連載「減量の科学」全10回の第7回です。
運動して消費を増やせば、その分だけ体重が減る。エネルギー収支の式をそのまま読めば、そう見えます。ところが運動介入試験の結果は、計算で予想される減量幅にほとんど届きません。この食い違いを説明する概念が、エネルギー代償です。
この回で扱うのは、運動をすべきかどうかではなく、運動で増やした消費が総エネルギー消費量にどこまで反映されるのかという測定上の問いです。運動の量や種目の指示は書きません。
結論を先に書きます。運動で増やした消費の一部は、他の活動量の低下や安静時代謝の調整によって相殺されます。相殺の程度は研究によって幅があり、平均で3割程度とする推計もあれば、相殺は見られないとする最近のデータもあります。いずれにせよ、運動単独で得られる減量幅は小さい。ただしそれは、運動が無意味だということではありません。減量という一つの指標だけで運動を評価すると、何が起きているかを取り違えます。

総消費量に天井はあるのか
まず用語を整理します。1日の総エネルギー消費量は、安静時代謝量、身体活動によるエネルギー消費、そして食事誘発性熱産生の合計として表されます。素直に考えれば、運動で三つ目のうち二番目を増やせば、合計もその分だけ増えるはずです。これを加算モデルと呼びます。これに対し、二番目を増やすと他の成分が減り、合計は狭い範囲に保たれる——と主張するのが制約モデルです。二つのモデルは、同じ観察を正反対に説明します。
この議論の起点になったのは、生活様式の大きく異なる集団を横断的に比べた研究です。
Pontzer H, Durazo-Arvizu R, Dugas LR, et al. Constrained Total Energy Expenditure and Metabolic Adaptation to Physical Activity in Adult Humans. Current Biology. 2016;26(3):410-417.
5つの集団に暮らす成人332名について、二重標識水法で測った総エネルギー消費量と、加速度計で測った身体活動量を突き合わせました。体格と体組成を補正したうえで、両者は正の相関を示します。ただしその関係は活動量の低い範囲で強く、高い範囲では総消費量が頭打ちになりました。著者らはこれを「制約モデル」と呼び、身体活動が増えるほど総消費量も比例して増えるという加算モデルに対置しました。体脂肪率と活動の強度が、この反応を左右する要因として挙げられています。
この議論は、狩猟採集を営む集団の総消費量が、機械化された社会に暮らす人々と大きく変わらないという観察とも結びついてきました。1日に長い距離を歩く生活をしていても、1日あたりの総消費量はそれほど高くならない——加算モデルからは予想しにくい所見です。
ただしこの横断比較には、原理的な弱点があります。活動量の多い集団と少ない集団は、活動量以外でも違います。食料の入手しやすさ、体格、遺伝的背景、感染症の負荷、幼少期の栄養状態。総消費量が同程度だったとして、その原因が活動への代償なのか、それとも別の要因なのかを、横断データだけで切り分けることはできません。この点は、後で見る反論の中心になります。
代償はどれくらいか
Careau V, Halsey LG, Pontzer H, et al. Energy compensation and adiposity in humans. Current Biology. 2021;31(20):4659-4666.
成人の総エネルギー消費量と基礎エネルギー消費量について、これまでで最大となる1,754名分のデータを用いた解析です。典型的なヒトのエネルギー代償は、基礎エネルギー消費量の低下によるものが平均28%で、活動で余分に燃やしたエネルギーのうち、その日のうちに実際に上乗せされるのは72%にとどまると推計されました。代償の程度は体組成によってかなり異なり、代償が大きい人ほど体脂肪が多いという関連も見られています。著者らは、その因果の向き——代償しやすい人が太りやすいのか、太るほど代償が強くなるのか——は未解決だと明記しています。
介入試験だけを集めて、加算モデルと制約モデルの予測を定量的に比べた最近の解析もあります。
Pontzer H, Trexler ET. The evidence for constrained total energy expenditure in humans and other animals. Current Biology. 2026;36(4):1013-1025.
