連載「減量の科学」全10回の第2回です。

減量を続けていると、あるところから体重の下がり方が鈍ります。同じように食べ、同じように動いているつもりなのに、秤の数字が止まる。この現象を説明する言葉として、しばしば「代謝適応」あるいは「適応熱産生」が持ち出されます。体が飢餓を感じて省エネモードに入った、という筋書きです。

研究の世界でこの語が指すのは、もっと限定的なものです。体重が減れば、体の組織そのものが減るので、安静時のエネルギー消費量は当然下がります。適応熱産生と呼ぶのは、その「体格の減少から予測される下がり幅」を超えて、さらに下がった分だけを指します。予測値と実測値の差、という定義です。

結論を先に書きます。この差は多くの研究で検出されていますが、大きさは報告によって桁が違い、測定時に体重が安定しているかどうかで大きく縮みます。そして、その差が後の体重の戻りを予測したという証拠は、一貫していません。「代謝が壊れたから戻る」という物語は、データより先に走っています。

減量の科学 第2回 体重が落ちない時期代謝適応という現象|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

「予測より下がった分」とは何か

適応熱産生を測るには、まず予測値が要ります。典型的な手順はこうです。介入前の集団のデータから、除脂肪体重・脂肪量・年齢で安静時代謝量を説明する回帰式を作る。減量後の体組成をその式に入れて予測値を出す。間接熱量測定で実測値を出す。実測が予測を有意に下回れば、適応熱産生があったと判定する。

ここで大事なのは、適応熱産生が「実測された生理現象」ではなく、二つの数値の引き算として定義された量だという点です。引き算の片方が推定値である以上、推定の作り方が変われば答えも変わります。研究を読むときは、著者がどの回帰式を使い、その式をどの集団から作ったのかを確かめる必要があります。

この手順には、はっきりした弱点が三つあります。第一に、予測値は使う回帰式によって変わります。どの式を採るかで、適応の大きさも有無も動きます。第二に、測定時点の問題です。エネルギー不足の最中に測るのか、体重が落ち着いてから測るのかで、値は変わります。第三に、安静時代謝量の測定自体に誤差があり、その誤差は探している差と同じ桁になりえます。第1回で見た推定式の精度の話が、そのままここに効いてきます。

最も有名な数字

この分野で最も引用される研究は、米国のテレビ減量競技番組の参加者を6年間追跡したものです。

Fothergill E, Guo J, Howard L, et al. Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition. Obesity (Silver Spring). 2016;24(8):1612-1619.

当初調査した16名のうち14名が追跡に参加しました。30週間の競技終了時点で体重は平均58.3 ± 24.9 kg減り(P < 0.0001)、安静時代謝量は610 ± 483 kcal/日下がりました(P = 0.0004)。6年後、失った体重のうち41.0 ± 31.3 kgが戻っていました(P = 0.0002)。それでも安静時代謝量は基準時より704 ± 427 kcal/日低いままで(P < 0.0001)、体組成と年齢の変化を補正した残差、すなわち代謝適応は -499 ± 207 kcal/日と算出されています(P < 0.0001)。

この研究には、あまり引用されない所見がもう一つあります。競技終了時点の代謝適応の大きさは、6年後の体重の戻りと相関していませんでした(r = -0.1、P = 0.75)。一方で、6年後に体重減少をより多く維持していた人ほど、その時点での代謝の低下も大きいという関係が見られました(r = 0.59、P = 0.025)。著者らはこれを、代謝適応が「体重を減らそうとする努力に比例した、しかし不完全な応答」であると解釈しています。省エネ化が戻りを招いたのではなく、減量を維持している状態に伴って現れている、という読み方です。

