がるという明瞭なパターンを示します。体重が17%減ったあと、24時間のグレリン濃度の曲線下面積は24%増加していました(P = 0.006)。

対照的だったのが手術後です。胃バイパス術を受けた5名では、36%もの体重減少にもかかわらず、グレリンの曲線下面積は標準体重の対照より77%低く(P < 0.001)、体格を揃えた肥満の対照より72%低い値でした(P = 0.01)。食事に伴う変動も日内リズムも消えていました。同じだけ痩せても、痩せ方によってグレリンの動きは正反対になりうるという所見です。

統合すると、一貫しているのはグレリンだけ

個々の研究は鮮やかですが、集めて見るとどうなるか。

Jin Z, Li J, Thackray AE, et al. Fasting appetite-related gut hormone responses after weight loss induced by calorie restriction, exercise, or both in people with overweight or obesity: a meta-analysis. International Journal of Obesity. 2025;49(5):776-792.

127件の研究(無作為化比較試験19件・1,305名、非無作為化研究108件・4,725名)を統合したメタアナリシスです。総グレリンは、無作為化比較試験で標準化平均差 0.55(95%信頼区間 0.07〜1.04)、非無作為化研究で 0.24(0.14〜0.35)と、いずれも上昇の方向でした。ところが活性型(アシル化)グレリンでは、無作為化比較試験が -0.58(-1.09〜-0.06)と低下を示す一方、非無作為化研究は 0.15(0.03〜0.27)と上昇を示し、方向が逆転しています。ペプチドYY(-0.17、-0.28〜-0.06)と活性型GLP-1(-0.16、-0.28〜-0.05)は非無作為化研究でのみ低下が検出されました。

著者らの結論は控えめです。減量によって総グレリンは上がるが、他の食欲関連ホルモンの反応はばらついている。そして減量幅を揃えると、カロリー制限・運動・その両方のあいだでホルモン変化に差はありませんでした。変化を決めているのは手段ではなく、失った体重の量です。

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では、誰が戻るかを予測できるか

ここが実務的に最も重要な問いです。ホルモンが「戻る方向」に働くなら、その変化が大きい人ほど戻りやすいはずだ——そう考えたくなります。この期待を検証したレビューがあります。

Strohacker K, McCaffery JM, MacLean PS, Wing RR. Adaptations of leptin, ghrelin or insulin during weight loss as predictors of weight regain: a review of current literature. International Journal of Obesity. 2014;38(3):388-396.

1995年1月から2011年12月までに公表された12件が対象です。レプチンを調べた9件のうち、低下が大きいほど戻りが大きいと報告したのは2件、逆に低下が小さいほど戻りが大きいと報告したのが3件、有意な関係がなかったのが4件でした。グレリンについては、減量中の上昇が戻りと関連するという仮説を支持した研究は1件もありません。インスリン感受性では1件が関連を報告しましたが、後続の5件は関連なしでした。著者らは、これらの変化だけでは自由生活下の体重の戻りを予測できないと結論しています。

より新しい研究も、この構図を変えていません。トム(Thom)らが女性15名を2年間追跡した混合手法の研究では、平均13.8 ± 6.3 kgの減量に伴って安静時代謝量が291 ± 226 kcal/日下がり(P < 0.001)、適応熱産生が150 ± 162 kcal/日検出され(P = 0.003)、レプチンとGLP-1が下がり(それぞれ P < 0.001、P = 0.015)、グレリンが上がりました(P < 0.001)。6か月から24か月の間の体重の戻りは6.1 ± 6.3 kgで、これは減量前および減量後のGLP-1の値と逆相関しました(いずれも r = -0.7)。しかし、参加者自身は減量後に空腹感が増したとは語っておらず、聞き取りで戻りの主因として挙げられたのはストレスや感情に結びついた食行動でした。