ヒトの有酸素運動の介入研究では、総エネルギー消費量の増加は、加算モデルから期待される変化のおよそ30%にとどまりました。興味深いのは条件による違いです。レジスタンストレーニングでは代償が小さくなり、有酸素運動を食事制限と組み合わせた場合には代償が大きくなりました。動物実験では——その多くが何らかの食事制限を伴います——代償はおおむね100%に達します。基礎代謝率と睡眠時代謝率の低下は代償に寄与しますが、観察された代償の全体を説明しきれてはいません。

代償はどこで起きるか
「他の何かが減る」と言うとき、その何かの候補は三つあります。摂取量が増える、運動以外の身体活動が減る、安静時の代謝が下がる、の三つです。どれが主役かで、対処の考え方はまったく変わります。摂取量が増えているなら食事の側の問題ですし、日常の動きが減っているなら生活の設計の問題です。安静時代謝が下がっているなら、行動では手が届きません。
Flack KD, Ufholz K, Johnson L, Fitzgerald JS, Roemmich JN. Energy compensation in response to aerobic exercise training in overweight adults. American Journal of Physiology. Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2018;315(4):R619-R626.
過体重・肥満で座位中心の男女36名を、1回あたり300 kcalまたは600 kcalを消費する運動を週5回、12週間行う2群に割り付けた試験です。組織のエネルギー貯蔵の変化から代償量を算出したところ、低い方の群で1週あたり943 kcal(-164〜2,050)、高い方の群で1,007 kcal(32〜1,982)とほぼ同じ絶対量でした(P ≥ 0.93)。運動で消費したエネルギーに対する割合に直すと、それぞれ62.9%と33.6%になります。代償は運動量に比例しない、というのがこの試験の主張です。安静時代謝量と摂取エネルギーには変化がなく、食べ物の報酬価とGLP-1が下がり(P < 0.02)、活性型グレリンが上がっていました(P ≤ 0.02)。
代償が起きた人と起きなかった人を分けて調べた研究もあります。フラナガン(Flanagan)らは24週間の運動介入で、参加者の48%に運動由来のエネルギー代償が見られ、その大きさは1日あたり -308 ± 158 kcalだったと報告しました。性別・年齢・体格指数では代償の有無を説明できません。代償は介入前の総消費量と関連しました(r = -0.50、P = 0.006)。そして重要なのは、24時間・睡眠時・安静時のいずれのエネルギー消費でも、代謝適応に有意な差がなかったことです。つまりこの試験では、代償は安静時代謝の低下では説明できませんでした。
では活動量の側はどうか。マンスフェルト(Mansfeldt)らの総説によれば、運動以外の身体活動の変化を測った研究のうち、およそ67%が、構造化された運動プログラムの開始にともなう運動以外の活動量の低下を報告しています(短期の研究5件では80%、3か月を超える研究19件では63%)。著者らは、この形の代償が摂取量の増加よりも起こりやすいかもしれないと述べています。
もっとも、系統的レビューの結論はより慎重です。シルヴァ(Silva)らが36件・70の介入群・1,561名を集めた検討では、代償が観察されたのは70群のうち26群でした。内訳は食事のみの群で63%、食事と運動を組み合わせた群で27%、運動のみの群で23%です。運動だけの介入では、むしろ代償が起きにくいという結果になっています。著者らは、検出力の不足と測定法の未成熟を限界として挙げています。
三つの候補を並べると、研究どうしの食い違いが見えてきます。フラックらの試験では摂取量も安静時代謝も動かず、代償の出どころが特定できていません。フラナガンらの試験でも安静時代謝は説明要因になりませんでした。残るのは日常の活動量ですが、それを精度よく測ることは難しく、報告も割れています。代償があるという観察は比較的そろっているのに、その内訳は特定できていない——これが現在地です。
制約モデルへの反論
制約モデルには、方法論の側から強い批判もあります。
Gonzalez JT, Batterham AM, Atkinson G, Thompson D. Perspective: Is the Response of Human Energy Expenditure to Increased Physical Activity Additive or Constrained? Advances in Nutrition. 2023;14(3):406-419.