同じ集団の短期データでも、同様の所見が報告されています。ヨハンセン(Johannsen)らの研究では、参加者は基準時に重度の肥満(体格指数 49.4 ± 9.4、体脂肪率 49 ± 5%)で、30週時点で初期体重の38 ± 9%を失い、その内訳は除脂肪体重が17 ± 8%、脂肪が83 ± 8%でした。除脂肪体重が比較的保たれていたにもかかわらず、安静時代謝量は体重の減少から予想される以上に下がり、その差は6週時点で -244 ± 231 kcal/日、30週時点で -504 ± 171 kcal/日でした(いずれも P < 0.01)。

yogaのレッスン前の様子生徒の足もとにあるヨガマット 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

その数字への批判

この報告に対しては、公表直後から反論が出ています。

Kuchnia A, Huizenga R, Frankenfield D, Matthie JR, Earthman CP. Overstated metabolic adaptation after “the biggest loser” intervention. Obesity (Silver Spring). 2016;24(10):2025.

批判の核心は予測値の作り方です。クーニャらは、著者らが用いたのが新たに作られた、検証を経ていない回帰式であり、しかも同じ集団を扱った先行研究で使われた式とも異なること、係数に誤差が乗りやすいことを指摘しました。予測値が下振れしていれば、差としての代謝適応は自動的に大きく出ます。

著者側の応答も同じ号に載っています。

Hall KD, Kerns JC, Brychta R, Knuth ND. Response to “Overstated metabolic adaptation after ‘The Biggest Loser’ intervention”. Obesity (Silver Spring). 2016;24(10):2026.

ホールらは、基準時の安静時代謝量が標準的な推定式による値と有意に違わなかったこと、測定前の17日間で参加者の体重が安定していたこと(231 ± 86 g/日、P = 0.72)を挙げ、基準値が人為的に高く出ていたという批判は当たらないと反論しました。ストレスや不安で安静時代謝量が上がるとしても、その大きさは100 kcal/日程度で、観察された差を説明できないとも述べています。

数年後、ホール自身が別の枠組みでこの研究を読み直しています。

Hall KD. Energy compensation and metabolic adaptation: “The Biggest Loser” study reinterpreted. Obesity (Silver Spring). 2022;30(1):11-13.

ここで持ち出されるのが、総エネルギー消費量には天井があり、身体活動を大きく増やすと他の部分が削られるという「制約モデル」です。この番組の参加者は、極端な量の運動を長期間続けていました。安静時代謝量の大幅な低下は、飢餓への反応というより、増えた活動量に対する代償だった可能性がある——これがホールの再解釈です。この見方は、持続的な活動量の増加が最も大きかった参加者で代謝適応も最大だったこと、そして運動量の少ない減量介入では同規模の代謝適応が観測されていないことの、両方を説明します。この論点は第7回で正面から扱います。

戻りを予測したのは何だったか

同じ参加者を、身体活動と摂取エネルギーの側から分析した報告があります。

Kerns JC, Guo J, Fothergill E, et al. Increased Physical Activity Associated with Less Weight Regain Six Years After “The Biggest Loser” Competition. Obesity (Silver Spring). 2017;25(11):1838-1843.

6年後の体重減少率の中央値は13%でした。減量をよく維持していた人たちは平均24.9% ± 3.8%の減量を保ち、身体活動量を160% ± 23%増やしていました。対して体重が戻った人たちの活動量の増加は34% ± 25%にとどまり(P = 0.0033)、体重は競技前より1.1% ± 4.0%重くなっていました。摂取エネルギーの変化は両群でほとんど差がありません(-8.7% ± 5.6% 対 -7.4% ± 2.7%、P = 0.83)。体重の戻りは身体活動量の絶対的な変化と強く逆相関し(r = -0.82、P = 0.0003)、摂取エネルギーの変化とは相関しませんでした(r = -0.15、P = 0.61)。二つを合わせると、6年後の個人差の93%が説明されています。

ここで注意が要ります。これは観察された関連であって、無作為化された比較ではありません。活動量を維持できた人と、そうでなかった人の間には、測られていない違いがいくつもあるはずです。「運動を増やせば維持できる」という因果の読み替えは、このデータだけでは支えきれません。

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エネルギー収支をそろえると、差は縮む

適応熱産生の大きさが研究間でばらつく最大の理由として、測定時の状態の違いが指摘されてきました。マルティンス(Martins)らは、この点を直接検証しています。

Martins C, Roekenes J, Salamati S, Gower BA, Hunter GR. Metabolic adaptation is an illusion, only present when participants are in negative energy balance. The American Journal of Clinical Nutrition. 2020;112(5):1212-1218.