一方で、エネルギー消費側の適応と食欲の間には関連が見えています。マルティンス(Martins)らは、肥満の56名で14.2 ± 0.6 kgの減量を行い、安静時代謝量の予測値からの下振れと食欲の変化を突き合わせました。9週目には -341 ± 58 kJ/日の適応が検出され(P < 0.001)、13週目には -75 ± 72 kJ/日と有意でなくなりました(P = 0.305)。そして予測値と実測値の差が大きい人ほど、空腹感・食べたい気持ち・総合的な食欲スコアの上昇も大きいという関係が、減量幅と呼吸商を補正しても残りました。

GLP-1と、薬理学的な選択肢について

GLP-1は、食物が小腸に到達すると分泌されるホルモンです。インスリン分泌を血糖依存的に促し、胃内容物の排出を遅らせ、中枢に働いて満腹感を高めます。減量後にこの分泌が下がることは、上で見たとおりです。

この経路を薬理学的に刺激する薬剤(GLP-1受容体作動薬)が、近年の臨床試験で検討されています。ここで扱うのは、そうした試験が何を測り、何を測っていないかだけです。使用の適否は医師が診察のうえで判断する事柄であり、この記事は特定の薬剤を勧めるものではありません。

Moiz A, Filion KB, Toutounchi H, et al. Efficacy and Safety of Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists for Weight Loss Among Adults Without Diabetes. Annals of Internal Medicine. 2025;178(2):199-217.

糖尿病のない過体重・肥満の成人を対象としたプラセボ対照試験26件、15,491名の系統的レビューです。治療期間は16週間から104週間(中央値43週間)でした。有害事象の頻度は薬剤群で80%から97%、プラセボ群で63%から100%と高く、その大半は消化器系(薬剤群47%から84%、プラセボ群13%から63%)で、悪心・嘔吐・下痢・便秘が中心です。有害事象による治療中止は薬剤群0%から26%、プラセボ群0%から9%でした。著者らは、直接比較した試験が存在せず、異質性のためメタアナリシスができなかったことを限界として挙げています。

試験の外では話が変わります。

Rodriguez PJ, Zhang V, Gratzl S, et al. Discontinuation and Reinitiation of Dual-Labeled GLP-1 Receptor Agonists Among US Adults With Overweight or Obesity. JAMA Network Open. 2025;8(1):e2457349.

米国の電子カルテ125,474名分を追跡した観察研究では、糖尿病のない人の1年時点での投薬中止率は64.8%(95%信頼区間 64.4%〜65.2%)、糖尿病のある人で46.5%(46.2%〜46.9%)でした。中等度以上の消化器系有害事象は中止のリスク比を高め(糖尿病なしで1.19、1.12〜1.27)、収入が低い層ほど中止しやすい傾向も示されています。試験で示された効果は、その期間その用量を続けられた場合の話であり、実際の継続率はそれよりはるかに低い——これが現時点で確かな所見です。

変化減量直後1年後戻りを予測するか
レプチン低下(P < 0.001)低いまま報告が割れており一貫しない
総グレリン上昇(統合でも一貫)高いまま支持した研究なし
GLP-1研究により低下研究により差1件で逆相関、確立していない
主観的な空腹感増加高いまま本人の語りとは一致しないことがある

この節の読み方

整理します。減量は、体重を戻す方向に働く生理的変化を引き起こします。これは意志の問題ではなく、測定された事実です。体重が戻ることを「自己管理の失敗」と説明するのは、この生理を無視しています。

同時に、逆方向の単純化にも注意が要ります。「ホルモンが変わるのだから、減量後の体重は生理で決まっている」という言い方は、予測研究の結果と噛み合いません。ホルモンの変化の大きさから、誰が戻るかは当てられていないのです。トムらの研究で当事者が挙げたのは、空腹感ではなく生活上のストレスでした。生理・行動・環境のどれか一つで説明しきれる現象ではない、というのが現在地です。

研究の限界も明記しておきます。ここで扱った研究の多くは参加者が数十名規模で、女性に偏っているものが少なくありません。測定は空腹時の血中濃度が中心で、受容体側の感受性は測られていません。追跡期間も1年から2年が大半です。「一生戻らない」と読めるデータは、まだ存在しません。タンパク質の摂取量が満腹感に与える影響については別の記事にも整理があり、本連載では第5回で扱います。