指摘は具体的です。制約を支持する証拠の多くが横断的・相関的な研究であること。体格・体組成・生活様式が極端に違う集団を比べていること。回帰希薄化や見せかけの相関という統計上の問題があること。そして、代償を直接観察したのではなく演繹によって結論していること。著者らは、多くの場面で身体活動の増加は総消費量にほぼ加算的に効くが、一部のエネルギーは「行方不明」のまま説明がついていないと整理しています。
Yegian AK, Pachus E, Redman LM, et al. Longitudinal and cross-sectional evidence that daily resting and activity energy expenditures are independent in humans. The Journal of Physiology. 2026;604(14):5952-5967.
この批判を実験で検証した研究です。成人12名が、身体活動の多い10日間と少ない10日間を、間に休止期間を挟んで経験しました。活動によるエネルギー消費が約28%(1日あたり約250 kcal)増えたとき、総エネルギー消費量は10%(272 kcal/日)増え、体重で補正した安静時代謝量は下がりませんでした。268名の横断データでも、補正後の安静時代謝量と活動代謝量は統計的に独立でした。著者らの結論は、加算モデルを支持し、代謝的な代償が運動の効果を打ち消すという仮説は支持されない、というものです。
| 問い | 現時点で言えること |
|---|---|
| 運動で増やした消費は全部上乗せされるか | 研究により異なる。3割程度とする推計から、ほぼ全部とする実験まで |
| 代償はどこで起きるか | 運動以外の活動量の低下が有力。安静時代謝の低下は一貫しない |
| 代償は運動量に比例するか | 比例しないという報告がある |
| 個人差はあるか | 大きい。約半数にしか代償が見られなかった試験もある |

減量という物差しだけで測らない
ここまでを「運動しても痩せない」とまとめるのは、二重の誤りです。
第一に、証拠は割れています。代償が大きいとする推計と、代償は見られないとする実験が並立しており、どちらが正しいかは決着していません。共通しているのは、運動介入の減量幅が計算上の期待より小さいという観察のほうで、その理由の説明は定まっていないということです。
なお、代償があるとしても、それは運動が「効かない」ことを意味しません。代償の割合が仮に3割だとしても、残りの7割は上乗せされています。問題は、加算モデルで計算した期待値との差が大きく、その差が期待外れとして受け取られることのほうにあります。期待値の立て方が間違っているのか、生理が抵抗しているのか——この二つは実務上まったく違う話ですが、しばしば混同されます。
第二に、体重は運動の効果を測る唯一の指標ではありません。第2回で見たとおり、長期に減量を維持できた人たちを分けたのは摂取エネルギーの変化ではなく身体活動量の変化でした。第8回で扱うとおり、エネルギー制限に運動を加えると、体重の減り方は変わらなくても、失う組織の内訳が変わります。心肺機能、筋力、血圧、血糖の指標は、体重が変わらなくても動きます。「体重が減らないから運動は無駄」という推論は、測っていない転帰を無いことにしています。運動後のエネルギー消費については別の記事にも整理があります。
第三に、ここでの「代償」は、身体が意図的に節約しているという意味ではありません。疲れて座っている時間が増える、動作が効率的になる、歩き方の無駄が減る——いずれも観察される事実であり、意志の弱さの証拠ではありません。代償を道徳の言葉で語ると、測定の話が説教に変わってしまいます。
最後に限界です。ここで扱った研究の多くは、総エネルギー消費量を二重標識水法で、身体活動量を加速度計で測っています。前者は数週間の平均値しか出せず、後者は上半身の細かい動きを捉えにくい。介入試験の参加者は数十名規模で、追跡は数か月です。そして横断研究では、活動量の多い集団と少ない集団の違いが活動量だけでないことを、原理的に排除できません。
次回予告
第8回は「筋量を守りながら減らす——除脂肪体重の保持」を扱います。エネルギー制限下で失われる組織の内訳、レジスタンストレーニングとタンパク質の併用がそれをどこまで変えるか、減量の速さとの関係、そして除脂肪体重の測定そのものが持つ誤差の大きさを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|エネルギー収支——「カロリー計算」はどこまで正しいか
- 第2回|体重が落ちない時期——代謝適応という現象
- 第3回|食欲のホルモン——レプチン・グレリン・GLP-1
- 第4回|食事の型を比べる——低脂質・低糖質・地中海式
- 第5回|タンパク質と満腹感——高タンパク食の証拠
- 第6回|食べる時間——時間制限食と体内時計
- 第7回|運動で痩せるのか——エネルギー代償という壁(この記事)
- 第8回|筋量を守りながら減らす——除脂肪体重の保持
- 第9回|リバウンド——維持できた人は何をしていたか
- 第10回|総括——減量研究の限界
出典