肥満の71名が低エネルギー食で平均14 kg減量し、その後に体重を安定させる期間を置きました。減量直後には -92 ± 110 kcal/日の適応が検出されましたが(P < 0.001)、安定化後には -38 ± 124 kcal/日まで縮みました(P = 0.011)。両時点の差は -53 ± 101 kcal/日で有意です(P < 0.001)。安定化期間に体重が増えた33名に限れば、適応は統計的に検出されなくなりました(-26.8 ± 121.5 kcal/日、P = 0.214)。そして適応の大きさは、1年後の体重の戻りと相関しませんでした。

同じ研究グループの別の報告も、同じ方向を向いています。過体重の女性171名を2年間追跡した研究で、平均12 ± 2.6 kgの減量後に -54 ± 105 kcal/日の適応が検出されました(P < 0.001)。しかし参加者は1年で減量分の52% ± 38%、2年で89% ± 54%を戻しており、適応の大きさは体重の戻りと相関していません。全時点のデータが揃った46名の部分集団では、減量直後には適応が見られたものの(-43 ± 119 kcal/日、P = 0.019)、1年後(-18 ± 134、P = 0.380)にも2年後(-19 ± 166、P = 0.438)にも検出されませんでした。

統合してみると

Nunes CL, Casanova N, Francisco R, et al. Does adaptive thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. The British Journal of Nutrition. 2022;127(3):451-469.

33件・合計2,528名を集めた系統的レビューです。何らかの適応熱産生が観察されたのは27件でした。内訳は、安静時エネルギー消費量で23件(82.8%)、総エネルギー消費量で4件(80.0%)、睡眠時エネルギー消費量で2件(100%)です。ただし著者らは、適応熱産生の定量方法が研究間で標準化されておらず、減量の程度も適応の大きさも被験者間・研究間で大きくばらついていることを強調しています。そして結論は明快です——方法論的に質の高い設計の研究ほど、報告される適応の値は小さいか、有意でなかった。体重が安定した状態で測ると、適応は弱まるか消える、とも述べています。

問い現時点で言えること
予測を超える低下は存在するか多くの研究で検出される。ただし質の高い設計ほど小さい
大きさはどれくらいか報告により数十から500 kcal/日と桁が違う
いつ測るかで変わるか変わる。体重安定後は半分程度まで縮む
体重の戻りを予測するか複数の研究で相関せず。一貫した証拠はない

この現象をどう受け取るか

整理すると、こうなります。減量後に安静時代謝量が下がることは確実です。体格の減少から予測される以上に下がる現象も、多くの研究で検出されています。しかしその大きさは、予測式の選び方、測定時のエネルギー収支の状態、研究の質に強く依存し、条件を整えるほど小さくなります。そして、その差が体重の戻りを引き起こしたという証拠は、現時点では得られていません。

もう一点、言葉の使い方について。「代謝が落ちた」「代謝が壊れた」という表現は、日常語としては通りがよいものの、研究の語彙とは対応していません。研究が測っているのは特定の条件下での安静時の酸素消費量であり、そこから計算されたエネルギー消費量です。体質が恒久的に変わったことを示す測定ではありません。不可逆な損傷を思わせる言い方は、データが支えている範囲を超えています。

停滞期の実感そのものを否定しているわけではありません。ただ、その実感の原因として代謝の低下だけを挙げるのは、証拠の重みに合っていません。第1回で見たとおり、摂取エネルギーの自己申告には系統的な過少申告があり、減量が進むほど記録は緩みます。体格が小さくなれば、同じ動作に必要なエネルギーも減ります。停滞には複数の入口があり、代謝適応はそのうちの一つにすぎません。極端な制限で押し切ろうとすることの問題は別の記事でも触れられています。