次回予告

第4回は「食事の型を比べる——低脂質・低糖質・地中海式」を扱います。どの型が優れているのかを直接比較した大規模試験では、総エネルギーを揃えると差が小さくなること、遵守率の違いが結果を動かすこと、そして遺伝子型で対象を分けても差が出なかったことを見ていきます。

この連載の全10回

  1. 第1回|エネルギー収支——「カロリー計算」はどこまで正しいか
  2. 第2回|体重が落ちない時期——代謝適応という現象
  3. 第3回|食欲のホルモン——レプチン・グレリン・GLP-1(この記事)
  4. 第4回|食事の型を比べる——低脂質・低糖質・地中海式
  5. 第5回|タンパク質と満腹感——高タンパク食の証拠
  6. 第6回|食べる時間——時間制限食と体内時計
  7. 第7回|運動で痩せるのか——エネルギー代償という壁
  8. 第8回|筋量を守りながら減らす——除脂肪体重の保持
  9. 第9回|リバウンド——維持できた人は何をしていたか
  10. 第10回|総括——減量研究の限界

出典

  1. Sumithran P, Prendergast LA, Delbridge E, Purcell K, Shulkes A, Kriketos A, Proietto J. Long-term persistence of hormonal adaptations to weight loss. The New England Journal of Medicine. 2011;365(17):1597-1604.
  2. Nymo S, Coutinho SR, Eknes PH, Vestbostad I, Rehfeld JF, Truby H, Kulseng B, Martins C. Investigation of the long-term sustainability of changes in appetite after weight loss. International Journal of Obesity. 2018;42(8):1489-1499.
  3. Cummings DE, Weigle DS, Frayo RS, Breen PA, Ma MK, Dellinger EP, Purnell JQ. Plasma ghrelin levels after diet-induced weight loss or gastric bypass surgery. The New England Journal of Medicine. 2002;346(21):1623-1630.
  4. Jin Z, Li J, Thackray AE, Shen T, Deighton K, King JA, Stensel DJ. Fasting appetite-related gut hormone responses after weight loss induced by calorie restriction, exercise, or both in people with overweight or obesity: a meta-analysis. International Journal of Obesity. 2025;49(5):776-792.
  5. Strohacker K, McCaffery JM, MacLean PS, Wing RR. Adaptations of leptin, ghrelin or insulin during weight loss as predictors of weight regain: a review of current literature. International Journal of Obesity. 2014;38(3):388-396.
  6. Thom G, Dombrowski SU, Brosnahan N, Algindan YY, Rosario Lopez-Gonzalez M, Roditi G, Lean MEJ, Malkova D. The role of appetite-related hormones, adaptive thermogenesis, perceived hunger and stress in long-term weight-loss maintenance: a mixed-methods study. European Journal of Clinical Nutrition. 2020;74(4):622-632.
  7. Martins C, Roekenes JA, Rehfeld JF, Hunter GR, Gower BA. Metabolic adaptation is associated with a greater increase in appetite following weight loss: a longitudinal study. The American Journal of Clinical Nutrition. 2023;118(6):1192-1201.
  8. Moiz A, Filion KB, Toutounchi H, Tsoukas MA, Yu OHY, Peters TM, Eisenberg MJ. Efficacy and Safety of Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists for Weight Loss Among Adults Without Diabetes. Annals of Internal Medicine. 2025;178(2):199-217.
  9. Rodriguez PJ, Zhang V, Gratzl S, Do D, Goodwin Cartwright B, Baker C, Gluckman TJ, Stucky N. Discontinuation and Reinitiation of Dual-Labeled GLP-1 Receptor Agonists Among US Adults With Overweight or Obesity. JAMA Network Open. 2025;8(1):e2457349.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。特定の薬剤を推奨するものでもなく、処方薬の適否は医師が診察のうえで判断する事柄です。自己流の極端な食事制限は避けてください。食欲や体重の急な変化が続く場合、食べることをやめられない・食べられないといった状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。糖尿病・消化器疾患・摂食障害などの持病がある方、治療中の方、妊娠中・授乳中の方は、食事の内容を変える前に必ず主治医に確認してください。

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