- Pontzer H, Durazo-Arvizu R, Dugas LR, Plange-Rhule J, Bovet P, Forrester TE, Lambert EV, Cooper RS, Schoeller DA, Luke A. Constrained Total Energy Expenditure and Metabolic Adaptation to Physical Activity in Adult Humans. Current Biology. 2016;26(3):410-417.
- Careau V, Halsey LG, Pontzer H, Ainslie PN, Andersen LF, Anderson LJ, Arab L, et al. Energy compensation and adiposity in humans. Current Biology. 2021;31(20):4659-4666.
- Pontzer H, Trexler ET. The evidence for constrained total energy expenditure in humans and other animals. Current Biology. 2026;36(4):1013-1025.
- Flack KD, Ufholz K, Johnson L, Fitzgerald JS, Roemmich JN. Energy compensation in response to aerobic exercise training in overweight adults. American Journal of Physiology. Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2018;315(4):R619-R626.
- Flanagan EW, Sanchez-Delgado G, Martin CK, Ravussin E, Pontzer H, Redman LM. No evidence for metabolic adaptation during exercise-related energy compensation. iScience. 2024;27(6):109842.
- Mansfeldt JM, Magkos F. Compensatory Responses to Exercise Training As Barriers to Weight Loss: Changes in Energy Intake and Non-exercise Physical Activity. Current Nutrition Reports. 2023;12(2):327-337.
- Silva AM, Júdice PB, Carraça EV, King N, Teixeira PJ, Sardinha LB. What is the effect of diet and/or exercise interventions on behavioural compensation in non-exercise physical activity and related energy expenditure of free-living adults? A systematic review. The British Journal of Nutrition. 2018;119(12):1327-1345.
- Gonzalez JT, Batterham AM, Atkinson G, Thompson D. Perspective: Is the Response of Human Energy Expenditure to Increased Physical Activity Additive or Constrained? Advances in Nutrition. 2023;14(3):406-419.
- Yegian AK, Pachus E, Redman LM, Heymsfield SB, Falkenhain K, Harris AR, Lieberman DE. Longitudinal and cross-sectional evidence that daily resting and activity energy expenditures are independent in humans. The Journal of Physiology. 2026;604(14):5952-5967.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。自己流の極端な食事制限は避けてください。運動中や運動後に胸の痛み・強い息切れ・めまい・失神に近い症状が出る場合は、ただちに中止して医療機関にご相談ください。心疾患・呼吸器疾患・整形外科的な痛み・糖尿病などの持病がある方、治療中の方、妊娠中・授乳中の方、長く運動から離れていた方は、運動や食事の内容を変える前に必ず主治医に確認してください。