次に問うべきは、エネルギー消費の側ではなく、摂取の側を動かしている生理です。減量後には食欲が増す——これは主観の問題ではなく、測定可能なホルモンの変化を伴います。

次回予告

第3回は「食欲のホルモン——レプチン・グレリン・GLP-1」を扱います。減量後にレプチンが下がり、グレリンが上がる。この変化が1年後も戻らなかったという報告と、それが体重の戻りを予測するかどうかについての、食い違う所見を並べます。GLP-1受容体作動薬という薬理学的な選択肢にも、研究が何を示し何を示していないかという範囲で触れます。

この連載の全10回

  1. 第1回|エネルギー収支——「カロリー計算」はどこまで正しいか
  2. 第2回|体重が落ちない時期——代謝適応という現象(この記事)
  3. 第3回|食欲のホルモン——レプチン・グレリン・GLP-1
  4. 第4回|食事の型を比べる——低脂質・低糖質・地中海式
  5. 第5回|タンパク質と満腹感——高タンパク食の証拠
  6. 第6回|食べる時間——時間制限食と体内時計
  7. 第7回|運動で痩せるのか——エネルギー代償という壁
  8. 第8回|筋量を守りながら減らす——除脂肪体重の保持
  9. 第9回|リバウンド——維持できた人は何をしていたか
  10. 第10回|総括——減量研究の限界

出典

  1. Fothergill E, Guo J, Howard L, Kerns JC, Knuth ND, Brychta R, Chen KY, Skarulis MC, Walter M, Walter PJ, Hall KD. Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition. Obesity (Silver Spring). 2016;24(8):1612-1619.
  2. Johannsen DL, Knuth ND, Huizenga R, Rood JC, Ravussin E, Hall KD. Metabolic slowing with massive weight loss despite preservation of fat-free mass. The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 2012;97(7):2489-2496.
  3. Kuchnia A, Huizenga R, Frankenfield D, Matthie JR, Earthman CP. Overstated metabolic adaptation after “the biggest loser” intervention. Obesity (Silver Spring). 2016;24(10):2025.
  4. Hall KD, Kerns JC, Brychta R, Knuth ND. Response to “Overstated metabolic adaptation after ‘The Biggest Loser’ intervention”. Obesity (Silver Spring). 2016;24(10):2026.
  5. Hall KD. Energy compensation and metabolic adaptation: “The Biggest Loser” study reinterpreted. Obesity (Silver Spring). 2022;30(1):11-13.
  6. Kerns JC, Guo J, Fothergill E, Howard L, Knuth ND, Brychta R, Chen KY, Skarulis MC, Walter M, Walter PJ, Hall KD. Increased Physical Activity Associated with Less Weight Regain Six Years After “The Biggest Loser” Competition. Obesity (Silver Spring). 2017;25(11):1838-1843.
  7. Martins C, Roekenes J, Salamati S, Gower BA, Hunter GR. Metabolic adaptation is an illusion, only present when participants are in negative energy balance. The American Journal of Clinical Nutrition. 2020;112(5):1212-1218.
  8. Martins C, Gower BA, Hill JO, Hunter GR. Metabolic adaptation is not a major barrier to weight-loss maintenance. The American Journal of Clinical Nutrition. 2020;112(3):558-565.
  9. Nunes CL, Casanova N, Francisco R, Bosy-Westphal A, Hopkins M, Sardinha LB, Silva AM. Does adaptive thermogenesis occur after weight loss in adults? A systematic review. The British Journal of Nutrition. 2022;127(3):451-469.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。自己流の極端な食事制限は避けてください。意図しない体重の減少や増加が続く場合、強い倦怠感・脱毛・月経の乱れ・立ちくらみなどが現れた場合は、医療機関にご相談ください。糖尿病・甲状腺疾患・摂食障害などの持病がある方、治療中の方、妊娠中・授乳中の方は、食事の内容を変える前に必ず主治医に確認してください。

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